【第八章】天使追憶篇ⅥーThe past frozen end 6ー
苗木一夜は憂鬱な日々を送っていた。全てが憂鬱であった。
苗木一夜は天才であった。
頭脳明晰で、未知なるモノにも物怖じせずに近付く度胸もあった。
そして、一夜は特異な力も持っていた。
普通とは明らかに違っていた。
故に…気味悪がられていた。
両親ですらそんな彼を気味悪がっていた。
一夜は十三歳の時に家を出ていき、一人で静かに暮らしていた。
幸い、一夜が新しく住み始めた町では一夜は気味悪がられる事が無かった。
しかし、その理由は矛先が魔族に向けられている…というだけであった。
一夜が昔住んでいた町は魔族があまりいない町であった。
故に異質な才能を持っていた一夜は気味悪がられていた。
それから一夜は平凡な日々を送っていた。
しかし、一夜は憂鬱だった。
こうして無機質な時間を送り続けるのだろうか?
一夜は自身も魔族と同じように迫害されていた側の人間だ。
魔族に対する偏見は一切持っていなかった。
しかし、この国、十二支連合帝国は違った。この国は魔族に対する迫害が激しい国であった。
一夜はこの国は実にバカな国であるなと感じた。
自分達とは違う異質な力を気味悪がり、迫害した所で意味などないというのに…
どうせならば、その魔族の力を生かせばいいのに…日々、一夜はそう感じていた。
別に魔族を守る正義の味方になりたい訳では無い。
ただ、彼等を知りたいのだ。
彼等を知って、そして知らない世界を見てみたいのだ。
しかし、それは今のままでは叶わない。
魔族は迫害され、一夜はまだ何も出来ない子供…このまま退屈に、憂鬱に時間が過ぎ去っていく…そう、考えていた時ー
ーヒーローは…やって来たのだ。一夜の元にー
「ここが…十二支連合帝国か…」
フローフルがビルの屋上でそう呟いた。
「ええ、ここではなるべく人間のフリをしていなさい。この国は特に魔族差別が激しい国だから…」
エリシアがそう言った。
フローフルはエリシアの言葉に少しだけ疑問を持っていた。
「な?何で十二支連合帝国は魔族に対して差別が激しいんだよ?神聖ローマでは普通に魔族と人間は共存してるじゃねーか?」
「ま、その代わりに身内内での内戦は多いけどね」
そう、十二支連合帝国は魔族絶滅を志している。
しかし、志しているとは言ってもそれは四大帝国が締結した条約により、禁止されている。
だが、それでも十二支連合帝国は他の四大帝国に比べて魔族に対する差別が深刻なのだ。
魔族だけではない、異質な力を持った人間ですら差別の対象である。
十二支連合帝国は四大帝国の中でも最も遅くに設立された国であり、他の三国に比べて小規模である。
しかし、かつては日本と呼ばれた歴史ある国でもあり、陰陽術や古代の術が有名な国でもある。
服も独特であり、和と洋が入り交じる国でもある。
妖怪や小さな守り神が多くいる国であり、四大帝国の中では比較的安定している国であると言える。
一方、神聖ローマは魔族と人間は共存関係にある。
魔族に対する偏見は無いしお互いに対等な関係である。
しかし、一方で反乱軍が非常に多い国でもある。
神聖ローマは帝国制の国であり、所謂ローマカイザー家の独裁政治を行っている状態だ。
この状態を良しとしない者も多く、人間と魔族で組んだ反乱軍が多く存在する。
それにより、内戦が頻発している。
力自体は拮抗している状態である。
国側は少数精鋭であり、反乱軍側は一人一人の力は大した事が無い代わりに物量が凄まじく、質と量の勝負になっている。
それに反乱軍側が大した事が無いとは言え、指揮官はそれなりに力を持っており、中でも『オリヴィア』、『ギシン』、『エギル』、『ミネルヴァ』の四つの反乱軍は反乱軍の中でも最大勢力であり、この四つの反乱軍が束になって掛かれば今の国側の状態では他国の力を借りなければ対処出来ないとまで言われている。
しかし、この四つの反乱軍は思想の違いから今の所は組む様子が見られない。
それに、他国からの援助も恐れているのも理由の一つだろう。
「この国は昔から魔族に対する偏見はあったわ…その原因はこの国の総帥…閻魔ね」
「ああ、あのサイコパス一族か…」
閻魔とはこの十二支連合帝国黎明期からいる一族であり、別名、鬼の一族、悪に憑かれた一族とも言われている。
閻魔の一族は皆、性格に問題がある一族であり、他国では非常に悪名高い。
しかし、閻魔は十二支連合帝国において多大な貢献をしているのも事実であり、この国には無くてはならない存在なのだ。
特にこの国では閻魔を指示する者が圧倒的に多い。
魔族に対する偏見を持っているのは閻魔に裏で暗躍しているというのが大きいのだ。
「そうね…閻魔の一族は人身掌握術に長けてるから余計に厄介なのよね」
「だが、反乱軍が本格的に攻め込んでくれば…」
「この国の力も必要になる…だから下手に閻魔を潰せないのも事実ね」
そう、神聖ローマの反乱軍が攻め込めばまず間違いなく他国の力が必要になり、十二支連合帝国も例外では無い。
その為にも関係を強化する必要があり、今回、フローフルとエリシアがこの国に来ているのは十二支連合帝国側の依頼だからだ。
依頼人は閻魔弦地。この国の総帥である。
「私は閻魔弦地に挨拶に行くわ。あなたも来なさい」
「ああ」
フローフルとエリシアはビルから飛び降りた。
ここは人通りが無いので二人は誰にも悟られなかった。
地面に着地した二人は閻魔弦地がいる四神天城を目指した。
「フローフル、言っておくけどくれぐれも失礼の無い様にね」
「分かってるよ」
「前もそう言ってやらかしたんだからね!」
エリシアは説教混じりにそう言った。
フローフルが入団してから一月、フローフルは様々な問題を起こしていた。
エリシアとミルフィーユはその度に頭を抱えていた。
「? 何だ?あいつ…」
フローフルは目の前にいる人影を見ていた。
見た目はアッシュブロンドの髪に瞳、眼鏡を掛けていた少年であった。
ひ弱そう、貧弱そうに見えた。
年齢はフローフルと同じか少し歳上と言った所か。
「なぁ?エリシア、先に行っといてくれ」
「……分かったわ。あなたもすぐに来なさい」
エリシアはフローフルの考えを察し、先に向かっていった。
明らかに今、異常が起きている。
しかし、フローフルとエリシアが二人で対処していたのでは時間のロスだ。
だから、フローフルは一人で対処しようとしたのだ。
フローフルは少年の元へと向かいー
「おい!何をしてる!?」
「!?」
少年は驚き、顔をフローフルの方へと向けた。
「君は?」
「俺の事はいいんだよ!お前、ここで何をやってんだよ!」
「ああ、この子に餌をあげてたんだよ」
「こいつは?」
「玉兎って言うんだ…兎の妖怪ですばしっこい妖怪でね」
「こいつが…」
フローフルは玉兎を見るのは初めてだった。
十二支連合帝国に生息するという、兎の妖怪であり、すばしっこく、特殊な霊力で相手を威嚇する。
先程、妙な霊圧を感じて怪しんだのだが、どうやら杞憂の様だ。
「何だよ…脅かすなよ…玉兎の霊圧だったのかよ…」
「で?君は?」
「人に名を尋ねる時はまず自分からだろ?」
「そうだね、僕は苗木一夜。君は?」
「っ…!俺は…」
フローフルはエリシアが前に言った事を思い出した。
『他国に行って名前を聞かれたら偽名を言う事。いいわね?』
何でも他国から眼をつけられたら良くないとかで名前は本名を名乗らない方がいいらしい。
そこの辺りはフローフルはよく分かってないがエリシアがそう言うのであればそうするしか無いとフローフルは思った。
フローフルは自分の偽名を考えた。
ここは十二支連合帝国だから日本語がいいだろう。
フローフルは少し考えた後、一夜に名を名乗った。
「蒼…時神蒼だ」
「変わった名前だね?まぁいいや。よろしくね!それにしても…君は一体何者?人間じゃないよね?」
「!?」
フローフルは一夜の言葉に驚いた。
一目見ただけで一夜はフローフルが人間では無い事に気がついていた。
霊圧は擬態させていた筈だが、それでも一夜はフローフルの霊圧が人のモノではないと感知していた。
「…やっぱり、そうなんだね」
「…何で俺が人間じゃ無いって分かったんだ?」
「ん?ああ…今のはただのホラだよ?君凄いね、本当に霊圧を人間のモノに擬態してるなんて」
「ホラ…?嘘って事か!?」
「うん、カマ掛けた」
「ふざけんなよてめぇ!」
「時神蒼という名前も本名じゃないんだろ?名乗る時、視線が泳いでた」
「………」
どうやら、この苗木一夜という男は凄まじい程の洞察力を持っている様だ。
フローフルの癖を見抜き、そこから嘘を見抜いた。
更にカマを掛けてフローフルを騙した。
「お前…何者だ?」
「僕はただの人間だよ?それくらい…君にも分かるだろ?」
一夜は両手を上げてそう言った。
どうやら、霊圧を擬態している訳でも無い様だ。
「………」
フローフルは一夜をかなり警戒していた。
とても普通の人間とは思えなかった。
そもそも…
「この国は魔族差別が激しいって聞いたがお前は違うのか?」
「その口振りから君は他国の人だね?魔族が普通に来た所から四大帝国が有力かな?」
喋れば喋る程、フローフルはボロを出していた。
この国は他国から魔族の侵入を許していない。
可能性があるとすれば、他国と条約を結んでいる四大帝国位だ。
一夜はそれを知っていた。
そして、この国の事情をわざわざ聞いて来た所によると他国の者であると推測出来る。
「俺の質問に答えろよ!」
フローフルはヤケクソぎ気味にそう言った。
これ以上話すとフローフルは一夜によって素っ裸にされてしまう。
「ああ…僕は多分例外だと思うよ?この国の人間は基本的に魔族に対する迫害が凄いよ?…まぁ、閻魔が原因だけどね」
どうやら、一夜が例外の様だ。
しかし、一夜の話し方はどうも強かで胡散臭い。
本当に信用していいのか疑わしかった。
「う~ん、僕は君に随分疑われてる様だね?大丈夫だよ?僕はカマを掛けたりはするけど嘘は吐かない。少なくとも今の所は嘘を吐いていないよ?」
「…そうかよ」
フローフルは一夜の言葉に一応納得した。
「で?何でお前はこんな所に?確か魔獣や妖獣の無断育成は禁止だろ?見つけたら魔道警察官に報告しないと最悪罰せられるだろ?」
「あー、けどこの子は大人しいから大丈夫だよ?………バレなければ…」
「いや、バレたら終わりじゃねーかよ!?」
「お願いします見逃して下さい」
「お前は人間だろ?何でそこまで妖獣を助けようとする?」
フローフルはそこが疑問であった。
魔族を庇えばこの国では処罰される。
一夜がそこまで危険を犯してまで玉兎を守る理由が分からなかった。
「僕はね…思うんだよ…何かを差別して迫害して…拒絶しても意味がない…むしろ、その魔族が力を生かせる環境があれば、上手い事行くんじゃないかってね」
「…変わった考え方だな」
「まぁ、僕も昔は自分の異質な力のせいで迫害されてたからそれもあるんだけだね」
フローフルは一夜の言葉にある程度納得した。
だが、一夜の様な考え方を持っている者はこの国には他にもいる筈だ。
なのに何故動かないのか…それほど閻魔の力が強大…という事だろう。
「そうかよ…まぁ、精々頑張れよ」
「そうだね、まず手始めに魔族が住めるマンションでも作ろうかな?」
「いや、聞いてねぇよ」
「ねぇ?君は僕が作る魔族が住めるマンションの名前、何が言いと思う?」
「知るか!自分で考えろ!」
「冷たいな~、そうだ!僕の家に来なよ!」
「俺は忙しいんだよ!」
「忙しい?この国に来たのには何か理由がありそうだね?詳しく…」
フローフルは猛ダッシュして一夜から逃げ出した。
「蒼!?」
「お前の話に付き合ってる暇なんか無いんだよ!」
フローフルはそう言って姿を消した。
一夜は少しだけ残念そうな顔をした。
「面白い奴を見つけたと思ったんだけどなぁ…」
一夜はあの時神蒼という男に興味を持っていた。
他国の者だからであるからだろうが人間を見ても怯えたり殺意を向けない魔族は一夜にとっては珍しかった。
一夜はもう一度、フローフルに会ってみたいと思った。
「確か…時神蒼…だったよね?顔も覚えたし…」
一夜はそう言って家に帰って行った。
玉兎はそのまま放置されていたがその後、誰かが拾ったようで一夜が次に来た時には玉兎の姿は無かった。
因みにその玉兎は一宮高校で預かる事になったのだが、一夜もフローフルもその事は知らない。
「わざわざ他国から御足労願い、感謝する」
「いえいえ、お呼び頂けて光栄でございます」
男の声にエリシアは返した。
男の名は閻魔弦地。この十二支連合帝国の長である。
隣にいるのは魔道警察官長官である阿部畜生である。
「それで…依頼なのだが…この十二支連合帝国に…魔獣が放たれた様だ。放った者は未だに不明。我々は魔獣対策が困難だ。理由は分かっているな?」
「はい…」
閻魔の言葉にエリシアは頷いた。
この十二支連合帝国は対魔族にはかなり強いのだが魔獣に対してはあまり対応が得意では無く、他国に要請した方が楽なのだ。
だから神聖ローマに依頼した訳だ。
「魔獣を放った者の捜索はこちらでやっておく。だが、相手は相当な実力者だ。そちらも、警戒を怠らない様に。それと…他に魔獣や妖獣に遭遇すれば次いでに対処を頼む」
「畏まりました」
「話は以上だ。下がりたまえ」
閻魔がそう言うとエリシアは部屋から出ていった。
「閻魔弦地…思ったより厄介そうね」
エリシアはそう呟いた。
閻魔は小物ぶってはいたが、そういう奴ほど厄介なのだ。
エリシアは四神天城の門の前に出た。
すると猛ダッシュでフローフルがやって来た。
「フローフル!?」
「はぁ…はぁ…エリシア?」
「何やってんのよ?」
「いや…おかしな奴に会ってな…」
「おかしな奴?」
「ああ…実は…」
フローフルは先程の事を全て話した。
「へぇ~、この十二支連合帝国にもそんな変わり者がいるのね…ふふ…面白そうな人ね?」
「笑い事じゃねーよ!こっちはボロ出す所だったんだぞ!」
「ボロもう出してるじゃない…」
エリシアが呆れながらそう言った。
フローフルはエリシアの言葉をスルーして話を進めた。
「で?閻魔は何を依頼したんだよ?」
「ええ、それはー」
エリシアはフローフルに閻魔に出された依頼内容の説明をした。
「魔獣か…キナ臭いな…」
「そうね…恐らく外部から放たれたモノね」
「それは閻魔も気が付いてるだろう。恐らく、俺達を餌にしてあわよくば黒幕を…と言ったとこだろうな」
「まぁ、そんな所でしょうね」
フローフルは気に入らないといった顔をしていた。
「俺達と共倒れも狙ってる…だろうな」
「そうね…まぁ、それに関しては問題無いでしょう」
「そうだな…俺達で何とか出来るだろう」
「ここから別行動にしましょう」
「ああ、分かった」
ここは二手に別れて個別撃破するのが効率がいいだろう。
フローフルとエリシアは二手に別れた。
「あっ…そう言えば宿はどうするんだよ?」
「私は野宿よ。用意なんかしてないわよ」
エリシアはそう言ってフローフルの元から去っていった。
「…マジかよ……」
フローフルは他国に行ったのはこれが初めての事だ。
それまでの任務は国内だった為、普通に宿の取り方や宛があったので困らなかったがここは他国。勝手が全く分からなかった。
「野宿かよ…」
フローフルがそう言って適当に歩き始めた。
「宿にお困りかな?」
「!?」
フローフルに声を掛けてきたのは一夜であった。
「な!?てめぇは!?」
「苗木一夜だよ」
「そうじゃねぇ!何でここが分かったんだよ!」
「たまたまだよ。たまたまここに来てたまたまここで君とばったり会ったんだよ」
「そうかよ……で納得出来るか!!どうやって俺の居場所が分かった!つか、どうやって先回りしたんだよ!」
「流石に誤魔化せないか…まぁ、いいや。それについては後で教えるよ。所で君?宿に困ってるんでしょ?」
「………」
どうやらエリシアとの話を盗み聞きしていた様だ。
フローフルとしては確かに宿が欲しい所ではあった。
しかし、こんな得体の知れない者の家に泊まるのも気が引けた。
「僕は君を逃がすつもりは無いよ?君の行動パターンは把握した。逃げても見つけ出すよ?」
一夜はそう言った。
確かに実際一夜はフローフルを先回りしていた。
このまま追っかけ回されるより、一夜の家に泊まる方がまだマシな気がした。
「分かったよ…お前の家に行けばいいんだろ?」
「そうこなくっちゃ!」
フローフルは一夜と共に歩き出した。
どれくらい歩いただろうか…やがて一軒家が見えた。
「着いたよ」
どうやら、この大きな家が一夜の家の様だ。
「金持ちなのか?」
「ああ、お金の稼ぎ方は色々あるのさ」
「をい」
「いやいや、犯罪は犯してないよ!?ちゃんと正当なやり方だから!」
フローフルが突っ掛かると一夜は弁明した。
まぁ、ここで言及しても仕方無いしフローフルはスルーする事にした。
フローフルと一夜は家の中に入って行った。
「広いな…」
「ああ、好きに使ってくれ」
「教えて貰うぞ。どうやって俺の居場所を特定した?」
「ああ、それは僕の異能だよ」
「異能?」
「ああ…僕の異能は電化製品…というか電気が流れてる場所ならどこでも移動出来るんだよ。精神だけね」
「な!?」
フローフルは一夜の話を聞き、驚愕していた。
異能についてはフローフル自身知ってはいた。
異能とは人間が使える超能力だ。
様々な能力があるという。フローフルも実際目にするのは初めてであった。
更に一夜は電化製品や電気の通るモノなら何でも入り込めるらしい。
確かにこの町は電化製品が多い…というより、この町は大半が電気が通っている。
それならフローフルを特定出来ても不思議は無い。
しかし、フローフルはずっと走り回っていたのにどうやって場所を正確に測ったのか?
精神が移動出来るのであって肉体は無理な筈だ。
「ああ、それは君の行動パターンを分析して四神天城に向かってると推測したに過ぎないよ」
「心読むな!」
「まぁ、そう言う訳さ。証拠を見せよう」
そう言って一夜はプツリと意識が途絶え、倒れた。
すると、隣にあった掃除機が動き出した。
「な!?」
『この様にして入り込めるのさ!』
「掃除機越しで話すな!」
フローフルがそう言うと一夜は異能を解き、元に戻った。
「どうだい?僕の力は?」
「ああ、大した能力だな。それなら敵の情報を収集するのに役立つな」
「そう言う事さ。僕がどうやって金稼ぎをしたか…分かったろ?」
「ああ、お前はそうやって情報を貯めて売ってた訳だ。情報は物によっては高値で取引される事も珍しくねぇしな」
「ああ、そう言う事さ。そして、今、資金を貯めているんだよ」
「例の魔族が住めるマンションを作る事か?」
「ああ、もし完成したら君にも住まわせてあげるよ」
「そんな時は来ない。俺は用が住んだらこの国から出ていくしな」
「そう言えば君は神聖ローマの…それもセラフィム騎士団だったね」
「な!?」
どうやら、フローフルは一夜を甘く見ていた様だ。
この短時間でフローフルの情報をある程度特定していた様だ。
「どうやって俺がセラフィム騎士団って…」
「君のその服装はセラフィム騎士団の制服だ。それに、君が国外の者だと分かってたから空港を手当たり次第調べてみたら、神聖ローマの者が数日前に来た記録が残っていた」
「この短時間でそれ全部調べたのかよ!?」
「ああ、その通りさ」
フローフルは一夜の情報収集能力の高さに驚愕していた。
これは最早、中学生の能力を遥かに越えていた。
一夜が同族の人間から迫害されていたというのもあながち嘘では無いのかもしれない。
「お前さ…この街を全部把握出来るのか?」
「ああ…勿論さ」
「なら、この町にいる魔獣を探す事は出来るか?」
「魔獣?」
「ああ、どうやら、何者かがこの町に魔獣を放ってるらしいんだ」
「成る程ね…それを討伐するのが君の今回の仕事という訳だ」
「ああ、出来るか?」
「うん、出来るよ。だけど、条件がある」
フローフルは一夜に協力して貰って魔獣の場所を探そうと考えたがやはり一夜は条件を出してきた。
何を条件にするかによるが自分にとって分が悪い条件なら断ればいい。
そもそも魔獣は自分で探せばいい。
一夜に協力を仰ぐ必要も無い。多少楽になるだけだ。
「何だよ?」
「連絡先を交換して」
「断る」
流石にそれは無理だ。
身元が割れてしまう。
フローフルは仮にもセラフィム騎士団である。
連絡先がもし漏洩でもしてしまったらシャレにならない。
「交換だよ?僕は知っての通り、かなりの情報屋だ。僕の身元を欲しがる者も多くいる。つまり、君は僕の弱味を握れるんだ。まぁ、逆に僕も君の弱味を握らせて貰うけどね」
「それでもお前が情報を漏洩する可能性がゼロじゃない。俺はお前を信用出来ない」
「そうか…なら仕方無いね。交渉は決裂だね」
「そう言うこった」
フローフルはそう言って寝転がった。
「おいおい、布団は用意するよ?」
「そこまでしなくていい」
「いやいや、一応君は客人なんだから布団は用意するよ」
一夜はそう言って黙々と布団を用意した。
「ったく…」
フローフルはそう言いながらも素直に一夜が用意した布団を使った。
思ったより心地良かったのかフローフルはすぐに眠りについた。
「時神蒼…君は面白い…まだまだ…調べさせて貰うよ」
一夜はそう言ってフローフルの身体に何かを入れた。
夜が明け、フローフルと一夜は眼を覚ました。
フローフルはすぐに準備を済ませ、一夜の家から出ていった。
「世話になった。じゃあな」
「ああ、また会おう」
「…多分もう会わねーぞ」
「いやいや、どうなるか分からないよ?出逢いは不思議なモノだよ?意外な所で会えるかも」
「そうかよ」
フローフルはそう言って去っていった。
「さてと…始めますか」
一夜はそう言って部屋に戻っていった。
「フローフル…魔獣は見つけた?」
「いいや、見つからねぇ…」
「どんな奴かも分かんねぇしな…」
そう、魔獣と言われただけでどんな姿をしているのか分からないのだ。
だが、こんな都会に身を潜める事が出来るという事は強力な擬態能力か或いは透明化する能力があると思われる。
霊圧まで擬態出来るとなると探すのは相当苦労する。
探し初めてからかなり時間が経っておりおり、日が沈み掛けていた。
「くそ…どうすれば…」
フローフルがそんな事を呟いた。するとー
『ここから北東十キロ先に魔獣がいるよ』
「「!?」」
どこから声が聞こえたのかフローフルもエリシアも驚いた。
しかし、フローフルはこの声に聞き覚えがあった。一夜だ。
フローフルはポケットの中に何か入ってる事に気が付く。
するとそこには発信器が入っていた。
「これは…」
『ふふふ…昨日、君が寝てる時に仕込んだのさ。さぁ、速く行った方がいいよ。この魔獣は擬態して人間を補食するかなりヤバイ魔獣だ』
「何だと!?」
「フローフル?それは?」
「話は後だ!急ぐぞ!」
フローフルが一夜が言った方向へと向かった。
「ちょっ!?フローフル!?」
エリシアも慌ててフローフルを追いかけていった。
一夜が言っていた場所に辿り着いたが霊圧を全く感じなかった。
『擬態して姿を消してるね…先程、何人か補食されていたよ』
「遅かったか…」
『いや、まだ近くにいるよ。僕の眼があれば見つける事は可能さ』
「何をするつもりだ?」
『まぁ、見てなよ』
一夜がそう言うと辺りに電流が発生し、魔獣が姿を現した。
四足歩行の小型の魔獣であり、大きさは三メートル弱だ。
カメレオンの様な姿をしており、非常にカラフルな色合いで正直見ていて気色悪かった。
「どうやって…」
『僕の眼は電化製品や電気の通るモノに入り込むとそこから何でも透視出来るんだよ。見つけた後は電気を通して少しだけあいつに電流を与えた』
「それで出てきたのか」
二人が会話している間にエリシアがやって来た。
「これが例の魔獣ね…擬態して相手を補食する…厄介ね…」
「だが、出ちまえばこっちのもんだ!」
フローフルは刀を構えてカメレオンに突撃した。
「【氷水天皇】!」
フローフルは刀から氷を出現させ、カメレオンを完全に凍結させた。
凍り付いたカメレオンはやがて粉々に砕け散った。
「やったわね」
「ああ」
これで今回の仕事は終わりである。
どうもこのカメレオンが放たれただけの様だ。
「じゃ、さっさと報告して帰るわよ」
「ああ、エリシアは一人で先に行っといてくれ」
「ちょっ!?フローフル!?」
フローフルはエリシアにそう一言だけ残してどこかに行ってしまった。
「全く…」
「僕からは逃げられないよ?」
「分かってるよ…だからお前の家の近くまで来た」
フローフルは今、一夜の家の前にいた。
「どういう事だい?」
「お前の事だ。どうせ、手を貸してくれた礼に連絡先教えろって言うんだろ?」
「はは…バレてたか…」
「強引な奴だな」
「何事にも強引に物事を運ばせなければ相手を巻き込めないものさ」
一夜はすました顔でそう言った。
「はぁ~、分かったよ。教えればいいんだろ?」
「ああ、僕の連絡先も教えるよ」
「いや、俺はいいよ」
「もしかしたら、僕が必要になるかもしれないよ?フローフル・ローマカイザー君」
「お前…」
どうやら、フローフルの本名も特定された様だ。
「いや~、驚いたよ。まさかローマカイザーの者だったなんてね…僕もいいコネ稼ぎになったよ」
「………」
やはりこの男は信用出来ない。
得体が知れなさすぎる上にすぐに素性を暴く。
一夜とフローフルは連絡先の交換を済ませた。
「ふふふ…君は本当に面白いな。退屈しない。いい友達が出来て良かったよ」
「誰が友達だ」
「僕はね、今まで同年代の友達がいなかったんだ。出来て嬉しいよ」
「だから人の話を聞け!」
「君と会える日を楽しみにしてるよ。いづれ会える…そんな気がするんだ」
「その予感が外れる事を祈るぜ」
「またまた~」
一夜は実に楽しそうに話していた。
フローフルはちっとも楽しく無かった。
だが、一夜に今回助けられたのも事実だ。
この男は味方に付ければ頼りになるのは間違いない。
だが、フローフルは一夜の事を非常に不気味な奴だなとも思っていた。
「じゃあな、今度こそもう会う事は無いだろうな」
「ああ、また会おう」
「だから話を聞け…ああ、そう言えば…」
「?」
「お前、魔族が暮らせる家をこの国に作りたいんだってな?名前を俺に決めて欲しいとも言ってたな」
「ああ、そうだけど…」
「今思い付いたわ。苗木日和ってのはどうだ?お前の度量が大きいんだか小さいんだかよく分からん感じが出てるだろ?」
フローフルが突然そんな事を言い出すと一夜は思わず吹き出した。
「何笑ってんだよ!」
「いやいや、君は本当に僕の予想を越えてくれる…いいね!その名前採用だよ!フローフル、もし君がこの国に住む事になったら是非、苗木日和に来てくれ!」
「住む事になったら考えてやってもいい。ねぇだろうがな」
フローフルは一夜のやろうとしている事に少しだけ興味があった。
だから名前を付ける気になった。
まぁ、気まぐれだ。フローフルも既に一夜との友情をこの時から感じていた。
「ああ、待ってるよ」
一夜がそう言うとフローフルは黙って去っていった。
「いたんだ…僕を知らない世界に導いてくれる…ヒーローが」
一夜は空を見上げながらそう呟いた。
そして、一夜はそれから一年後、苗木日和を秘密裏に作り、影で経営してた。
苗木日和に住む事になった第一号が霧宮美浪であり、フローフルもここに住まう事になるのであった。
「やれやれ…ハミリオンは失敗か~」
とあるビルの上でそんな事を呟いていた。
その男は黄色い髪に赤と黄色のオッドアイが特徴の青年であった。
ハミリオンとは十二支連合帝国に放った魔獣の名であり、フローフルが倒していた。
この男が先程のカメレオンの魔獣を作り出した。
「う~むむむ…どうしたモノかな…プラネット・サーカスに戻るべきかな?もうしばらくは面白い事も無さそうだし」
男はそう呟いた。
プラネット・サーカスとは彼が所属している組織であり、組織された時期、規模、全てが不明であり、謎の組織である。
「ハルベルネ・オーダーバルン…ロゼア・フォトンレイバー…佐藤慎二…ロッベ・ベテロン…コラン…色々な偽名を使ってきたけど…そろそろ新しい名前を考えないとね~」
男はそう言った。
先程、プラネット・サーカスに戻るべきかと彼は言っていた。彼はプラネット・サーカスのメンバーの一人である。
魔獣の一件が片付いてしまったので男の足が付いてしまうのも時間の問題であった。
そろそろ潮時かもしれない。男はこの国から出ていく事にした。
「新しい名前~( ̄ー ̄)そうだ!僕はこの世界に混沌をもたらす者!神混髏奇で行こう!」
そんなノリとテンションで名前を決めた。
そして、髏奇は闇夜に消えていった。
この世界に混沌を生み出す為に。
To be continued




