【第八章】天使追憶篇ⅤーThe past frozen end 5ー
フローフルはばったりと倒れていた。
フローフルは現在、ここ、天使城で【第二解放】修得の為の修行をしていた。
しかし、上手く行かずに手こずっている状態だ。
試験まで後、一週間。あまり時間は残されていなかった。
インベルとアポロもフローフルと同様、【第二解放】修行をしていた。
インベルもフローフルと同じように苦戦していたのだが、アポロは三日前、【第二解放】を修得していた。
現在、フローフルとアポロのみがいる状態だ。
今はもう夜。フローフルは自身の天使と向き合っていた。
鏡分身を使った修行はミルフィーユがいないと出来ない。
その理由は鏡分身は常に霊力を供給しなければ形を維持出来ないからだ。
その霊力供給をミルフィーユがやっている為、ミルフィーユがいない今、フローフルは鏡分身を使った修行は出来ない。
だからこうして天使と対話する修行をしていたのだが、どうもフローフルの天使は姿を現す気配が無かった。
そもそも【第一解放】の時点で天使とは対話出来ている筈なのだが、フローフルはそれをせずに修得した。
その為、別のやり方で【第二解放】の修行をしていたのだが、それでも上手くは行かなかった。
「もう諦めた方がいいんじゃないかしら?才能無いのよ、あなた」
「うるせーよ。何だ?嫌みか?」
「だったら何よ?」
「お前はどうも僕の事が気に入らない様だな」
「気に入らないわね。何であなたが私より先なのよ」
「? どう言う事だ?」
「セラフィム騎士団に入団する為には【第二解放】を修得するだけじゃなくて推薦人もいるのよ。あなたはルミナス直々に推薦受けてるからそれだけで特別よ」
「そうかよ…で?何でお前は帰らないんだよ?インベルもミルフィーユも帰ったぞ」
「そんなの私の勝手でしょ?あなたが無駄な努力をしている所を見ていて退屈しないのよ」
「お前、本当に性格悪いな」
フローフルはアポロの性格の悪さに嫌気が差していた。
「だったら、速く【第二解放】を覚えてみなさいよ。私はもう、出来たわよ」
「そうだな。けどお前さ、【第二解放】をあまり使いたがらないよな?」
「…あなたたちに使うまでも無いでしょう?」
「ミルフィーユの時もだ。使う事を躊躇ってた。何か理由があるだろ?」
アポロはフローフルの指摘に明らかに動揺していた。
フローフルは何故か妙な所で鋭いのだ。
「私の【第二解放】は…使えば寿命が縮まるのよ」
「え?」
フローフルはアポロの衝撃的な告白を聞き、驚いていた。
「【第二解放】の修得の速さ=才能じゃないわ。私の場合、能力の性質上、【第二解放】を扱う才能が無かったのよ」
「どう言う事だ?」
「私は元々、戦闘より支援が得意なのよ。味方を強化したり傷を治したりね」
「それは分かってるよ。性格悪いお前らしく無い能力だと常々思ってた」
フローフルのあまりにもド直球過ぎる言葉にアポロはキレそうだったが話を戻した。
「【第二解放】は天使の最終奥義よ。でも、能力自体は天使と使い手によって使い勝手にかなり差があるのよ。だから、極力【第二解放】を使わずに戦う者も少なく無いわ。ミルフィ先生の【第二解放】はかなり使い勝手のいい部類ね」
「ああ、確かに能力がかなり単純だからな。あの人らしいと言えばあの人らしいけど」
「そう、能力が単純であればあるほど使い勝手はいいわ。けど、私の【第二解放】は使い勝手が悪いわ。…というより、能力が私に合って無いのよ」
「あー、確かにお前の【第二解放】はガチガチの近接タイプだもんな。明らかにお前と合ってないな。しかも、使えば寿命が縮まるってんなら確かに使うのも躊躇うわな」
フローフルは一度、ミルフィーユとアポロの【第二解放】を見ている。
ミルフィーユは自身の天使そのものを風に変換して自在に操る能力であり、名を【朧弦月風騎士宮殿】と言う。
攻撃範囲がとてつもなく広く、風を操るという単純な能力とミルフィーユ自身の戦闘力の高さが相まって非常に使い勝手のいい【第二解放】である。
一方、アポロの【第二解放】だが…フローフルは名称は忘れたが確かガチガチの近接型の能力であった。
アポロの【第一解放】は銃剣になる。
確かにこの段階でも近接戦闘は行えるのだが、彼女の真骨頂は銃による遠隔攻撃と味方の補助だ。
しかし、アポロの【第二解放】は近接特化になってしまう。
銃撃戦は出来るのだが、補助技は全く使えなくなってしまう上にアポロ本人が言った様に使えば使う程、寿命が縮んでしまうのま大きな欠点だ。
つまり、アポロの天使は【第一解放】と【第二解放】の能力差が大き過ぎるのだ。
アポロの天使はかなり癖のある能力であり、使い勝手が悪い。
しかし、逆に言えばその使い勝手の悪い能力でフローフルやインベルに勝ってきている訳であるのでそこはアポロ自身の資質である。
「で?まだ続ける気?」
「当たり前だ」
「…ねぇ?何でそこまでするの?あなたとルミナスってそんなに仲がいいの?私は正直、あの女が嫌いよ」
「お前、基本的にミルフィーユ以外の奴嫌ってんじゃねーか」
「そんな事無いわ。ローマカイザーが嫌いなだけよ」
「マーブルも嫌いなのかよ?」
「気に入らないわね。ルミナスは純粋過ぎてかつ天才過ぎるのがムカつくわ。マーブルは何を考えてるか分からなくて掴み所が無さすぎてムカつくわね。あなたは才能無い癖に口が悪いし礼儀がなってないし一々突っ掛かってくるのがムカつくから嫌いね」
「ルミナスに関しては完全に僻みじゃねーかよ…」
アポロはやはり気の小さい奴だとフローフルは思った。
「そうね…ルミナスに関しては完全に僻みよ」
「お前にしては随分素直に認めるんだな…」
アポロはルミナスと実戦したのを思い出していた。
結果は…アポロの惨敗であった。
何もかもが違い過ぎた。ルミナスはそれほど別次元の強さを当時から誇っていた。
アポロは第三皇女…時期皇帝になれる可能性はまず無かったしそもそも興味が無かった。
時期皇帝はルミナスであろうと散々言われていた。
しかし、負けず嫌いなアポロはルミナスにボロ負けした事に関しては非常に悔しかった。
更にもっと悔しかったのは自分がどれだけ鍛練してもルミナスには勝てないと思い知らされた事、そして…ルミナスが自身の事を全く見ていなかった事だ。
ルミナスは常に遠くの方を見ていてアポロの事を一切見ていなかった。
それなのにルミナスはフローフルの事を非常に気に入っている。
自身より弱い筈のフローフルを見ているルミナスが気に入らなかった。
前々からアポロはルミナスがフローフルの事ばかり見ている事には気が付いていた。
アポロはフローフルの事を最初から性格的に気に入らなかったというのは勿論そうだが、それ以上に自分の事を全く眼中に無かったルミナスがフローフルに対してはずっと見続けていた事、それが気に入らなかった。
アポロがフローフルを目の敵にしていたのはそれが理由だ。
「? 何だよ?」
「もしあなたが私に力を貸して欲しいというのなら、手伝って上げてもいいわよ?」
「そんな恩着せがましい態度をとられて「手伝って下さい」なんて言えるかよ」
「あら?そう?私は寛大だから手伝って…」
「まず寛大という言葉を調べろ」
ーやっぱりこいつ嫌いだわ。
アポロはやはりフローフルとは仲良くなれそうにないと思った。
だが、アポロはフローフルとインベルに対して当初に比べればこれでも態度は改めてはいるのだ。
共にミルフィーユの元で修行をしている内に二人を仲間と思う様にはなっていた。
インベルに関しては普通に会話出来る様になっている。
フローフルとも普通に話しているしインベルは本当に人当たりがいい奴だとアポロは思っていた。
フローフルに関しても彼の努力はアポロなりに認めており、フローフルが素直に「手伝ってくれ」と言っていれば本当に手伝うつもりであった。
まぁ、フローフルの舐めた態度でそうする気が失せたのだが。
「僕は…僕はルミナスの期待に応えるさ…」
「ルミナスの事、好きなのね」
「僕を一番最初に認めてくれた奴だからな。借りは返すよ」
「呆れた…もう、諦めろなんて言わないわ。精々頑張る事ね」
アポロはそう言って去っていった。
フローフルはそのまま対話を続けた。
「フローフル?」
フローフルは自分の部屋に戻っていた。
部屋にはエリシアがいた。
「エリシア…」
「随分遅くまで訓練をしてたのね」
「もう、時間が無い…」
「そう言えば、試験は明後日だったわね」
入団試験まで後、三日となっていた。
フローフルはあれから修行を続けたが【第二解放】が完成する気配が全く無かった。
「フローフル、私はあなたがセラフィム騎士団に入団するのは速過ぎると思うわ」
「それでも、やるしか無いだろ」
「…そうね」
「アンタは…僕が騎士団入りには反対なのか?」
「騎士団に入れば、血生臭い現実を見る事になるわ。あなたには、まだ速いのよ」
「僕はここに来る前から散々それは味わっている…」
「そうじゃ無いの。あなたにはもっと色々な事を学んで欲しいのよ」
「アンタは僕の母親かよ…」
「少なくとも、親代わりよ」
「なぁ…エリシアは…僕が嫌いじゃ無いのか?」
フローフルの唐突な質問にエリシアは少し驚いた。
しかし、すぐにー
「嫌いだったら、今こうして時間外にあなたの部屋にいる事は無いわ。私は…あなたに期待してるのよ?」
「期待?」
「あなたは…誰かが苦しんでいる時、誰よりも速く気付いて助けれる…」
「僕はそんなヒーローみたいな奴じゃないよ」
「それはどうかしらね?」
エリシアは惚ける様にそう言った。
エリシアは知っている。フローフルは誰かの痛みに、苦しみに誰より速く気付ける事を。
そして、気付けば必ず助けるお人好しである事も。
そんなフローフルだからかそ、エリシアはフローフルに賭けているのだ。
「エリシア…エリシアはどうやって…【第二解放】を覚えたんだ?」
「それは皆と同じ方法よ?そう言えば、ミルフィーユから聞いた話だと、あなたは少し特殊みたいね」
エリシアもミルフィーユからフローフルの事を聞いていた。
「やっぱりそうか…」
「そんなに騎士団に入りたいの?」
「ああ…」
「何で?」
「騎士団になれば自由が増えるだろ?少なくとも今よりは」
「いいえ、むしろ逆かもよ?」
「それに何より、ルミナスの期待に応えたいんだよ」
エリシアはフローフルの真っ直ぐな瞳を見ていた。
これはエリシアが何を言っても無駄だとエリシア自身悟った。
フローフルは一度決めたら止まらない。
ならば、エリシアのやる事は一つだ。
「フローフル、少し付き合いなさい」
エリシアがそう言ってエリシアが部屋から出ていくととフローフルはエリシアに付いていった。
エリシアは城内にあった階段を降りた。
階段は地下に通じており、やがて暗く広い部屋へと辿り着いた。
「ここは?」
「ここは…天使城の地下よ。ここは…相手を拷問する部屋でもあるわ」
「拷問…」
「争いや戦争はね…単純な力や武力の強さだけでは決まらないのよ。何より重要なのは情報よ。どんなに強くても攻め方が分かっていれば攻略は容易よ。その為に無理矢理情報を吐かせる為に拷問は存在する…ここでも多くの者達が拷問にあい、命を落とした者もいるわ」
「………」
「確かにあなたはここに来るまで血生臭い世界を生きてきたわ。けど、戦争や殺し合いはその比じゃ無いわ。あなたには…戦い続ける覚悟はある?」
エリシアがフローフルに最後の意思確認をしてきた。
ここでエリシアはフローフルの覚悟を試している。
「あるさ」
フローフルはあっさりそう答えた。
フローフルだって分かっている。
騎士団になるという事は、自分の命を国に捧げるという事を。
そして、自由を得られる代わりに責任が問われる事も。
それを全て踏まえた上で、フローフルは騎士団に入ろうと、ルミナスの期待に応える事を決意したのだ。
「分かったわ…なら、始めましょうか…【第二解放】」
エリシアは自身の黒刀の形をした天使、【黒時皇帝】の【第二解放】を発動させた。
エリシアの背中には黒い翼が出現していた。
更に右手には時計の形をした小さな盾、左手には短い短刀を持っていた。
「【黒時計世界】」
「これが…エリシアの【第二解放】…」
物凄い霊圧であった。
霊圧で身体が焼け切れそうであった。
次元が違う…そう感じざるを得なかった。
「フローフル…私と戦いなさい」
「………」
フローフルは刀を構えた。
「【氷水天皇】」
フローフルの刀が氷の刀に変化した。
しかし、フローフルは【第二解放】が使えない。
この霊圧の差ではどう足掻いても勝ち目など無かった。
しかし、エリシアは戦えと言っている。ならば戦うしかない。
「はぁ!」
フローフルは刀を思いっきり振り上げ、氷の刃を飛ばした。
「【加速する時空】」
時計型の盾に内装されている針が高速で動き出した。
すると、エリシアの姿が一瞬で掻き消え、フローフルの後ろにいた。
「なっ!?」
フローフルはエリシアのあまりの速さに身体が付いて行けていなかった。
時間を加速させたのだ。
エリシアの天使、【黒時皇帝】の能力は時間操作だ。
彼女の前では全ての攻撃は止まって見える。
エリシアは短刀でフローフルの身体を切り裂いた。
「ぐぅ!?」
フローフルは右肩を斬られたが、すぐにエリシアから離れた。
「【時空凍結】」
今度は盾の時計の針がピタリと止まった。
その瞬間、世界の時が止まった。
フローフルは身体がピクリとも動いてはいなかった。
「【時空覇王剣】」
時の霊力を帯びた短刀でフローフルの身体をバッサリと切り裂いた。
そして、時は動き出した。
「ぐあぁあ!!」
フローフルは為す術も無く吹き飛ばされてしまった。
フローフルは既に重症を追っていた。
ーこれが…セラフィム騎士団の力…
エリシアはとんでも無く強かった。
時間の操作などチートもいいところだ。
恐らく、エリシアはエクレアやミルフィーユより遥かに強い。
それくらいの事はフローフルにも分かっていた。
更にエリシアは全く本気を出していない。
「これで…最後かしらね」
エリシアは短刀を自身の右手の盾に納めた。
そして、盾をフローフルに向けた。
すると、盾からとてつもない霊力の奔流が渦巻いていた。
ヤバイ…エリシアはフローフルを殺すつもりで攻撃してきていた。
「【時空破滅】」
時空を歪ませる程のエネルギー弾をエリシアは放った。
範囲がでかすぎて回避は不可能。防ぐしかない。
しかし、防ごうとすればフローフルの身体は恐らく粉々になってしまう。
「く…そ…があああああああああ!!!!」
フローフルはヤケクソになり、エリシアの放ったエネルギー弾に突っ込んでいった。
しかし、防げる筈も無く、直撃した。
「ぐああああああああああああ!!!!!」
フローフルは断末魔を上げた。
しかしー
「………」
エリシアは黙って前を見据えていた。
すると、変化が起きた。
「…来たわね」
エリシアの放ったエネルギー弾が凍り付いた。
そして、フローフルは凍ったエネルギー弾を切り裂いた。
「【第二解放】…」
エリシアはそう呟いた。
そう、フローフルは先程とは明らかに姿が変化していた。
白い衣に片方にだけ氷の翼が生えていた。
刀は短い短刀に変わっていた。
霊圧も数十倍までに跳ね上がっていた。
しかしー
「まだ…不完全ね…死の淵に立たされた事で力を解放した…」
そう、フローフルはエリシアの攻撃で死の淵に立ち、それにより力を無理矢理覚醒させた。
「………」
フローフルはエリシアに向かっていった。
「【時空凍結】」
エリシアは再び世界の時間を止めた。
しかしー
「!?」
時間は止まらなかった。
否、時間は確かに止まった。
しかし、フローフルはエリシアの時間停止能力を凍り付かせた。
つまり、エリシアの時間停止能力そのものを凍らせた。
それにより、フローフルにはエリシアの時間停止を受け付けない。
不完全の力でここまでの力を誇るのだ。
完全な力になればその力は計り知れない。
「成る程…これは厄介ね」
エリシアは【加速する時空】でフローフルから距離を取った。
だが、フローフルは一瞬でエリシアに追い付いていた。
フローフルの氷の力は周囲にいる者の能力を阻害する能力を持っている。これにより、エリシアの時間加速の効果が低下していたのだ。
厳密には氷の力で技の機能を低下させているのだ。
フローフルの氷はあらゆるモノの停止を司っている。
恐らく、能力が完全であれば全ての力を完全に停止させる事が出来る。
「けど…まだまだ未熟ね」
エリシアがそう言って盾を構えた。
そして、エリシアの盾の時計の針が急速に逆回転をしていた。
すると、フローフルの背中の氷の翼が完全に消えていた。
「!?」
その一瞬の隙を付いて、エリシアは短刀に霊力を収束させ、フローフルを切り裂いた。
フローフルの【第二解放】は解除され、フローフルは倒れた。
フローフルは【第二解放】を使った時点で気を失っており、代わりに中にいた天使の精神が戦っていた。
しかし、エリシアの攻撃により、天使の化身も消し飛んだ。
消し飛んだといっても再びフローフルの身体の中に戻っているので消えてはいない。
先程、エリシアはフローフルの氷の翼を出現する前の時間まで巻き戻していた。
そう、エリシアは時間を限定的に巻き戻したのだ。
翼は天使の力の源だ。そこをどうにかしてしまえば相手は一気に弱体化する。
エリシアはそこを突いたのだ。
「フローフル…恐ろしい潜在能力ね…その力の使い方…間違えさせないようにしないと…」
エリシアはそう言って自身の右肩を撫でた。
フローフルの先程の攻撃で斬られた傷だ。
エリシアが傷を付けられた事などここ数百年記憶にない。
エリシアは確信した。
フローフルならば、あるいはー
「素晴らしい【第二解放】ね…」
フローフルは【第二解放】を会得し、それを騎士団達に見せていた。
入団試験は天使城で行われていた。
そう、今は入団試験の真っ最中であった。
ルミナスも入団試験の様子を見ていた。
フローフルの【第二解放】は氷の力である。
そのあまりの美しさにルミナスは感激の声を上げていた。
「流石はローマカイザーと言った所か…」
灰色の髪と眼鏡を掛けた青年がそう言った。
彼はアルダール・マーブル。
セラフィム騎士団の一人であり、参謀でもある。
彼はセラフィム騎士団の中でも古参の部類であり、最古参であるエリシア、フランに次ぐ古参である。
「合格です。あなたをセラフィム騎士団の入団を認めます」
金髪の長い髪の女性がそう言った。
彼女はフラン・ヴェルニケル。セラフィム騎士団の団長である。
フローフルはフランから白を基調とした水色の宗教服を貰った。
恐らく、これが騎士団の衣装なのだろう。
何となくこの服装はあまり好きでは無かった。何と言うか中二…やはりフローフルは何も考えない事にした。
「あなたはこれから、神聖ローマの為、その命を捧げる事になる。共にローマの戦士として戦おう。入団、おめでとう」
「ありがとうございます」
フランが激励の言葉をフローフルに送る。
フローフルは礼を言っていた。
これでフローフルは騎士団の仲間入りとなった。
フローフルは試験を終えた後、すぐに去っていった。
「フラン、エクレア、あなた達でフローフルの教育係をお願いするわね」
ルミナスがそう言った。
しかし、フランもエクレアもその事については否定的であった。
「お言葉ですが…私達よりエリシアやミルフィーユの方が良いのでは?彼女等の方が彼についてよく知っているかと」
「それについては私もフランに賛成ですね」
「………」
ルミナスは表情こそ変わっていなかったが、かなり困っていた。
そもそもルミナスはフローフルを自身の監視下に置くためにセラフィム騎士団に入団させたのだ。
それなのにミルフィーユとエリシアに教育係を任せてしまったら前と大して変わらない。
しかし、フランとエクレアを納得させるだけの材料が無いのも事実だ。
下手に二人に逆らう訳にも行くまい。
仮にもルミナスは一国の皇帝。私情はなるべく挟まない様にしなくてはならない。
「分かったわ。その方向で話を進めるわ」
「そちらの方がよろしいかと」
「…ふぅ……」
「エクレア、あなた、面倒な教育係をしなくて済むと思って安心しましたね?」
「………してません」
フランの指摘にエクレアは適当に誤魔化した。
しかし、どう考えても誤魔化しきれていなかった。
ルミナスはエクレアにその事について言及しようと考えたがそれは止めた。
「あなたたちも今日はお疲れ様。ゆっくり休んで」
「そうさせてもらいます」
「ありがとうございます」
エクレアはさっさと出ていき、フランもルミナスに一礼をしながら城を後にした。
ルミナスは深く深呼吸をした。
「ふぅ…まぁ、フローフルを騎士団に入団させただけでも、私の監視下に置きやすくなったし、今回はこれで良しとするわ」
ルミナスにとって、今回の件は全てが上手くいった訳では無い。
だが、十分だ。
「私は必ず…」
ルミナスはそう呟いた。
「フローフル!騎士団に入団出来たんだってな!おめでとう!」
インベルがフローフルに激励を送っていた。
今、フローフルとインベルとアポロ、ミルフィーユの四人で近くの店でフローフルのセラフィム騎士団入団の打ち上げをやっていた。
「そんな大層な事じゃねーよ」
「何言ってのよ!大層な事よ!」
「はぁ~、これで私とフローフルが同僚になる訳か~。感慨深い…」
ミルフィーユが腑抜けた感じでそう言った。
「何か…フローフルが遠くに行っちまったみたいだな…」
「何言ってんだよ。会おうと思えば会える」
「フローフルの口からそんな言葉が出るなんて珍しいわね」
「お前はうるせぇんだよ、アポロ」
「君達も随分打ち解けられたみたいだね。あー、そうそう。君達も私がセラフィム騎士団入団推薦をしようと思ってるだけど二人はどう?」
「「「!?」」」
ミルフィーユがさらっとそんな事を言うと三人は驚いていた。
「本当…ですかそれ?」
中でも特にインベルが一番驚いていた。
「うん、君達には十分素質があるよ。ま、【第二解放】を会得した後だけどね、インベルの場合は。でも、インベルは完成まで後少しだし、遅くても来年には行けると私は踏んでる」
「………」
インベルは未だに信じられないといった様子であった。
フローフルとアポロは分かる。二人は紛れもない天才だ。
しかし、インベルはどうだ?二人と比べれば明らかに劣っていると言わざるを得ない。
「何よアンタ…自身無さそうね…」
「そりゃそうだよ…」
「はぁ?アンタ私の事舐めてんの?」
「何でそうなる!?」
「アンタは私と共に修行を耐え抜いてる。力もある。あなたが自分に自身が無いって事はなんか私を舐めてるみたいでムカつくのよ!」
「何だよ!?そのメチャクチャな理屈は!?」
インベルは溜まらず叫んだ。
しかし、インベルはアポロの言いたい事が伝わってはいた様だ。
「そうだよな…ありがとな、アポロ」
「いや、待て。今、礼を言う所がどこにあったんだよ?」
フローフルがインベルに突っ込むがインベルは「お前にもいつか分かるさ」と言ってはぐらかされた。
「ふん!」
「ふふ…素直じゃ無いね。アポロは」
そう、さっきの言葉はアポロなりの気遣いだ。
フローフル以外はその事に気付いていた。
「私は別に思った事をそのまま言っただけです!」
「で?二人に改めて聞くけど…どうする?」
ミルフィーユが二人に問い掛ける。
「私は勿論、入団します!」
「インベルは?」
アポロが何の迷いも無く言うとミルフィーユはインベルにも問い掛けた。
インベルは少し迷った。
しかし、インベルはこの場所を気に入っている。
この日常が続くのであればー
「入団します!フローフルやアポロには…絶対負けない!」
「上等だ…僕もお前とアポロには負けない!」
「それはこっちの台詞よ。あなたたちには負けないわ!」
「いいねいいね~。青春って感じで」
この三人がようやく一つになれた気がした。
これで、ミルフィーユの肩の荷が少し降りたというものー
「まぁ、僕が先に入団したからお前らは僕の後輩になる訳だけどね、まぁ、僕はそんな小さな事は気にしないよ?」
「はっ!言うわねガキンチョ!あなた私より年下で私が勝ち越してるって事忘れないでよね!」
「フローフルはすぐに調子に乗るから敵を増やすんだよ?アポロはプライド高すぎ」
「「お前は黙ってろ(なさい)!」」
「酷くない!?」
三人は再び喧嘩を始めた。
「ーという訳でも無いみたいだね~。はぁ~」
ミルフィーユは草臥れた様に溜め息を吐いた。
この三人は仲良く行動する事は出来ないのだろうか?
仮に二人がセラフィム騎士団に入団したら先が思いやられるなとミルフィーユは思った。
そもそもミルフィーユは彼等を自分と対等に戦える様に修行をしていた。
それ以上でもそれ以下でも無かった筈なのに何故この三人にここまで頭を抱える羽目になっているのだろう。
ミルフィーユも焼きが回っていた様だ。
今まで弟子なんて取った事無かったミルフィーユだが、弟子が成長し、お互いが高め合う姿を見るのも悪いモノでは無いなと思った。
「三人とも…少し静かにしなよ」
今回はインベルが止めに入れない状況なので仕方無くミルフィーユが止めに入った。
この三人が一体どこまで行くのか…ミルフィーユは彼等の先を少しだけ…ほんの少しだけ楽しみにしていた。
To be continued




