【第八章】天使追憶篇ⅧーThe past frozen end 8ー
フローフルとアポロとインベルはエリシアに呼び出され、とある集落にやって来ていた。
ここは内戦に巻き込まれ、貧困に悩まされている集落である。
「何か…酷いな…」
「戦争に巻き込まれたらこんな状態になるのも当然よ」
インベルとアポロがそれぞれ呟いた。
フローフルのみ、この状況を黙って見ていた。
フローフルはこの様な事を昔は何度も経験していた。
辺りを見回すと崩れかけている家、ボロい服を着てる人々、傷だらけの人々もいた。
更に空気も淀んであり、とても居心地のいい場所では無かった。
人だけでは無い、多くの魔族もそこにはいた。
神聖ローマでは魔族と人が共生しているのは珍しい事では無い。
だが、ここにいるのは弱い魔族ばかりであり、人間達と状況はそうは変わらなかった。
「エリシア…」
フローフルがそう呟いた。
フローフルがそう言うとインベルとアポロは前を見つめた。
すると、エリシアが子供達に授業をしていた。
「待っていたわよ。アポロ、インベル、フローフル!」
エリシアが三人に声を掛けた。
フローフルとインベル、アポロはエリシアの前に来た。
回りの子供達はフローフル達をまじまじと見つめていた。
ボロボロの机にボロボロの衣服…とても貧しい様を表していた。
エリシアもボロボロの黒板を使って授業をしていた。
「エリシア…これは…」
「ええ、貧困の子供達に勉強を教えていたのよ」
「毎日通ってたのか?」
「時々よ」
「けど、エリシア先生は教師の仕事は今はしてない筈じゃ…」
「昔から貧困の子供達に勉強を教えていたのよ。教職の仕事以外だからノーカンよ」
「エリシアらしいな」
フローフルが呆れた様にそう言うとエリシアはぎこちない感じです微笑んだ。
何故だろう…今日のエリシアは少し寂しそうな…もっと言うと名残惜しそうな顔をしていた。
インベルとアポロは違和感に気付いていない様であった。
「皆!この子達が私の生徒達よ。中でも私の自慢の三人よ…という訳で、三人ともこの子達に勉強を教えなさい」
「はぁ!?」
「え?」
「?」
フローフルとインベルとアポロは素頓狂な反応をした。
三人はエリシアから何も聞かされていなかった。
突然の事に三人は驚いていた。
「ちょっ!?どういう事だよ!?エリシア!?」
「言った通りよ、フローフル。最後くらい私の言う事を聞きなさい」
「最後?」
エリシアの言葉にアポロが違和感を抱いた。
アポロだけでなく、フローフルとインベルも同様だ。
「いいから、速くしなさい!」
「…分かったよ」
エリシアの勢いに気圧されて三人は子供達に勉強を教えた。
フローフルとアポロは勉強は出来るので淡々と教えていた。
インベルもフローフルとアポロ程頭は良くないが馬鹿では無いので普通に子供達に勉強を教えていた。
その姿をエリシアは微笑ましげに見ていた。
エリシアはとても満足そうな顔をしていた。
「最後に…見れて良かったわ…これで…思い残す事は無いわ…」
エリシアはフローフルとインベル、アポロの成長を噛み締めて感じていた。
昔はあんなに仲が悪かったのに、今はこうして共に在る。
協調性があるけれど誰かに流されてばかりだったインベル。
何でも出来るけど誰かを見下し、プライドが高かったアポロ。
そして…誰よりも仲間思いなのに、仲間を失う怖さ故に自ら孤独となろうとしていたフローフル。
そんな三人が手を取り合っている。
インベルは自分の力で何かを成し遂げる力を、アポロは誰かを受け入れる度量を、そして…フローフルは誰かを頼り、信じる力を…身に付けた。
もう、エリシアがこの三人に教える事は何も無い。
彼等は立派に…巣立ってくれた。
「はい!今日はそこまでよ!」
エリシアが言うと授業を終えた。
「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう!」
「おー!また機会があったら教えてやるよ」
「………」
「…気が向いたらね」
子供達がフローフル達にお礼を言うとインベルは陽気に返事をし、フローフルは黙り込み、エリシアは恥ずかしそうに一言だけ返事をした。
やがて子供達はエリシア達から去っていった。
「エリシア先生!おにいちゃん、おねえちゃん!またね!」
「ええ、また明日!」
「じゃあな!ガキんちょ共!」
「………」
「……」
子供達の声にエリシアとインベルは元気に答えたがフローフルとアポロは恥ずかしさのあまり黙っていた。
やがて、エリシアとフローフル、インベル、アポロの四人だけになっていた。
エリシアは三人の前に立った。
「インベル…あなたは十分、強くなったわ。あなたの協調性の高さとその強さがあれば…大丈夫よ」
「な…何ですかいきなり…でも、ありがとうございます」
インベルはエリシアの突然の激励の言葉に驚いたがすぐに礼を言った。
「アポロ…あなたは他者を認める素直さを身に付けたわ。あなたのその能力と素直さがあれば何処でもやって行けるわ」
「と…当然ですよ。皆の…おかげ…ですから…勿論、エリシア先生もです!」
アポロは照れながらもエリシアにそう返した。
「そして…フローフル。あなたは誰よりも仲間思いで…でも仲間を失うのが怖くて誰かを頼らずにいた。けど、仲間を頼る大切さを覚えた。あなたのその意思と思いがあればどんな事だって乗り越えられる」
「エリシア…何言ってんだよ?まるで…別れの挨拶みたいだろ?」
フローフルがそう言うとエリシアはビクッと肩を震わせた。
ーやっぱり…フローフルはこういう時だけ…勘が鋭いわね…
エリシアは遠い眼をしていた。
「エリシア?」
フローフルがエリシアの名前を呼ぶ。
そして、エリシアはフローフル達に別れの言葉を送った。
「私の最後の生徒があなたたちで良かったわ…さようなら」
エリシアがそう言った瞬間、大量の兵士がいきなりやって来てエリシアを取り囲んでいた。
あまりの展開にフローフルとインベル、アポロは一瞬状況を理解出来なかった。
「「「!?」」」
「そろそろ…来る頃だと思っていたわ…セラフィム騎士団」
エリシアは両手両足に霊術や魔術を無効化する手錠を着けられていた。
更に兵士の武器で身体を拘束されていた。
「な!?どういう…」
フローフルが言うと見知った人物が現れた。
フランとエクレアである。
「エリシア・メシア、貴様を国家反逆罪として逮捕する」
「「「な!?」」」
フランの言葉に三人は驚愕した。
「ちょっと待ちなさい!どう言う事よ!」
「聞いての通りよ。彼女は国家反逆罪として逮捕するの。まさか…あなたたちも一緒にいたとはね」
エクレアはアポロの問いに淡々と答えた。
エクレアはフローフル達がエリシアと共にいた事が予想外といった表情をしていた。
意味が分からない。エリシアが国家反逆罪など三人が納得出来る筈も無かった。
「ふざけるな!そんな事で納得出来るかよ!」
「そうですよ!具体的な理由を説明して下さい!」
フローフルとインベルが食い下がるがフラン達は取り入る気は無かった。
「それ以上抵抗するなら、貴様らも拘束する」
フランの言葉にフローフルは怒りを露にした。
「上等だ…やれるもんならやって…」
「取り押さえろ」
フランがそう言うと三人の兵士がフローフルの後ろにやって来てフローフルを地面に叩き付け、両手にエリシアと同様の拘束具をつけられた。
「がっ!?」
「「フローフル!?」」
インベルとアポロもフローフルに加勢しようとするが二人とも兵士に取り押さえられ拘束具で霊術を封じられた。
「いくらあなたたちでも霊力を封じれば無力よ」
フランがそう言った。
確かに霊力を完全に封じられればフローフル達はただの一般人と然程変わらない。
しかしフローフルは必死で抵抗していた。
「離せ…!離せよ!」
「フローフル!止めなさい!」
エリシアの言葉を聞き、フローフルは身体を止めた。
そして、捕らえられているエリシアの後ろ姿を見ていた。
そのエリシアの後ろ姿には確かな信念が感じ取れた。
もっと速くに気が付いていれば…フローフルはそう思っていた。
エリシアは恐らくこうなる事を分かっていた。
だからこそ、フローフル達に最後の言葉を送ろうとしていたのだ。
「エリシア…!エリシア!おい!何とか言えよ!エリシア!」
フローフルは叫び続けた。
エリシアはピクリとも動かない。
やがて、エリシアは口を開いた。
「フローフル、後の事は頼んだわ。大丈夫、私は、すぐに戻ってくるから。あなたはアポロを…インベルを…ルミナスを頼むね」
フローフルは分かっている。
すぐに戻って来る…という言葉が嘘だと言う事を。
だがフローフルはどうすればいいか分からなかった。
どうしてこうなった?何でエリシアが捕まっている?
エリシアが何をしたと言うのだ。
分からない。フローフルには分からない。
エリシアはフローフルにあの言葉を贈った。
「あなたは仲間を守りなさい。約束よ?」
ー約束よ…
エリシアは小指を立ててそう言った。
フローフルはー
「エリシアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
フローフルは声が枯れるほどに叫んだ。
そして、エリシア達はここから去っていった。
エリシア達が去った瞬間、フローフル達の拘束が解かれた。
フローフルは地に伏し、ただただ、途方に暮れていた。
エリシアが逮捕されて数ヵ月経っていた。
エリシアの処遇は…死刑。
これは確定事項であり、決して覆る事は無い。
エリシアの処刑されるまで後一月程しか無い。
フローフルは街をただただ歩いていた。
フローフルの瞳は虚ろで光が無かった。
エリシアがいなくなる…それはフローフルを絶望に叩き落とすには十分過ぎた。
フローフルはセラフィム騎士団で唯一、騎士団を率いていない。
通常、セラフィム騎士団は一人につき、一騎士団を保有する事が認められている。
インベルはセラフィム騎士団傘下の騎士団であるランス騎士団を率いている。
アポロも同様に騎士団を率いており、ガヴェイン騎士団がそうだ。
フローフルは白兵戦や殿などで動く事が多い為、必然的に単独行動、少数精鋭にせざるを得なかった。
エリシアも騎士団を率いていた。
率いていた騎士団はガラハッド騎士団であり、この騎士団は特にエリシアに対する忠誠が厚く、今でもエリシア処刑に猛反発していた。
フローフルも一月前、ルミナスに直接抗議に行ったのだが、全く聞き入れてはくれなかった。
そもそも今回、エリシア処刑を下したのはルミナスだ。
ルミナスはエリシアを何としても処刑しようとしていた。
フローフルはこれ以降、ルミナスと会っていない。
フローフルはもう…やる事は決まっていた。
エリシアの処刑を必ず阻止する。
その為には兵隊を増やす必要がある。
フローフル一人が乗り込んだ所で返り討ちは必死だ。
まずはガラハッド騎士団だ。彼等を取り込む。
ガラハッド騎士団はエリシアが率いていた騎士団である。必ずフローフルに協力してくれる筈だ。
インベルとアポロは無理だ。彼等には自身の騎士団の事もあるし、巻き込めない。
だが、ガラハッド騎士団だけではどうにもならない事も事実である。
一つの騎士団を取り込んだ所でたかが知れている。
しかし、ガラハッド騎士団以外に取り込めそうな騎士団が無いのも事実。
フローフルは考えた。そして…一つの作戦を思い付いた。
だが、この作戦は危険極まり無いモノだ。
一歩間違えれば、フローフルやインベル、アポロまで巻き沿いを喰うことになる。
それでも…やるしかない。フローフルに選択肢は無かった。
「俺は…必ず…」
アポロは現在、ガヴェイン騎士団の指揮を執っていた。
ついさっき、小さな内戦が起き、怪我人が運ばれて来たのだ。
現在、ガヴェイン騎士団はテントで怪我人の治療をしていた。
内戦はすぐに終息し、神聖ローマの勝利に終わった。
アポロのガヴェイン騎士団は衛生兵が多い騎士団であり、直接戦闘に参加する兵士は少数である。
故に直接危険が及ぶ可能性が低い騎士団である。
逆にここの騎士団が壊滅すると衛生兵が一気に減少するので生命線でもある。
アポロはとある少女に注目していた。
彼女は長い黒髪黒目のつり目が特徴の凛とした雰囲気を漂わせる少女であった。
彼女は衛生兵なのだが、衛生兵の中でも飛び抜けて優秀であった。
黒髪の少女は現在も怪我人を直していた。
だが、少女が使っていた力は回復術では無かった。
そう、彼女の能力は時間回帰だ。
時間を巻き戻して傷を負う前の時間へと戻すという常軌を逸した能力だ。
しかし、その絶大な力故に消耗も激しい。
「エル…少し休みなさい」
「はい、分かりました」
「少し…話しましょうか」
「え?」
少女…エルはとても驚いていた。
まさか、セラフィム騎士団の一人から話をしようと言われるとは思わなかったからだ。
エルは少し戸惑ったが、すぐに了承した。
「分かりました」
エルとアポロはテントから出た。
そして、アポロはエルに缶ジュースを渡した。
「あげるわ。いらないし」
「あ…ありがとうございます」
「あなた…エル・マクガヴェインよね?幼少の頃から衛生兵として戦争に参加してたらしいわね」
「私の名前、覚えてるんですね…私、末端のメンバーなのに」
「自分の兵士の名前を覚えるのは当然よ。それに…あなたは優秀な衛生兵だし」
「そ…そんな…」
エルは少し照れた様子であった。
しかし、すぐに表情を曇らせた。
「そんな事は…無いです…人が…大勢死んでます…助けられない命が…たくさんあります…治しても…また戦って傷を負う…私のやってる事って怪我人に鞭を入れてるだけなんじゃないかって思うんです…」
「確かに…そうかも知れないわね。けど、あなたの力に救われた人も多い筈よ」
「どうなんでしょうね?私は…ただただ…戦争が恐い…です…」
アポロはエルの悲痛な声を聞き、少し心苦しくなった。
アポロはエルと違い、戦争で身近な者が死んだ事など無かった。
アポロは戦争を恐いと感じた事は無かった。
フローフルならば、もっと違う事を言えたのだろうか?アポロはそう考えてしまう。
エルはある意味、フローフルと境遇が近いと言える。
「所で、何で私に声を掛けたんですか?」
「眼が死んでたからよ。疲れた眼をしていた」
そう、アポロはエルを見て、精神的にかなりまずい状態であると悟った。
エルは時間回帰の力で多くの者の傷を治していた。
傷や死体を見ると並の者なら相当な精神的疲労を負う事になる。
エルはそんな状況を他の衛生兵の何倍も体感していた。
なのでアポロはエルを休ませるのと気晴らしをさせようと考えたのだ。
「アポロ様は優しいですね」
「ねぇ?私とあなたは…その…歳近いわよね?」
「?そうなんですか?」
「あなた歳いくつ?」
「十四ですけど…」
「私とタメじゃない」
「そうなんですか?」
「ええ、だからその…様はいいわ」
「じ…じゃあ…アポロさん…で…」
「まぁ、それでいいわ」
昔のアポロなら様着けされても尊大な態度を取っていただろう。
しかし、フローフルやインベルと共にする内に他人行儀な態度を取られると疎外感を覚える様になった。
これは果たしていい事なのか悪い事なのか。
「アポロさんは何で騎士団になったんですか?」
「憧れてた人が騎士団にいたから…それだけね」
「そうですか…私には…選択権がありませんでした」
「知ってるわ」
「だから…あなたの様に自分で選択出来る事を羨ましく思います」
「そんな大層なモノじゃないわ。それにしてもあなた、もっと物静かな性格かと思ってたけど意外と喋るわね」
「よく言われます。クールそうな見た目なのによく喋るねって」
「そう…フローフルなら…あなたと会った時、どういう反応をするのかしらね?」
「フローフル?」
「私の…友達よ」
「アポロさんの友達ですか?どんな人なんですか?」
エルは興味津々に聞いてきた。
本当に物怖じしない子だなとアポロは思った。
図太いのか繊細なのかよく分からない人物であった。
「無愛想で生意気で可愛いげが無いわ。それでいてすぐキレる器の小さい男よ」
「悪口ですよねそれ?」
「でも…仲間想いでいつも誰かの事を考えてて自分を犠牲にする所があるわ…そんな彼が…少しだけ素敵」
「もしかして…アポロさんはフローフルが好きなん…」
「そんな訳無いでしょ?」
「……ハイ…スミマセンデシタ」
アポロのあまりの殺気にエルは怯んでしまった。
思わず片言で喋ってしまった。
「ねぇ?一つ、聞いてもいい?」
「何ですか?」
「仮に自分の大切な人が殺されかけているとするわ。でも、戦わないと助けられない。あなたは…どうする?」
アポロがエルに問い掛けた事は正にアポロの今の状況を表していた。
アポロは迷っていた。
エリシアは助けたい。けど、エリシアはそれを望んでいないのではないかとも思う。
だが、それでもエリシアを助けたい。
アポロはそう思っていた。
「私は…助けたいです」
「それを本人が望んでいなかったとしても?」
「それでもです。やっぱり…大切な人が死んでいくのは…辛いですから」
エルはそう言った。
エルは多くの仲間を犠牲にしている。
だからこそ、そう思うのだ。
「でも、会ってみたいですね。その、フローフルって人と」
「また機会があったら紹介するわ」
アポロがそう言うとエルはとても嬉しそうであった。
「楽しみ一つ、増えました」
エルはそう言って微笑んだ。
「何これかわいい。結婚してー」
エルの笑顔のあまりの眩しさにアポロは訳の分からない事を言った。
「え!?」
「…ハッ!こほん…何でも無いわ」
「オーイ、エル!」
遠くからそんな声が聞こえた。
「ローグ!私、行きますね!」
「彼氏さん?」
「ちっ!?違いますよ!」
「また詳しく聞くから覚悟しておきなさい」
「嫌ですよ!じゃあ、また!」
エルはローグと言っていた男の元へと向かっていった。
フローフルは神聖ローマにある迷いの森へと向かっていた。
フローフルはガラハッド騎士団やエリシアの教え子達とその森で落ち合う約束をしていた。
エリシアはガラハッド騎士団だけでなく、多くの優秀な人材を輩出してきた。
エリシア処刑に反対する者達を片っ端から集めた。
フローフルは一人でその場所へ向かっていた。
「待てよ」
「!? インベル…」
「どこに行くんだよ?」
「俺の勝手だろ…」
「エリシア先生を助けに行くつもりなんだろ?なら、俺も連れてけ」
「駄目だ…お前には…」
「カンケーねぇよ!お前が行くってんなら、俺も行く!決めたんだよ!」
フローフルが何かを言い掛けた所でインベルはそれでも行くと言った。
インベルの決意は硬い様だ。
「お前には…自分の騎士団があるだろ?」
「あいつらなら俺がいなくても大丈夫だ。…俺とお前は親友だろうが…今更抜け駆けとか無しだ」
「誰が親友だ、誰が。てもまぁ…ありがとな」
「じゃ!行くか!」
「何二人で盛り上がってんのよ」
フローフルとインベルの後ろからアポロの声が聞こえた。
「アポロ…」
「来てくれたのか?」
「勘違いしないで。私はエリシア先生処刑に納得してないだけ。…それに、アンタ達みたいなバカ達をフォローする相手がいないと駄目でしょ?」
「言ってくれるな」
「全くだ」
アポロの言い分にフローフルとインベルが呆れていた。
本当に素直な奴じゃ無いなと二人は思った。
「フローフル、考え無しで突っ込んでも負けるわよ。何か考えがあるのかしら?」
「ああ、それは森についてから話す」
そもそもフローフルが迷いの森を選んだのは迷いの森が一番集まり安く尚且つ天然の要塞となっている為、作戦を伝えるのに都合がいいからだ。
「よし!絶対エリシア先生を助け出そうぜ!」
「勿論よ」
「ああ、行こうぜ。俺達で」
フローフル達は迷いの森へと歩き出した。
「陛下。お呼びでしょうか?」
「ええ、フラン、エクレア。わざわざ御苦労様」
「で?何の御用でしょうか?」
「…エリシアの処刑を阻止しようとする者が反乱を起こす…可能性があるわ。彼女の人脈は相当なモノだしね」
「………」
フランとエクレアはルミナスにより、王の間へと呼ばれていた。
ルミナスの話を二人は黙って聞いていた。
エリシア処刑まで後数日程まで迫っていた。
「かなりの人数で攻め込まれる事が予想されるわ。だから…あなた達二人で統率して敵を迎え撃って欲しいの」
「「かしこまりました」」
ルミナスの命令を二人は受け入れた。
ルミナスはかなりの人数の者達を育て上げてきた。
フローフルやインベル、アポロは勿論、様々な優秀な種族を輩出してきた。
実際、エリシアを慕う者はかなり多く、今回のエリシア処刑はかなりの批判があった。
フランとエクレアはルミナスの指示に素直に従っていた。
フランはセラフィム騎士団団長としての責任がある。彼女は責任感が強いが故に個人的な考えより国側を優先する。
ルミナスはそんなフランの性格を知っているからこそ、フランを信用しているのだ。
エクレアもルミナスがセラフィム騎士団に勧誘した者だ。
ある意味、ルミナスがセラフィム騎士団で一番信用しているのはエクレアである。
「フローフル達はどうしますか?」
エクレアがそんな事をルミナスに聞いてきた。
どうもエクレアはエクレアなりに彼等を心配している様であった。
「彼等には休暇を与えるわ。かつての恩師の処刑なんて見たくは無いでしょう」
ルミナスはそう言った。
しかし、フランはこの時のルミナスの様子が少しだけ違っていた事に気が付いていた。
そう、ルミナスは少しだけ嗤っていた…気がした。
だが、フランはそれに気が付いていながら口に出す事は出来なかった。
「監視は付けた方がいいんじゃ無いですか?万が一、彼等が裏切る可能性も」
「その心配は無いわ。監視も付ける必要は無い…」
「何故…そう言い切れるのですか?」
「彼等もセラフィム騎士団よ。その自覚はあるわ。それに…彼等が反乱すれば…この国がどうなるか…それは彼等がよく分かってる筈よ」
「「…」」
ルミナスの言葉に二人は押し黙った。
確かにセラフィム騎士団に裏切り者が出れば反乱軍はそれをすぐに嗅ぎ付け、利用するだろう。
そうなればこの国は今まで以上の戦火に包まれる。
彼等もその危険性を理解している筈だ。
だからこそ、迂闊に反乱を起こさないと…ルミナスはそう言っているのだ。
「もし仮に彼等が反乱すれば…その時は…私が戦場に出て戦うわ」
「!? 何もそこまで…!」
「いいえ、私は神聖ローマの皇帝…国を率いる以上、それ相応の覚悟を持たねばならないわ」
「分かりました!監視は付けません。ですから…どうか…迂闊に戦場には出ないで下さい」
「…分かったわ」
フランはルミナスの言葉に納得したのかそれ以上は追及しなかった。
「いずれにしても、攻め込まれる可能性が高いのは処刑当日よ。監視は厳戒体勢で望んで頂戴。それでは下がって」
「「はっ!」」
ルミナスがそう言うとフランとエクレアは部屋から出ていった。
「ふふふ…もう少しで…エリシアを殺せる…ふふふ…」
ルミナスは大層嬉しそうに嗤っていた。
ようやく邪魔者が消える。
ルミナスは今回のエリシア処刑が大きな節目になると考えている。
エリシア処刑が成功するかしないかでこれからの道が分岐する。
エリシア処刑が達成されなければルミナスの歩む道が途絶えてしまう。
だが、エリシア処刑が達成されればエリシアの計画が一歩前進する。
一歩前進するだけではかなり小さい様に思えるがこの一歩は非常に大きいものだ。
だが、ルミナスは予想している。どの道、どちらの選択をしようと必ずルミナスにとっての大切な「一ピース」は失ってしまう事を。
だが、失うだけで取り戻す事は必ず出来る。
いや、取り戻してみせる。
ルミナスは全てを手に入れる事が出来る。
神に愛され、それに相応しい力を持っている。
失えば取り戻せばいい、欲しいなら全て手に入れればいい、それによって相手が立ち塞がるのであれば全て踏み潰せばいいだけの事だ。
戦いはいつも、戦争はいつだって、得るものより失うものの方が多い。
それでも戦いを止めないのは戦いに勝ち、得た少しのものがとてつもなく大きいからだ。
ならば、ルミナスも戦いに勝ち、それを手にする。
邪魔をすれば容赦しない。例えそれが…この国そのものだとしても…だから…
「かかって来なさい…あなたを踏み潰し、あなたを手に入れるわ…フローフル」
「今日、ここに集まってくれた事に感謝する」
フローフルは迷いの森でエリシアに協力してくれる者達をかき集めた。
そして、今、フローフルはエリシア救出の段取りを話していた。
集まったのは主にガラハッド騎士団全軍とエリシア処刑の反対派達だった。
中にはエリシアの事は関係なく、この国に不満を持っている者達も集まっていた。
現在、フローフル達は迷いの森のとある広間にいた。
この迷いの森は霧が深く、道が入り汲んでいる為、天然の要塞と呼ばれており、侵入は困難な場所だ。
フローフル達は一足先に迷いの森へ辿り着き、協力者達を誘導し、今に至る。
フローフルの隣にはインベルとアポロがいた。
「今回はエリシア処刑を阻止する為に皆に集まって貰った。頼む、力を貸してくれ」
「当たり前だ!」
「エリシア先生は必ず助け出す!」
「ああ!必ず助けようぜ!」
あちらこちらにフローフルに賛同する声が聞こえた。
集まったのは総勢一万人。
現在、ローマにいる戦力は数千程だ。数ではこちらが圧倒的に有利だ。
これを利用しない手は無い。
「向こうは現在、セラフィム騎士団は騎士団長フランと副団長エクレアのみだ。そして兵も分散していてそれほど多くない。攻め込むなら今だ」
神聖ローマはUSWと並ぶ軍事大国であり、最強の国の一角であるのは間違いない。
だが内乱が多い事、そして土地が広大な為、国の統率が取るのが困難な為、兵力が分散されている事が多いのが現状だ。
そんな劣悪な状態でも最強の国に数えられる程の国力を持っている為、神聖ローマの真の力は計り知れないものがある。
特に今はセラフィム騎士団は実質二名しかおらず兵力もかなり分散されており、正に今が狙い目という訳だ。
だが、それでもかなりの犠牲者が出る事が予想される。
「俺達は必ずエリシアを助け出す!だが、その為に犠牲が出るかもしれない…それでも…俺達に付いて来てくれるか!」
「勿論だ!」
「死ぬのは覚悟の上だ!」
「お前が声を掛けなかったら俺は一人でも攻めてたさ!」
どうやら、フローフルは彼等の認識を謝っていた様だ。
ここに来た時点で皆、覚悟は出来ているのだ。
「分かった。皆のその気持ちに感謝する。改めて、作戦の概要を説明する」
フローフルがそう言って説明を始めた。
「まず始めに…利用出来るモノは全て利用する。そうしないとエリシアは助け出せない。まず…反乱軍を利用する」
『!?』
フローフルの言葉に仲間達どころかインベルやアポロも驚いていた。
「反乱軍に俺達がエリシア処刑日に戦争を吹っ掛ける事を流す。それに乗じて反乱軍はローマに攻め込む筈だ」
「でも、向こうがそう都合良く攻め込むか?」
「問題ない、今のローマの内部状況を流せば必ず食い付く。それに乗じてこっちも総攻撃を仕掛ける。…これが大まかな作戦だ」
フローフルのその破天荒な作戦に仲間達はざわついていた。
それもそうだ。反乱軍を利用する…そんな方法はリスクが高過ぎる。
下手をすればこちらにも危害が及ぶ可能性がある。
「この作戦に納得が行かない者もいるだろう。しかし、こうしなければ勝てない!相手はそれ程強いんだ!内戦が続いてるこの不安定な状態でも奴等がこの国の実権を握っている事から奴等の強さはお前達も理解しているだろう!?」
そう、神聖ローマはローマカイザーが実権を握り続けている。
あれだけの反乱軍がいるにも関わらず…だ。
それだけローマカイザーとセラフィム騎士団の力が強大である事を意味している。
そして、フローフルはもう一つの懸念事項があった。
ルミナスだ。彼女はローマカイザー誕生以来の天才と言われており、あの年で歴代皇帝最強と言われている。
ここにいる者達も全員、その事を理解している。
だからこそ、フローフルの作戦に動揺はするものの、反対意見が出る事は無かった。
そして、フローフルはそれから細かい作戦概要の説明をし、最後に
「この戦い、必ず勝ち、そして…エリシアを助け出すぞ!」
『おお!!!』
フローフルが勝つ事を…そしてエリシアを助け出す事を宣言すると仲間達は声を上げて一斉に手を上げた。
フローフルは単騎で行動する事が多い為、指揮能力が低いと思われ勝ちだが、実際は指揮能力は高く、作戦立案力も高い。
だが、フローフルのそんな一面をインベルもアポロも知らなかった為、動揺はしていた。
ー始めよう…ここからが…勝負だ!
そしてエリシア処刑当日…神聖ローマの歴史に残る大戦争が勃発したのであった。
To be continued




