【第九章】天使輪廻篇ⅩーLost articleー
ここは神聖ローマ。
蒼のかつての故郷であり、今や四大帝国筆頭と名高い国だ。
ここは天使城の王の間だ。
ここには一人の王女がいた。
髪は雪の様に白く長い髪を持ち、瞳は漆黒である。
更に白を基調とした白金色の軍服を来ていた。
彼女の名はルミナス・アークキエル・ローマカイザー。
神聖ローマ十代目皇帝にして歴代最強と謳われている現ローマ合衆国の支配者だ。
彼女は長きに渡るローマ内の内戦を収め、神聖ローマを一つにした。
この時点で既にルミナスは歴史に名を刻まれる事になっていた。
「やれやれ…一体何回時間が戻れば気が済むのか…」
ルミナスはそう呟いた。
そう、ルミナスは気が付いていた。
この世界が何度も何度も巻き戻っている事を。
「ルミナス様、入ります」
「久し振りに会ったわね。アルダール」
ルミナスの前に現れたのは灰色の髪と瞳、灰色を基調とした白い軍服を着ていた。更に眼鏡も掛けていた。
彼はセラフィム騎士団のメンバー、アルダール・マーブル。
セラフィム騎士団の参謀を勤めている。
「で?どうだった?」
「はい、ルミナス様の言った通り、この世界は何度も巻き戻っている様です」
そう、ルミナスはアルダールにこの世界が何度もループしている理由を解明させようとしていたのだ。
そして、それが分かった様だ。
「で?何でこの世界はループしてるの?」
「はい、それは…」
アルダールは全て説明をした。
プロテアが蒼の死を回避する為に何度も時間をループさせている事をアルダールはプロテアに話した。
「相変わらず…あなたのその力は便利ね、アルダール」
「私のエンゲリアス、【全智天使】の力があれば造作も無いですよ」
アルダールのエンゲリアス、【全智天使】は指定した知識を入手する事が出来る正に全知全能と呼ぶに相応しい能力を持っている。
このエンゲリアスの力が有る限り、神聖ローマが情報戦で負ける事は有り得ない。
「そうか…プロテア・イシュガルドの力でこの世界は巻き戻ってる訳ね?」
はっきり言って、これは面倒だとルミナスは思った。
こう何度も世界がループしていてはいつまで経ってもルミナスの目的が達成されない。
蒼を助ける為に何度も時間を巻き戻している…何とも迷惑な話だ。
「そんな面倒な事をしなくても…私の力があればフローフルを生き返らせるなんて造作も無いのに…」
ルミナスはかつて、自身の力でローグヴェルトを甦らせた事がある。
ローグヴェルトの事を知っているのは騎士団内でもフラン、エクレア、アルダールだけである。
「因みに…フローフルを殺した人物は?」
「ああ、それはー」
アルダールはルミナスに全てを話した。
「成る程ね…それは面倒な相手ね…しかも…あの男まで関わってるなんて…」
「ええ、フローフルが十二回も殺されるのも納得ですね。非常に徹底して殺してる」
「う~ん、フローフルを助け出すのは私達では無理に近いわね。後々厄介になりそうだし、プロテアは殺しておいた方がいいわね」
「それでは騎士団を送り込むのですか?」
「ええ、でも…誰を送り込もうかしら?」
ルミナスは迷っていた。
インベルとアポロも考えたが、彼等には期待出来ない。
蒼の友人である彼等がその蒼の仲間であるプロテアを殺す事が出来るとは思えなかった。
だからと言って、他の騎士団を送り込むのも問題がある。
「私が行きますよ」
名乗りを上げたのは長い黒髪と紫色の瞳を持つ中世風の服を着た男性であった。
彼の名はローグヴェルト・マクガヴェイン。現セラフィム騎士団団長だ。
「いいのかしら?あそこにはエル・マクガヴェインがいるわよ」
「構いません、私は…過去を棄てているのですから」
ローグヴェルトはかつてのローマ聖戦で一度命を落としている。
そのローグヴェルトを生き返らせたのがルミナスだ。
ローグヴェルトは慧留のかつての友であった。
「過去を棄てた…と言いながら名字は奴と同じマクガヴェインを名乗ってるではないか」
アルダールがそう言った。
確かにそうだ。
ローグヴェルトのかつての名字はスヴェール。
だが、セラフィム騎士団入団後は名字を変えた。
しかも、変えたのは慧留と同マクガヴェインの名だった。
「それは私が生まれ変わった事を意味するモノだ。それとも…私が信用出来ないか?アルダール?」
「………」
はっきり言って、アルダールはローグヴェルトを信用していない。
まぁ、お互いその事は分かりきっているのだが。
「二人共、そこまでよ。確かにローグヴェルトに任せるのが一番効率的ではあるわね」
ルミナスは少し考えを巡らせ、そして決断した。
「よし、ローグヴェルトに任せるわ」
「陛下!?」
「畏まりました」
「但し、事は余り大きくしたくないわ。もしフローフルが助かったなら引きなさい」
「分かりました」
ローグヴェルトはすぐに王の間から出ていった。
「よろしいのですか?」
「いいわ。プロテアの能力は確かに厄介だけど、時間改変の力にはそれなりに制約がある筈。今回の一件が片付けばプロテアはそうそう時間改変は使わない筈よ」
「確かに…そうですが…」
「それに…私の前では時間改変なんて無意味よ」
ルミナスはそう言って不適に笑った。
ローグヴェルトは天使城の門前を歩いていた。
すると、そこには赤髪の男と薄紫髪の二つ括りをしてる少女がいた。
インベルとアポロである。
二人共セラフィム騎士団のメンバーだ。
「お前たち、ここで何をしている?」
「それはこっちの台詞ッスよ。騎士団長様が何で外に出るんですか?」
「陛下から任務を与えられた」
「その任務って何かしら?」
「お前たちには関係の無い話だ」
ローグヴェルトはさっさと二人の前から去ろうとしていた。
「十二支連合帝国に行くつもり?」
「貴様らには関係ないと言っているだろう?」
「やっぱりそうなのね…」
「だったら何だ?」
「十二支連合帝国に行くのなら私達を派遣するのが普通でしょう?なのに…何故あなたが?」
「それは陛下に直接聞けばいい話だろう。まぁ、陛下に謁見出来ればの話だが」
ルミナスと謁見するのはそう簡単な事では無い。
だが、インベルはともかく、アポロはルミナスの姉妹だ。
謁見も不可能では無いだろう。
「何も教えてくれない…という訳ッスね」
「そう言う事だ」
ローグヴェルトはさっさと行こうとする。
「あなた、一体何者なのかしら?」
「何が言いたい?」
「五年前、あなたは突然やって来て、団長になった。長年団長をやっていたフランさんを差し置いて」
「だからなんだ?」
「あなたは…何を企んでいるの?」
「何も企んでなどいない。まぁそうだな、貴様らには話しておくか」
ローグヴェルトは何かを語り出した。
「私と陛下は繋がっている」
「どういう事?」
「私は五年前死に、陛下によって甦った。何故私は甦る事が出来たと思う?」
ローグヴェルトは二人に問い掛けた。
だが、二人にそんな事が分かる訳もない。
「私の魂は死んでも『世界宮殿』には送られなかった。そう…あのローマ聖戦の時、発生した氷の柱に私の魂は…いや、あの戦いで死んだ魂は全て、あの氷の中に閉じ込められていたんだ」
「「!?」」
ローマ聖戦、五年前に勃発したローマ史上最大の惨事を巻き起こした内乱だ。
その内乱の時、蒼は暴走し全世界に雪が降るという異常気象を発生させた。
その時に蒼の身体を中心に氷の柱が出現した。
その氷の柱はローマ聖戦で死んだ者達を生け贄にし、力を増大させていた。
結果的には氷の柱は突如崩壊し、事無きを得た。
「その氷の中にいた私を救い出してくれたのがルミナス陛下だ。貴様らが起こした戦争で私は一度死んだのだ」
「………」
「まあ私はその事について貴様らにとやかく言うつもりは無い。だが、あの様な事は二度と起こさない」
「………」
インベルとアポロは黙りこんだ。
蒼とインベルとアポロが起こした戦争は多くの傷を残していた。
そんな事は二人も分かっていた。
だが、それが今、二人に重くのし掛かる。
「俺を引き止めたいのであれば受けて立とう。まぁ、出来れば…の話だがな」
ローグヴェルトはそう言った。
ローグヴェルトの戦闘力は団長になるだけあり、最強クラスだ。
かつて、インベルとアポロの二人掛かりで挑んだ事があったのだが結果は二人の惨敗で終わった。
そもそもローグヴェルトはフランやエクレアを圧倒する程の力を持っている。
インベルとアポロの二人では到底太刀打ち出来ない。
ローグヴェルトは二人の前から去っていった。
「ルミナス!」
「あー、アポロか…久し振りね」
ルミナスはアポロの事をどうでもよさげにそう言った。
今、ここにいるのはアポロだけだ。
インベルは謁見を許されなかった。
ルミナスの妹であるアポロだけが今回の謁見が許されたのだ。
「ローグヴェルトに何を命令したのよ!」
「命令も何も…プロテア・イシュガルドを殺す様に言っただけよ?」
「な!?」
アポロは絶句した。
それもそうだ。いきなりプロテアを殺すとルミナスは言い出したのだ。
「何でよ?」
「プロテア・イシュガルドは時間改変を何度もしている形跡があったわ…まぁ、私の力に掛かればどうという事は無いのだけれど…少し面倒だから殺した方が速いと思ってね」
「何よそれ!?ふざけないで!」
「ふざけてなんかいないわ。これも平和の為」
「誰かを殺す事が平和に繋がると言うの!?」
「今のこの世界…生きる者が多過ぎると感じた事は無い?」
「何が言いたいの?」
「生きるとは…誰かを殺す事。資源には限りがあるわ。分け与えるなんて出来ない。そして、奪い合い、殺し合う」
「それとプロテアを殺す事に何が関係してると言うの!?」
「プロテア・イシュガルドは私の目指す平和への礎になって貰うわ」
「何よ…それ…!?」
アポロはルミナスの言葉は頭がイカれてるとしか思えなかった。
アポロとルミナスは昔から考えの違いからソリが合わなかった。
今回もそうだ。
「私は…世界の平和の為なら何を犠牲にしても構わないわ」
「何かを犠牲にする前提で動くなんて間違ってるわ」
「今の皇帝は私よ。あなたに口出しする権利は無いわ」
「相変わらずね」
「私はこの国を統一した。そして、あなたは戦争で多くの犠牲者を出した。あなたにだけはとやかく言われる筋合いは無いわね」
「くっ…」
そう、ルミナスはこの国を完全に統一した。
だが、アポロは五年前の戦争で多くの者を犠牲した。
アポロの言葉はルミナスからすれば負け犬の遠吠えと同じだ。
「あなたには何も為す事は出来ない。大人しく私に従っていればいい。分かってるわよね?次は無いのよ?あなたも…インベルも…」
「分かってるわ」
「話はこれで終わりよ。さっさと出ていきなさい」
ルミナスは吐き捨てる様にそう言った。
ルミナスにとってアポロは姉妹の中でももっとも忌々しい存在であった。
アポロは喧嘩っ早い性格なのでルミナスとの相性が最悪なのだ。
ルミナスもルミナスで表面上には出していないものの、自分に興味の無い者は歯牙にもかけない。
「あなたのその眼…相変わらずね…」
「眼は口ほどに物を語ると言うからかしらね?」
「あなたはいずれ…私が殺す…」
「殺すなんて物騒な言葉を使わないで欲しいわね?仮にも姉妹でしょ?」
アポロはそのまま部屋から出ていった。
インベルは城内を歩いていた。
すると、見知った人物を発見した。
「アルダールさん」
「インベルか」
「仕事ですか?」
「まぁ、そんな所だ」
インベルとアルダールは特に仲が良いわけでは無いが普段余り会わないのでインベルは何となく声を掛けただけだった。
そもそもセラフィム騎士団は国のあちこちに散布している事が多いので他の騎士団員と会う事は殆ど無い。
その中でもインベルとローグヴェルトは比較的この天使城にいる事が多い。
「貴様こそ何故ここにいる?しばらくは東部へ行く筈だろう?」
「明日からですよ」
「ああ、そうか」
「アルダールさんは…おかしいとは思わないんですか?今の皇帝を」
インベルはアルダールにそう問い掛けた。
だが、アルダールは非常に淡白な反応だった。
「おかしいとかおかしくないの為に国を無視して動くのは子供のする事だ。そもそも私は陛下の考えに正しいも正しくないも考えていない」
「どういう事です?」
「貴様には関係の無い事だ。一つ忠告しておいてやる。自身の考える善悪だけで動いているといずれ大きな代償を受ける事になる」
「………もう、受けてますよ、十分」
アルダールはそんなインベルを見ても何も言葉を掛けなかった。
アルダールはルミナスのやっている事が正しいのか正しくないのかは一切考えていない。
この国が最強であればアルダールはどうでもいい。
物事を下らない感情論で片付けるなど下らない事をするのはアルダールの思想に反する。
インベルはアルダールのそんな思想に理解出来る筈も無かった。
「貴様は何の為に騎士団にいる?」
「それは…」
「義務か?だとしたら貴様はとんだ愚か者だ。人は義務だけでは動けない。いや、動けたとしても肝心な時で必ず動かなくなる」
「…っ!?」
アルダールの考えは確かに今のインベルでは理解出来ない。
だが、今、アルダールが言った言葉は間違いなく正しい。
アルダールの言葉がインベルの心に深く突き刺さる。
「貴様はそうやって…失って来たんだろう?ならば、考える事だな。流されるだけでは…いずれ消える。雲の様にな」
「そう…かもしれない…ですね…」
アルダールはインベルの何倍もの時を生きている。
だからこそ、言える言葉だろう。
インベルはアルダールに反論する事が出来なかった。
この時点でインベルはアルダールに負けているのだ。
何も言えない、動けない、これを敗北と言わずに何と言うのか。
「一人の戦士になりたくば、答えを見つける事だな」
「そうですね。確かにアルダールさんの言う通りですね」
「…貴様はアポロやフローフルより聞き分けがいいな。拍子抜けだな」
「素直と言って欲しいですね」
「そうだな、大人の言う事を素直に聞く事も大事だな」
「それと…もう一つ聞きたい事があります」
「何だ?」
「ローグヴェルトさんの事、どう思います?少なくとも、アルダールさんは彼の事を懐疑的に見てるみたいですけど」
「!?」
アルダールは初めてインベルに対して動揺の表情を表した。
「アルダールさん?」
「やはり俺の勘違いだったようだ。貴様…気味の悪い奴だ」
「勘が鋭いと言って欲しいですね」
インベルは皮肉を言った。
そんなインベルにアルダールは少し感心した。
「そうだな、俺は正直、あの男を信用していない。だが、奴が騎士団に必要な人物である事は間違いない」
「そうですね…間違いなく今の騎士団で一番強いですし」
「だが、ローグヴェルトには何かある。これは絶対に言える」
「アルダールさんでもローグヴェルトさんの事は分からないんですね」
「…残念ながらな。まぁ、多少分かっている事もあるが…分かっている事があるとすれば奴は元人間であり一度死んで生き返ってるって事くらいだな」
アルダールはどうやら、ローグヴェルトの事をかなり調べていたらしい。
確かにローグヴェルトは本人の口から一度死んでいると言っていた。
「珍しい組み合わせだね~。こんな所でナニやってんの?」
アルダールとインベルに声を掛けてきた者がいた。
その者はボサボサのピンク色の長い髪に黄色い瞳を持った色白の少女だった。
服はボロボロの白い服を着ていた。
「ジェラート様」
「インベル、別に私の事は様付けしなくていいよ?」
「ジェラート様、何の様ですか?珍しいですね、日中に外出だなんて」
「んー、ちょっとね」
「?」
彼女はジェラート・ファイ・ローマカイザー。
神聖ローマ第二皇女であり、蒼の義理の姉にあたる。
彼女はデモンエンジェルと呼ばれる特殊な天使であり、日光の光を苦手としている。
まぁ、苦手というだけで決して出歩けない訳では無い。
だが、基本的には自分の部屋に引きこもっているだけである為、この様に外出するのはかなり珍しい。
「忘れ物をしたから…それを取りにね」
「忘れ物?」
「うん、忘れ物。ずっとずっと…忘れてたモノを…取りに行くんだ」
ジェラートはそう言ってどこかへと行ってしまった。
「どう言うことだ?」
「さぁ?」
「久々に外に出るね~」
ジェラートは天使城を抜け、街を歩いていた。
神聖ローマの街は都市部は中世を思わせる雰囲気をしており、近代的な雰囲気がある十二支連合帝国や民族風な雰囲気が目立つUSWや古代的な雰囲気があるヘレトーアとはまた違った雰囲気である。
ジェラートは街を歩くなんて事は殆ど無かったので今、かなり新鮮な気持ちであった。
本来なら外出するには護衛が必要なのだが、どうにかしてスルーできた。
インベルやアルダールもジェラートが外出するとは思っていなかった様だ。
ジェラートはやがて街を抜け、広野に辿り着いた。
神聖ローマは都市部以外は自然に溢れており、人は定住をしておらず、移住を繰り返している。
更に住んでいる人も然程多くない為、人と会う事はあまりない。
ジェラートは歩き続けた。
探し物を見つける為に。
「なんか冒険してる気分で楽しいな~」
ジェラートは陽気にそう言った。
ジェラートは久々の外で少し気分が舞い上がっているのだろう。
歩いている内に日が暮れ、夜になっていた。
「夜になったね~。本当はもっとゆっくりしていたいけど、そろそろ本気を出しますか~」
ジェラートはそう言って背中から黒いカラスの様な翼を広げた。
そして、高速で空を飛行した。
別に夜でないと翼が出せないとかそう言うのでは無い。
速めに用事を済ませないと神聖ローマが騒ぎになってしまう。
そうなる前に用事を済ませて城に戻らなければならない。
昼の内はゆっくりと景色を見ながら歩きたかったからそうしていただけだ。
だが、空から見る夜景も悪くは無かった。
「空を飛ぶってやっぱり気持ちいーな~」
ジェラートは久々の飛行にご満悦の様子であった。
ジェラートは本来、自由奔放な性格だ。
外にあまり出なかったのは日差しが苦手というのもあるがそれ以上に周りがうるさいからだ。
だが、もう少しでそんなしがらみからも解放されるだろうとジェラートは思っていた。
ジェラートはローマカイザーの四姉弟の中で最も落ちこぼれとして扱われていた。
ルミナスは言うまでもなく、現在の皇帝陛下であり、歴代最強と名高い天才であり、アポロもセラフィム騎士団に入隊し、優秀な人物であり、フローフル…現在は時神蒼として活動しているが、彼もかつてはセラフィム騎士団に入隊しており、ルミナスのお気に入りであった。
だが、ジェラートはエンゲリアスを持っておらず悪魔の力を持つデモンエンジェルとして一部では煙たがられており、四姉弟の中でも最も不遜な扱いを受けていた。
蒼も遊女の子供という事で不当な扱いを受けていたが実力でそれらを黙らせてきた。
だが、ジェラートはただただ腫れ物扱いをされるだけであった。
外に出る度に色々な人に嫌な顔をされる。
先程もそうだった。
インベルは違ったがアルダールはジェラートが外に出ていたと知ると露骨に嫌な顔をしていた。
ジェラートはインベルの事を気に入っていた。
自分と対等に接してくれていたのは蒼とインベルだけだった。
ジェラートはこの二人以外の友達がいなかったのだ。
そして、それは今でもそうだ。
かつて、ジェラートは蒼を助けた事がある。
五年前のローマ聖戦で蒼は囚われていた。
だが、ジェラートはそんな蒼を逃亡幇助をした。
その後、ジェラートはルミナスにより囚われ、しばらくは地下の牢獄で過ごしていた。
それから二年程経ち、ジェラートは釈放され、元の生活を送っていた。
今のジェラートにはルミナスに歯向かえる程の力は無い。
だから大人しく二年もの間、牢屋で過ごしていた。
蒼の逃亡幇助をした事により、ジェラートの悪評は更に広まる事になった。
だが、ジェラートはかなり浮世離れしている性格であった為、あまり気に留めなかった。
ルミナスはジェラートにあまり関心が無いのか釈放されてからはジェラートを放逐していた。
まぁ、それでもジェラートからしたら友達は欲しかった訳で、友達である蒼を助けたのは単純にジェラートは蒼を気に入っていたからだ。
現在、この世界は大きな変化が起こっている。
ジェラートはそんな予感がしていた。
ここ数年、あらゆる事件が起きていた。
動き始めているのだ、人々や魔族が。
「あらゆる人々や魔族が動き出し…それらの野望や陰謀が交錯する…はは…面白いね…」
ジェラートは呑気にそう呟いた。
ジェラートにとってこの世界の行く末などどうでもいい。
ジェラートはただ、この世界の景色を見続けたいだけだ。
自身からは何もせず、何も事を立てず、ただただこの世界の景色を楽しみたいのだ。
その為にも力がいる。
この神聖ローマから抜け出せる力が。
ジェラートはいい加減、神聖ローマというなの箱に閉じ込められているのも飽き飽きしていたのだ。
今が丁度潮時だろう。
「この世界の変わる事の無い景色を見続けるには…神になるしか無い…私は神になる」
ジェラートはその為に今まで準備をしていた。
ただ何もせずに引きこもっていた訳では無い。
「ははは…こんな所で出くわすなんてね…」
ジェラートは翼を止めた。
そこにいたのは不気味な仮面を被った修道服を着た女性であった。
「やあ、サンタマザー」
「ジェラートですか。なんの様ですの?」
「冷たいなぁ?私と君の中じゃ無いか?」
「よく言いますわね。その様子だと記憶が戻ったのですね」
「うん、まぁね♪」
「それと、私のコードネームは『テレサ』ですのでそれで呼んで欲しいですわ」
「まぁ、確かにアリアナ・サンタマザーなんて名前、覚え辛いもんね」
「だから、その名で呼ばないでくれます?」
ジェラートとアリアナはかつて面識があった。
アリアナ・サンタマザー。彼女はプラネット・サーカスのメンバー、『童話人』の一人である。
アリアナは仮面を取った。
その容姿は白色の短い髪に青色の猫眼が特徴的な美女である。
「君のその仮面、趣味悪いね~」
「仮面は本来、顔を隠す為のものでしてよ?趣味なんてどうでもいいですわ」
「そんなモノかな?」
ジェラートはそこら辺かなり疎いのでよく分からなかった。
「あなたは…プラネット・サーカスには戻らないのですか?」
「何度も言ってるけど、私はプラネット・サーカスに入った覚えは無いよ。確かに君と行動を共にした時期はあったけどね。それに…君には謝らないといけない。…私は多分、君達と敵対するよ」
ジェラートは一時期、プラネット・サーカスにいた時期があった。
アリアナはその時によく一緒にいたのだ。
しかし、ジェラートはしばらくするとプラネット・サーカスから姿を消した。
「何故?あなたには…信じる神がいた筈でしてよ?」
「そんなのはいないよ。君の勝手な思い込み。なんなら私が神になるよ」
「…神になるウ?傲慢ですわ、傲慢ですわ!あなた、傲慢ですわね!」
「君は相変わらずオーディンを信仰してるの?」
「当たり前でしてよ!ワタクシはオーディンにより救われましたわ!だからこそ、オーディン様が率いるプラネット・サーカスに入りましたのよ!」
オーディン…それはプラネット・サーカスの首領であり、プラネット・サーカスの支配者だ。
オーディンとは北欧神話に度々登場する神話の神である。
しかし、オーディンの思想、目的は一切謎に包まれており、プラネット・サーカスの『童話人』ですら、直接会った事があるのは髏奇のみだ。
アリアナはオーディンに心酔しており、常にオーディンの布教活動をしている。
恐らく、プラネット・サーカスの中で最も知名度が高いだろう。
しかし、アリアナの掲げるオーディンの信仰は非常に過激である。
「て言うかさ、君らプラネット・サーカスはえげつないんだよ。君もだ。君は確か、ロシアスタンで聖職者をやってるみたいだけど一週間にに百人の人間や魔族を殺してオーディンに生け贄にして捧げてるんでしょ?それに君は『死の祝福』なんていう家を建てて人や魔族を安らかに死なせる施設を作ったらしいけどやってる事なんてただの見殺しじゃないか」
「何を言うのですの!人々や魔族達に見守られながら最高の幸福を得て死ぬ。それは素晴らしい事じゃないですか!それに…神に生け贄を捧げるなんて当然では無いですか!?」
そう、アリアナはロシアスタンで聖職者を営んでいる。
ロシアスタンはアリアナによりオーディンを過激に信仰している国であり、事実上、アリアナに国を乗っ取られている状態だ。
ロシアスタンは大韓連邦と同様、小国の一つであるのだが、世界最大規模の人口がいる。
人口に対し食糧難が深刻な為、治安が非常に悪い。
アリアナはそこに眼を付け、ロシアスタンに布教活動を行い、見事ロシアスタンをオーディン信仰の過激派に成り果てた。
一週間にオーディンの供物として百人の人間や魔族の首を切り落とし、教会に首を張り付けているという勝機を疑う事を平然とやっている。
更に恐ろしいのは生け贄になる人や魔族も生け贄になる事の恐怖が全く無い事だ。
むしろ、喜んで自分から生け贄になろうとする。
更にアリアナは『死の祝福』と呼ばれる助からない人や魔族の死を看取る施設を作っていて経営をしているのだが施設の衛生環境は劣悪であり、死体処理もされていない為、常にハエがたかっており、異常な異臭を放っている。
更に痛みを和らげる様な治療は一切せず苦しませながら死なせていた。
「君達のやってる事はキ○ガイ染みてるよ。私はそんな奴と手を組む気は無いよ」
「何故なのですか!?苦しみながら死ぬことで天国へと行けるのですよ!?苦しむ人々や魔族の姿はとてもとてもとっっっても!美しいじゃないですか!」
そう、アリアナは人々や魔族が苦しんで死ぬ事が天国へと行けるという特異な考えを持っていた。
しかも、それだけではない、彼女は人や魔族が苦しんでいる姿を見ると興奮する性癖を持っていた。
あの浮世離れしていてあまり細かい事を気にしないジェラートでさえ、彼女の奇行にはドン引きしていた。
「やっぱり君はヤバイよ。プラネット・サーカスは君みたいなヤバイ奴等がゴロゴロいるけどね」
「確かに私は欲望に忠実ですけれど…あくまで私は人々や魔族の幸せの為に動いてるんですのよ?」
「だとしたら君は頭がおかしいね」
「ふふふ…なんとでも…」
「もう話す事は無いよ。私は忙しいんだ」
「あなたと決別するのは残念ですけれど…今度会う時は…どちらかが死ぬ事になるでしょうね?」
「その時は私は君を殺してあげるよ」
そう言って二人はお互いににらみ合っていた。
To be continued




