【第九章】天使輪廻篇Ⅳーcopyー
プロテアはただ蒼を監視するだけでは意味が無いと悟り、蒼の周囲を警戒する事にした。
あれから二週間経ち、現在は十月九日である。
蒼が殺された回数は…実に十回以上にも昇る。
プロテアはかなり精神を磨耗していた。
プロテアは一週間前から大学に出席する事が無くなり、蒼の周囲を探っていた。
だが、それでもあの手この手で蒼は殺され、結局は殺した相手すら特定出来ていない。
プロテアの精神も限界が近付いていた。
時間を同じ時期に十回以上もループしたのは初めての事だ。
もう気が狂いそうであった。
だが、プロテアは気力で苦痛をはね除け、何とか持ち堪えている。
「フロー…フル…」
プロテアは今助けようとしている男の名を呼んだ。
だが、それで返事が帰って来る筈もなかった。
プロテアの孤独の戦いが今でもこうして静かに続いていたのだ。
せめて誰かにこの事を伝えられればいいのだが、何故かこの事を話す事が出来ない。
【審判時神】は未知の部分が多い力だ。
この様な大掛かりな時間改変はプロテア自身、一度もした事が無い。
やはり、歴史の修正力の前には抗う事が出来ないのか。
「プロテア…」
目の前にいたのはプロテアの見覚えのある人物であった。
琥珀色の髪と瞳を持ち、眼の周りに隈がある…その人物は…
「セルリア…何でここに…」
「偶然だ。お前こそ大学に行かなくて大丈夫なのか?」
「ちょっと色々あってね…」
「そうか?どうした?何かあったのか?」
セルリアがプロテアに近付く。
しかし、プロテアは鉄の剣を生成してセルリアの首元に剣を突き立てた。
「これは…何のつもりだ?」
「惚けないで…あなたは誰?」
「一体何を言って…」
「セルリアは今、四神天城で研修中の身よ。他の四人もそう…研修が終わるのは今月末…それまでは四神天城から出られない。もし出れば捜索隊が動くし私にも連絡が来るわ。…セルリアがそれを知っていながら外に出る筈が無いわ」
「………」
プロテア以外の四人のイシュガルドは四神天城でこの国で生きていく為に研修を受けている。
それが終わるまでは外に出ない決まりとなっており、もし出ればプロテアにも報告が行くし大規模な捜索隊が動くのだ。
今、そんな報告は聞いていない。
それにセルリアの性格上、自分一人だけ抜け出すなど考え辛かった。
「それに…私と二人っきりの時は私の事はティラって呼ぶのよ」
「!? 貴様らはそう言う仲か!?」
セルリアの偽物が動揺して距離を取ろうとして。
しかし、プロテアはその隙を与えなかった。
「嘘よ」
流石に首を切り裂く隙までは与えられなかった。
しかし、セルリアの左肩をバッサリと切り裂いた。
「ぐっ!?」
「随分と巧い擬態ね。本当の姿を現したらどうなの?」
「違うな…俺はセルリアのコピーだ」
「何ですって!?」
コピーという事は偽物…という事だ。それにしては精巧な作りをしている。
プロテアも初見では全く偽物だという事に気が付かなかった。
「悪いが…貴様を倒させて貰うぞ」
「セルリアの顔で声で…私に語り掛けるな」
プロテアは非常に不快な感覚に襲われた。
相手は偽物…本物では無い事は分かっているがそれでも全く同じ顔に声で話されては少しは動揺するというものだ。
「行くぞ」
そう言ってセルリアは背中に指していた巨大な大刀を抜いた。
「まさか…能力までコピー出来るというの?」
「ああ…その通りだ」
「あなたを作ったのは誰なのかしら?」
「教える義理は無い」
そう言ってセルリアはプロテアに接近し、攻撃を仕掛けた。
プロテアは難なく攻撃を回避するがセルリアは左肩を切られている筈なのにそれを感じさせない動きをしていた。
この能力は間違いなくー
「【痛覚完全遮断】…本当に能力をそのまま使えるなんて…」
「はぁ!」
「【鉄王魔剣】!」
プロテアとセルリアの攻撃がぶつかり合う。
しかし、力はプロテアの方が上であり、セルリアは吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ!?」
「【鉄連鎖針】!」
プロテアは剣を地面に突き刺した。すると、地面から無数の鉄の針が出現した。
鉄の針はセルリアに命中し、セルリアの身体を貫いた。
「がはっ!?」
しかし、セルリアは強引に鉄の針から脱出し、プロテアに接近した。
やはり、【痛覚完全遮断】のせいで痛覚が遮断されている。
その為、かなりの無茶が出来る。
正面からやり合えばプロテアに軍配が上がるだろう。
だが、セルリアの能力の恐ろしさはそこではない。
もし、奴がセルリアの能力をそのまま使えるとしたらー
「【皇帝反転神】を発動させる前に仕留める!」
セルリアの二十二式精霊術である【皇帝反転神】の能力は相手と自分のダメージを入れ替える能力だ。
この能力は発動させるにはいくつか条件があり、一つ目に相手の血の摂取。二つ目は大刀を地面に突き立てる事。そして、三つ目が自身の血を大刀に送る事。
この三つの条件が成立する事で能力を発動させる事が出来る。
逆に言えばこの三つが揃わなければ発動する事は無い。
【痛覚完全遮断】もこの二十二式精霊術発動の為に使っているに過ぎない。
その為にも無傷でセルリアを倒すのが一番てっとり早い。
だが、相手はセルリアのコピーである。そう簡単には行かないだろう。
「そう上手く行くかな?」
大刀がいきなり延びた。
セルリアの大刀には様々なギミックが施されている。
相手に致命傷を与えるというより、とにかく相手に外傷を与える為の作りになっている。
これら全てのギミックを防ぐのは至難の業だ。
プロテアは攻撃をどうにか回避したが追撃がすぐに来た。
「ぐ…」
「どうした?【審判時神】の力は使わないのか?」
「………」
プロテアとセルリアの攻撃の応酬が続いた。
プロテアは現在、【審判時神】の力をあまり使えない。
度重なる過去改変を繰り返した事によりプロテアはかなり精神を消耗しており、現在、【審判時神】の力が制限されているのだ。
しかし、セルリアのコピー体はそんな事を知る筈も無い。
恐らく、プロテアが現在【審判時神】の力を使えるのは多くて数回。それ以上使えばプロテアは当分過去改変を行う事が出来なくなってしまう。
「そこだ!」
「しまっ!?」
セルリアの大刀は中には棘が内装されており、その棘がプロテアに刺さった。
しかもその棘は大刀と繋がっており、外す事は不可能だ。
これでプロテアは血を採集されてしまった。
「これで…終わ…」
セルリアが大刀を地面に突き刺した瞬間、無数の鉄の針が出現し、セルリアの全身を貫いた。
「な…」
「はぁ…はぁ…」
プロテアは先程の乱戦で自身の鉄を地面に埋め込んでおり、振動を感知すると鉄の針が飛び出す仕組みになっている。
「【鉄地雷】」
セルリアは地面に大刀を地面に突き立てようと強引に身体を動かし、鉄の針から脱出しようとしたが鉄の針が複雑に突き刺さっており、脱出が出来ない。
「本物のセルリアなら…私のやろうとした事くらい見抜いて私を出し抜く事も出来たでしょうね」
プロテアはどこかセルリアの偽物を哀れむ様な眼で見ていた。
「ぐっ…俺…を倒した…所でこの国は多くの人間が…コピーされて…いる…貴様一人でどうにか…なるかな…」
「!?」
予想はしていた…やはりセルリア以外にもコピーされた人間がいた様だ。
だが、どのくらいの者達がコピーされているかが分からない。
更に最悪の場合、本体に取って変わっている可能性すらあるのだ。
「貴様らは…ここで…終わりだ…」
「所詮は偽物…本物の様に上手く力は使いこなせやしないわ。ここで…消えなさい!!!」
プロテアは上空に鉄の雨を出現させ、セルリアを押し潰した。
やがてセルリアの身体は塵となって消え失せ、小さな人形の紙切れに変わっていた。
「これは…」
どうやらこの紙を媒体に偽物を造り出していた様だ。
「この事を一夜に…」
プロテアは途中で言葉を止めた。
恐らく、あのセルリアの偽物が言っていた言葉は真実だ。
他にも偽物が紛れている。
一夜が既に偽物に成り変わっている可能性がある。
状況はますます悪化していた。
しかも判別方法はほぼ無い。
相手は完璧に擬態している。
さっきプロテアはたまたまセルリアが偽物だという事に気付けただけだ。
只でさえ、蒼を狙っている人物の詳細も分からないのに更に自分達の偽物まで出てくる始末だ。
このままでは蒼だけで無く、他の皆も危ない。
しかし、状況が状況である以上、プロテア一人ではどうしようも無かった。
プロテアはとにかく、蒼を守る事を優先する他無かった。
蒼を助ける…まずはそれを優先するしかない。
偽物達の対処はその後で考えるしか無いだろう。
「フローフル…私は…あなたを必ず…」
プロテアはその場から離れていった。
「偽物をけしかけるなんて…あなたらしいわね」
金髪の女性がドーラーに対してそう言った。
ここは十二支連合帝国内のとあるビルだ。
彼女の後ろからドーラーが現れた。
「心配しなくても…時神蒼のコピーは作っていないネ。まぁ…厳密には作れないのだけどネ」
「そっちの方が助かるわ。紛らわしく無くて済む」
「ミーの人形は精巧すぎるが故に…判別方法も無い…しかし…あのプロテア・イシュガルドという女…ミーが造った人形をあっさり破壊してくれちゃったネ」
「いくら精巧とは言っても持ち主の人格まではコピー出来ないものね」
そう、ドーラーが造ったセルリア・イシュガルドの人形をプロテアはあっさりと倒してしまったのだ。
セルリアが現在、四神天城から出られないというのはドーラーの情報収集不足であった。
「ミーも詰めが甘いネ。まぁ…今回はイシュガルドを使わないでおこう…彼らは癖が強すぎる…この戦いでは役立ちそうに無い」
今生きているイシュガルドの生き残りは確かに能力自体は強力なのだが十二支連合帝国にいる者達の大半に能力が知られてしまっている。
彼らの能力は初見殺しの能力が多いのだが、逆に言えば能力の全貌が分かっていれば対策は容易なのだ。
今回の戦いでは役に立たないだろう。
「う~ん。どの程度まで使えばいいのやら」
ドーラーはあらゆる人物や魔族のコピーを造る事が出来る。
基本的に造れない者はいないのだがドーラーがさっき言った様に蒼のコピーは造れない。
いや、厳密には造る事は出来るのだが力が強大過ぎるせいで制御が効かなくなるのだ。
同じ理由でパルテミシア十二神などの強大な存在もコピー出来ない。
更にドーラーがコピーを造る為にはコピーする相手の霊力を回収しなくてはならない。
ついこの間起こったヘレトーア戦争により、ドーラーは多くの霊力を回収する事が出来た。
これにより、ヘレトーア戦争に参加していた者達の全ての者達のコピー体を造る事が可能になっている。
しかし、この様に強力な能力であるが勿論欠点も存在する。
造れるコピー体は回収した霊力量に比例する。
基本的には一人の霊力につき一体しか作れず同じコピー体を複製する事は出来るがその時はまた霊力を回収し直さなければならない。
更に能力は完全にコピー出来るがあくまでもコピーなので相手以上の力は出せないし、性格まではコピー出来ない。
本人の霊力をベースにしているのである程度性格はコピー出来るが完全には出来ない。
ドーラーは以前から多くの者から霊力を回収しており、兵力はバカにならない。
だが、それでも一度破壊されるとまた本人の霊力を回収しなくてはならない為、兵士は慎重に選んで運用していかなければならない。
「何度も言ってるけど…私の邪魔だけはしないで頂戴」
「分かってるよ。ミーだって神の逆鱗に触れる様な真似はそうそうしないネ」
ドーラーは淡々とそう呟いた。
ドーラーはそこまで酔狂な人物ではない。
自分が危険に晒されると分かっている事をわざわざ自分からやったりはしない。
「でも…今のままだと時神蒼を殺すのは難しいかもしれないネ」
「? どういう事よ」
「君も分かっているだろう。時神蒼を殺そうとする時、必ずプロテア・イシュガルドが阻止しているネ…」
「プロテア・イシュガルド…あの銀髪の女の事ね」
「彼女が何らかの方法で君の情報を確実に掴んで来てる。ただ、君の存在と君の能力はまだ分かっていない様だが…このままではいたちごっこだネ」
「ならばそのプロテア・イシュガルドはあなたが殺せばいい…」
「まぁ…その方がいいだろうネ」
プロテアが蒼の死を防いでいるのは明白だった。
ならば、そのプロテアをどうにかしなければならない。
だが、彼女の力ではプロテアを殺すのは厳しいものがある。
「君は時神蒼を殺す為に手段を用意している。プロテアに対しては何も手段が無い。君が出張るよりミーが始末した方がいいネ」
「そうさせて貰うわ。けど…あなたは何故私にそこまで協力的なのかしら?」
「それは…聞くまでも無いんじゃないかネ?」
確かに彼女はドーラーがここまで自分に手を貸す事に心当たりはある。
だが、それだけではやはり納得がいかなかった。
「それでもよ。納得出来ないわ。何を企んでいるの?」
「さぁ??まぁでもミーは君の邪魔をするつもりは無いネ。時神蒼を殺したいのはミーも同じだしネ」
ドーラーも時神蒼を警戒していた。
だからこそ、ドーラーも蒼を消し去りたいと考えている。
「そう…」
「まずは十二支連合帝国だネ…十二支連合帝国を落とせば…こちらのモノだネ」
ここは四神天城の執務室だ。
ここには白髪のオールバックが特徴の黒目の男性がいた。
彼の名は常森厳陣。十二支連合帝国の総帥である。
厳陣はいつもの様にコーヒーを飲みながらデスクワークに励んでいた。
「厳陣、入りますよ」
入って来たのは黒髪黒目に片眼鏡を掛けていた青年が入ってきた。
彼は黒宮大志。厳陣の片腕であり、千年の時を生きる吸血鬼の真祖である。
「黒宮か、御苦労だったな。周囲に異常は無かったか?」
「はい、問題ありません。厳陣も随分働いている様子だ。少しは休んだらどうです?」
「いや、またいつ戦争になるか分からん。ヘレトーア戦争はあの程度の規模で済んだが…あれ以上の戦争だって起こり得る」
「だからと言って、身体を壊しては元も子もありませんよ。後はやっておきますから、厳陣は休んでいて下さい」
「いつも任せっきりで済まないな」
「そんな事はありませんよ」
厳陣は席を立ち、部屋から去っていった。
黒宮はすぐに厳陣が座っていた席に座り、デスクワークを始めた。
黒宮はUSBメモリを取り出し、データを保存しようとしていた。
「そこまでだ」
「!?」
黒宮は驚き、後ろを振り返った。
そこにいたのは厳陣であった。
厳陣は黒宮を思いっきり殴り飛ばした。
更にUSBメモリをパソコンから取り出し、手から火を出現させ、焼き付くした。
「何をするんです?厳陣?」
「それはこっちの台詞だ。何故データを保存しようとした?個別のUSBで?」
「それは…バックアップの為にと…」
「バックアップはこの国のデータ回廊で行われている。だからバックアップの必要は無い。黒宮ならそんな事分かっている筈だろう?」
厳陣のデータはこの国の中枢アクセスによりバックアップが取られている。
わざわざUSBメモリを使う必要が無いのだ。
「それに…黒宮は私に作業を中断させる事はあるが、自分が私の仕事をやると進んで言う事は無い。こちらから頼んでやって貰う事はあるがな」
「今日はたまたま…」
「私が幻術を掛けていた事にお前は全く気が付いていなかった。黒宮なら簡単に解けていただろう。お前は一体何者だ?」
厳陣はそう言って黒宮を問い詰めた。
厳陣の幻術は解除法が特殊であり、並の者ならまず解けないが黒宮は解除法を理解していた。
それなのに今いる黒宮はあっさりと幻術にはまった。
「はぁ~、いつから気が付いていたんです?」
「君はドアを開ける時、左手から開けるんだ」
「はぁ!?たったそれだけで…」
「後は何となくだ」
「カマを…掛けたというのか!?」
「そう言う事だ」
「バカな!?そんな些細な事で…」
「私と黒宮が一体どれだけの付き合いになると思っているんだ?そんな下らん小細工が通用するか」
甘く見ていた。
まさかこうも簡単に偽物だと見抜かれてしまうとは…
「見たところ、擬態能力では無いな」
「ええ、そうですとも」
「なら、コピーか何かか?」
「御想像にお任せしますよ」
「そうか…ならば…ここで貴様を倒して聞き出すしか無い様だな」
厳陣は黒宮に接近し、殴り掛かった。
しかし、黒宮は厳陣の攻撃を回避し、影を出現させた。
「【影帽子】」
【影帽子】は黒宮の影の力の総称であり、黒宮の最も基本的な力だ。
「今日は雨か…」
そう、今日は雨が降っていた。
厳陣の能力は【太陽】は昼に発動する事が出来る能力であり、日射しが強い程力を発揮する。
しかし、今は雨だ。雨が降っていても能力は普通に使えるが弱体化はする為、少々面倒だ。
「あなたの能力は理解してますよ」
「成る程…このタイミングを狙ったという訳か。抜け目が無いところは黒宮と同じ…という訳か。しかも能力まで本人と同じとは…」
「行きますよ」
黒宮は自身の影を操り、厳陣に攻撃を仕掛けた。
黒宮は影を自在に操る。
影を武器にしたりと何でもありだ。
「【炎帝爆殺】」
厳陣は右手に炎の剣を持ち、黒宮を切り掛かった。
しかし、黒宮は紙一重で攻撃を回避し、厳陣の影を操った。
「【身代わりの影】」
厳陣の影が厳陣に攻撃を仕掛ける。
厳陣は炎の剣で自身の影を切り裂いた。
すると、影に切り裂いたダメージがそのまま厳陣に返ってきた。
【身代わりの影】は相手の影を操り、操作する技だが、その影が受けたダメージは影の主にそのまま返ってくる。
影を壊せば十分間の間は同じ相手に【身代わりの影】は使えないが逆に十分間を過ぎると【身代わりの影】が使える上に一度発動されると解除は不可能で破壊するしかない。
「つくづく…厄介な力だ…」
厳陣は先程自身の影を切り裂いた同じ場所である右肩を押さえながらそう言った。
厳陣はこの十分の間に黒宮を倒さなければならない。
【身代わりの影】をもう一度使われると厳陣の正気はほぼ無くなる。
「さて…どうします?」
「無駄口を叩いている暇があるのなら自分の心配をしたらどうだ?」
「生憎…僕は君に負ける気がしない。君の能力は知り尽くしているのだから」
「そうか…」
厳陣は炎の剣、【炎帝爆殺】を握り、黒宮に接近した。
黒宮は自身の影を展開した。
「【影境界】」
「【瞬天歩】!」
厳陣は空中に飛び、空から黒宮に襲い掛かった。
黒宮の【影境界】は黒宮の影を踏んだ者を強制的に影に落とし、圧殺するという恐ろしい技だ。
この技に限らず黒宮の攻撃は当たれば一撃死ないし致命傷を追わせる技が多い。
間違いなくこの世界でも最強クラスの魔族だろう。
「【影縫】」
影を細い糸に変えて厳陣を縛り付ける。
「霊呪法第九百二十六番【阿修羅千手観音】!」
厳陣の後ろから観音地蔵が出現し、無数にある手から張り手を繰り出した。
それにより、黒宮の影を無理矢理振りほどいた。
「!?」
流石の黒宮もこれには驚き、攻撃を回避しようとした。
しかし、手数が多過ぎる為、攻撃をもろに受けた。
黒宮は左腕が先程の霊呪法により潰されていた。
「その左腕は再生出来ない様だな」
「!?」
「どうやら…吸血鬼の超速再生能力は再現出来んらしいな」
「その通り…しかし…驚きましたね…初めて見る霊呪法だ」
「黒宮には一度も使った事が無いからな」
厳陣は黒宮に見せた事の無い霊呪法を使う事で不意を突いたのだ。
「再生能力まで再現されていたら殺しようが無いから厄介だったが…それが無いと分かれば取るに足らない相手だ」
「ふっ…まるで不死でない黒宮大志は大した事は無い…と言いたげだね」
「そうは思わない。君は所詮、偽物。偽物で尚且つ不死でないのであれば大した事は無いと私は言ったのだ」
「一度くらい不意を突いたからと言って調子に乗るなあああ!!!」
黒宮は我を忘れて黒宮に飛びかかった。
黒宮は自身の影を自身の身体に覆い、突撃した。
「【炎帝爆殺】」
厳陣は黒宮を真っ二つに切り裂いた。しかしー
「逃がしたか…」
そう、黒宮は我を忘れてはいなかった。
黒宮に突撃する振りをして自身の影に潜り込んで逃げたのだ。
「戦況が不利と悟った瞬間に逃げる…やはり知力は本物並みか…」
黒宮の偽物は本物と変わらない戦闘力を有していた。
「面倒な事になった…恐らく…黒宮以外の者も偽物がいる…霊力による判断はまず不可能…厄介だな…」
そう、黒宮の偽物の大きな違いと言えば原種と比べてやや好戦的である事以外の違いが無かった。
厳陣以外で黒宮の偽物を判断するなどほぼ不可能に近い。
「まずは黒宮の消息からだな…偽物がここに来たという事は黒宮の身に何か起こった可能性もある」
黒宮はそう言って四神天城から出ていった。
「見つけましたよ。あなたは何者ですか?」
黒宮はとあるビルにいた。
ビルには黒スーツを着た怪しげな仮面を被った男がいた。
「おやおや…こうも速く見つかってしまうとはネ」
「怪しい気配がしたので来てみたのですが…」
「やはり君は食えない男だネ、黒宮大志」
「あなたはここで何を?」
「十二支連合帝国を滅茶苦茶にしようとしている…とだけ言って起きましょうかネ?」
「何だと?」
「ふ~む、これ以上ここも長居は出来そうにないネ。逃げるとするかネ」
「逃がすと思ってるんですか?」
「逃げるったら逃げるネ」
仮面の男、ドーラーはそう言ってビルから飛び降りた。
「逃がしません!」
黒宮は追い掛ける。
「しつこいネ」
ドーラーは地面に着地した後、ダッシュで逃げた。
黒宮も引き続き追い掛けた。
「待て!」
「待てと言って待つバカがどこにいるネ?」
ドーラーは宙を舞い、再び、民家の屋根と屋根を跳び移って逃げた。
黒宮も追い掛け続けた。
「ああ、一ついい事を教えるネ」
「?」
「この国に君達の偽物を忍ばせているネ。君の偽物もだ君の偽物は今、常森厳陣の元へと行っている筈だネ。厳陣はどうなったかネ?」
「!?」
黒宮は驚愕の表情を浮かべていた。
「引き返した方がいいのではないかネ?」
「くっ!?」
黒宮はやむ無くドーラーの追跡を止めた。
黒宮にとって厳陣の安全が第一だ。
ドーラーの発言が全くの出任せとは思えなかった。
ここは引いて四神天城に戻るしか無い。
「ふふふ…単純だネ。さてと…ミーもとっととトンズラするとするネ」
ドーラーは不適に笑みを浮かべた。
この十二支連合帝国を混沌へと誘う為にー
To be continued




