表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第一章】十二支連合帝国篇
10/196

【第一章】十二支連合帝国篇Ⅹ-chrono-

 「アザミの花」との戦いも遂に佳境に入った。蒼たちは敵のアジトに潜入するが、リーダーである屍もまた、魔道警察官たちを襲撃し、壊滅状態であった。

 蒼は果たして、この戦いに勝つことが出来るのか!?

「なるほどね…あたしの技の致死量を上げたのね…それで傷が治癒した…」

 澪は冷静に今の状況を分析した。

 薊の神器【伊弉冉舞姫イザナミノマイヒメ】は指定した物質の致死量を操作できる。しかし、操作できるのは霊力なども含まれているようである。

 致死量を下げることが出来るのなら、上げることも出来るということだ。それにより、相手の霊力に耐性…つまり、免疫を得るということである。

 つまり、今の彼女はほぼ不死身状態でなのである。

「あなた…相当頭が切れるわね…私の能力が致死量の操作であることを見抜いていたのね」

 薊は感心したようにそう言った。

「致死量の操作で相手を自由に殺せて、自分は限りなく不死身になれるって…チートもいいとこだよ、その神器…」

 澪は愚痴をこぼす勢いでそう呟いた。実際、澪の言うとおりである。薊の能力は平たく言えば、自身と相手の生き死にを自由に操作できるということである。

 それは神がなせる業、チートもチートである。

 -とは言っても完全無欠な物なんて存在しない…まぁ、致死量操作の根源であるあの神器を壊すしかないね…いや、それしか方法がない…

 澪は薊に再び素手で攻撃をした。右拳で殴りつけるがそれを神器で防がれてしまった。

「効かないわよ」

 薊は勝ち誇ったようにそう言い放った。

「【星混沌旋風スターカオスストリーム】!」

 澪は再び、【星混沌旋風スターカオスストリーム】を放ち、薊に直撃した。しかし、薊の身体には傷一つついてなかった。

「その技はもう、致死量を最大にまで上げてるわ…通用しないのよ!【毒腺本ドクセンボン】!」

 薊は傘型の神器【伊弉冉舞姫イザナミノマイヒメ】を展開し、毒の棘を飛ばした。その針が澪の身体を貫いた。

「げほっ!ごほっ!」

 澪は血を吐いた。先程の毒針だけでなく、制限時間の五分が経過しようとしていた。

「ふふふ…もう終わりよ…」

 薊は嘲る様にそう言った。

「【星眼シュテルンアオゲ】」

 澪は「眼」を開いた。【星眼シュテルンアオゲ】は相手の霊力の流れを見る目だ。要は超高性能の観察眼だ。

 その眼を使い、澪は薊の霊力の流れを見ていた。

「霊呪法第五六〇番【おう殿しんがり】」

 澪は霊呪法を唱えた。すると、闇の波動が薊に襲い掛かる。

 薊は攻撃を躱そうとしたが、防ぎきれずに傷を負った。

「無駄よ!耐性を付ける!【共喰毒喰トモクライノドククイ】!」

 薊は先ほどの技の免疫を獲得した。そして、瞬く間に治癒をした。

「やっぱりか…」

 澪は不敵に笑みを浮かべた。

「何が可笑しいの?」

 薊は澪に問いかけた。

「分かったんだよ…君の神器の弱点を」

「何ですって?」

 澪がそう言うと薊は訝しげな表情を浮かべた。

「これからそれを証明するよ!【流星神速スタードライブ】!」

 澪は高速で移動した。そして、すぐさま薊の身体を右拳で殴り飛ばした。

「!!」

 薊は驚きの表情を浮かべた。澪の「天星魔法」の免疫は獲得したはずである。なのに何故かダメージを受けていた。

「【星混沌旋風【(スターカオスストリーム)】!」

 澪は惑星を模ったエネルギー弾を放った。そして、薊に直撃し、ダメージを受けた。

「馬鹿な!何故…」

容量キャパシティ不足だよ」

 薊の疑問に澪は一言で答えた。

 容量不足、それはつまり、免疫を獲得する容量が不足しているということだ。薊の神器【伊弉冉舞姫イザナミノマイヒメ】は受けた攻撃を自動的に解析し、数秒でその技の抗体を作り出す。しかし、作り出し、その免疫を保有することが出来るのは「一種類だけ」である。

 澪の使う技は霊呪法と「天星魔法」であり、前者は霊力、後者は魔力によって発動する術である。つまり、この二つの術は全く別の力だ。

 先ほど薊は霊呪法の免疫を獲得したが、それにより、その前に獲得した天星魔法の免疫を失ってしまっていたのだ。

 澪は【星眼シュテルンアオゲ】で薊の霊力を見て、それを見抜いたのだ。

「そんな馬鹿な…この【伊弉冉舞姫イザナミノマイヒメ】にそんな弱点が…」

「インフルエンザってさ…毎年流行るよね…あれは年が変わるごとにウイルスの形を変えてるからなんだよ…だから、作った免疫が無意味になる。免疫はちょっとでもウイルスの形が変わったら「全く機能しなくなる」からね」

 澪はそう答えた。そして、今度は霊呪法を放った。

「霊呪法第五〇九番【白雷諫叡びゃくらいかんえい】」

 白い巨大な雷が薊を襲う。薊は攻撃をモロに受けてしまった。

「くは!」

 免疫を獲得するが、澪は天星魔法を放った。

「【星嵐スタートルネード】」

 星屑の嵐が薊を襲った。しかし薊は先ほど、霊呪法の免疫を獲得したばかりで、天性魔法の抗体が失われていた。

 -馬鹿な…私の神器は無敵のはずなのに…なぜ…

「あああああ!」

 薊は自身の膂力で【星嵐スタートルネード】から抜け出した。

「【毒華花火ドッカハナビ】!」

 薊は神器から毒の球を大量に飛ばした。

 対して澪は霊力と魔力を練り合わせた「天星魔法」を放った。

「【星霊天蓋シュテルンゲイザー】!」

 澪は星を模った無数のビームを放ち、全ての毒の球を打ち抜いた。そして、薊の神器【伊弉冉舞姫イザナミノマイヒメ】にもビームが直撃した。

 その瞬間、神器が粉々に砕かれた。

「な!?」

 薊は絶句した。

「これで…終わりだよ!【天井崩てんじょうくずし】!」

 澪が「天星魔法」を使用した。すると、薊の身体が浮遊し、そのまま高速で壁に激突した。

「が…」

 薊はそのまま気絶した。

「はぁ、はぁ、はぁ、どうやら…毒は消えたようね…けど…流石に…限界…」

 澪はそのまま倒れた。


 一夜は澪と薊の戦いが終わるとすぐに澪の前に駆け付けた。

「ひどいケガだね…速く…引き返さないと…」

 一夜がそう言って澪を肩に担いだ。そして、薊を見つめた。

 -本当にこの女がリーダー…なのか…いや、実力は確かにあった。だが、何か…違和感が…

 一夜が考え込んでいると一夜のスマホが緊急事態のアラーム音が鳴っていた。

「これは…」

 一夜は驚愕の表情を浮かべた。一夜は密かに今回の作戦に参加する魔道警察官に監視用の超小型のチップを入れていた。

 一夜は電子器具を自在に操作できる。チップを動かして警察官にチップを仕込むことはそこまで難しくはなかった。

 そのチップが全て壊されていた。そのせいで警告アラームが一夜のスマホから流れていたのだ。

「いくらなんでも以上だ…敵の頭がいないのにこんな状況に…戦いはまだ終わっていない…と言うことか」

 一夜がそう言うとスマホのGPS機能を媒介に、この島の状況を見た。すると、魔道警察官がほぼ壊滅状態だった。

「これは…いくらなんでも以上だぞ…」

 一夜はそう呟いた。

 さらに映ったのは一人の青年に追い詰められている美浪の姿だった。一夜は一目で理解した。この青年は「ヤバい」とそう理解した。

「速く蒼にこのことを…」

 そう言って一夜は蒼に電話をした。



 数分前に遡る。

「はああああ!」

 美浪は屍に攻撃を仕掛けたが屍はあっさりと躱し、美浪を殴り飛ばした。

「く!」

 美浪は苦悶の声を上げた。美浪は【身体強化フィジカルエンチャント】をフルに使用していたのだ。にも拘らず、屍は神器を使用せずに美浪の攻撃を受け流し、且つ攻撃を加えていたのだ。

「その程度じゃ…私は倒せないよ」

 そう言って屍は平手で美浪の左胸を思いっきり押した。

「かは!」

 心臓に電撃が走ったような感覚に襲われ、美浪は膝を付いた。

「私はこう見えて…鬼の王、酒呑童子の血族だ…肉弾戦で君を十分に屠れる」

 屍はそう言い放った。部隊はほぼ壊滅状態だった。

 屍の部下たちもかなり疲弊していたが、かなり、戦力が残っていた。そして、屍の部下たちが美浪を襲い掛かろうとするが、屍はそれを静止した。

「手を出すな!この女は俺が対処する」

「はぁ?舐めとんの?神器も部下も使わずに私に勝とうだなんて…」

 美浪は吐き捨てるように言い放った。

「違うよ…さっきも言っただろ?私は君を殺したくないんだ…出来ればね。だから、神器を使いたくないんだよ。君が惨たらしく死ぬ姿は…見たくないからね…」

 屍は美浪にそう言った。屍は魔族絶対主義の妖怪だ。魔族なら誰でも屍は優しく接する。

 しかし、人間に対しては異常なほどに容赦がなく、神器や錬金術を駆使して惨たらしい殺し方をしていた。

「それは…あんたの…エゴや…自分の価値感で他人の命を奪うな…私はあんたのやり方を…絶対に認めへん…」

 澪は屍にそう言い放った。

 屍は美浪の決意を感じ取っていた。そして、悲しげな顔をした。

「そうか…残念だよ…」


「あそこか!」

 佐藤は美浪と屍の戦闘中に隙を付いて逃げ出し、蒼たちのいる場所に向かっていた。

「あんたは…佐藤とか言う刑事か」

 蒼がそう言うと慧留は蒼に敬語を使うように注意した。

「蒼…遥さんがいない時でも敬語は使わないと駄目だよ」

「分かったよ。で?何があったんすか?」

 蒼が佐藤に尋ねると佐藤はすぐに答えた。

「「アザミの花」のリーダーが突然俺たちの前に現れた。それによって、魔道警察官はほぼ壊滅状態だ。そんな中、美浪君がそのリーダーと交戦中だ」

「「!」」

 蒼と慧留が驚愕の表情を浮かべた。

「行こう!」

「ああ」

 蒼はそう言うと、蒼のスマホから着信音が響いた。

「一夜か?どうした?」

『美浪ちゃんが敵に追い詰められてる。速く…』

「霊呪法第六四番【瞬天歩しゅんてんぽ】」

 蒼は一夜の言葉を言い終える前に霊呪法を唱え、光速の速度で美浪の元へ向かった。

「蒼…」

 慧留と佐藤は蒼の後姿を見つめていた。


「一夜…美浪はどこにいる?」

 蒼は一夜に尋ねると一夜はすぐに美浪の場所を示した地図を転送した。

『相手は相当な使い手だ。十分に用心したまえ。僕も澪君と遥君を回収したら、すぐにそちらに向かう』

 一夜がそう言うと蒼は「分かった」と言い、美浪の元へ向かった。


「彼は大丈夫なのか?」

 佐藤は慧留に尋ねた。

「霊力は全開まで回復してますし、傷も私が治したので問題ないと思います」

「違う…そうじゃない。彼に任せて大丈夫かと聞いているんだ」

 慧留が答えると佐藤は再び尋ねた。

「…大丈夫ですよ。蒼なら」

 慧留は断言した。

「何故そう言い切れる?」

「蒼は…強いですから…」

「それだけで納得できない…」

「佐藤刑事も蒼に戦いを見れば分かりますよ」

 慧留と佐藤が話している所に遥と澪を肩に担いでいた一夜が現れた。

「慧留ちゃんに…佐藤さんか…ちょうどいいところに…」

 一夜は息を切らしながらそう言った。気絶してる二人を抱えながら走っていたのだ。体力が余り無さそうな一夜は辛いんだろうなと慧留と佐藤は思った。

「まったく…二人とも重…じゃなくて、慧留ちゃん…二人を治してくれ」

「デリカシー無いですよ、一夜さん」

「だからお前は彼女が出来ないんだよ…」

 一夜がそう言うと慧留はすぐに治療を始めた。一夜は慧留と佐藤に告げ口を言われたが気にしないことにした。

 初めは外傷がひどい澪の治療から始めた。

 慧留が澪の身体に触れると瞬く間に傷が消えていった。「時間回帰」によって、傷が負う前の時間に巻き戻しているのだ。

 時間を操る天使、【黒時皇帝ザフキエル】の眷属だからこそできる芸当である。

「そこにいるのは湊君だね?」

 一夜が言うと慧留は頷いた。

「いよいよ大詰めだね…頼んだよ…蒼」

 一夜はそう言って空を眺めていた。



「ぐ…あ…」

 美浪は屍に首を持ち上げられていた。あの後、結局屍は神器を使うことなく、素手で美浪を終始圧倒した。

 いくら手負いとは言え、美浪の【身体強化フィジカルエンチャント】を駆使した格闘スキルはかなりのものである。

 それを終始素手で圧倒した屍は高い格闘スキルを有していることを意味する。

「悲しいな…だが、もうすぐ終わる…我らの…「アザミの花」の勝利だ」

 屍がそう宣言した瞬間、屍は自身の背後に気配を感じ取った。

「!」

 屍の後ろにいたのは蒼である。蒼は屍に攻撃を仕掛けた。すると、屍は美浪を離し、距離を取った。

「君は一体…」

 屍はそう呟くと蒼の持っていた刀に目をやった。そう、それは紛れもない天使だった。

「俺は時神蒼。こいつの仲間だ」

 蒼はそう言って美浪を抱きかかえていた。

「蒼…君…」

 美浪は蒼の姿を見ると安心し、意識を失った。

「美浪!おい、しっかりしろ!」

 蒼は刀を地面に突き刺し、美浪を軽く平手で叩いた。すると、美浪は少し表情を歪めた。

「…大丈夫そうだな」

 蒼はその後、遠くに【瞬天歩しゅんてんぽ】で移動し、美浪を安全な場所へと置き、再び屍のいる場所へ戻った。

「なるほど…君が例の「天使使い」か…探す手間が省けたという訳か…」

「俺のこと知ってんのか?」

 屍がそう言うと蒼は質問をした。

「ああ、前回君のいる街を襲撃するよう命令したのは私だからね…まぁ、結果的には逆効果だったみたいだが…」

「そうかよ…てことはてめぇが親玉だな。てめぇを倒せば終わりだ」

 蒼がそう言い放つと屍は笑みを浮かべながら蒼に話してきた。

「私は…君たち二人を仲間として引き入れたいんだよ…君たちは私たちと同じ魔族だ…だから…一緒に来ないか?」

 屍には何かがある。恐らくこれが「カリスマ」と言う奴なのだろうと蒼は思った。

「断る」

 しかし、蒼は屍の誘いをあっさりと断った。

「何故?」

「俺はあんたが思ってるような魔族じゃない。俺は…半分人間なんだよ…」

 屍の質問に蒼はそう答えた。

「人間と天使のハイブリットか。なるほど、それで霊呪法と天使の力の二つを持っているのか…だとすると面白いね…ますます仲間に引き入れたくなったよ」

 屍はそう言い放った。

「アテが外れたか…まぁ、いいか!【氷水天皇ザドキエル】!」

 蒼は天使を解放し、屍に攻撃を仕掛けた。しかし、屍は素手で【氷水天皇ザドキエル】を受け止めた。

「なっ!?嘘だろ!?素手で…」

 蒼が驚きの声を漏らすとともに屍は高速で蒼に打撃を叩き込んだ。

「がは!」

「その程度では私は止められんよ」

 屍は思いっきり蒼を吹き飛ばした。屍は今のところ神器を全く使っていない。地面に突き刺しているままだった。

「くっそ!」

 蒼が苦悶の声を上げるがすでに、屍は蒼の目前に来ていた。さらに拳を叩き付け、今度は蒼を蹴り飛ばした。

「があ!」

 蒼は全身から血が流れていた。

 -くそ…何て格闘スキルだ…冗談だろ…

 蒼は口周りの血を拭いながら胸中でそう呟いた。

「さぁ、降参するなら今だよ…」

「さっきから…てめぇ…俺と戦う気は無いのかよ…神器も使わねぇなんて…」

 屍が降参を蒼に促していると、蒼は屍に質問をした。

「私は…出来れば魔族は殺したくない…仲間として引き入れたい…君もその少女もね…それに神器を使ってしまったら君たちを惨たらしい殺し方をしてしまう…だから、素手で戦ってるんだよ…これは舐めてる訳じゃない。むしろこれは敬意だ」

 屍はそう答えた。実際、屍は神器を使わずとも素手でもそこら辺の魔族を軽々と倒す力がある。屍の言ってる事は全て事実なのだろう。

「そうかよ…じゃあ、使わせる気にさせるしかねぇな!【第二解放エンゲルアルビオン】!」

 蒼が【第二解放エンゲルアルビオン】を使った。【第二解放エンゲルアルビオン】は天使の二段階目の解放である。

「なんだこれは…」「うわあああああああ!」「あああ!」

 周囲にいた屍の部下たちは蒼から発生した冷気により凍り付いた。

 蒼の右肩に青白い翼が生えていた。さらに、服は白い服に変わっていた。目はオッドアイから両目が青色になっていた。髪の色は白黒交じりの色から白髪になっていた。

「ほう…それが天使の二段階目の解放か…素晴らしい神力しんりょくだね…」

 屍の言った神力とは神や天使などの霊力のことであり、この神力を使う魔族は今現在の所、神と天使のみである。

「【アルカディアの氷菓】」

 蒼は天使の二段階目の解放名を口にした。そして、すぐに屍に攻撃を仕掛けた。

 蒼の刀は水色の冷気を発していた。蒼は【氷水天皇ザドキエル】で屍の身体を切り付けた。屍はそれを右手でガードする。

 しかし、屍の右手が凍り付き、蒼はそのまま屍の右手を切り落とした。

「な…」

 屍は驚きの声と共に地面に突き刺していた神器を左手で掴み、神器で蒼の【氷水天皇ザドキエル】を受け止めた。しかし、その神器も【氷水天皇ザドキエル】の余りの冷気に機能不全になっていた。

「はぁっ!」

 蒼は【氷水天皇ザドキエル】に力を込めた。屍は蒼の力を受け流し、距離を取った。

 そして、魔道警察官の死体を三対ほど集めて、両足を重ね、死体を踏みつけた。すると、死体は消え、屍の右腕が再生されていた。

「錬金術か…」

 そう、屍が使ったのは錬金術。錬金術は指定した物質を全く違うものに錬成する術である。

 この世界では錬金術を使う者は極めて稀であり、蒼の記憶上、ここまで強力な錬金術を使えるものはいなかった。

 屍が今行ったのは「人体錬成」と呼ばれるもので、錬金術の中でも最も禁忌とされる錬成の一つである。

「そう、私は最強の錬金術師さ…昔は「賢者ワイズマン」なんて呼ばれてたっけな…」

 屍は懐かしむように呟いた。そして、蒼に決意の眼差しを向けた。

「仕方ない…ここまで強力な天使だとは思わなかった。殺す気でやる方がちょうどいいな…」

 屍はそう言って神器を構えた。

「ようやくやる気になったか…」

 蒼は【氷水天皇ザドキエル】を構える。そして、屍は神器を解放した。

「【伊弉諾尊神創イザナギノミコトカミツクリ】」

 屍の神器が指揮棒の形に変わった。

「【天地創造テンチソウゾウ】…現れよ!【破壊魔鳥フレースヴェルグ】!」

 屍は【伊弉諾尊神創イザナギノミコトカミツクリ】を操った。すると、全長四メートルほどの魔鳥が姿を現した。

 【破壊魔鳥フレースヴェルグ】、北欧神話に登場する世界樹の頂上に座す魔鳥である。【破壊魔鳥フレースヴェルグ】は別名、「死体を飲み込む者」と言われており、命あるものの命を奪い尽くすと言う。

「ぎゃおおおおおおおおお!!!」

 【破壊魔鳥フレースヴェルグ】が叫びを上げ、飛行した。そして、口から赤いレーザーを放った。すると、そのレーザーに浴びた死体は吸収され、周囲の動物たちは骨となった。

「マジかよ…あんな危険な生物を召喚するだと!?」

 蒼は赤いレーザーを【氷水天皇ザドキエル】で凍らせた。そして、赤いレーザーを発生させていた【破壊魔鳥フレースヴェルグ】まで凍り付いた。

「流石だね…だが!」

 屍は霊力の力で跳躍し、凍り付いた【破壊魔鳥フレースヴェルグ】の背中に乗った。そして、両手を合わせ、その後両手を【破壊魔鳥フレースヴェルグ】の背中に乗せた。すると。【破壊魔鳥フレースヴェルグ】は一瞬で消え去り、代わりに巨大な鎗が出現した。

「【破壊魔鳥フレースヴェルグ】を…別の物に錬成したのか…」

 蒼は驚愕の表情を浮かべた。

「【破壊神鎗ハカイノカミヤリ】」

 屍は槍を蒼目がけて飛ばした。蒼は槍を凍らせようとするが、氷が冷気ごと粉砕され、まったく凍らないどころか槍の速度もまったく衰えていなかった。

 蒼は【氷水天皇ザドキエル】で槍を受け止めたが槍の勢いがまったく衰えなかった。そして、槍が赤く光り出し、レーザーが放たれた。

 そのレーザーが蒼の身体を貫いた。先程のようにレーザーを受けて即死することは無かったがその分、貫通力が増していた。

「がはっ!」

 蒼は血を吐き、【氷水天皇ザドキエル】から力を抜いてしまった。槍はそのまま【氷水天皇ザドキエル】を通り過ぎ、蒼の右肩を貫いた。

「ぐわ!」

 蒼はそのまま吹き飛ばされた。さらに、吹き飛ばされた先には雷雲が浮かんでいた。そこから、巨大な雷が落下し、蒼はそれをモロに喰らってしまった。

「あああああああああ!」

 先ほどの【破壊魔鳥フレースヴェルグ】と今の雷雲は屍の神器【伊弉諾尊神創イザナギノミコトカミツクリ】によって創り出されたものである。

 【伊弉諾尊神創イザナギノミコトカミツクリ】は「想像したものを何でも創る能力」である。

 無から自由に何かを作るその能力は神の能力のそれである。

 作れるものは有機物だろうと無機物だろうと創ることは可能だし、先ほどのように雷雲を作ることだって可能である。

「はぁ、かっ…」

 蒼は先ほどの攻撃でかなりのダメージを受けていた。さらに、身体も痺れていた。

「降参するかい?」

 屍は再び蒼に降参を促す。しかし、蒼は再びそれを拒否した。

「そうか…これ以上は無駄だな…仕方ない…殺すか」

 屍は死体を再び錬成をした。今度は骨で出来た槍が出てきた。屍の錬成速度にしては槍を錬成するのにかなり時間を割いていた。

「【塵雁白骨ジンカリハクコツ】」

 屍は槍を蒼に向けて放ると蒼は反射的に翼でそれをガードした。すると、翼がボロボロに崩れ落ちた。

 蒼は驚愕の表情を浮かべた。

「何だ…これは…」

「【塵雁白骨ジンカリハクコツ】。「人間の骨を錬成する時のみ」作れる骨の槍だ。これに貫かれると貫かれた場所からその物質を完全に塵にする。さっきのは氷に当たったから君の身体には何もないみたいだけどね。この槍は当たれば一撃必殺なんだが…如何せん人間の骨でないと作れなくてね。それに、錬成するのにもかなり時間も食うんだ。まだまだ、人間の死体があるとは言え…余り使えないのがネックだね…」

 屍がそう言うと蒼は雷による痺れが切れ、再び屍に攻撃をした。

「【氷神滅却エイス・ディオス・ラディーレン】!」

 蒼の右翼が再び復元し、その翼から吹雪を発生させた。その吹雪と氷の華も屍に襲い掛かった。

 しかし、屍は余裕の表情を崩さなかった。

「【水神ポセイドン】」

 すると、巨大な水の化け物が現れ、屍を守った。屍はダメージを全く受けていなかった。

 屍は蒼の凍らせた水を巨大な氷の弓矢に錬成した。

「【氷神聖弓コオリカミノセイキュウ】」

 大量の氷の矢が蒼に向かって放たれた。

 周囲の木々は軽々と粉砕され、蒼の身体も無数の矢によって貫かれた。

 蒼は木に背中がもたれかかるように倒れていた。全身は血まみれであり、意識も絶え絶えの状態だった。

  屍は再び人間の死体を使い、骨の槍、【塵雁白骨ジンカリハクコツ】を錬成した。

「これで…終わりだよ…」

 -くそ…が…負けるのか…?ここで…

 蒼は胸中でそう呟いていた。

 蒼は何が何でも負ける訳にはいかなかった。ここで蒼が負ければ今まで生徒会がしてきたことが無駄になってしまう。まともに戦えるのは現状、蒼だけなのである。

 「アザミの花」がこの戦いに勝利すると、この国は恐らく滅ぶだろう。

 皆が築き上げたものを蒼は無駄にしたくなかった。

 蒼も「アザミの花」の言い分が分からない訳ではなかった。蒼自身、神聖ローマにいた頃、他の天使たちとは違う半天使だった為、蒼自身、人間だけでなく魔族にまで迫害を受けることがあった。

 だが、蒼は「あの人」に出会って救われた。そして、一夜と言う初めての友人が出来、そして、慧留と出会い、生徒会の皆と出会って、蒼は考え方を変えたのだ。

 蒼はもし、「あの人」に出会って無かったら、今の屍のようになっていたかもしれなかったのだ。

「俺は…負け…ない…」

 そう言って蒼は腰にあったもう一本の刀を取り出した。その刀は真っ黒な刀だった。

 その瞬間、【第二解放エンゲルアルビオン】が完全に解けた。

 蒼の髪は白黒交じりの髪に戻り、服も魔道警察の制服に戻っていた。眼も、オッドアイに戻っていた。

「限界か…だが、すぐに楽にしてやる」

 屍は【塵雁白骨ジンカリハクコツ】を蒼に向かって投げつけた。このままでは槍が直撃し、蒼の身体は塵となるだろう。

「行くぜ…【黒時皇帝ザフキエル】!」

 蒼はもう一本の「天使」の名を呼んだ。

 すると、いつの間にか屍の前に蒼が立っており、屍の身体は蒼の先ほど出した黒刀に切られていた。

「何!?」

 屍は驚きの声を上げた。さらに、次の瞬間、足元を凍らされていることに気付いた。

 今度は屍の身体を【氷水天皇ザドキエル】で切り裂いた。

 -どうなってる!?気が付いたら身体を切られていたり、奴が目の前にいたり一体どうなって…まるで時間が止まったかのように……!

 屍は蒼の今の能力に気付いた。

 蒼が先ほど抜いた黒刀は天使【黒時皇帝ザフキエル】。時間を操る天使である。そう、蒼は【氷水天皇ザドキエル】だけでなく、【黒時皇帝ザフキエル】も所有している。

 「天使」を二つ持っているのだ。

「天使は一人に付き一つしか持てないはずだ…何故君は天使を二つ持っている!?」

 屍は疑問の声を上げた。そう、天使は本来、一人に付き一つしか持てない。天使は神器とは違い、持ち主の血を媒介にしてつくられる。

 同じ「天使」が二本あるとなれば話は別だが、全く違う能力の「天使」を二本持っているなどは普通はあり得ない。

「わりーな…説明してる暇はねぇんだ。とっとと終わらせる!【時間停止クロノデザイン】!」

 蒼は再び時間を止めた。蒼の天使【黒時皇帝ザフキエル】は一定時間、周囲の時間を操作できる。

 蒼の周囲の時間が停止する。時間が停止している間はその場所にいる、蒼以外はモノクロになっていた。

 蒼は再び黒刀で屍を切り裂いた。

「く!」

 屍は苦悶の声を上げた。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 蒼はかなり息を切らしていた。先程までのダメージが消えたわけではない。蒼もかなり限界に近づいていた。

「なるほどな…止められる時間は三秒か…」

 屍はそう呟いた。蒼は驚きの表情を浮かべた。そう、蒼の天使【黒時皇帝ザフキエル】の止められる時間は三秒だけである。屍は蒼の速力と自身までの距離を計算し当てて見せたのである。

「お前の頭は一体どうなってんだよ…」

 蒼は顔を引きつらせながらそう言った。戦闘中に頭が回り、冷静な対処ができる人間は数えるほどしかいない…そんな中、あれほどの頭脳と胆力を持ち合わせているのである。

 屍は今まで戦ってきた「アザミの花」の幹部とは違い、神器に頼り切った戦いはせず、自身の頭脳と錬金術、格闘スキルを駆使し、神器の力を最大限まで生かして戦う非常に厄介なタイプの難敵だ。

「【天地創造テンチソウゾウ】!」

 屍は上空に巨大隕石を作り出し、それが落下してきた。

「な…」

「さぁ、どうする?このままだと君の身体は粉々だよ!」

 屍がそう言うと蒼は隕石に向かっていった。

「【塵雁白骨ジンカリハクコツ】!」

 屍は蒼に【塵雁白骨ジンカリハクコツ】を放った。巨大隕石は囮だったのだ。

「【時間停止クロノデザイン】!」

 しかし、蒼は【時間停止クロノデザイン】によって時間を停止させ、【塵雁白骨ジンカリハクコツ】を躱した。

 【塵雁白骨ジンカリハクコツ】が隕石に当たり、隕石は蒼に落下する前に塵となった。

「く…この方法は悪手だったか…【天地創造テンチソウゾウ】!」

 屍は【伊弉諾尊神創イザナギノミコトカミツクリ】を再び使い、今度は蒼の周囲に宇宙空間を発生させた。

「がは!」

 蒼は血を吐き、身体中に血が噴き出した。

 宇宙空間はいわゆる真空状態であり、生物がそんな場所にいると短時間で身体が破裂する。

「これなら時間を止めても意味がないだろう!」

 屍は勝ち誇ったようにそう言った。

「【時間加速クロノシュネル】」

 蒼は自身の時間を加速し、速力を上げた。今の蒼の速力は【瞬天歩しゅんてんぽ】よりも遥かに速い。

 目にも止まらぬ速度で屍に近づいた。そして、蒼は二刀の天使で屍を切り裂き屍を吹き飛ばした。

 屍は切られるまで蒼に切られたことに気付かなかった。

「が…くう!まだだ!【天地創造テンチソウゾウ】!」

 屍は再び、【伊弉諾尊神創イザナギノミコトカミツクリ】の力を使った。作り出したのは巨大な光の玉だった。この光の玉は「光天玉コウテンギョク」天使が作り出したとされる裁きの光だ。

 その光の玉を屍は錬成し、光の三又の槍の姿に変えた。

「【光天神槍撃コウテンシンソウゲキ】!」

 屍はその槍を蒼に飛ばした。光の槍はとてつもなく速く、【黒時皇帝ザフキエル】の時間停止でも間に合わない。

「終わりだ!」

「【時間加速クロノシュネル】!」

 蒼は【第二解放エンゲルアルビオン】を発動させ、さらに時を加速させ、【氷水天皇ザドキエル】の氷を大量に作っていた。

「【霰時空華絶ハーゲルクロノブラスターク】!」

 蒼は光の槍に突撃し切りかかった。すると、蒼が刀を振るうたびに【氷水天皇ザドキエル】の氷の華が発射され、【黒時皇帝ザフキエル】の力によって氷が加速し破壊力が増していた。

 氷の華は光の槍にぶつかっていき蒼も二刀の刀を振るいながら突撃していた。

 光の槍はやがて凍り付き、砕け散った。しかし、氷の華は未だ衰えず、屍の身体を切り裂いた。

「うおおおおおおおおおおお!!」

「あああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 蒼は屍の身体を切り刻んだ。そして、それによって発生した氷の華が屍を貫く。

 屍は絶叫の声を上げた。

 そして、屍の身体は衝撃により吹き飛ばされた。

 -俺は…俺はまだ…負けられん…

 屍はそう胸中で呟いた。

 いよいよこの話も次で決着が着きます。長かった…。しかもこの話が終わってもしばらくは続くというね…。

 とうとう、蒼と屍の戦いが始まりました。次で完全に決着が着きます。見守ってくださいな。

 それではまた!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ