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Monster・child 餃子定食、ニンニク抜き  作者: 茶山 紅
捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで
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捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで(7)

捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで(7)


「ふん。ここまでか」

 そう言った瞬間だった。橘が取りだしたのは、怪しい色合いの薬品が入った注射。

「それで、何をするつもりだ?」

 俺がそう言い切るよりも先に、橘は自分の首筋に注射を刺したのだ。

 その瞬間だった。びきびきと音を立てて、体のつくりが変わっていく。

 あっと言うまに服が破けてとても人間にはみえない。どちらかと言えば、怪物のような異形へと変じていく。たしか、あれは……。

「新種麻薬の一つ、覚醒改造ウエイク・デストロイヤーね。人間の肉体を一時的に、大鬼族のような筋力と体格を与える。ただし、それを受けた者は……使用時間に比例して、寿命を縮める。……まあ、この場に居る人間を皆殺しにするのに、一分もかからないわね」

「冷静に言うな!」

 彩花の言葉に俺はツッコミを入れながら、首根っこをひっつかみ飛び退く。その瞬間に、橘の腕が彩花が居た場所にめり込んでいた。

 目にも止まらぬスピードで、彩花を叩きつぶそうとしたのだ。

「黒羽! 出番よ!」

「了解」

 彩花の言葉に黒羽は懐に入れていた薬を口の中に入れると、橘へと向かう。

「おい。あんな子供に何が」

「郷田警部。彩花は頭脳労働専門。そして、黒羽はこう言う肉体労働専門なんですよ」

 郷田警部の言葉に俺はそう言う中で、橘が黒羽を平手打ちで吹っ飛ばそうとする。

 常人ならば、上半身と下半身がちぎれて吹っ飛んでいそうな威力の平手。だが、その平手を受けた黒羽はぶわりと上半身が消え去っただけだった。

「なっ!」

 吹っ飛んだわけではない。体が霧へと変化したのだ。そして、霧から肉体へと戻った黒羽は先ほどまでと違う外見をしていた。

 背格好、服装はまったく同じ。

 だが、そのフードをおろした事で露わとなった髪の毛は除いていた黒髪ではない。キラキラと夜の闇の中でも輝いてみえる白銀ホワイトシルバー色の髪。夜の闇の中で怪しく輝くその瞳は今までと違い真紅に輝く血のような赤。

「なっ!」

「やっぱり、あいつ……吸血鬼族」

 と、白郎がそう驚いたように言う。

「な。吸血鬼族……。だが、先ほどまで日の光を浴びても平気だったし、吸血鬼族の特徴である紅い瞳じゃなかったぞ」

「先ほど、言っただろ。吸血鬼族の先祖返りの話。

 あいつが、その先祖返りの吸血鬼族だよ。あいつの母親はあいつも殺そうとしたが、吸血鬼として覚醒していたあいつは死ななかったんだよ」

 俺はそう説明をする。そんな中で、十六才の細腕で身の丈が二倍以上ある巨体と変わった橘を投げ飛ばす黒羽。空へと飛ばされた橘を見上げて黒羽はぶわりと背中から翼を生やす。蝙蝠のような漆黒の翼は奇しくも人として名付けられた名前と同じ黒い羽根。

 それを羽ばたかせて空へと飛び上がる。

「まあ。あいつの場合は、血を飲む事で吸血鬼の血が完全覚醒するんだけれどな。普段はそれようの薬品を持ち歩いてる」

「あの時、飲んでいた薬か」

 俺の言葉に郷田警部が言う。そう。彩花が作った小型血液薬品だ。組織や成分を壊さずに血を乾燥させ凝縮させたのだ。小指サイズの錠剤でスプーン一杯分の血となる。応用されたのが、輸血用として保管されていたりするのだが、黒羽は変身用の薬として使ってる。


 いや、変身と言うのは語弊があるだろう。吸血鬼の黒羽も黒羽の姿なのだ。

「つか、あれは吸血鬼族の中でも最強の古の種族エンシェントじゃねえか」

 と、白郎が叫ぶように言う。

「古の血?」

「吸血鬼族や人狼族に人魚族といろいろと種族はいるけれど、同じ種族でも能力に差があるわ。人狼族でも月を見てもせいぜい、耳や尻尾が生えるだけの存在。中には思考回路まで狼へと変わる者も居る。人魚族もただ下半身が魚なだけである人魚族から人を魅了して、思考回路すら失い生きた傀儡人形にしてしまう歌を持つ人魚。能力の強弱がある。

 その中でもっとも能力が強いのが古の種族と呼ばれる存在よ」

 と、彩花が言う。

「ただし、強い分だけその弱点も大きい。人狼族が銀の弾丸シルバーブレッドの一撃で死に至る。人魚族が陸に上がれば長く生きられない。そう言うのは古の種族が影響が大きい。得に吸血鬼族は無類の強さを持つ代わりに弱点も多いからね」

「まったくだ」

 彩花の言葉に俺は頷く。有名な所で、十字架や日光、ニンニク。他にも銀は触れる事も出来ず、流れる水や純粋な水に入れない。招き入れて貰わなければ人様の家に入れない。そして、心臓に杭を打ち込まれれば死に至る。

「人間の状態でもあいつは多少は影響を受けているからな」

 十字架は触れると吐き気を憶える。ニンニクも食べると嘔吐して、泳げない。銀に触れれば肌がかぶれて、日の光に浴びると日射病でぶっ倒れる。招き入れて貰わないと、居心地が悪くて気分が悪くなる。

「まあ。大半が笑える程度に弱くなっているわよ。変化が無いのは心臓に杭を打ち込まれると死ぬ事だけね。吸血鬼の状態でも人間の状態でも心臓に杭を打ち込まれると死ぬから」

「いや、その状態で死ななかったらそれはそれですでに人間じゃないだろ」

 彩花の言葉に俺はそうツッコミを入れる。心臓に杭を打ち込まれて生きて居るような存在なんぞ、生死体族だけで充分だ。ちなみに、生死体族とはゾンビやガイコツ、キョンシーと言った人間が化け物へとなった存在だ。思っていたよりも知性はあるのだが、あまり会いたくない種族である。

 なんて、考えて居る間に黒羽は戦いを終えていた。

 そもそも、吸血鬼はそのいくつかある弱点を押さえられない限りは無敵なのだ。体を蝙蝠、狼、霧へと自在に変化させれる。得に蝙蝠になるときに、一匹の蝙蝠から無数の蝙蝠へと変化する事も可能。おまけに弱点を貫かれても致命傷にならなければ、急速的な再生能力で復活する不死の種族。高校生になったばかりの年齢の体だが、その体はすでに超人のいきに達している。不死身で強靱な体を自在に操る。

 しかも、黒羽に油断はない。自分が最も得意とする空と言うのを戦いの舞台にしたのだ。翼を持ち自在に天を飛び回る黒羽に比べて、橘は強靱な肉体を手に入れたが、翼は手にする事は出来なかった。空を自由に飛び回り落とさないように時に蹴り上げ、殴り上げてまた空へと戻す黒羽に橘は殴り飛ばされる。そして、

「まったく。不味そうなんだけれどな」

 それだけ言うと、疲労してきた橘の後ろに回ると首筋に鋭くとがった牙を突き立てた。

 吸血鬼の十八番でありお約束の技。つまり、血を吸っているのだ。

 そして、血と一緒に薬品を吸い上げる。肉体を強化していたその薬品がなくなり、副作用が訪れる。強制的に血と一緒に薬を吸い取った盛況で体が弱っていく。

 やがて黒羽がふわりと地面に着地した時には、警察官として引き締まった鍛えられた体をしていた橘の体は、骨と皮に申し訳程度の筋肉をつけたようなひょろひょろになっていた。そして、黒羽は彩花がわたしたカップにべっと血を吐く。正確に言えば、血が混ざった橘が体に打ち込んだ薬品なのだろう。

「やっぱ、不味い」

 と、黒羽は眉をひそめて胸くそ悪そうに言ったのだった。


 唖然としている五十嵐さんへ俺は静かに近づく。

「五十嵐さん。この事件に関して、警察関係者がこのような犯罪をしようとした事に関して、心から謝罪します」

 たとえ、新人とはいえ曲がりなりにも警官として認められた男だ。だが、そいつが誘拐犯罪で人身売買と言うブラックマーケットを行おうとしていたのだ。

 それはたとえ、出会って数日もたって無かったとは言え謝罪する要素だ。だが、

「けれど、このような悲惨な事件が起きた一つの原因があなたにある事をお忘れにならないでいただきたい。あなたは娘を守ろうとしていたかもしれない。

 たしかに、怪物と呼ばれる彼等は人知を越えている。けれど、痛みを感じるし喜びや悲しみと言った感情もある。……そして、橘のように悪人が人間の中に居る。だから、怪物にだって理解し合える存在がいる。拒絶や拒否は彼等の心を傷つけるだけではなく、大切なものすらも傷つけてしまう事もあるんです」

 人間関係は鏡のようなものだと、俺は思っている。

「不快にさせたのなら、謝罪しますが……出来れば、憶えておいてください。

 貴方からご息女が真実を語らず逃げようとした原因は貴方にもあるんですから」

 俺はそれだけ言うと、すっと橘に近づこうとした瞬間だった。

「うぐあああああ!」

 どこにそんな体力が残っていたのか、雄叫びを上げると橘は血走った眼差しで雫へと向かう。

「やばい!」

 俺は思わず声を上げる。黒羽はすでに薬の効果が切れて、人間状態だ。そして、橘は取り押さえられて他の警察官に引っ立てられようとしていた。だが、その瞬間にふりほどいて雫に近づく。

「貴様の肉を食えば」

 そう言って雫さんに噛みつこうとしたが、

「止めろ!」

 そう言って蹴りを入れたのは白郎だった。

 白郎の姿が変わっており、二足歩行する狼のような姿だ。

 どうやら、わりと狼に近いすがたになるようだ。だが、よく見て見ると手は狼の前足ではなく人間の手が毛むくじゃらになって居るだけだ。

 白郎は瞬時に雫さんの身を守るように立ちふさがると拳を握り殴り飛ばした。

 どっご!

 と、容赦のない音がして壁にたたき付けられる橘。

 こうして、ようやっと事件と言う騒動は一息、ついたのだった。

 その後、橘は逮捕され、官舎である部屋にあるパソコンを調べ上げそのマーケットを逮捕すると言う大捕物があったのだが、それに関しては俺たちはノータッチだった。

 そもそも、人海戦術が最も効果的となれば集団行動と言うのにとことん向かないこの二人は邪魔にしかならない。まあ、とにかくだ。

 後日、雫はその体質から転校していった。まあ、人魚族が不老不死を狙う存在、あるいは干渉目的で誘拐されやすいのは事実だ。彩花に言わせると、

「不老不死の効果なんて無いと思うわ。おそらく細胞の活性化を促す効果があるだけよ。ヘタに摂取した結果、肉体細胞が暴走変化を引き起こしてしまう可能性があるわ」

 と、冷静に言っていた。

「そもそも、人魚族は強いのよ。そもそも、人魚族は肉食で鮫より強靱な歯をもつんだからね。人魚が人を襲い船に乗っていた船乗り全員を殺したのは有名な逸話よ」

 アンデルセンの人魚姫が泡となって消えていく話をする彩花。

 そして、

「それに、……それなりに幸せそうよ」

 と、言ってパソコンの画面をこちらに見せる。それを、俺は頬を緩める。

 そこには、人魚の状態の雫とそれを見ている宇美さんと五十嵐さん。そして、遊びに来ているらしい白郎の姿が映っていた。

 どうやら、上手く言っているようだ。

 五十嵐さんが怪物反対派から鞍替えを始めたのは話題になって居る。と、言っても劇的な変化ではない。だが、徐々に歩み寄って言っている様子だ。

 今までの反対意見を唐突に変えるというのは、会社や社会に影響を大きく与えると言う事を理解しているのは会社の社長としてなのだろう。だが、個人としては怪物との交流を推進している……わけでもない。怪物の危険性も調べて居て解っている。

 その上で、理解して歩み寄ろうとする未来を彼は選んだのだ。

 俺はそれを微笑みながら、給料泥棒な日々を過ごすのだった。


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