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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第八章】天使追憶篇
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【第八章】天使追憶篇Ⅹー止まった時間ー

 全て無くなった。

 フローフルはとても空虚な気持ちになった。

 フローフルが今いるのは真っ白い空間だ。

 だが、白いだけでなく、建造物の中にいた。

 珍しい彫刻がいくつもあり、丸い柱が多くあった。

 この柱の作りはエンタシスといい、柱を丸くする事で強度を保ち、結果頑丈な建物が作る事が出来るのだ。

 これを初めて実践したのが神聖ローマにあるパルテノン神殿であり、十二支連合帝国でも法隆寺にその技術を使われていたそうだ。

 フローフルはルミナスにエリシアの首を見せられ絶望し、この世界なんか壊れてしまえばいいと絶望した。

 そこからだ。全てが無くなる様な感覚に襲われ、意識を失い、そして、今に至る。

 ここは一体どこなのか?自分はどうなったのか?それすらも分からなかった。


「ここは…」


「ここは『世界宮殿(パルテノス)』。君達の言葉で言う天国的な?場所だよ」


 フローフルの目の前に人が立っていた。

 見た目は二十代前半程だろう。

 髪は金髪で長く、三つ網で括られていた。

 瞳は白く、白金の宗教服を着ていた美青年であった。

 だが、どことなく、神秘的な雰囲気を纏う人物だった。


「アンタは誰だよ?」

「ん?僕かい?僕はアスディア、アスディア・ゼウス・パルテミシア。この『世界宮殿(パルテノス)』の統治者であり、全知全能の神であり、最も偉い神様さ♪( ̄^ ̄)」


 何故だろう、フローフルはアスディアの自己紹介にかなりイラッときた。

 だが、嘘を言っている訳では無さそうだ。

 確かにこの世界はフローフルが知る世界とは雰囲気や感じが違っていた。

 ここが別世界だというのは疑いようが無かった。


「『世界宮殿(パルテノス)』だと?本当に実在したのか…」

「ほう…(^〇^)『世界宮殿(パルテノス)』の事を知ってるのか…見た所君は…ハーフエンジェルみたいだね。珍しいね?どうしてここに?というかどうやって来たんだい?死んでないのに??」

「俺は…死んでないのか!?」


 アスディアに衝撃事実を聞かされフローフルは唖然としていた。

 ここは天国の様な場所とアスディアは言っていたのでフローフルは自分が死んだと思っていたのだがどうもそうでは無いらしい。


「ああ、君の肉体は生きてるよ。魂のみここにいる。本来死んだら誰でもここに来るんだけど、死んだ場合はあそこに行くんだよ」


 アスディアが天井に指を指した。

 すると、空には多くの魂があり、循環していた。


「この『世界宮殿(パルテノス)』で運命を決められ、再び転生されるかこのまま消滅するか決められる、で、また死んだらここに来る…の繰り返し」

「運命?」

「ああ、現世にいる者達は大まかにこの『世界宮殿(パルテノス)』によって運命を決められてるんだよ。まぁ、現世の者達はそれを知らないけど…というか知られたら困るって言うか…」

「それ…俺に言ってもいい事なのか?」

「あっ\(^o^)/」

「をい…」


 どうやら、このアスディアという人物は少々間抜けな所がある。

 この『世界宮殿(パルテノス)』によって運命が予め決められている…確かにそんな事を知れば大惨事になるだろう。

 人にもよるだろうがこの『世界宮殿(パルテノス)』をよく思わない者も出てくるだろう。

 そして、反乱を起こす事になる。

 『世界宮殿(パルテノス)』の事は確かに内密にしておいた方が良いだろう。


「だって…久し振りに話せる人が現れたからテンション上がっちゃって…基本的にここは僕しかいないし…」

「なぁ?アンタ最高神なんだろ?現世の様子とか見れねぇのか?」

「あ~、そうすればいいんだ」

「…アンタ本当に最高神なのか?」


 いくらなんでも間抜け過ぎるとフローフルは思った。

 アスディアは近くにあった杖を掴んで地面を小突いた。

 すると、現世の映像が映し出された。

 世界は銀世界となっていた。


「うわ…酷いなこれは…世界が凍り付いてる…このままだと世界が崩壊してしまう…」


 アスディアはかなり深刻な顔をしていた。

 それだけ不味いという事だろうか。

 現世がそんなにヤバイ状況なのに何で今まで気が付かないんだとフローフルは突っ込みたくなるが今は黙っておく。


「あれ?あれは…君の肉体じゃ無いかな?」


 アスディアは氷の柱の中心部分を指差した。

 すると、確かにフローフルの肉体があった。


「成る程ね…あの氷の柱の力でフローフルはここに来た様だね…となると…近くに……あった…」


 アスディアは杖でフローフルの後ろを指した。

 すると、フローフルの後ろの地面から氷が出現した。


「!? これは…」

「あの氷の柱は現世からここまで繋がっていたみたいだね…そして…君はここまでやって来た…」

「この氷を伝って行けば戻れるって事か?」

「そう上手くはいかないかも知れないよ?この氷の柱には多くの死者の魂が残留してる。この氷の柱を作るために多くの者の死体を使ったんだろうね…怨念が凄まじい…このまま君が氷に飛び込めば、その怨念の力で本当に死んでしまうかもね」

「………」

「けどまぁ、この氷の柱を何とかしないと本当に世界が崩壊する…元に戻すには君が自身の肉体に戻るしか無い…どの道、君は氷を進むしか無いわけだ」

「…何だよ…最初からそう言えよ」


 ならば、フローフルは悩む必要は無い。

 この氷の柱に飛び込むまでだ。


「闇雲に行っても死ぬだけだよ?」

「それでも…俺は行かなきゃならない」

「何の為に?ねぇ?君は中々可愛らしい顔をしている。良ければ今日、僕と共に夜を過ごさないかい?」

「こんな時に何言ってんだ!?しかも俺は男だぞ!?」

「僕は男でも女でも何でもオーケーなのさ!僕と共に夜が明ければあの氷を何とか出来る案が思い付くかも?(*´ω`*)」

「思い付くか!俺はもう行く!」

「君は…何故そこまで現世に戻ろうとする?君に生きる意味があるのかい?」


 アスディアはフローフルに疑問を投げ掛けた。


「それを探してる…俺は…もうどうすればいいか分からねぇ…エリシアはもう…いない…けど、このままだと世界が終わるんだろ?」

「エリシア…?」

「俺にとって…姉の様な人で…俺の世界を変えてくれた奴だ」

「エリシア…か…懐かしい名前だね…」

「何だと?」

「僕達はパルテミシア十二神の最高神でもある」

「パルテミシア十二神だと!?」

「君は本当に博識だなぁ…まぁ、けどパルテミシア十二神は本当は十三人の神がいたんだ」

「十三人!?」


 フローフルはパルテミシア十二神の事は知っていた。

 『世界宮殿(パルテノス)』を守護する最強の十二人の神々だ。

 だが、十三人目がいた事は知らなかった。


「今から大体千年前くらいに僕らは結成されたんだけど…結成された直後にエリシアはどこかへ行ってしまったんだ。それから千年経った」

「それでも十二人いるんだろ?」

「いや、現在は六名しかいない」

「何でだよ?」

「ヒューマニックリベリオンで一人。天使大戦で三人…第三次世界大戦で…僕の妻と息子が死んだよ」


 アスディアは初めて悲しそうな顔をしていた。


「…悪い……」

「何で謝るんだい?変わってるね」

「そんな事…ねぇよ」

「そしてこれがエリシアの写真だよ」


 アスディアはエリシアの写真を立体映像(ホログラム)で表示した。


「な!?」


 フローフルはアスディアが見せた立体映像(ホログラム)に驚いた。

 何故なら、そこに映っていたのはフローフルの知るエリシアその人だったのだから。


「エリシア…」

「…へぇ~、エリシアは神聖ローマにいたのか…」

「どう言う事だ?」

「僕らはずっとエリシアの行方を追ってたんだけど見つからなかったから死んだと思ってたんだけど…」

「…」

「エリシアはどうなってるんだい?」

「神聖ローマによって処刑されたよ…」

「……神を処刑…か…随分傲慢な国になったね~、神聖ローマも。いや、ローマカイザーなら当然か」

「ローマカイザーを知ってるのか?」

「ローマカイザーは五百年前から存在している古い一族だよ。その祖先は…始まりの天使…セラフィム。神聖ローマのセラフィム騎士団もそこから名が取られてるね」

「何でセラフィム騎士団を知っててエリシアの事は知らねぇんだよ。セラフィム騎士団が結成された時からエリシアはいたらしいぞ」

「え!?そうなの!?」

「アンタ、知ってる事がガバガバ過ぎだろ」


 アスディアは知っている事と知らない事が些かガバガバな気がした。


「う~ん、エリシアに関しては謎が多かったからね~」

「どう言う事だ?」

「彼女は徹底的な秘密主義を貫いていてね。彼女がどんな力を使っていたのか何故僕達から姿を消したのか…全てが謎なんだよ…調べても何も出なかったしね」

「アンタはどうも、エリシアの事を疑ってるみたいだな…」

「まぁ、不審な点は多いね」


 フローフルはエリシアの事を何も知らないと感じた。


「君は多くの者達を犠牲にした。そんな君が…生きる意味があるのかい?」

「俺は…」


 フローフルは分からなくなっていた。

 戻るべきなのか…そうするべきでは無いのか…


「答えがあやふやなまま行った所で君は身を滅ぼすだけだよ」


 アスディアが言う事も最もだ。

 このままフローフルが現世に戻った所でどうにもならないだろう。


「それでも…俺は行く!行って…答えを見つけなきゃならない」


 フローフルはここで悠久の時を過ごすくらいならここから出て現世へ行った方がいい…そう考えていた。


「まぁ、僕だって君がここにいる事を強制したりはしないさ。帰りたければ帰ればいいさ。尤も…帰る場所があれば…だけどね」

「俺はお前といる位なら現世に行った方がマシだ」

「…酷い嫌われ様だね…流石の僕も泣いちゃうよ?」


 アスディアは悲しそうな顔をした。


「まぁ、アンタには世話になったし…礼は言っとくぜ。ありがとな」

「どういたしまして。というか、僕は名前を名乗ったのに君は無しかい?」

「俺は…フローフル。フローフル・キー・ローマカイザーだ」

「フローフルね、覚えたよ。また会えるといいね♪」

「…それは御免だな」


 フローフルはアスディアに自分の名を名乗った後、氷の柱の中に入って行った。


「フローフル…か…」


 アスディアはフローフルの力の異常性に気が付いていた。

 この『世界宮殿(パルテノス)』に入れる者がパルテミシア十二神以外にもいた。

 これは由々しき事態である。

 だが、アスディアはフローフルの特異な力には気が付いていた。


「『天使の終末ラッパ(アポカリプシス)』…トロンペーターとも言う…」


 『天使の終末ラッパ(アポカリプシス)』とは始まりの天使であるセラフィムの身体の事である。

 セラフィムは身体を七つに分け、七人の天使に与えた。

 その力は無くなる事は無く、時代を越えて受け継がれていく。

 だが、『天使の終末ラッパ(アポカリプシス)』の力は強大で凶悪な力であり、一つ一つが世界を崩壊させる程の力がある。

 なので、パルテミシア十二神は『天使の終末ラッパ(アポカリプシス)』を回収、破壊した。

 破壊した『天使の終末ラッパ(アポカリプシス)』は四つの内、三つ。つまり、後、四つ残っている。

 だが、『天使の終末ラッパ(アポカリプシス)』を破壊すれば、呪いにより、破壊した対象を必ず殺す。

 それにより、パルテミシア十二神の内、『天使の終末ラッパ(アポカリプシス)』を破壊した三人とも死んでいる。

 アスディアはフローフルを見て、彼に可能性を感じた。

 根拠は無い、だが、可能性は感じた。


「フローフルなら…必ず自分の力を扱える…そんな気がする…根拠はない…だが、エリシアが認めているのなら…ふっ…僕も焼きが回ったね…あのエリシアを信じるなんて…」


 自身の事を語らずに消えていったエリシア。

 そのエリシアが信じたフローフルにアスディアは可能性を感じた。

 冷静に考えればおかしな話だ。


「フローフル、君はいずれ…世界をも変える…その力をどう使うかは…君次第だ」


 アスディアはフローフルに嘘を吐いた。






 フローフルは氷の柱を伝って降りていた。

 フローフルは寒さに強く、基本的に寒さは感じない。

 それにも関わらず寒い。ここはとてつもなく冷たかった。


 ー寒さを感じるなんて何年振りだ。


 フローフルはそんな事を考えていた。

 しかし、フローフルは寒さを感じるだけでは無かった。

 この氷は多くの死者の魂が残留していた。

 人々の思念は凄まじく、一歩進むだけでもやっとだ。


「ぐっ!?」


 フローフルは寒さと怨念に耐え、進み続けるがやがて限界が訪れた。

 フローフルはやがて動けなくなった。

 そして、死んでいった者達の死んだ時の映像が無数にフローフルの中に流れ込んで来る。

 無惨に殺された者、魔道兵器に殺された者、兵士に殺された者、たくさんいた。

 挙げ句の果てにそれだけの犠牲者を出しておきながらフローフルはエリシアを助ける事が出来なかった。

 フローフルは後悔の念に襲われた。

 あの時、何もしなければ…ここまで犠牲が出ずに済んだのでは無いか?と…

 そうすれば…エリシア一人が犠牲になるだけで済んだ。

 だが…フローフルはそれが出来なかった。

 大切な者が死んでいく…そんな事をただ黙って見ておくだけなんて出来なかった。

 フローフルにはどうしても…出来なかった。


「俺のやった事は…間違いだったのか…?」


 フローフルの心は折れかけていた。

 それ程までに怨念が凄まじかった。

 エリシアを助ける為の仲間達が…まさかこの様な形でフローフルに牙を剥く事になるとはフローフル自身、想像していなかった。

 ここでフローフルは終わる…そう思っていた時だった。


「あなたは間違っていないわ」

「!? エリシア!?」


 フローフルの前にエリシアが現れた。


「何で…」

「私がここにいる理由はいずれ分かるわ。それよりも…速く戻らないと」

「俺は…アンタを助ける為に…多くの仲間を死なせた」

「………」

「それなのに…俺は自分だけ助かろうとしてる…俺は…」

「そうね、多くの仲間を死なせた。それはあなたの罪よ。けどね、あなたがそこで止まってしまったら…それこそ本当に犠牲が無駄になるわ」

「理屈ではそうなのかもしれない…けど…俺は…!」


 フローフルは分かっている。

 自分が犠牲になった所で何も出来ないという事を。

 でも、それでも…今のフローフルはどうすればいいか分からなかった。


「今、あなたは苦しい?」

「ああ…」

「なら…その痛みを忘れないで。失った人達の事を…覚えていて。そして…生きなさい。それが…今のあなたに出来る償いよ」

「エリシア…」

「あなたと共にいて、救われた人は多くいたわ。あなたの存在で救われる人はきっとこれから沢山増えるわ。あなたを必要としてくれる人が必ず現れる。あなたはその人の為に生きなさい」


 エリシアは心から願った。

 フローフルが生きる事を。

 フローフルは理解した。

 エリシアがフローフルに生きて欲しい事を。

 そして、フローフルは思い浮かべた。

 エリシア、インベル、アポロ、ミルフィーユ、ルミナス、ジェラート、セラフィム騎士団、今回の戦いで死んでいった仲間達の事を思い浮かべた。

 そして、フローフルは何とか…立ち上がる決意を固めた。


「フローフル、あなたにこれを託すわ」

「これは…」


 エリシアはフローフルに黒い刀を渡した。

 これは、エリシアの天使(エンゲリアス)だ。


「これは…私の友達の形見なの。あなたに…託すわ」

「ああ…」


 フローフルは悟った。

 エリシアとの別れの時が近い事を。

 それを悟ったフローフルは涙を流した。


「フローフル、あなたが私を助けようとした事…何も間違っていないわ。ありがとう…私を助けてくれて」

「俺は…!お前を…だずげ…られ…っ!」

「いいえ、私はあなたといれた時間はとても幸せだった。あなたと…出会えて良かった。あなたは…仲間を大切に出来る強い男よ。その心を…忘れないで」


 エリシアの身体が消え始めた。

 フローフルはエリシアの手を掴もうとする。

 しかし、手を掴む事すら許されず、エリシアの手が光の粒子となって消えた。


「!?」

「フローフル…愛してる…」


 それが…エリシアの残した最後の言葉だった。

 フローフルは叫んだがその声が届く事は無かった。








 氷の柱は崩れ落ち、世界中に起こっていた大雪は止んだ。

 フローフルはその後、兵士達に両手足を拘束され、連行されていた。

 フローフルの切断された両手足は回復しており、瞳の色は薄ピンクと黒のオッドアイに変わっており、髪の色も白黒混じりの色になっていた。

 天使城(セラフィム・ヴァール)内でフローフルは虚ろな瞳で連行されていた。

 そんなフローフルの姿を興味深く見ていた者がいた。

 赤黒い短い髪と瞳が特徴な吸血鬼を思わせる中性的な容姿だ。

 アラルガンドと同じ灰色の宗教服を着ていた。

 彼女の名はルバート・セイント。ヘレトーアの神官の一人であり、今回はアラルガンドに連れられてここまで来ていた。


「ルバート、こんな所にいたか。何を見ている?」

「あー、あの子、何で捕まってるの?」

「ああ、あいつか。気にするな、奴は何も出来ない敗者だ」


 アラルガンドは連行されているフローフルを蔑む様な眼で見ていた。

 ルバートは何故、アラルガンドがフローフルを蔑んだ眼で見たのか分からなかったが、ルバートは少し意外に思った事がある。


「珍しいね、君が他人を見下すなんて…君、基本的には他人に無関心だし、見下す事すらしないのに。もしかして…あの子の事、気になるの?」

「ふざけるな」

「あの子にちょっと挨拶してくるね!」

「止めておけ、ただの迷惑だ」


 アラルガンドがルバートを制止した。


「奴はもう、駄目だ。もう、何も出来まい」

「アラルガンドってさ、相手の奥の奥を見れないよね~」

「何が言いたい?」

「確かに今のあの子の眼は死んでる。けど…彼の瞳の奥はまだ死んでないよ」

「何をバカな事を…」


 アラルガンドはルバートの言葉の意味が分からなかった。

 確かにいきなり眼は死んでるけど死んでないなんて言われても分からないだろう。


「あの子はきっと立ち上がるよ?」

「そうはならないで欲しいモノだな」


 アラルガンドはさっさと去っていった。


「待ってよ~!アラルガンド!」


 ルバートは慌ててアラルガンドを追っていった。

 一方、フローフルはそのまま牢獄へと連行されていた。

 インベルもアポロも捕まり、牢に入れられている。

 だが、二人と違い、フローフルは今回の戦争の主犯だ。

 ただでは済まないのは明白だ。

 最悪、死刑という事もありえる。

 フローフルはエリシアの死んだ要因をこの世界に戻った後に理解した。

 フローフルを助ける為に自分を犠牲にしたのだ。

 フローフルが…エリシアを殺したも同然だ。

 フローフルはその事に絶望していた。

 だが、フローフルはただただ絶望していたわけでは無かった。

 フローフルはエリシアの「生きて」という言葉を思い出していた。

 そう、フローフルは死ぬ訳には行かないのだ。

 だが、今のフローフルはどうする事も出来なかった。

 せめて、インベルやアポロと話がしたかった。


「何だ!?貴様は!?」


 フローフルを連行していた兵士の一人がそんな声を上げた。

 そこにいたのはローブに身を包んだ人物であった。

 男か女かは判別出来なかった。


「眠ってて♪」


 ローブの人物がそう言うと兵士達が全員眠りについた。

 声からして女性の様であった。

 兵士が全員眠った事を確認すると女性はローブを取った。


「!? ジェラート!?」

「しーっ!声が大きい!」

「何でここに?」

「あなたを逃がそうと思ってね」

「逃がすだと?」


 何とジェラートがフローフルを逃がすと言うのだ。

 ジェラートはフローフルの拘束具を外した。


「何が目的だ?」

「弟を助ける事に理由が必要かな?」

「………」

「はぁ~、分かったよ。理由はある。頼まれたんだよ、エリシアに。エリシアには昔助けて貰った借りがあるし…」

「はは…最後の最後まで…アイツに助けられたって訳か」

「エリシアは君に希望を託した。なら君はそれを無駄にするべきじゃない。行って、長くは持たないよ」


 ジェラートはそう言ってフローフルに背を向けた。

 フローフルは決意した。


「ありがとう、ジェラート」

「借り、いつか返してね」


 ジェラートがそう言うとフローフルは「ああ」とだけ返事をして走って行った。


「はぁ~、さてと、私もそろそろ行きますか」


 ジェラートは去っていった。





「ここは?」


 エルは眼を覚ましていた。

 雪が止み、氷は完全に溶けていた。

 仄かな暖かい太陽の光がエルを包む。


「はは…まだ…死んじゃダメ…て事かな?ははは…きっついな~」


 エルはそう言って立ち上がり、再び歩き始めた。

 そして、やがて神聖ローマの外れで生活し、やがて、十二支連合帝国へと向かう事になる。






「そして…俺は一夜と連絡を取り、十二支連合帝国へと向かった。十二支連合帝国に来るのに二年の月日が掛かったのはローマの奴等を撒くのに時間が掛かったからだ。そして…慧留と出会った。ここまでが…俺達の過去だ」


 話を一通り聞き終えた慧留達は何も言えなかった。

 フローフルは…とてつもなく重いモノを背負っていた。

 それは罪であり、多くの人達の思いでもあった。


「蒼は…やっぱり蒼だった。それを確かめれただけで…私は良かったよ」


 慧留が笑顔でそう言った。

 本当は全てを受け入れた訳では無いだろう。

 それでも昔の蒼は…フローフルは…変わらなかった。

 変わっていなかった。


「まぁ、今まで勿体振って話さなかったのは勘に障るがな」

「うっ…」


 屍の言葉に蒼は絶句した。


「けど…話を聞いていても分からない事があるわ。結局、ルミナスの目的が見えないわ」

「あの女は昔から何を考えてるのか分からない奴だったわ」

「全くだ…」


 プロテアの疑問にアポロとインベルが同意した。

 確かにこの話でルミナスについて分かった事があるとすればそれは狂気的な人物である…というくらいだ。

 彼女の思想、目的は一切見えてこなかった。


「まぁ、少なくともルミナスは蒼を使って何らかの計画を進めようとしてるのは明らかだね」

「その事を他国にも回したらそれでいいんじゃ?」

「いや、恐らく効果は薄い…あまり意味が無いと思うよ」


 美浪の提案に一夜はすぐに否定した。

 証拠不十分なこの状況で神聖ローマの皇帝が何か企んでますなんて行っても他国は取り扱ってくれないだろう。


「まぁ、今は見ているしか無い…という事だよ。残念だがね」


 一夜は割り切れない気持ちでそう言った。


「だが、一つ言える事は…俺とルミナスはまた…戦う事にはなると思う」

「そうなったら、私達も協力するよ」

「いいのか?慧留…こんな人殺しに手を貸して…」

「蒼は蒼だよ。やっぱり、蒼は…いつも誰かの為に戦ってる人だった。ぜんぶを許す事なんか出来ない…けど、私と蒼は…友達…だから」


 慧留は笑顔でそう言った。

 蒼は慧留には叶わないなと思った。

 慧留は優しかった。蒼よりも…ずっと…


「僕もサポートさせて貰うよ。君に死なれては困るしね」

「私も!手伝います!」

「しょうがねーから俺も手伝ってやるよ」

「あなたには…借りがあるわ」


 一夜、美浪、屍、プロテアがそれぞれそう言った。


「良い仲間を持ったな、フローフル」

「そうね」


 インベルとアポロがそう言った。


「ああ」


 蒼はそう返事をした。

 良い仲間を持った。その通りだ。

 だからこそ、もう、誰も死なせやしないと蒼は強く…強く決意した。

 蒼達はこれからも進み続ける…止まる事なく…






 エピローグ~ルミナス~


「フローフルは逃げちゃったか…残念ね…まぁ、いずれ連れ戻すとして…変わりを補充しないと行けないわね」


 ルミナスはインベルとアポロを減俸処分で済ませて使い続けるつもりでいた。

 彼等もセラフィム騎士団の貴重なセンリョクだ。なるべく保持しておきたい。

 だが、フローフルの穴をどう埋めるか…それを考えていた…そして…今…思い付いた。

 ルミナスはフローフルの出現させた氷の柱から魂を一つ、捕らえる事が出来た。

 フローフルの出現させた氷の柱からはローマ聖戦で死んだ多くの死者の魂が残留していた。

 その大半が浄化され、消えていったが、ルミナスは一つだけ…拾ってきた。

 この魂を天使として転生させる。それがルミナスの狙いだ。

 幸い、ルミナスが拾ってきた魂は人間の魂だった。

 人間の魂は転生させやすいのだ。

 ルミナスは初めて転生術を使用した。


「【輪廻転生(メテンソーマトーシス)】」


 ルミナスは転生術を使用した。

 そして、魂は肉体を得て甦った。


「ごほ…ごほ…ここは?」

「ねぇ?あなたの名前を教えてくれないかしら?」


 ルミナスは男に問い掛ける。そして、男は答えた。


「ローグヴェルト」







 エピローグ~プロテア~


 プロテアは蒼と出会う五年前、神聖ローマに来た事があった。

 プロテアは一人でローブで身を隠していた。

 プロテアは神聖ローマの事を調べようとこの地にやって来た。

 だが、実際は観光となんら変わらなかった。

 色々な有名な名所を回ってはエンジョイしていた。

 そして、一通り、神聖ローマを回り終わった後、プロテアはヘレトーアに帰ろうとしていた。

 プロテアは神聖ローマの迷いの森を歩いており、現在、方向が分からなくなっており、迷子になっていた。


「やらかしたわね…ここは…どう抜ければいいのかしら?」


 プロテアはそう呟いた。

 すると、同じくローブに身を包んでいた者がいた。

 物は試しだ。ローブに身を包んでいた者に道を聞こうとした。


「あの…この森の抜け道は知らないかしら?」

「迷ったのか?どこに向かいたいんだ?」

「ここなのだけれど…」


 声からしてローブに身を包んでいた者は男の様だ。

 顔はよく見えなかった。

 プロテアは男に地図を渡し、向かおうとしてる場所を教えた。


「ああ、それならここを真っ直ぐ進めばいい」

「ありがとう。また会う事があればその時は借りを返すわ。…恐らく、会う事も無いけど」

「そうか…」


 プロテアはそのまま男の元から去っていった。

 男はプロテアが去っていった後、ローブを外した。

 薄ピンクと黒色のオッドアイ、白黒混じりの髪の色が特徴の少年であった。


「俺もとっとと森を抜けないとな」


 男は…フローフル・キー・ローマカイザーはそう言って、迷いの森を歩き出した。



 ー止まった時間が再び動き出すのは…もう少し先の話である。





 To be continued

 【第八章】天使追憶篇終了です。はい、今回は過去篇だった訳なんですけどお馴染みのキャラがほぼ出ませんでしたね(出てもほんのちょっとだけ)。

 今回は蒼が何故故郷を捨てたのかと蒼の出生について掘り下げました。謎が意外と多かったですからねこいつ(まぁ、まだまだ蒼については謎が残ってますが)。そして、今回はローマカイザーの四姉弟の最後の一人であるジェラートが初登場しました。結構初期の段階から決まってたキャラでようやく出せました。因みに初期のセラフィム騎士団は全員ルミナスの兄弟でした。色々あってその設定はボツにしました。ジェラートはこれからどんどん話に関わってくるので注目して下さい。そして、今回はルミナスの狂気を垣間見る事になったと思います。彼女の動向にも注目です。

 この物語も終盤に差し掛かって来ました。残り三章です。最後までお付き合い下さい、それでは!

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