表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第八章】天使追憶篇
102/196

【第八章】天使追憶篇ⅦーThe past frozen end 7ー

 フローフルがセラフィム騎士団に入団してから二年が経っていた。

 フローフルは一人で街を彷徨いていた。

 たまに暇な時はこうやってフラフラどこかに行く事がフローフルの日課であった。

 騎士団に入団してからはこういった自由時間も増えたものである。

 今までなら学校がなんやらとエリシアに言われていた。

 まぁ、その学校もフローフルはほぼ行っていなかったが。


「フローフル、こんな所にいたのか…」

「インベルとアポロか…何やってんだよ?」

「いや、それはこっちの台詞なんですけど?」


 フローフルの前にインベルとアポロがやって来た。

 彼等は一年前にセラフィム騎士団に入団していた。

 二人が入団してからはフローフル、アポロ、インベル、そしてエリシアの四人で仕事をする事が多かった。

 この四人はこの一年で様々な功績を上げ、他の騎士団と勝るとも劣らないとも言われていた。

 セラフィム騎士団最強クラスの実力を持ったエリシアを台頭に接近戦のインベル、バランスタイプのフローフル、遠距離攻撃と後方支援のアポロと四人は非常にバランスが良かった。

 彼等四人をセラフィム騎士団最強チームと呼ぶ者もいた。


「迎えに来たんだよ。陛下がお呼びだ」

「ルミナスが?」

「ええ、あなたを呼んでいたわ。まぁ、大した事では無いと思うけど」


 インベルが要件を言うとアポロが付け足して説明をした。

 どうやら、フローフルはルミナスから呼び出しを受けた様だ。

 まぁ、フローフルがエリシアから呼び出しを受けるのは今回が初めてでは無いので別に気にする事では無いのだが、速く行かないとどやされそうだ。


「分かったよ。じゃあ、行くか…」


 フローフルはそう言って現皇帝陛下、ルミナスの元へと向かった。







「ここ最近のエリシアをどう思う?フラン?」

「最近、彼女は身寄りの無い子供たちに手習いを教えているみたいですが…それが何か?」

「私は彼女に騎士団の仕事に集中する様に言ったのに何故そこまでするのか…疑問だわ」

「…御言葉ですが、彼女は仕事に支障をきたさない程度に全うしております。問題は無いかと」


 ルミナスとフランが王の間で話をしていた。

 エリシアは一年前にルミナスの命令で教師の仕事を一端辞めさせ、セラフィム騎士団の業務に集中させていた。

 この国を完全に統一する為にはエリシアの力は不可欠だ。

 その為に教師の仕事を辞めさせたというのにこれでは意味がない。

 それに国が統一出来れば再び教師の仕事をするという約束もしている。

 どうもエリシアは教師の仕事を気に入っている様だったのでルミナスもそれなりの配慮はしていた。

 だが、エリシアは教師の仕事を辞めても身寄りの無い子供達に手習いを教え続けていた。

 しかもー


「「この国はあらゆる考えも自由…この国を受け入れるも逆らうも己自身に従え」…そんな教えが神聖ローマに広まっていると言うわ」

「その思想を広めているのがエリシアと?」

「可能性の話よ。実際、エリシアが子供達に手習いを教えた時から広まり始めてる。もっと言うとエリシアが教えていた人達も同じ考えを持っているわ」

「しかし…その思想を広めただけで事が大きくなるとも…」

「いいえ、信仰は…宗教は…それだけで強い力になり得るわ。元は断った方がいいわ。これを反乱軍が利用しないとも限らないわ…」


 ルミナスはエリシアを相当警戒していた。

 最近、神聖ローマでは自由を主張する考えが広まっていた。

 この国の絶対王政に従うも逆らうも己自身、己が信じるままに生きなさい。そう言う思想が広まっていた。

 この考えに感化されて反乱が大きくなったという事例は報告されてはいないが、良くない事ではある。

 このまま王政が否定され続ければ反乱軍の力を強めてしまう恐れがある。

 この国を統一するどころでは無くなってしまう。


「フラン、あなたに、エリシア監視の任に付けるわ。もし妙な事をしていれば…すぐに私に報告する事。手は出さないでね」

「…畏まりました」


 フランはルミナスの命令を表向きは素直に聞き入れたがやはり腑に落ちなかった。

 エリシアがこの国を裏切る様な真似はしないとフランは考えているからだ。

 確かに少し浮世離れした所はあるが、共に戦ってきた戦友でもある。

 だからこそ、フランはエリシアを信じたい。

 この監視の任はいつまでかは分からないがフランはエリシアの無実を何としてもルミナスに証明しようと考えていた。

 それに、フランはどんな状況でも必ず任務を全うしてくれる。

 問題は無い。


「それでは、失礼します」


 フランはそう言ってルミナスの前から去っていった。


「それでいいわ、フラン。あなたはエリシアの無実を証明しようとして監視を強くする…」


 そう、それこそがルミナスの狙いであった。

 ルミナスはエリシアを警戒している。

 フランからすればかつての戦友であるエリシアを庇おうとするだろう。

 その為には無実の証拠を見つけ出す事が一番手っ取り早い。

 だからこそ、結果的にエリシアの強く監視する事になる。

 ルミナスがフランをエリシアの監視に人選したのはそれが理由だ。


「入るぞ、ルミナス」


 王の間に誰か入ってきた。

 入って来たのはフローフルであった。

 先程、ルミナスはインベルとアポロにフローフルを呼ぶように命令を出したのだ。

 フローフルは先程フランとすれ違っていた。

 フランはかなり焦った表情をしていたのでフローフルはフランに声を掛けようとしたのだが、フランはその前にフローフルから去っていた。

 フローフルは少し戸惑ったがルミナスとすぐに視線を合わせた。


「フローフル、久し振りね」

「ああ、王様の椅子は気持ちいいか?」

「フローフル、私があなたを呼んだのはあなたの皮肉を聞く為ではないの」

「そうかよ」


 ルミナスとフローフルは互いを見つめていた。

 同じ姉弟の筈なのに片や皇帝、片や兵隊ときたものだ。奇妙なものである。


「で?用件は何だ?」

「世間話をしたい…というだけではダメかしら?」

「なら最初からそう言えよ…何かあるのかと勘ぐるだろ…」

「ははは…悪かったわね…あなたが喧嘩腰だったからついね…」

「俺は元からこうだろ…」

「けど、態度はある程度変えた方がいいわよ?あなたが損をする事になるわ」

「へーへー」

「全く…適当なんだから…」


 ルミナスはフローフルに対してはかなり砕けた態度で接していた。

 ルミナスが心を許す唯一の人物。それがフローフルだ。

 フローフルもルミナスが話をしたいという理由で呼び出されたのも今回が初めてでは無く、フローフルがセラフィム騎士団に入団してからは度々あった事だ。

 なのでフローフルも薄々予想はついていた。


「騎士団の仕事は順調?」

「ああ、まあな。お前はどうなんだよ?…やっぱり、反乱軍と戦争して国を統一させるのか?」

「…確実に反乱軍と戦う事にはなるでしょうね…それに…最近、妙な事も起こってるし…」

「妙な事?」

「ええ、最近、反乱軍の動きが活発化してるのよ」

「その話か…噂で耳にした。何も…自由の思想に感化されてその者達が反乱軍に取り込まれて反乱軍の勢力が拡大してるらしいな」

「ええ…まぁ、今は様子見の段階だけれど…これ以上反乱軍が力を強めればこちらも攻勢を仕掛けないといけなくなるわ」


 どうやらフローフルも反乱軍の勢力拡大については知っていた様だ。

 まぁ、フローフルもバカでは無いし以外とこの手の情報にも詳しいのでそこまでルミナスは驚かなかった。


「戦争が起こるのか…」

「あなたはここに来るまでに戦争を見てきたのよね?」

「ああ…気持ちのいいもんじゃねーな…あれは…けど、戦わないと生き残れない…だからこそ、俺は強くなる事を望んだ」

「そうね…私も戦争は見てきたけれど…あなたの様に悲惨な現状を見ていた訳では無いわ…だから私はあなたより戦争の悲惨さを理解出来ていない所はあるわね」


 フローフルはここに来るまでに内戦に巻き込まれた事があり、そこで多くの凄惨な光景を見てきた。

 対してルミナスは戦争は見てきたが自身の身内が戦争で死んだり、何かを失うという事を経験していない。

 フローフルとルミナスとでは戦争に対する価値観が違っている。

 ルミナスにとって戦争は勝つ為のモノであり、フローフルにとっては地獄そのものだ。


「そうだな…俺とお前は…価値観だけじゃない…何もかもが正反対だ」

「でも…同じでもあるわ」

「だからこそ、俺はお前を信じられる」

「私もよ」


 フローフルとルミナスはそう言った。

 そう、ルミナスとフローフルは言うなれば表と裏だ。

 正反対であり、同じである…正に表裏一体だ。

 だからこそ、二人はお互いに惹かれ合っている。

 ローマカイザーは四人いるが、フローフルとルミナスの二人は特に仲がいい。

 そもそも、ルミナスは妹二人とあまり上手くいってない。

 アポロはルミナスの事を確執などの関係で敵視しており、対照的にジェラートはルミナスに対して無関心であった。

 この癖の強過ぎる二人とはあまり仲良くは出来なかった。

 フローフルは違った。

 ルミナスにとってフローフルは英雄なのだ。

 ルミナスの世界を変えてくれた人。

 ルミナスはそれまで王女になる為の教育を強いられ、天才故に誰も人を寄せ付けず、崇拝や嫉妬が渦巻いていた。

 そんな時にルミナスは自身と初めて対等の存在と出会った。

 フローフルはルミナスとは違った意味で孤独であった。

 だからこそ、ルミナスはフローフルに惹かれた。

 フローフルと出会うまでルミナスの世界は白黒(モノクロ)であった。

 フローフルと出会って初めてこの世界に色がある事を知った気がした。

 フローフルと一緒にいるだけで世界が何色にもなった気がする。

 だが逆にフローフルがいない時は白黒(モノクロ)に戻ってしまう。

 ルミナスはそれが嫌だった。

 一度世界の色を覚えてしまったルミナスは白黒(モノクロ)になってしまう事に耐えられない。

 ならば、ずっと世界に色を…

 その為にもルミナスはフローフルが必要なのだ。

 ルミナスはこんなにもフローフルの事を思っているのだ。

 ならば、フローフルもルミナスと同じ気持ちの筈だ…ルミナスはそう思っていた。


「ルミナス…俺達が出会ってから…結構経つよな」

「ええ…五年…短い様で…長いわね…でも、長いようで短い…」

「何だよ…それ…」

「自分で言っておいて何だけど…意味が分からないわね…」


 そう、ルミナスとフローフルが出会ってから…既に五年の月日が経っていた。

 二人はあの時から随分立場が変わった。

 それでも、心は昔のままである…その筈だ。


「フローフル…どんな事があっても…私はあなたを見捨てたりはしないわ…絶対に…」

「頼もしいな…なら俺もお前を見捨てねぇよ」

「その言葉だけでも嬉しいわ…」


 ルミナスは心の底から喜んでいた。


「…と…結構話したしこれ以上は無理だな…また今度な」

「ええ…また…お話ししましょう」


 フローフルはそう言ってルミナスの元から去っていった。


「フローフル…やっぱり…あなたがいないと…色を失ってしまう…」


 ルミナスがそう呟いた。

 先程までのルミナスの世界はカラフルに彩っていた。

 しかし、フローフルがいなくなった途端、再び色を失った。

 ルミナスは皇帝になってからますますこの世界の白黒(モノクロ)を忌むようになっていた。

 ずっと…フローフルと共にいたい。

 その為の第一歩としてこの国を一つにする。

 ルミナスはある時を境に前世の記憶…ローマカイザー全ての記憶を得ている。

 この記憶と自身の力があれば…出来ない事など無い。


「必ず…未来を掴んでみせるわ…」


「随分と息巻いているな」


 王の間に何者かが入ってきた。

 その男は長い青色の髪に瞳、灰色の宗教服を着ていた。


「久し振りね…アラルガンド」

「ああ、一年振りか」


 男の名はアラルガンド・セクラム。ヘレトーア帝国の神官であり、死神の異名を持つヘレトーア最強の戦士でもある。

 彼は約五百年の時を生きている人間であり、彼がここまで長寿なのは彼の腰に掛けている金色の刀が関係している。

 彼のあの刀はケルビエルという天使であり、訳合ってあの様な刀の形をしている。

 あの刀と契約している為、アラルガンドは長寿なのだ。

 更に彼は霊呪法の開発者でもあり、ルミナスに霊呪法を教えたのは他でもない彼である。

 アラルガンドはローマカイザーと裏で繋がっていた。

 彼は天使と契約している為、数百年前からローマカイザーが眼をつけていた。

 アラルガンドはローマカイザーと話し合いの場を儲け、盟友の関係を密かに築いていた。

 更にアラルガンドは天使大戦で多大な戦果を上げており、何とパルテミシア十二神を殺す程である。


「ヘレトーアのあなたがここまで私達ローマカイザーに協力してくれるなんてね…」

「勘違いするな。貴様とは利害が一致しているだけだ」

「その利害の一致というのが分からないのよね。ローマカイザーを助けてあなたになんの利があると?」

「それを貴様に答える必要はない」


 ルミナスはアラルガンドがローマカイザーに手を貸す理由が分からない。

 彼が何故ローマカイザーに協力しているのか…具体的な理由はルミナスですら分からなかった。

 歴代ローマカイザーの記憶を探っても真実は出てこなかった。


「まぁ、協力してくれるなら別に何でもいいわ」

「で?今回私を呼び出したのは何故だ?」

「近い内に戦争が起こるからあなたにも手を貸して欲しいのよ」

「成る程な…ここにいるセラフィム騎士団は現在五名…この隙をついて反乱軍が仕掛けてくると?」

「半分正解…と言った所ね」

「何だと?それはどういう事だ?」

「それはー」


 ルミナスはアラルガンドに今回の起こるであろう戦争について話した。

 それを聞いたアラルガンドは少しばかり驚いていたがすぐに真顔に戻り、


「成る程な…貴様の言う事が本当ならそれは少々面倒な事になりそうだな」

「ええ、まぁ、私は可能性のいくつかを話したに過ぎないわ」

「まぁ、いずれにしても私が出張らないといけないわけか」

「そう言う事よ」

「まぁいいだろう。ローマカイザーが消えては私も困る。手を貸す」

「礼を言うわ」


 アラルガンドは何故ローマカイザーを守ろうとするのか…ルミナスは少し考えていた。

 考えられる事は二つだ。

 一つはローマカイザーを利用して何かを成そうとしているのか。

 二つ目はローマカイザーがいなくなる事でアラルガンドにとって何らかの不利益があるからか…

 ルミナスは後者の方であると考えていた。

 理由は分からないがアラルガンドはローマカイザーに対して一歩引いた行動を取っている。

 一応、同盟を結んではいるがこちらの要請に一方的に応えるのみでアラルガンド側からローマカイザーに依頼した事など数えるくらいしか無かった。

 ローマカイザーが消えて何か不利益になる事があるからアラルガンドはローマカイザー対して手を貸していると考えるのが自然だろう。


「ルミナス…私の詮索はしない事を進める」

「私の考えはお見通しというわけね」

「一時期は貴様の師であったのだぞ。貴様の考え…少しは分かる」

「逆もまた然り…だけどね」


 そう、アラルガンドはルミナスの考えている事がある程度は分かる。

 だが、それはルミナスも同じだ。

 二人は一応、師弟関係という事にはなるのだが、お世辞にもあまり友好的とは言えなかった。

 立場の違いもあるだろうがそれ以上にお互いに思惑があり、お互いにその事について一切話さない。

 故に二人はあまり関係がいいとは言えなかった。


「アラルガンド…あなたが何を企んでいるのか知らないけど…もし私の悲願達成の邪魔になると判断したら…問答無用であなたを排除するわ」

「好きにしろ…まぁ、貴様にそれが出きるのであれば…だがな」

「出来るわ」

「大した自信だ」

「私はいずれあなたを越えるもの…」

「ならば…それまでに貴様を潰したいものだな…」

「出来るかしら?」

「ふ…冗談だ」

「冗談には聞こえないわね」


 二人はお互いに睨みを効かせていた。

 この二人はあくまで利害関係で協力しているに過ぎない。

 無論、お互いに邪魔であると判断すればその時点で切り捨てるつもりだ。


「まぁ、今は仲良くやろう。ローマカイザーにとっての驚異は反乱軍だけでは無いだろう?」


 アラルガンドは煽り気味にそう言った。

 確かにその通りだ。

 目の前の最大の驚異は反乱軍であるがそれ以外にもルミナスにとっての驚異は多くいる。

 まずは目の前の男、アラルガンドだ。

 前述した通り、パルテミシア十二神を殺す程の実力を持っている。

 更にアラルガンド以外にパルテミシア十二神を殺した者がいる。

 それがUSWのカーシス・ベルセルクだ。

 彼は第三次世界大戦でパルテミシア十二神を殺している。

 そしてー


「プラネット・サーカス…」


 そう、ある意味、ルミナスにとっての最大の驚異はこのプラネット・サーカスである。

 プラネット・サーカスは四大帝国の犯罪者が多く在籍している組織であり、特に幹部クラスは四大帝国の長に匹敵する程の力を持っている。

 組織図も全体像も全てが不明。組織としてもあまり認知されておらず、謎の組織である。

 だが、彼等はいずれ四大帝国共通の敵となる事が予想出来る。

 それまではプラネット・サーカスは放逐するしか無いだろう。


「プラネット・サーカスは我々も何とかしたい所ではあるな。奴は多くの大戦で関わっている」

「ええ、イシュガルドの内乱なんかはそうだったわね」

「ああ…まぁ、イシュガルドはどのみち殲滅する予定だった…それが少し速まっただけだが…」


 プラネット・サーカスはあらゆる戦乱に関与している。

 また新たな争いの火種を生みかねない。


「取り合えず…今はエリシアよ」

「ああ…そうだな」


 エリシアはいずれエリシアの邪魔になる。

 ならば、今の内に排除する。それにー


「エリシアはもう…言い逃れは出来ない…彼女は己の思想を貫いたが故に…その身を滅ぼすのよ」






「フローフル?何をしてんだよ?」

「ああ、ちょっとな…」


 インベルとフローフルは墓場にいた。

 ここは神聖ローマにある数ある墓地の一つだ。

 インベルはたまたま近くを通り掛かり、フローフルと会っていた。

 フローフルは時々、この墓場に訪れる事がある。

 ここに訪れる理由は死んでいった者達を少しでも弔う為だ。


「戦いでは…戦争では…多くの人が死ぬ…そして…負けた側に待っているのは…貧困と絶望だけだ」

「平和って何なんだろうな?」


 インベルがそんな事を言い出した。

 インベルはフローフルと違い、戦争や貧困を経験した事は無い。

 そもそもインベルはそれなりに裕福な家の育ちだ。

 インベルだって戦争や争いを楽しい事だとは思わない。

 だが、人は…魔族は…争いや殺し合いの末に進化して来たのも事実であり、平和とはある意味、世界の停滞を意味する。

 だが、人は…平和を求める。


「知らねぇよ…けどな…一つ言えるのは…本当の意味での平和を求めてる奴なんかいねぇ…ただの詭弁だ」

「何故そう言いきれる?」

「比べたがるからだ。比べる事が無くならない限り、平和は無い。仮に無くなったとしよう、その時点で進化は止まる。進化が止まれば世界は停滞する。停滞の先にあるのは破滅だ」

「何で停滞が破滅に繋がるんだよ?だからって行き過ぎた進化だって破滅を生むだろ?」

「確かにそうだ。だが、進化し過ぎて()()()()ってのは同じだ。停滞によって破滅を生むのはどちらも同じだ」

「…何が言いたいんだよ?」

「つまり、フローフルが言いたいのは平和になろうがなるまいが…いつかは破滅する…そう言いたいんでしょ?」


 フローフルとインベルの口論にアポロが割って入った。

 どうやらアポロもここに来ていたらしい。

 因みにミルフィーユだが、彼女は今、騎士団の仕事の為、遠出をしており、恐らく後、三ヶ月は戻ってこない。


「まさか、お前が俺の言葉の意図を理解するなんてな」

「当然よ。何年一緒にいると思ってんのよ。まぁ…こればっかりはフローフルの意見に賛成ね」

「平和は無理ってか?」

「そもそも私達は平和とは?みたいな感じになってるし平和の事を理解出来てないんじゃどの道無理な話ね」


 フローフルとアポロは良くも悪くも現実主義だ。

 物事を冷静に見ていて故に正しい。

 だが、インベルはフローフルとアポロの言葉にどうしても納得が出来なかった。

 それはインベルが理想主義者だからかもしれない。

 インベルは全力でぶつかれば理解し合えるという考えを持っている。

 実際、最初はぎこちない関係だったフローフルやアポロとも打ち解けている。

 一歩一歩…そうやってお互いに歩み寄る事が平和に繋がるのでは無いかとインベルは考えていた。

 だが、平和とは停滞を意味する事も事実だ。

 だからこそ平和とは何か分からなくなるのだ。


「それでも…俺は理解し合えると思うんだ…全力でぶつかれば…」

「皆お前みたいな能天気な思考だったら本当に世界は平和かもな」

「バカにしてんのかおい?」

「してねぇよ…むしろ褒めてる」

「いや嘘だ!」

「インベルがムキになるなんて珍しいわね。いつもなら私とフローフルの喧嘩を仲裁してるのに」

「それだけ…俺達の仲が深まったって訳だな」

「「やっぱお(あなた)は気持ち悪い(わ)」」

「やっぱり無理な気がしてきた」


 いつの間にか三人は笑い合っていた。

 最初の三人はとても仲が悪かった…だが、時を共にして、三人には確かな絆が生まれていた。

 それはとてもちっぽけなものかもしれない…けれども、三人にとってはとても大きなものだった。


「俺達…ずっと一緒にいられるといいな」

「ずっとお前らと一緒にいんのか…骨が折れそうだ」

「それは私の台詞よ。あなたたちは面倒臭いんだから」

「「いや、お前が一番面倒臭い」」

「何でハモるのよ!」


 三人は願っていた…いつまでも、このままでいればいいと。

 だが、時間は残酷だ。

 どんなに停滞を望んでいても止まってはくれない。

 仮に停滞すればそれは終わりを意味する。

 時間は止まる事が無いのだ。

 三人は…この後、大きな戦いに直面する事になるー






 ここは天使城(セラフィム・ヴァール)の会議室。

 現在、ここには神聖ローマの上層部とセラフィム騎士団団長のフラン、副団長のエクレア、そして神聖ローマ皇帝、ルミナスがいた。

 現在、緊急で会議が開かれていた。

 エリシアに関する処遇が決まったのだ。


「これはもう…決定的ね…エリシアの思想が…反乱軍の力を助長させている」

「…しかし!全て彼女のせいにするなど!」

「フラン、あなたの気持ちは分かるわ。でも…これはどうしようも無いわ」

「……っ!」


 フランはエリシアを監視しつつ、エリシアの事実を証明しようと動いていたがそれが裏目に出てしまっていた。

 具体的には反乱軍はエリシアの思想を利用しようとしている事がフランの耳に届き、エリシアはそれを知っていながらその思想を貫いていたのだ。

 フランのやっている事が完全な裏切り行為である事は言うまでも無い。

 反乱軍の力を助長させている以上、エリシアはもう擁護のしようが無かった。


「現在、エリシアの場所は分かる?」

「現在は孤児に手習いを教えている筈よ。場所も把握しているわ」


 ルミナスの問いにエクレアは淡々と答えた。


「エクレア!貴様はそれでいいのか!?仲間なのだぞ!」

「騎士団長ともあろう者が、私情を挟むのは良くないわ、フラン。確かにあなたの気持ちは分かる。けど、私達は国の為に、()()()()()騎士団をやっているわ…それを…忘れたの?」


 エクレアがフランにそう諭した。

 フランは普段は冷徹に振る舞ってはいるが仲間に対しては情に厚い性格であり、冷徹を貫けない。

 むしろ、エクレアの方がその辺りはしっかりしている。

 だからこそ、フランが感情的になった時に抑えるのが副団長であるエクレアの役目だ。

 エクレアの言葉を聞き、フランは押し黙った。そして、


「……そうね…あなたの言う通りよ…」


 フランは感情を圧し殺しながら無理矢理納得した。


「…決まりね…今、ここにいるセラフィム騎士団はエクレアとフランの二名ね。けど、この件は直ちに終息させたいわ。その為にもすぐに決行しなければならないわ。それまで騎士団を全員集めている余裕は無いわ」

「フローフルとアポロとインベルを含めて騎士団は五名では?」


 上層部の男がそう言った。


「あの三人はエリシアの教え子たち…彼等にこんな仕事をさせる訳にもいかないわ。確かに騎士団ではあるけれど…それ以前に彼等は子供よ」

「それは…あなたもでは?」

「口を慎め」


 上層部の男の失言にフランは怒りを見せた。

 上層部とはいえ、それはお飾りに過ぎず、セラフィム騎士団の方が権力は上である。

 フランの言葉に上層部達は押し黙った。


「騎士団はなるべく速く集めるわ。けど、他国からの増援も手配してあるわ。入りなさい」


 ルミナスがそう言うとアラルガンドが姿を現した。


「死神…」

「ふっ…懐かしい二つ名を言ってくれるな…騎士団長」


 アラルガンドが余裕綽々の表情をしていた。


「作戦は明日、結構するわ。兵隊を数百手配するわ。そして…フラン、エクレア、あなたたちも向かいなさい」

「畏まりました」

「了解…しました…」


 エクレアは淡々と返事をしたがフランは歯切りが悪かった。

 ルミナスはただ淡々と…そして、冷酷に命令を下した。


「よろしい…では…セラフィム騎士団に告ぐ…エリシアを処刑しなさい」






To be continued

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ