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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第九章】天使輪廻篇
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【第九章】天使輪廻篇Ⅷー刻刻ー

 美浪は眼を覚ました。


「ここは?」

「私の部屋だよ。大丈夫?」


 慧留は心配そうにしていた。

 どうやら、美浪が意識を失って結構な時間が経っていた様だ。

 先日、慧留の力で美浪の記憶を取り戻そうとしたのだが、美浪は意識を失ってしまった。

 そして、美浪が今ようやく目覚めた…と言った所だ。


「今日は何日ですか?」

「十月五日だよ」


 どうやら一晩中寝ていた様だ。

 美浪は身体を起こした。

 ここはどうやら、美浪の自室の様だ。


「大丈夫?」

「問題無いです。すみません」

「ううん、そんな事無いよ…そもそも私のせいだし」

「そんな…事は…」


 美浪は途切れ途切れにそう言った。


「そう言えば…何か思い出した?」

「え?」

「昔の事…何か思い出した?」


 慧留はそれが気になっていたのだ。

 そもそも、慧留が力を使ったのはそれが理由だからだ。


「えっと…朧気な感じしか思い出せなかったですね…」

「どんな感じだった?」

「多分、明るい感じでは無かったと思います。私が見た昔の記憶は周りが焼け野原になってて…それで変な男の人がいた…様な気がします」

「要するにあまり思い出せなかったか~。残念だったね」

「いえ、少し思い出せただけでも慧留ちゃんには感謝してますよ。後は自分で探してみます」


 美浪はそう言った。

 慧留の能力を使っても記憶は断片的にしか蘇らなかった。

 しかも、記憶の内容はかなり曖昧かつ要領を得ない。

 だが、全くの無駄…という訳でも無いだろう。

 実際、断片的にとはいえ、記憶自体は取り戻している。


「あまり力になれなくてごめんね、美浪ちゃん」

「そんな事無いですよ。ありがとう、慧留ちゃん」


 もう一度慧留の力を使おうとも考えたが一回使っただけで美浪が気絶してるのであまり使うのはよくないだろう。


「大丈夫かい?美浪君」


 一夜が美浪の部屋にやって来た。

 慧留から事の事情を聞かされ、ここまでやって来たのだ。


「一夜さん…どうしたんです?かなり疲れてる様ですけど…」

「ああ…ちょっと色々あってね…そう言う君こそ、大丈夫かい?」

「私は大丈夫ですけど…てか一夜さんの方がよっぽどヤバそうなんですけど」


 美浪の言葉は最もだろう。

 何せ、今の一夜は身体の血色は相当悪いし眼にも隈が出来ている。

 どう考えても一夜の方が大丈夫じゃない。


「本当に何があったんです?一夜さん?」


 流石の慧留も今の一夜は怪しいと思ったのか一夜に問い質した。


「いや~、ネトゲに入り浸り過ぎてね。今、イベント中だから」

「何だそんな事ですか~」


 慧留は一夜の言葉を納得した様だ。

 一方、美浪は一夜の言葉が嘘だという事を見抜いていた。

 確かにネトゲのやり過ぎで眼に隈が出来る事は不思議では無いが、あそこまで血色が悪くなるのはとてもネトゲのせいとは思えなかった。

 しかしここで追求しても一夜の事だから何も言わないだろうという事も美浪には分かっていた。


「所で…美浪君何か思い出せたかい?」


 一夜の質問に美浪は先程、慧留に答えた内容と同じ答えを言った。


「成る程ね…美浪君は何らかの戦争あるいは紛争に巻き込まれた…と見てよさそうだね」

「確かに普通に考えたらそうですね」

「とは言え、確かにそんな曖昧な内容じゃあ何も分からないね」

「では、どうすれば…」

「僕も色々と調べてみるよ。美浪君の記憶を取り戻す為だし」


 一夜は笑顔でそう言った。

 相変わらず血色は悪そうだが取り敢えずは大丈夫の様だ。


「一夜さん…あんまり無理はしないで下さいね」

「分かってるよ、慧留ちゃん。流石にしばらくは控えるよ」


 一夜は笑顔でそう言った。

 どうもこういう時の一夜は信用出来ないが取り合えず納得するしか無かった。


「二人とも僕の友達である以前にこの苗木日和のお客さんでもあるんだからあまり滅茶苦茶はしないでくれよ?」

「それ、今の一夜さんが言っても説得力無いですよ」

「そうですね。全然説得力無いです」

「二人とも酷いなぁ…」


 一夜は悲しそうな顔をした。

 まぁ、確かに一夜の今までの行いを見れば一夜の今の言葉には説得力があまりにも無さすぎた。

 情けない話だなと一夜自身思った。

 まぁ、それ以上に自分がこんなにも信用されていなかったのかという落胆の方が大きかったのかもしれないが。


「じゃあ、僕はここで失礼するよ」


 一夜はさっさと出ていった。

 何故だろう、どこか今の一夜は焦っている様な…そんな感じがした。






「さてと…あそこにはプロテアはいなかった…プロテアは一体どこに?」


 一夜はそう呟いた。

 一夜はプロテアを探していた。

 プロテアの身体が既に限界に近い事は一夜には理解していた。

 現在、十月十日。プロテアが力を使い初めてから既に二週間以上経っていた。

 一夜は理解していた。

 この世界の時間がループしている事に。

 だが、その事に気が付いたのはつい先日だ。

 一夜は以前、パルテミシア十二神である予言の神、ジェネミに自身の能力について教わった事があった。


『苗木一夜、貴様のその力は不完全だ』

『不完全?』


 一夜はジェネミとの会話の事を思い出していた。



『ああ、貴様のその力…電子人の眼と言ったか?その力は身体を電子空間に入れるという能力だが…更なる空間に踏み込む事も出来る』

『と言うと?』

『電子空間とは所謂情報集合体だ。貴様のその眼の力は電子空間に入る能力では無く、情報集合空間に入る事が出来る能力だ』

『何故…そうと言い切れるんですか?』

『私が…君と同じ眼を持っているからだ』


 そう、奇しくも一夜とジェネミは同じ眼を持っていた。


『私はこの眼を【予言眼(プレディクト・コリ)】と呼んでいるがな。後、勘違いしないで欲しいのが私の眼はあくまで未来を予言する能力だ。君の力とはまた別の能力だ』

『どういう事です?』

『あくまでも系統が同じ…というだけだ。見たところ、君の眼は私と同じ未来を見る能力ではない』

『では、どういう能力なんですか?』

『それは分からん。自分で確かめるしか無いだろうな』


 ジェネミは割と無責任な事を言っている気がする。

 つまり、ジェネミと一夜は同系統の眼を持ってはいるが全く同じ能力では無いという事だ。


『だが、確かに貴様の力は不完全だ。それは断言出来る。だからひんとをやろう』

『ヒント?』

『ああ、ヒントというか…その眼を扱うコツ…だな』

『というと?』

『あらゆる情報を「見る」だ』

『いや、アバウト過ぎません?』

『ただ見るだけじゃない。見て、あらゆる情報を眼で解析、理解する…そうして行く事で見えてくるだろう』


 ジェネミの説明はあまりにも分かりづらい。

 だが、一夜はジェネミの言わんとしている事が何となく分かった気がする。


『分かりました。やってみます』

『不思議なモノだな。貴様は確かに「普通の人間」だ。なのに私と同じ眼を持っている…これは…因果か』

『…………』



 ジェネミの話を聞いてから一夜は「眼」を使ってこの世界のあらゆるモノを見た。

 そして、そうして行く内に異なる平行世界を見れる様になっていった。

 ここ最近のプロテアの様子も見える様になっていった。

 そう、一夜の電子人の眼の真の能力は平行世界を見る能力だ。

 その眼で見た者の平行世界を見る事が出来る。

 平行世界であれば未来を覗く事も出来る。

 つまり、相手の起こりうる事情を見る事が出来るのだ。


「やれやれ…頭が痛くなるね…この力は」


 一夜の能力は強大な能力だ。

 一夜の能力は言い換えれば未来予知に近い能力だ。

 平行世界を見るのは莫大な情報が頭の中に捩じ込まれる為、脳の負担が半端無い。

 あまり乱発をすると一夜自身の脳がオーバーヒートを起こしてしまう。

 記憶を保持し続けるのにも限界がある為、一夜は能力を使う度に見た情報をパソコンやスマホに記録していた。

 プロテアが蒼を助ける為に何度も時間移動をして助けていた事はこの能力で知った。


「蒼があの女に殺された回数は…実に十二回…」


 そう、それだけの数が蒼は殺されてしまっている。

 そして、プロテアが蒼を助けた回数でもある。

 一夜は蒼を殺した犯人の顔を覚えていた金髪の髪をした長身の女性であった。

 あの女性が何者なのかまでは分からない。

 一夜が見たのはあくまで蒼の平行世界だ。

 あの女性が何者なのかを知る為にはあの女を一夜が視る必要がある。

 その為にもプロテアに合流しなければならない。

 蒼にこの事を話そうかとも考えたが、一夜が今まで見た蒼の死因が書かれていたスマホを見返して蒼に言うのは後回しにした。

 殺され方が不自然だからだ。

 殺された原因が殆ど不意打ちによるものであり、全てに共通している事は心臓を矢に貫かれ、霊力を奪われて殺されてしまっているという事だ。

 蒼にこの事実を言った所で相手の能力のタネが分からない以上、蒼に言った所で意味が薄い。

 だから優先順位を一夜はつける事にした。

 まず、この世界を改変し続けているプロテアと合流する事だ。

 彼女の力は先程も言った通り、限界が近い。

 そのプロテアが力尽きてしまえば敵の能力を割り出す前に策が尽きてしまうしそして何よりー


「僕の友達を助けようとしている者を見殺しにするのは目覚めが悪いからね」


 一夜は正直、プロテアの事をかなり懐疑的に見ていた。

 共にヘレトーアへ行った時もそうだった。

 一夜はプロテアを警戒していた。

 つい最近まではー

 だが、今は違う。

 プロテアは蒼の為に身を削って蒼を何度も助けてくれた。

 たった一人でずっと。

 一夜はプロテアが他人に蒼が殺された事を言えない事も知っていた。

 この原因は「時の制約」によるモノだ。

 時の制約とはその奈乃通り、時を渡る上での制約の事である。

 時間を渡った時、渡った次官の事を誰かに漏洩する事は出来ない。

 そもそも時を渡るという事自体が時の制約に反している。

 時にも見えない力が働いている。

 少し歴史を改変した程度では時の力になれなくてより元に戻ってしまう。

 これが歴史の修正力と呼ばれるモノだ。

 更に自身が渡った時間を他人に漏洩すれば時を大きな変化をもたらす為、時の力がそれを止めてしまうのだ。

 これらの制約を総称して「時の制約」と呼ばれる。

 これら以外にも時を乱す行為をすれば時の制約の力は働いてしまう。


「速く…プロテアと合流しなくては…」


 一夜は度重なる電子人の眼を使用した影響でかなりガタが来ていた。

 それでも一刻も速くプロテアと合流しなくてはならない。

 この負の連鎖を断ち切る為に。

 一夜はフラフラになりながらも進み続ける。

 そうしていると目の前に見知った人物が現れた。

 紫色のセミロングに蛇の様な瞳が特徴的な少女であった。

 


「薊君?どうしてここに?」

「ええ、今日は休みだからたまには一人でと思ってね?そう言うあなたはどうしたの?随分顔色が悪そうだけど?」


 そう、彼女は蛇姫薊(へびひめあざみ)

 一夜達の仲間であり、屍は頻繁に会っているらしい。

 彼女は御戸狂(みとくる)と共に魔道警察官養成所でもある十二支大学に通っており、そこの寮に住んでいる。

 たまに休みが貰え、外に出て外出する事もあると聞いている。


「ああ、ちょっとゲームをし過ぎてね」

「あまり無理をし過ぎると身体を壊すわよ?」

「はは…違いない」


 そう言って一夜は薊の前から去ろうとしていた。

 今は一刻も速くプロテアと合流しなくてはならない。


「済まない…用事があるんだ。僕はここで…」

「そうなの?じゃあ、また今度」


 一夜は薊に背を向けて歩き出した。


「………」


 薊は気配を消してゆっくりと一夜の後ろに近付いた。

 そして、毒で作った短剣で一夜の背中を突き刺そうとー


「【雷刀千本花(らいとうせんぼんか)】」


 一夜は自分の周囲に雷の刀を発生させ、薊の身体に雷を命中させた。


「がっ!?」


 薊は一夜が発生させた雷に直撃し、そのまま倒れた。


「まだだ!霊呪法第九百九番【天埜鳴神(アマノナルカミ)】!」


 一夜は両手から雷の衝撃波を放った。

 九百番代の霊呪法に恥じぬ破壊の一撃だ。

 その雷は薊を黒ずみにした。


「はぁ…はぁ…」

「何故…?私が偽物だと分かった?」

「さぁ?何でだろうね?」


 一夜は今の薊の平行世界を見た。

 すると、今目の前にいる薊は何者かによって造られた存在である事を察知したのだ。

 全く、電子人の眼様様である。


「今度は僕から聞こうかな?もしかして…他にも偽物が紛れてるのかな?」

「さぁ?どう…かしら…ね…」


 薊の偽物は身体が塵となり、やがて人形の紙人形になった。

 一夜はそのボロボロになった紙人形を掴んだ。


「これは…まさか式神…なのか?」


 一夜はそう呟いた。

 式神…それは陰陽師やその末裔が使うと言われているその名の通り、紙からぶきやけものを出現させて使役する。

 一夜の知り合いの中では董河湊が式神を扱える。

 かつて、四大神が式神と似た状態で使役されていた事があったが、今回はそれとは全くの別物だ。

 式神を使ってコピー人形を造り出している。

 しかもただのコピーでは無い。

 性格、癖、仕草、霊圧、能力まで完全にコピーしている。

 人によっては僅かな違和感を感じるかもしれないがその程度だろう。

 つまり、見ただけで相手を本物か偽物かを区別する事が一夜以外不可能である。

 一夜のみが電子人の眼がある為、それが可能である。


「蒼が何度も殺されているこのタイミングでコピーを寄越しているという事は…全く…今回の事件…一枚岩では無さそうだね」


 ならば一刻も速くプロテアと合流して蒼を助けなければならない。

 コピーと戦う為にも蒼の力は必要だ。

 一夜は走ってプロテアを探した。







「やれやれ…厄介だネ。苗木一夜…僕の精巧な人形をこうも簡単に見破るなんて…一体どんなカラクリだネ?」


 ドーラーが造り出した人形は全てドーラーと繋がっている。

 ドーラーは自分が造り出した人形の状況をちくいち把握している。

 薊のコピーがあっさりとやられ、ドーラーは驚いていた。


「苗木一夜…戦闘力は低いがあの能力は厄介だネ…」


 誤算だった。

 ドーラーが警戒していたのは精々、常森厳陣、黒宮大志、四宮舞、時神蒼くらいしか警戒していなかった。

 だが、苗木一夜はドーラーの造ったコピーを見破り、ドーラーの能力が式神に類する能力である事も見破っている。

 このままではドーラーの能力が完全に向こう側にモロバレする上に最悪の場合、ドーラーのいる場所まで嗅ぎつかれてしまう。


「参ったネ…彼女を手助けするつもりが…まさか逆にミーが追い込まれるなんてネ…」


 ドーラーは冷や汗をかいていた。


「ミー自身の戦闘力はそこまで多角は無いネ…見つかるのは厄介だネ」


 ドーラーは細々とそう言った。


「よし!苗木一夜をさっさと始末しよう!総力を上げて殺しに掛かるかネ!」


 ドーラーはそう言って新しい式神を造り出した。

 造り出したのは茶髪の髪に瞳のワンピースを着た少女と赤黒い短めの髪と瞳を持った灰色の宗教服を着た女性であった。

 アルビレーヌとルバートだ。

 ドーラーは新たに別のコピー体を造り出したのだ。


「君達!苗木一夜を殺すネ!」


 ドーラーがそう言うとアルビレーヌとルバートがどこかへ去って行った。


「ぬはははははははははは!!!!苗木一夜!貴様の能力は予想外であったが、すぐに排除すればいいだけの話だ!」


 ドーラーはそう言って嗤い続けていた。






To be continued

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