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Monster・child 餃子定食、ニンニク抜き  作者: 茶山 紅
捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで
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捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで(6)

 捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで(6)


「なんで、雫さんが父親である五十嵐さんから立ち去らなくちゃいけないんだよ?」

 と、俺は尋ねる。

 そう。ここが最も解らないのだ。五十嵐さんはやや過保護さに問題があるが、それでも妻や子供を愛している様子だった。それをなぜ、逃げる必要があるのかがわからない。

 そう思って指摘すれば、

「それは後で説明するわ。まずは、どうやって雫さんが部屋から立ち去ったか。

 まず、窓ガラスが割れた事件。

 これも簡単よ。台所のペットボトルが変な風に潰れて破けていたでしょ。あの中に、ドライアイスをいれて水を入れる。しっかりと密封すれば、やがて中身が破裂する。ペットボトルをガラスのそばに置いておけばおそらくガラスが割れるわ。簡単な理科の実験よ。ペットボトルもドライアイスも水だって簡単に手に入るからね」

 たしかに……。と、俺は納得する。ドライアイスなんて、お店で簡単に手に入る。買い出しの中に冷凍食品があってお店で頼めば手に入る。

「証拠はペットボトルね。潰れているのはともかく、まるで中からはじけ飛んだような感じだったしね。指紋を調べれば宇美さんの指紋が残っているはずよ」

 冷静に言う彩花。

「そして、物音で警官は台所へと集まる。その音を合図に雫さんは、まとめていた家出道具をカバンにまとめて逃げ出す準備をする。実際に、彩花さんのタンスや引き出しを見て調べて見ると、最低限の着替えが無くなって居ました。

 つまり、雫さんは最初から自分の意志で出て行く準備は出来ていた。

 そして、人知れず逃げ出すのは簡単。頑丈な縄を使う。一方を落としてもう片方に椅子を縛り付けて上に乗る。それは簡単。元から車椅子があったのだから、車椅子に縛ればよいだけだった。そして、そこで縄を宇美さんが引っ張る。

 元々、救護活動をしていた宇美さんならそれが可能だった。ゆっくりとおろすだけだから、女性だけでもまったく不可能じゃないだろうしね。……ところが、ここで宇美さんにとっての計算外が起きた。自分が向かった先には、縄はなくなっていてそして……雫さんが居なくなっていた。すなわち、狂言誘拐が本当の誘拐になった」

「………そうです」

 彩花の言葉に宇美さんが頷いた。

「な、なぜだ。なんで、私から雫を引き離そうとしていた。たしかに、雫を可愛がっていたが、それは娘としてだ。お前の事も妻として愛している。この生活になにか不満があったのか?」

「不満じゃなくてあったのは恐怖。そして、その恐怖の理由が第三の……本当の誘拐事件を引き起こした欲望の犯人を引き寄せた」

 五十嵐さんの言葉に彩花はそう言うと、俺を思いっきり突き飛ばした。

「え?」

 俺は素っ頓狂な声と共に池へと落ちた。

「ごう゛ぉあ?」

 何をしやがると言いそうになったが、代わりに口の中に水が入ってきてやまる。

 そして、池の中で俺は見つけた。

 ……そこに、いたのは雫さんがいた。

 縄で縛られて、暴れたのだろう必死にもがいたために血が流れている。

 縄の先には車椅子と雫さんが自分でまとめた着替えや服。そして、庭で無くなって居た岩が縄の先に着いていて重しとなって居る。人間ならばいくら泳ぎが得意でもとっくの昔に溺死していただろう。

 だが、その心配がないことは俺は一目でわかった。そして、なんで宇美さんが雫さんを五十嵐さんから引きはがそうとした。そして、何に怯えていたのかを……。


「うおい。お前ら」

「大丈夫よ。あいつも大概、頑丈で上部だし泳ぎも得意だからさ。

 きっと、この池の中にいる雫さんを連れて来るわよ」

「な、この池の中に雫がいるのか?」

 郷田警部の言葉にあたしがそう説明すれば、驚くように言う五十嵐和史。

「冗談じゃない。いくら雫が泳げるとはいえ、あのままだと溺れてしまうぞ。なぜ、早く助けようとしない」

「溺れる心配はないからですよ。

 ……そして、それが雫さんが誘拐させられかけた理由。そして、あなたから雫さんを遠ざけようとした理由。

 そして、宇美さんが怯えたのはこの事件が再び起きる事を恐れた」

 そう言って、あたしは懐に入れておいたある事件の新聞記事を印刷したものを見せる。 その記事を見て、黒羽は少しだけ目を細めた。

「赤い部屋の吸血鬼事件。

 隔世怪物による一つの事件」

「隔世怪物?」

 あたしの言葉に郷田警部が怪訝な声を上げる。

「隔世遺伝。まあ、珍しいけれど前例はわりとあるわ。たとえば、両親揃って黒髪だけれど、祖父か祖母が外国人で赤毛や金髪。そして、孫がその祖父や祖母の影響を受けて金髪や赤毛が生まれる。わかりやすく言えば、両親を飛び越えて祖父や祖母に似る事よ」

「ああ。両親よりもお婆ちゃんやお爺ちゃんに似ているというやつか」

 あたしの言葉に郷田警部が頷く。

「そのすごいバージョンの怪物版が隔世怪物。かつては怪物も人と共に暮らしていた時代が大昔にあった。そして、種族によったら人間に近くそして性別に偏りがある種族もあった。その中には多種族と性行為をする事で子孫を生み出す種族が居た」

『『『…………』』』

「彩花。海津さんが言っているだろ。恥じらいを持てと」

「事実じゃない」

 黒羽の言葉になにか問題があるのか? と、尋ねればなぜかため息をつかれた。

「とにかく、その中でも片親の血が強く出た。けれど、その混血がさらに人間と混じり合った事で徐々に人間の血が強くなる。そして、怪物が一時的に世に居なくなっていた時代。その間に、怪物と人間の血が混じっていた者達は怪物の血が消えて人間として生きてきた。

 そして、人と混じり合いそして怪物の血は薄まっていった。

 けれど、五年前の怪物が現れた時の事件。それによって、その血が目覚める者がいた。先祖返りとも言うべき、怪物の血が強く出た者がね。そして、雫さんもその一人」

 そうあたしが説明した瞬間だった。

「てめ! 彩花。せめて、説明をしろ。そうすれば、自分で潜ったぞ!」

 と、海津さんが池から顔を出す。そのそばには雫さんがいる。だが、先ほどまでとは外見が微妙に違う。髪の毛から除くのは魚のヒレが生えている。

 そして海津さんがお姫様だっこして上がってくれば、その正体は明からだ。上半身は人間だが、下半身は違う。キラキラと月明かりに輝く鱗が生えた魚の下半身。それは、おとぎ話でもよく出てくる海の怪物の代表格。

「……人魚族」

 と、郷田警部が声を上げる。

「そう。彼女の先祖……おそらく母方の先祖は人魚の血を引いていた。怪物の遺伝子強くなった人間は人間の姿と怪物の姿がある。特定の条件を満たせば怪物となる。けれど、人の姿でも怪物の時の影響が出る。おそらく、足が動かなくなったのも人魚族だから。つまり、五年前の事故は怪我ではなく怪物の血が目覚めかけた影響だったのよ」

 あたしは静かにそう言った。


 びしょ濡れの中で、俺は池から出ながら彩花の推理を聞く。

「まあ、最初の頃は足が不自由になった程度だった。けれど、徐々に目覚めてきていた。……違いますか?」

「……ええ」

 彩花の言葉に宇美さんがこくりと頷いた。

「一ヶ月ほど、前でした。娘をお風呂に入れていたら足に鱗が生えていたんです。なにかの病気かと思ったんですが……乾いていくと鱗は無くなってきていて……。

 そんな中で実家の母から電話があったんです」

 宇美さんの話を要約すると、宇美さんの実家に人魚族が訪れたらしい。そして、かなり大昔に自分の先祖が人魚族と交わっていたことを知らされた。そして、足が不自由だったり泳ぎが得意だったり歌が上手なものが自分たちの血を色濃く受け継いでいる可能性を語られたそうだ。その特徴に一致するのが、雫だった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 そう言ったのは郷田警部だ。

「事情は、解った。だが、なぜそれを旦那に伝えないんだ?」

「それがこの事件と関係があるのよ」

 そう言ってあたしは、記事を見せる。

「五年前に起きた事件。吸血鬼の赤い部屋事件。

 雫さんと同じように、先祖が怪物の血を引いていて先祖返りを起こした家で起きた事件」

 その言葉で俺は口を開く。

「当時、俺は担当していましたよ。一応、殺人を担当していたんでね。まあ、あの頃は今よりも新米でしたが……。両親と息子が二人と娘が一人。近所でも評判の仲良し家族でした。ただし、母親が異常なまでに怪物に恐怖心を抱いていた。

 まあ、五年前はまだ怪物が認識され初めて間がたっていない頃でしたからね」

 俺は黒羽の様子を見ながら言う。黒羽はじっと雫を見て、そして今度は五十嵐……さんを見る。黒羽の目には五十嵐さんがどんな姿でみえているのか……。五十嵐さんで誰を見ているのか……。

 そう思いながら、俺は語る。

「そんな中で、一人の息子が吸血鬼族に先祖返りしたんですよ。そして……」

「母親が同じく吸血鬼になるかもしれない他の子供を殺し、吸血鬼の血を継いでいるかも知れない旦那を殺して自分も殺した」

 俺の言葉を途中で取って黒羽がそう言い出した。

「錯乱した母親が包丁を振り回したせいで、部屋中が血で真っ赤に染まっていたよ。逃げられないように内側からしっかりと鍵をかけていたから、逃げられなかった。床なんか真っ赤な血の池が出来たぐらいだ。しかも、目覚めていたのは吸血鬼。

 人魚と違って印象も悪い。血を吸う人類の敵と言うイメージが強いからな」

 そう言いながら、黒羽はすっと五十嵐さんを見据える。

「わかるか? 奥さんが恐れたのは、あんたが娘を怪物と言う事だ。そして、怪物嫌いのあんたが、錯乱して自分の娘を殺すかもしれない。そう思ったんだよ。

 あんたは、怪物をバケモノ呼ばわりするがな。こっちだってきちんと生きて居るんだよ。過去や思い出や大切な存在ぐらいあるんだ。あんたは、それを否定して壊しているだけだ」

 その言葉に五十嵐さんが言いよどむ。

「わっ……わたしは……」

「はい。その話は後で良いでしょう。

 とにかく、ここで三つの犯人の思惑のうち、二つは語りました。そして、三つ目。欲望の犯人。彼が宇美さんが来る前に雫さんを舌におろして、縛り上げて重しを着けて池に鎮めた人物。そして、本当に誘拐しようとしていた犯人。

 その犯人は……貴方が答え」

 そう言って彩花は一人の人物を指さした。


「その犯人は……貴方が答え」

 そう言って彩花が指さしたのは、……橘だった。

「なっ? 俺。ちょ、ちょっと待ってくれよ。どこにそんな証拠が?」

「証拠ね。あなたの家を調べれば、証拠は出てくるはずだと思うわよ。

 パソコンの中にある怪物を売買する裏組織とのやりとりとかね」

 橘の言葉に彩花は静かに言う。

「人魚がかかわる話で有名なのは、人間の王子に恋して人間になった人魚姫の物語り。けれど、それと同じく有名なもので八尾比丘尼と言う話があるわ。

 その話の詳細は省くけれど、人魚の伝説にこういうのがあるわ。人魚の肉を食べると不老不死になると言う伝説がね」

「不老不死……」

 彩花の言葉に俺は呟く。年を取らず、死なないと言う人が必ず夢見るものだ。

「もちろん、五年前まではそんな夢物語だった。けれど、太古の昔から不老不死を望む者はいた。地位と富と権力を手に入れた者が最終的に求めるのは大抵は、永遠の命だった。

 それは、現代も変わらない。怪物が現れて不老不死が可能かも知れないと思う権力者や金持ちは確かに存在する。怪物の特徴を金儲けに使おうとするあくどい人間もいるからね」

 その言葉に俺は心当たりがある。過去に、なんどか彩花と黒羽がかかわってきた事件。若返りの効果があるとか、好きなだけ金を生み出せる。時にはその力を使い邪魔者を排除すると言う事を、無理矢理させていた。

 そう。怪物が関与している事件とは犯人が怪物とは限らない。

「五十嵐さんは犯人が怪物と決めつけていたようだけれど……。人間が全員、善人だったら五年前から警察なんていらないでしょう」

 彩花の言葉に誰もが黙る。

「むしろ、犯罪は複雑化したわね。これも良い例よ。

 で、橘が犯人である証拠ね。……雫さんの目撃表現もあるし、家宅捜査すれば山のように情報はあると思うわよ。で、マンネリなごまかしはいらないわよ」

「……どうして、俺が犯人だと解った?」

 彩花の言葉に橘は睨むように尋ねる。……それは、自分が犯人だと認めた証拠だ。

 その言葉に周囲が息をのむ。犯人は怪物だと思い込んでいたが、まさか犯人は人間でありしかも、警察だと言うのは予想外だったらしい。まあ、警察だったのは警察官とは頭が痛い事実だ。

「まず、おかしい。と思ったのはあなたが近いうちにこの五十嵐さんの家のような家を建てる。と、豪語していた事よ。

 公務員の給料なんてたかが知れているし、そもそも新人警官の給料はたいした事がない。社宅で暮らしているんだから、それほど裕福じゃない。

 だとしたら、どうやってそんなお金を手に入れるつもりか? 雫さんが人魚の可能性はうすうすと気づいて居たからね。人魚とお金も縁がある。……雫さんを連れていくのも、他の人魚族の所かしらね。先祖返りと言う事で不老不死を求める人間に狙われないようにすると言う目的もあった」

 その言葉に宇美さんが頷く。

「そもそも、人魚族の目撃例が少ないのも住んでいるのが深海と言う事もある。けれど、何よりも大きな理由が、不老不死を求める人から隠れる為よね。

 で、調べて見ればあの日、庭を見張っていたのは橘。それも、偶然じゃなくて毎晩、見張りを担当していた。おそらく、あなたは真実を気づいて居た。そして、その逃げ出す日に逃げる方法を利用して逆に捕まえようと企んだ。

 夜に一人で庭で寝ずの番。しかも、春先とはいえまだ肌寒い。誰も好きこのんでやらないから、変わると言えば大抵の人間は頷いていたんでしょうね」

「ああ。すごく寒い」

 彩花の言葉に俺は池の水で冷えた体を黒羽がタオルでふきながら頷いた。

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