【第九章】天使輪廻篇ⅩⅠーTURNー
プロテアは現在、一夜を助けるために襲い掛かってきたアルビレーヌの偽物と退治していた。
ここは苗木日和の近くにある公園だ。
現在、プロテアが優勢であり、アルビレーヌは膝を着いていた。
だが、再びアルビレーヌは立ち上がり大鎌を空へと掲げた。
「行くわよ…舞い踊れ!【人魚妃姫】!」
アルビレーヌは【悪魔解放】を発動した。
水のバルーンがアルビレーヌを包み、やがてバルーンは弾け、姿が露になった。
下半身は人魚の様に魚の尾の様な形状になっており、髪も茶色から少し紫掛かった色になっていた。
上半身はそのままであり、両手首には真珠で出来た数珠を付けていた。
「これが…【悪魔解放】…」
「嫌な事を思い出させてくれるね…」
プロテアは【悪魔解放】を直接見るのは初めてである。
一方、一夜は露骨に嫌そうな顔をしていた。
それもそうだ。一度一夜はアルビレーヌのこの力で一撃でやられた事があるのだ。
「ふふふ…ソロモンは悪魔の力を武器に押し固めたモノ…。【悪魔解放】は私達悪魔本来の力を解放する」
「私達って…あなたは偽物よ」
「本物を殺せば…私は偽物から本物になれるわね」
「どう足掻いてもあなたは所詮偽物よ」
「あなた、気に入らないわね。ここで…死ね!」
アルビレーヌは水で造り出した大鎌でプロテアに襲い掛かる。
あの大鎌は【水泡死鎌】というアルビレーヌの基本技だ。
そして、一夜を一撃で倒した鎌でもある。
プロテアの剣とアルビレーヌの大鎌がぶつかり合う。
「!?」
「はぁ!」
プロテアはアルビレーヌのパワーに吹き飛ばされてしまった。
ー予想以上にパワーが上がってる!?
「どうたの?まさかこんな程度で驚いちゃいないわよね!?」
アルビレーヌは周囲に水を撒き散らし、滑る様に高速で移動している。
更に左手にも大鎌を生成した。
「【鉄連鎖針】!」
プロテアは剣を地面に突き刺し、地面から鉄の針を無数に出現させた。
アルビレーヌは鉄の針を全て回避した。
「な!?速過ぎる!?」
「死ね!」
「【鉄鎧冑】!」
プロテアは全身に鉄の鎧を纏った。
しかし、アルビレーヌの攻撃で鉄の鎧は一瞬でバラバラにされた。
「くっ!?」
「【水光】!」
アルビレーヌの姿が突然消えた。
プロテアは辺りを見回す。
「プロテア!後ろだ!!」
プロテアは後ろを振り向いた。
【水光】は自身の身体を分子レベルに分解させ、高速移動する技だ。
アルビレーヌは既にプロテアの後ろに回り込んでおり、二つの鎌でプロテアの首を切り落とそうとしていた。
「【時空減衰】!」
アルビレーヌの動きが緩慢になった。
プロテアはその隙にしゃがみこみ、攻撃を仕掛けた。
「【水光】」
アルビレーヌの身体が消えた。
そして、再びプロテアの後ろへと回り込んだ。
「終わりよ!」
「くっ!?」
プロテアは後ろを振り返るが遅い。
二本の大鎌でプロテアの身体が切り裂かれた。
「あなたのその時間を遅くする力…身体を一度分解させれば問題ないわね」
「!?」
どうやら、対象の物体が崩壊してしまえばその時点で【時空減衰】の効果が失われてしまう様だ。
これはプロテア本人にも把握出来ていなかった。
誤算だった。アルビレーヌの力がここまで強力だったとは。
しかもそれ以上に相性が悪い。
プロテアの力は土属性の派生属性である鋼属性である。
それ故、水気に弱い上に先程、アルビレーヌに自身のもう一つの能力である時間減衰の力も攻略されてしまった。
「くっ!?」
「無駄よ。あなた自身が加速してもー」
アルビレーヌは再び身体を分子化してプロテアに追い付いた。
「光の速さには勝てない」
「!?」
プロテアはアルビレーヌに再び後ろを取られてしまった。
そして、背中をバッサリと切られてしまった。
「がっ!?」
しかし、プロテアは咄嗟に鉄の鎧を纏った。
「そんな事をしても無駄…」
「【鉄時雨】」
空から鉄の剣の雨が出現した。
鉄の雨が高速で降り注ぐ。
「!?」
【時空神速】により、雨の速度が上がり、それにより威力も向上している。
【水光】を発動させようとしたが間に合わない。
プロテアもろとも鉄の雨はアルビレーヌに攻撃した。
「プロテア!」
一夜はプロテアの元に駆け寄ろうとするも衝撃で大量の砂ぼこりが発生しており、近付けなかった。
やがて、砂ぼこりは消え、プロテアがゆっくりと歩いていた。
鉄の鎧でガードはしたものの、それでもダメージは抑えきれなかった様だ。
全身が血塗れになっていた。
アルビレーヌは全身に鉄の剣が突き刺さっており、とても立てる様な状態では無かった。
しかし、アルビレーヌは無理矢理身体を起こした。
「しぶといわね…」
「はぁ…不意打ちなんて…汚いわね」
「別に不意打ちした訳じゃ無いわ」
アルビレーヌは解放してから終始プロテアを圧倒していた為、油断が生じていた。
その油断が今の結果を生んだのだ。
「偽物の癖に…血を流すのね」
「偽物偽物うるさいわね!本物だからなんなの!?私達は無価値な存在なの!?」
アルビレーヌはプロテアの言いようにとうとう激昂した。
「そんなの知った事じゃないわ。だからって私達を襲う理由にはならないわね」
「うるさいうるさい!私を見下すな!」
「何意味分からない事を言ってるの?私は別にあなたを見下してなんかいないわ」
「黙れえええええ!!!」
アルビレーヌは再び大鎌を出現させ、プロテアに攻撃を仕掛けた。
先程と違って大鎌は一振りだけだ。
二本生成するだけの力が無いのだろう。
プロテアの剣とアルビレーヌの大鎌が再びぶつかり合う。
プロテアもガードをしたとはいえ、相当なダメージを受けている。
「はぁ!」
「ぐっ!?」
力は互角である。
「【水光】!」
「【時空神速】!」
アルビレーヌが消える前にプロテアがアルビレーヌの身体を切り裂いた。
プロテアの反射神経は相当高く、アルビレーヌの技が発動する前に攻撃した。
アルビレーヌはプロテアの攻撃を受け、倒れた。
「がはっ!?」
「あなたのその技は見切ったわ。次は身体に光が出現する前に…あなたを斬れる」
アルビレーヌはそれでも立ち上がった。
「【水…」
「遅い!」
アルビレーヌが技を発動する前にプロテアはアルビレーヌの右腕を切り飛ばした。
しかし、アルビレーヌは左手でアルビレーヌの右手を掴んだ。
「フッ…これであなたは終わりよ!【銀崩水覇】!」
アルビレーヌとプロテアの回りに銀色の水が出現した。
ーこれは…やばい!
「【鉄王魔剣】!」
アルビレーヌは即座に左手から剣を造りだし、アルビレーヌの左手を切り裂き、アルビレーヌから離れた。
アルビレーヌは銀色の水に閉じ込められた。
「…まさか…自分の技で死ぬなんてね…最後の自爆も失敗するなんてね…」
アルビレーヌの身体が徐々に溶け始めていた。
アルビレーヌの最後の技は銀色の水に閉じ込めた相手を溶かし尽くす能力であった。
「………」
「本物に…なりたかったなぁ…」
アルビレーヌはそう言って身体が完全に消えていった。
残ったのは人形の紙人形だけであった。
空は曇り、雨が振りだした。
何となく…切な気な雨であった。
「プロテア!」
アルビレーヌの偽物が消滅したと同時にプロテアが倒れた。
一夜はプロテアの元へと駆け寄った。
「大丈夫かい!?」
「ええ…それより…」
プロテアがそう言うと近くにルバートがやって来ていた。
これはすぐに逃げないと見つかってしまう。
この状況ではまず返り討ちに会う。
それにプロテアはアルビレーヌとの戦い以外にも今まで度重なる時間改変の影響で心身ともに疲弊しきっている。
とにかく今は逃げるしかない。
プロテアと一夜はどうにかしてここから逃げ切った。
「あっれー。逃げられちったか…」
ルバートはすっとんきょうな声でそう呟いた。
すぐにでも捜索を再開したいのは山々だが、この大雨のせいで探すのは困難だ。
「あー、アルビレーヌはやられちゃったみたいだね」
ルバートは紙人形を手に取った。
「本物だろうが偽物だろうが…死ぬ時なんか呆気なくて一瞬だね…」
ルバートは自嘲する様にそう呟いた。
ルバートは雨が嫌いだ。
雨は憂鬱な気持ちになる。
雨は必要なモノだという事はルバートは理解している。
しかし、雨は悲しみを焚き付ける為、ルバートは嫌いだった。
「すみません、標的を二人、逃げられました。雨のせいで今すぐ見つけるのはきついです」
『そうか…なら雨が止み次第、探すネ。何としても殺せ』
「了解ですー」
ルバートは自身を造り出したドーラーと心の中で会話していた。
ドーラーの分身体は全てドーラーと意識が繋がっている。
会話など造作も無い事である。
「さてと…僕も雨宿りするかな」
ルバートは公園から逃げ切り、苗木日和に戻っていた。
そして、一夜は慧留の部屋まで来ていた。
「慧留ちゃん!いるかい!?」
「はい、って一夜さんと…プロテア!?どうしたの!?その傷!?」
「頼む!プロテアを治してやってくれ!」
「分かりました!」
慧留はプロテアに時間の巻き戻しの力を使って治療をした。
「凄い傷ですね…何かあったんですか?」
「ああ…それが…」
「一夜…」
一夜が事情を説明しようとした所でプロテアがそれを止めた。
「? どうしたんですか?」
「ごめんなさい、今は話せないの。でも、必ず話すわ。その時まで…待ってて…私を…信じて」
プロテアが真っ直ぐな眼で慧留にそう言った。
慧留も何となく事情を察した様だ。
「分かったよ。プロテアを信じるよ。けど、絶対に話してね!」
「ありがとう、慧留」
プロテアの治療が終わり、一夜とプロテアは慧留の部屋から出ていった。
「何で慧留ちゃんに話さなかったんだい?」
「まだ話すタイミングじゃないわ。フローフルが殺された原因と殺した犯人を掴むまではね」
「どうして?」
「敵は私達を狙ってきた。狙ってきた理由は恐らく、私達が歴史を変えてフローフルの死を回避するかもしれないからよ。下手をすれば慧留まで巻き込んで状況がもつれるわ」
「成る程…しばらくは僕ら二人で情報を集めた方がいいという訳だね」
「流石にそこから先は慧留達の強力が不可欠だけど、今はまだ駄目よ」
そう、今は事を荒立てる場面では無い。
ここで他の者達にも真実を伝えれば敵側も本格的に殲滅をしかねない。
そうなれば戦闘は泥沼化し、蒼を助ける所では無くなってしまう。
「所で…何であなたは私が何度も時間をループしてるって分かったのよ?」
「ああ、それは…」
一夜はプロテアに自身の能力とその能力で見てきた事を全て説明した。
「平行世界の観賞…そんな力が…」
「ああ、だがさっきも言った通り、代償も大きいんだ」
「ならば…あなたがその眼であの女を見れば…」
「多分、分かると思うよ」
「平行世界の過去を見れるなんて…そんな事が…」
「だからコピーかそうでないかを見破れるのも事実上、僕だけだ」
「なら、それの眼でフローフルを見れば殺された原因も分かるんじゃ?」
「ああ、だが、蒼を殺した敵を見れば更に確実なモノとなる」
「なら、フローフルを探し出さないと」
「そうだね。こうしてる内にまた蒼が殺されるかもしれない」
希望と呼ぶにはあまりにも小さいモノだがそれでもプロテアにとってはとても大きな希望だった。
絶望しか無かった今までとは違い、一夜が加わった事で希望が見えてきた。
「ありがとう…一夜」
「礼を言うのは僕の方だよ。今まで蒼を何度も何度も助けてくれて、ありがとう」
プロテアは自分と一夜は案外似た者同士なのかもしれないと感じた。
一夜が蒼を助けようとする理由もプロテアが蒼を助けようとする理由もそこまで大して変わらない。
「別に私は…」
「そうと決まれば、まずは蒼を探さないとね」
「私はフローフルの周囲を観察していたからフローフルはそんなに離れた所にはいない筈よ」
「ならば尚更すぐに行かないとね」
一夜とプロテアは立ち上がり、蒼を探し始めた。
しかし、一夜は身体をふらつかせていた。
「一夜!?」
「ああ、済まない、大丈夫だよ。速く行こう」
一夜は平行世界を見続けていた。
それは身体にかなりの負担が掛かり、特に脳の負担が半端では無い。
プロテアは一夜をおんぶした。
「プ…プロテア!?」
「時間が無いわ。だからといってあなた無しではフローフルは助けられない。こうするしかないでしょ?」
「いや、まぁ…そうかもしれないけどね…」
何というか…非常に気まずい。
だが、確かにプロテアの言う通り、形振り構ってはいられない。
「行くわよ」
「ああ!もう、分かったよ。頼んだよ!プロテア!」
一夜はヤケクソ気味にそう言い、プロテアは一夜をおぶりながら移動を始めた。
To be continued




