【第八章】天使追憶篇ⅨーVictimー
戦いは既に始まっていた。
フローフル達は反乱軍達に神聖ローマの情報を流し、反乱軍達はそれを聞き、それに乗じて攻め込む算段を立てている。
しかし、反乱軍の代表格である、『オリヴィア』、『ギシン』、『ミネルヴァ』、『エギル』は一先ずは静観する事にした。
だが、戦争が始まればそれに乗じて攻め込む。いつでも攻め込める体勢にはしていた。
フローフル達は二つのチームに別れた。
戦力を撹乱させるチームとエリシアを直接奪還するチームの二つだ。
アポロとインベルは撹乱させるチームに、フローフルと少数のガラハッド騎士団のメンバーでエリシアを奪還する運びとなった。
城の中に入るには少数精鋭の方がいいという判断である。
それにやはりフローフルは指示を飛ばすよりも直接戦場に出た方が性に合っている。
神聖ローマはエリシア処刑には厳重な体勢を取っていた。
セラフィム騎士団は現在いるのはフランとエクレアのみだ。
他の騎士団員たちはそれぞれ別の場所で任務に就いており、動けない状況だ。
しかし、それでも神聖ローマの力が凄まじい事には変わり無かった。
それでも、ここまでは全てフローフルの計画通りであった。
エリシア処刑まで後一日、今は夜となっていた。
戦争が始まる直前にしてはとても静かな夜であった。
いや、戦争が起こる前だからこそ静かとも言える。
一日の流れでもそうだ。夜明け前が一番暗い。
何かが起こる一歩前は不気味な程静かなのだ。
何かを得る為には何かを犠牲にしてしまう。それは自然の事である。
しかし、何もかも…全てを犠牲にしたにもかかわらず何も残らない事も当然ある。
戦争の敗者が正にそれだ。争い、奪い合い、勝利した者は対価を得られる。犠牲に見合っているかどうかは別として。
しかし、負けた者は全ての犠牲が無になってしまう。
負ければ何も得られない。戦争であれば尚更だ。
それでも人は競争を選ぶ。守りたいものの為に戦う。
フローフルたちがこの戦いに臨んだのも自然の事であったのかもしれない。
アラルガンドは天使城の牢獄にいた。
ある人物と会う為に。
やがて、その人物に遭遇した。
その人物は黒色の長い髪に桜色の瞳を持つ女性であった。
服はボロボロの服を着ていた。
彼女の名はエリシア。
エリシアは神聖ローマに遣える前まではヘレトーアにいた。
アラルガンドとエリシアはその時に会った友人であった。
エリシアはアラルガンドの目的も知っていた。
だが、エリシアはアラルガンドに対しては干渉しないようにしていた。
「貴様は、ここで死ぬ。天により、貴様は裁かれるのだ」
「天によるお裁き…ですか…中々洒落てますね」
「バカも休み休み言え。何故だ?何故貴様は…」
「新しい…種を…希望の種を見つけたの。それに、賭けて見たくなったの」
アラルガンドはエリシアの顔を見た。彼女は…笑っていた。新しい希望を見つけたような、そんな笑顔だ。
アラルガンドには理解出来なかった。彼女が何故、こんな顔が出来るのかを。
この女は処刑される。なのに…なぜ笑っていられる?
「そうか…残念だ。貴様は最後の最後まで私を裏切り続けるのだな」
「あなたからすれば、そうなるわね。けど、私は裏切ったつもりは無いわ。少なくとも、自分自身には…これが…私の見つけた、答え…」
アラルガンドはエリシアを睨み付けた。やはり、分からない。
どうやら、彼女は長い時を経て、心変わりしてしまったようだ。
心と言うモノは常に移ろい、変わるモノ。アラルガンドが変わらなかっただけで、彼女が変わったのは必然という事だろう。
エリシアは神聖ローマを変えようとしていた。
しかし、それは反乱軍に攻め込まれうる隙に事を意味する。
そうなれば神聖ローマが…ローマカイザーが根絶やしにされる恐れがある。
アラルガンドにとってはそれは非常に困るのだ。
「貴様が追い求めていた結果が…「アレ」だというのか?」
「ええ、とは言え、まだ今はちっぽけなモノです。でも、私は感じるの。やがては大きな闇となってあの強すぎる光を打ち消せると」
「光の道に進む者が闇を支持するか…滑稽だな」
「光は必ずしも正しいものではありませんよ。光だけでは、生きてはいけないのです。闇もまた、必要なのですよ」
そう、光と闇は表裏一体であり、合わせ鏡である。闇はマイナスなイメージを持たれ勝ちだが、闇は穏やかな眠りを誘う。
光が全てのモノにエネルギーを与えるモノであるのならば、闇は心を休ませるモノである。
永遠など存在しない。光ばかりに傾いてしまえば、大抵の者たちはその身を滅ぼす。
だからこそ、必要なのだ。その強すぎる光に対抗する、強い闇が。
「貴様には失望した。ここで死ね…エリス」
「………」
アラルガンドはエリシアと完全に決別した事を再確認してエリシアの前から去ろうとする。
「最後に一つだけ…忠告しておくわ」
「何だ?」
アラルガンドは鬱陶しげに返事を返した。
「フローフルは殺すな。後悔する事になるわ」
「そのフローフルが私に盾を突かなければな」
アラルガンドは出ていった。
エリシアは何となく察していた。
フローフルは…必ず自分を助けに来る…来てしまう。
エリシアは望んでいない。そもそも、フローフル達ではこの神聖ローマは…ローマカイザーは倒せない。
ルミナスとアラルガンドがいる以上、倒しようが無い。
だが、エリシアはここから動けない。
極刑を待つしか無いのだ。
死刑執行は明日の午後三時。
エリシアはその時に処刑される。
エリシアはもう、思い残す事は無い…無かった。
だが、最後の最後でやる事が増えた様だ。
エリシアは牢から見える夜空を…満月をいつまでも見続けていた。
天使城は現在、多くの兵隊達が厳戒態勢で周囲を監視していた。
今日は処刑執行の日。現在の時刻は十時過ぎである。
「交代だ、変われ」
兵隊がそう言うと隣から声が聞こえた。
「隊長!あれは…」
兵隊がそう言うと隊長と呼ばれていた兵隊が双眼鏡で遠くを見た。
すると、大量の軍隊がこちらへと向かっていた。
「ルミナス様!」
伝令役がルミナスに報告していた。
「来たわね」
ルミナスが薄ら笑いを浮かべてそう言った。
「アラルガンド」
ルミナスがアラルガンドの名を呼ぶとアラルガンドは王の間から出ていった。
フローフルは最も兵隊が少ない場所にいた。
インベルやアポロ達陽動隊達のお陰である。
反乱軍もこの戦いに乗じて攻勢を仕掛けていた。
上手く行っている、今の所は。
天使城一帯は戦火に包まれていた。
今の所は大した犠牲も出ずに拮抗している状態だ。
この隙に何としても突破しなければならない。
後少しで城に辿り着く。
「そこまでだ、小僧」
「!?」
目の前に見知らぬ男がいた。
その男は青色の長い髪に瞳、灰色の宗教服を来ていた、アラルガンドだ。
「てめぇ…ローマの奴じゃねーな!」
「だったら何だ?」
恐らく、ルミナスがこうなると分かっていてその為に雇った傭兵だろうとフローフルは考えた。
だが、アラルガンドは只者では無い事はフローフルは理解していた。
次元が違う。そう感じる程の圧力が彼にはあった。
「そこを通せ!」
「無理だな。どうしても通りたくば…私を倒して行け」
フローフルはアラルガンドに突撃していった。
刀を抜き、アラルガンドに斬りかかった。
「…甘い」
アラルガンドは左手でフローフルの刀を受け止めた。
「!?」
そして、アラルガンドは金色の長剣を抜き、フローフルの身体を切り裂いた。
「がっ!?」
フローフルはアラルガンドから距離を取った。
「小僧、貴様の目論見は潰える。それまで、精々足掻き続けるんだな」
アラルガンドがそう言うとフローフルは【第二解放】を発動させた。
「【アルカディアの氷菓】」
フローフルは白い衣に右側のみ氷の翼が生えていた。
「…何だその【第二解放】は…まだまだ未完成じゃないか…」
アラルガンドは心底呆れた様な顔をした。
アラルガンドはルミナスやエリシアが何故彼に拘るのか分からなかった。
この男は明らかに力量不足だ。
正直、アラルガンドは彼を殺すつもりで来たのだが…最早、フローフルは…殺す価値すら無い。
「その程度で私を倒せると?いいだろう…貴様の剣…粉々に折ってやろう」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
フローフルはアラルガンドと刃を激突させた。
フローフルとアラルガンドの戦闘が始まってから暫くの事だ。
反乱軍のミネルヴァのリーダーであるクラッカー・アルサーはアポロがかつて率いていた騎士団であるガヴェイン騎士団を壊滅させた。
アポロは丁度その時にガヴェイン騎士団の死体達を目の当たりにした。
アポロが来る頃には敵は全員撤退していた。
反乱軍を利用する時点でこうなる事は分かっていた筈だ。
だが、アポロはガヴェイン騎士団は皆助かると思い込んでいた。
理由は単純、ガヴェイン騎士団は戦闘に出る者が殆どいないからだ。
だが、アポロのその考えは浅慮だった。
反乱軍は更に神聖ローマに攻撃を続けたが、ローマ陣営がみるみる押し始め、反乱軍は後退していた。
アポロ達陽動組もかなり押されていた。
予想より押されるのが速かった。
「アポロさん!まずいです!向こうは魔道兵器を多数導入してます!」
「!?」
そう、アポロ達が予想より速く押されている理由がそれだ。
神聖ローマはルミナスが皇帝になってから魔道兵器の開発にかなり力を入れていた。
しかし、まだまだ実戦に投入出来るレベルのモノは少なかった筈だ。
恐らく、ルミナスはこの事を見越してルミナス処刑が決まった一月の間にかなりの魔道兵器を量産していたのだろう。
アポロがそうこう考えてる内に大量の魔道兵器がこちらへとやって来た。
数は数百といった所か。形は巨人の形をしており、一体につき、二メートル程はあった。
恐らくは試作品だろうがそれでもかなりの魔道兵器である事が予測出来る。
「【死滅天使】!!」
アポロは天使を解放し、銃剣で魔道兵器に攻撃した。
しかし、銃弾一発程度では傷一つ付かなかった。
「くっ!?硬い…!」
「ぎゃあ!」
「!?」
アポロは後ろから断末魔が聞こえたので振り向いた。
すると、アポロ側の兵士達が魔道兵器によって虐殺されていた。
銃殺、刺殺、頭を切り落とす、死体をぐちゃぐちゃに殴り付けるなど殺し方がえげつなかった。
「止めろ!」
アポロがそう言って何体かの魔道兵器を切り裂いた。
何とか三体程倒す事に成功した。
「これじゃあ、キリがない…【第二…」
「【呪縛紫鎖】」
アポロの周りに紫色の無数の鎖が現れ、アポロを縛り付けた。
やって来たのはエクレアであった。
エクレアの天使、【呪縛紫鎖】は異空間から無数の鎖を呼び出す事が出来る。
鎖は拘束力が非常に高く、霊力の放出すら遮断出来る。
「ぐっ!?」
「はい、現行犯確保よ」
「離して…!」
「それは出来ないわね」
アポロが必死で抵抗するがどうやらこの鎖は霊力の力を封じる力がある様で一度縛られてしまえば抜け出す事が出来ない。
「それに…あなたは自分の騎士団を全滅に追い込んだ…」
「っ…!?」
「直別やったのは反乱軍でしょうね。けど、あなたが…あなた達がきっかけを作った。あなたが自分の騎士団を潰したのと同じよ!あなたは…やらなくていい無駄な争いを作り、自分の騎士団を全滅させ…騎士団の家族や親族を悲しませるのよ。あなたの罪は重い」
騎士団だけでない、人には魔族にだって、家族や友人はいる。
それを死に追いやれば当然悲しむだろう。
戦争はそれらを問答無用で奪い去っていく。
アポロは戦争の事をまるで分かっていなかった。
エクレアの方がよっぽど戦争の事を理解していた。
「私情だけで全てをかなぐり捨てられるような立場じゃないのよ、あなたは」
魔道兵器達はアポロの仲間達を殺していた。
今、アポロ陣営は千人程、対してこちらは二千。
数ではこちらが有利だが魔道兵器一体一体の戦闘力は高く、更にアポロが捕らえられた事により、指揮がガクッと下がっていた。
完全にアポロ側が不利であった。
「【呪縛紫鎖】、【百合】」
エクレアの背後から無数の鎖が飛び出し、アポロ陣営の兵士達に突き刺さった。
鎖は赤く染まり、正に地獄の鎖のそれであった。
「止めて…止めて…!」
「これは戦争よ。吹っ掛けたのはあなた達よ。殺されても文句は言えないでしょう?」
エクレアはアポロ側の兵士を一掃していく。
魔道兵器達もどんどん兵士達を殺していた。
更には神聖ローマから増援も到着し、アポロ側には勝ち目が無かった。
「アポロ…あなたは殺さないわ。あなたは…ここで多くの者達が死んでいく様を見続けなさい」
エクレアはそう言って兵士達を次々と殺していった。
「止めて…止めてよ…」
アポロの眼に写っていたのは血と死体と殺されていく仲間達だけだった。
アポロはやがて何も言えなくなった。
アポロはこの戦いで多くの者達を死なせた。
そもそも、神聖ローマに戦いを挑んだのが間違いだった。
「アポロ…あなた達は終わりよ。このまま終焉の時を待ちなさい」
やがて、アポロ陣営は全滅した。
周囲の大地は赤く染まり、赤い百合の花の様であった。
「がぁ!」
インベルはアポロと同様、陽動をやっていたのだが、フラン率いる騎士団の大軍により、劣性を強いられていた。
最初は上手くいっていたのだが、フランが来た瞬間、戦況は一気に逆転し、インベル側が押されていた。
約七千人程の大軍を率いていたインベルだが、その殆どが死に絶えていた。
「もう…終わりだ。降伏しなさい。そうすれば…今いる人達だけでも助けて上げる」
「っ!?」
インベルは分かっていた。もう、勝ち目が無い。
これ以上は余計な犠牲を増やすだけだ。
インベルは降伏する事を決めた。
これ以上の犠牲はダメだ。しかしー
「誰が降伏するか!」
「そうだ!エリシア様は必ず助け出す!ガラハッド騎士団の誇りを懸けて!」
「エリシア先生は必ず助け出す!例え刺し違えても!」
インベル以外の者達は降伏する気が一切無く、突撃した。
「皆!止めろ!勝ち目は無い!死ぬ気か!」
インベルが皆を止めようとする。
「何をバカな事を言ってるの!?ここで引いたらエリシア先生は助からないわ!」
「そうだ!行くぞお前ら!」
しかし、彼等はインベルの制止を無視してフラン達に突撃した。
「仕方無い…」
フラン達がインベルの兵士達に斬りかかる。
更にフラン達には魔道兵器があった。
数はこちらが有利だが地力の差と質の差は圧倒的に向こうが上である。
こちらは所詮、一人一人の力はたかが知れてるのだ。
「がはっ!」
「ぐぁ!」
「ぎぐ!?」
どんどんインベルの仲間が殺されていく。
インベルもこうなっては引く訳には行かなかった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!【第二解放】!!!」
インベルは【第二解放】を使用した。
赤い炎の四対の翼と炎の剣は身の丈程の巨大銃に変化していた。
「【天炎…緋血】!!!」
インベルは巨大な炎の砲撃を発射した。
そして、インベルは四方八方に炎の砲撃を放ちまくった。
その姿は炎の鬼神そのものであり、フラン側の多くの敵を葬った。
しかし、そんな状態が長く続く筈も無く、フランはインベルの攻撃を交わし続け、インベルに接近した。
「【無法日向】」
フランは天使を解放した。
解放した瞬間、フランの剣の刀身が消えた。
そして、刀身が消えた瞬間、インベルの身体は無数に切り刻まれていた。
「がっ!?」
【無法日向】の能力は刀身の分裂だ。
刀身が消えた様に見えるだけで実際は刀が五つに分裂して相手を切り刻む。
インベルはそのまま倒れた。
フランの背中に五つの刀身が円になって浮かんでいた。
「この不安定な国でも何故、ローマカイザーが実権を握り続けているのか…分からない様だな。話は単純…強いからだ」
「…アンタは…エリシア先生の友達だったんじゃねーのかよ!?なのに…何で…何で簡単に切り捨てられるんだよ!?」
「黙れ!!!!!」
「!?」
インベルがフランに疑問を投げ掛けるとフランは大声で叫んだ。
インベルはこの時に察した。一体どんな気持ちでフランは戦いに臨んでいたのかを。
フランは大義を優先したまでだ。
戦争の悲惨さはインベルよりフランの方が理解している。
正義の為、大義の為、フランは私情を捨てて戦っていたのだ。
「もう…どうにもならん。受け入れろ」
フランが俯きながら…身体を震わせながらそう言った。
インベルは何も言えなかった。
私情の為だけに戦いに挑み、そして、多くの人々を死なせてしまった。
インベルがフランに敗れる頃にはインベルの仲間達は全滅していた。
周囲にあるのは死体死体死体死体…
何も無い…虚しいだけだった。
「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
インベルは叫ぶがその叫び声はただただ、虚しく響き渡るだけであった。
「あっ…がっ……」
フローフルは倒れていた。
手足を切断され、天使を折られていた。
所謂ダルマ状態になっていた。
ーえ?
フローフルは状況を理解出来ていなかった。
フローフルの眼に写っていたのは雨雲と彼を見下ろすアラルガンドだけであった。
アラルガンドはほぼノーダメージであった。
フローフルは全身全霊を懸けてアラルガンドに攻撃を仕掛けた。
しかし、攻撃は全て悉く回避され、更にはアラルガンドの攻撃は全て当たっていた。
アラルガンドは全く本気を出していなかった。
その証拠に霊術や霊圧を使った攻撃は一切せず、剣術だけでフローフルを圧倒していた。
「やはりこの程度か…ああ、貴様は私に意識を集中させ過ぎて気付いていないだろうが…」
アラルガンドは顔を前に動かした。
フローフルはアラルガンドの向けた方に顔を向けた。
フローフルの眼に写ったのは自分以外の仲間が全員死んでいる姿であった。
「な"っ!?」
フローフルは身体を動かそうとするが手足が無い為、立ち上がる事すら出来ない。
声も上手く出せなかった。
身体中から血が出ており、最早生きているのが不思議なレベルだ。
フローフルは仰向けから俯せの体勢になった。
しかし、それでもやはり手足が無いので立ち上がれなかった。
「ぐううううう…」
フローフルは鋭い眼光でアラルガンドを見ていた。
そんなフローフルを見て、アラルガンドは呆れ混じりの顔をしていた。
「この状況でまだその様な眼が出来るのか…呆れた奴だな」
フローフルは顎で少しづつアラルガンドに近付いていった。
「ここまで来るといっそ哀れだな…貴様は最早何も出来ない…ここで虚しく最後を迎える…」
「まだ…だ…まだ…」
ーくそ!動け…動け!
フローフルは氷で手足を作ろうとするが霊力が不足しているのと血を流し過ぎ、意識が朦朧としていた為、出来なかった。
アラルガンドは突然耳に手を当てた。何やら無線で話をしている様だった。
「そうか……おい、貴様に報告だ。貴様らの仲間はほぼ鎮圧した。インベルとアポロ以外はほぼ全員殺した。私はこれから残党の始末をする。貴様は時期に死ぬ。ここで精々、自らの愚かさを悔いろ」
アラルガンドはそう言ってフローフルの前からいなくなった。
「ま…で……ぐっ…ぐ…ぞ…がばっ!」
フローフルは天使城へと進もうとしていた。
あそこに…エリシアがいる…助け出す…その為にここへ来たのだ。
ここでエリシアを助けなくては…何の意味も無い…せめて…エリシアを…
フローフルがそんな事を考えながら進んでいると目の前に誰かの脚があった。
「負けちゃったわね。フローフル」
目の前にいたのは満面の笑みを浮かべたルミナスであった。
「ぁ…」
フローフルはルミナスが現れた事に驚いていた。
「あなたが大軍を率いて…利用出来るモノは全て利用して万全を期して臨む事を…そして、あなたがほぼ単独で天使城に潜り込むであろう事も…全部お見通しだったわ。あなたはいつもそう…いざという時は必ず一人を選んでしまう…思考の癖かしらね?」
ルミナスはフローフルの計画を全て網羅していた事をフローフルに告げた。
フローフルが裏切る事など想定内どころかそれすらも利用した。
「せっかくだから魔道兵器の試作品をこの戦いに運用したんだけど…いい実験になったわ。これで更に魔道兵器の開発を進められる…」
ルミナスはわざと穴をデカくしたのだ。
今、セラフィム騎士団はフランとエクレアしかいなく、戦力が分散されている状態だった。
フローフルならこの穴を必ず突いてくるとルミナスは読んでいた。
そして…確実を帰す為に神聖ローマからは勿論、エリシア処刑反対派を集めるだけ集めてエリシア処刑を全力で阻止しようとする事も勿論読んでいた。
つまり、ルミナスにとって今回の戦いは新兵器の実験台でしか無かった。
「ありがとう、フローフル。私の為に実験台を用意してくれて」
「ぅヴヴうううヴ…」
フローフルは最初から最後までルミナスに踊らされていた事実を知り、絶望していた。
エリシア処刑を企ていた時点で気が付くべきだったのかも知れない。ルミナスの本性に。
ルミナスは国の事を考えて…エリシア処刑を実行しようとしていたとフローフルは考えていた。
しかし、そうでは無かった。ルミナスは…自分の事しか考えていなかった。
「何かを得る為には犠牲が必要よ。ここで死んでいった者達は神聖ローマ発展の為の礎となる、名誉ある戦死よ」
「ふざ…げ…る"…な…」
「あなたは…何もしないでエリシアの死を受け入れるだけで良かったのよ…そうすれば…誰も犠牲にはならなかったでしょうね」
「ち…が…う…俺…は…」
「あなたが何を言おうと私には届かない…あなたには私を止める為の手も足も無いんだもの」
フローフルはどうすればいいか分からなかった。
意識は朦朧とする、まともな思考が出来なかった。
ルミナスはこうなる事が分かっていた。
「それとね…フローフル…あなたに見せたいモノがあるの」
ルミナスはそう言って両手に隠していたモノを取り出した。
それは…エリシアの首であった。
フローフルは絶望し、眼の光が失っていた。
「あっ…ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
フローフルの絶望した顔を目の当たりにしたルミナスは恍惚とした顔をしていた。
「かわいい…可愛いわ…フローフル…その顔…とても素敵よ…ふふふ…やっぱりあなたはどんな顔をしても素敵だわ…あなたの全てが素敵てよ。喜んだ顔も嬉しそうな顔も怒った顔も泣いた顔も膨れた顔も苦い顔も楽しそうな顔も恥ずかしがってる顔も嫌そうな顔も鋭い顔も眼も腕も足も心臓も頭も何もかも何もかも…そして…絶望した顔もとてもかわいい…」
ルミナスは歪んでいた、壊れていた。
今のルミナスは悪魔の様な顔をしていた。
今の彼女を見て、天使だと言っても信じる者は誰もいないだろう。
フローフルは何も考えられなかった。
思考する事を放棄していた。
エリシアは既に殺されていた。
挙げ句の果てに多くの犠牲者を出し、誰も助けられず、救えず、もう…全てを投げ出したかった。
初めて…フローフルはもうどうなってもいいという投げやりな気持ちになった。
今までも面倒臭がる事はあっても全てがどうでもいいなどと思った事は無かった。
それ程までに…フローフルの心は壊れていた。
「が…あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"…」
フローフルの身体に異変が起こった。
身体が凍結し始め、霊圧が急激に上昇していた。
「始まったわね…」
ルミナスが冷や汗をかきやがらそう呟いた。
ルミナスはすぐにここから離れた。
すると、フローフルの身体が完全に凍り付き、更にフローフルを中心に氷の柱が出現した。
氷の柱が柱は天まで伸び、先が見えなかった。
やがて、空から雪が降り始めた。
そして、雪が地面に着地すると瞬く間に氷となった。
世界が…凍り始めた瞬間であった。
このままでは神聖ローマの全てが凍り付いてしまう。
「人形でも効果は十分だったわね」
ルミナスはそう言ってエリシアの首を模した風船を叩き割った。
そう、ルミナスはまだエリシアを殺してはいない。
人形を使ってエリシアを既に処刑を実行させた様に見せ掛けたのだ。
フローフルの力を無理矢理覚醒させる為に。
「さぁ…フローフル…あなたの為に積んだ死体達よ…たんと…召し上がれ」
この戦いで死んだ者達が凍り付いて行く。
凍り付いた者達は塵となり氷の柱に吸い込まれていった。
そして、血を吸い込んだ氷の柱はやがて赤色に染まっていった。
氷の柱は巨大化し、雪の降る範囲が広がっていった。
ここは十二支連合帝国。
現在、十二支連合帝国は夏であり、かなりの猛暑であった。
ここは十二支連合帝国のとある孤島、十二支南島だ。
「あっつい~」
「うるさい!少しくらい我慢しろ!」
黒髪ツインテールと黒目が特徴の少女と黒色のボサボサ頭のブラウンの瞳の青年がそんな事を言っていた。
黒髪ツインテールの方が御戸狂、黒髪のボサボサ頭の方が兎神審矢だ。
彼等は十二支南島の誰もいない民家にいた。
ここは冷房が無い為、かなり暑そうにしていた。
「それにしても本当に暑いな…」
「そうね…」
「文句を言うな…我慢だ…」
赤色の髪と銀色の瞳の青年と紫のセミロングと蛇の様な瞳が特徴の少女と紺色の髪と髪により片眼が隠れている青色の瞳が特徴の少年がそれぞれ暑さに耐えていた。
それにしても相当暑かった。
しかし、その暑さはすぐに失う事になる。
「あれ?これって…雪?」
くるがそう呟いた。
「いやいや…今は夏だぞ?雪なんか降るわけ…」
「いや、マジで降ってる」
赤島がくるの言葉を否定しようとするが兎神が赤島の言葉を否定した。
空は快晴だ。にも関わらず雪が降っていた。
しかも、だんだん寒くなってきていた。
「ねぇ?何か寒くない?」
「どうなってんだ?」
薊と屍はそれぞれ、この異変がただ事では無いという事を察していた。
十二支連合帝国だけでなく、この世界全体が大雪に見舞われていた。
特に中心地である神聖ローマは辺り一面が凍り付いていた。
氷の柱は天まで届き、何やら空に歪な穴が空いていた。
「…ふふふ…成功ね…繋がった…」
ルミナスはそう呟いた。
そう、ルミナスの今回の目的はこの世界と異世界を繋ぐ事であった。
それをフローフルを使って試したのだ。
「これで…この世界と異世界を行き来出来る事が証明されたわ…後は…「鍵」があれば…」
ルミナスはフローフルの力に気付いていた。
だからこそ、利用した。
「エリシアはあなたの力を抑え込もうとしていた…邪魔だったわ…けど、エリシアは…私の役に立ったみたいね」
まぁ、ルミナスはどの道エリシアを処刑するのだが。
彼女はもう、用済みだ。
「フローフル!この世界を一旦リセットするのよ!そして…私がこの世界の覇者となる!」
ルミナスは大声でそう言ったがそれは本心では無い。
ルミナスの世界統一はあくまでついでだ。
本当の目的は別にある。
今のフローフルは最早、生ける化け物だ。
このままでは本当に世界を凍り付けにして世界が崩壊してしまうだろう。
「ルミナス様!今すぐ避難を!」
「ええ、分かってるわ。フラン、エクレア」
フランとエクレアに呼ばれ、ルミナスはすぐに天使城に退避した。
「ねぇ?あれって…フローフル?」
「嘘…だろ…?」
アポロとインベルは天使城の牢屋に閉じ込められていた。
二人は隣同士であり、二人は外の状況を見ていた。
氷の柱からはフローフルの霊圧が感じられた。
だから二人はあの巨大な氷の柱がフローフルだという事を理解していた。
だが、理解していても信じられなかった。
あの力は世界をも壊せる力だ。
実際、霊圧を完全遮断出来る筈のこの牢にもフローフルの冷気が溢れていた。
「俺達は…どうすれば…」
「…っ……」
二人は今すぐにでもフローフルの元へ行きたい。しかし、牢屋に閉じ込められている以上、何も出来ない。
いや、それ以前に…
「私達は…無力よ…」
そう、インベルもアポロも成す術無くやられてしまった。
今の二人では何も出来ない。
「その声は…インベルとアポロ?」
「「!?」」
インベルとアポロは聞き覚えのある声が聞こえた。
間違いない…この声は…
「「エリシア先生!?」」
「無事だったのね…」
「…はい」
「………」
インベルは返事をしたが、アポロは押し黙った。
「すみません…先生…俺達のせいで…」
「………謝らなくていいわ。むしろ…謝るのは私の方よ。皆を死に至らしめた元の元凶は…私よ」
「そんな事は…!」
エリシアの言葉をアポロは否定した。
エリシアは牢屋の壁を素手で殴り壊した。
「「!?」」
脱獄しようと思えばエリシアは最初から出来た様だ。
「それは違うわ…私の力を持ってしても…ルミナスは…ローマカイザーは倒せないわ…私はここで運命を受け入れるつもりだった。けど…最後に一仕事残ってたみたいね」
エリシア程の力を持ってもローマカイザーは倒せない…ローマカイザーはそれ程までに強大な力を持っている。
「エリシア先生!どこへ?」
「最後の仕事をしに行くのよ」
「だったら…私達も!」
「駄目よ。あなたたちは…生きなさい。私の生徒である以上、無駄死には許さないわ。せめて…あなたたちだけでも…生きて」
エリシアは祈る様にそう言った。
二人はエリシアの言葉を聞いて従うしか無いと思った。
二人がいった所で無力だ。
「ありがとう…最後のお願いを聞いてくれて」
エリシアはそう言って異空間を出現させ、黒い刀を手に取った。
エリシアの…もっと言うとエリシアの友人から譲り受けた天使だ。
エリシアは三百年前の天使の友人である、ロウス・マクガヴェインから死ぬ間際にこの天使を譲り受けた。
そして、エリシアが持っていた神具と融合させたのが今の黒時皇帝だ。
その力を今、使う時だ。
エリシアは氷の柱の中心部まで走った。ひたすらに走った。
そして、氷の柱の中心部まで辿り着いた。
「フローフル!元に戻りなさい!【黒時計世界】!」
エリシアは【第二解放】を使用して氷の柱に短剣を突き刺した。
しかし、氷の柱はエリシアに襲い掛かった。
氷の柱はエリシア氷の触手を出現させ、エリシアの身体を貫いた。
「がはっ!?」
エリシアは口から…全身から血を吐くがそれでも氷の柱から離れなかった。
エリシアの力でもフローフルの力が強大過ぎて時間塑行が出来ない。
ならば…やる事は一つだ。
エリシアがフローフルの精神を呼び覚ましフローフルを正気に戻す。
だが、これをすれば…間違いなくエリシア…死ぬ。
ーふふ…どの道死ぬ予定だったし、生徒の為に死ねるなら…本望ね…
エリシアは完全にフローフルの氷の柱と同化した。
エルは一人で歩いていた。
エルの仲間は今回の戦争で死んだ。
エルの親友だった…ローグヴェルトまでもが…
エルは絶望していた。もう、何もする気も起きなかった。
虚ろな瞳でエルは宛も無く進んでいく。
とにかく神聖ローマから抜けるのだ。
そして、争いが無い国で平凡に暮らすのだ。
今は何も考えたく無い。
エルがそんか事を考えていると大雪が降ってきた。
とてつもない大雪だった。
「…この大雪に飲まれて死ぬのもいいかも…」
エルは虚ろな顔をしながらそう言った。
エルには…生きる希望も意味もない。
エルは倒れ、大雪に身を委ねながら意識を失った。
To be continued




