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Monster・child 餃子定食、ニンニク抜き  作者: 茶山 紅
捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで
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捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで(4)


 捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで(4)


 とにかく庭を見てまわった。そんな中で、彩花に言われて今度は彩花と共に、家の中をまたも見てまわることになった。

「この警備の中をくぐり抜けられるわけ無いだろう」

「ありとあらゆる可能性を考慮して調べるのが調査ですよ。それに怪物は、人間の今までつくって居た常識を超えた事も可能としています」

 郷田警部の言葉にそう言って、彩花は家を見てまわる。……ちなみに、またも橘が一緒に見ている。

 しかし、本当に立派な家だ。

「本当に立派な家ですね。俺ももうすぐ家を建てるんですよ。

 この家に負けないぐらい立派な家を建てたいものです」

「公務員の安月給でそんな家が買えるかよ!」

 橘の言葉に俺は呆れ混じりに言う。

 なにしろ、この家はバリアフリーと言う事実を引っこ抜いても立派だ。さすがにプールつきと言う西洋の屋敷みたいな豪華さはないが……。それでもたいした者だ。

 一室には巨大な水槽があっていろんな魚が泳いでいる。

 なんでも宇美さんと雫が可愛がっている魚らしい。

 元々、宇美さんは海の近くに住んでいた事から魚や海が好きらしい。それを聞いて彩花は、なにやら目を細めていたが……。

 とにかく水槽用の部屋が一室あるだけではない。夫婦の寝室に夫婦の個室。音楽を聴くための部屋にシアタールーム。お風呂は和風の風呂に洋風のお風呂と二種類ある。

 足のリハビリのための部屋などもある。また、

「ここは、書庫ね。ここも中々に立派ね。本もいろんな種類が揃っている」

「漫画はないな」

 彩花の言葉に本棚の背表紙を見て、黒羽がつまらなさそうに言う。

 漫画以外にはろくに活字を読まない黒羽らしい目の付け所だ。しかし、本当に本の品揃えはすごい。ちょっとした学校の図書館並に充実している。

「へえ。新聞記事とかもスクラップしている」

 俺はあるファイルを開いてみる。

 大半が怪物事件の事ばかりであり、怪物の危険性がまとめてある。

 ……このファイルをどう言う目的で使うのかは、だいたいは予想がつく。たしか雫の学校に怪物の転校生が来たと言う事で文句を言っていた。近い将来、人間と怪物を分けるべきだと言う意見をだすつもりかもしれない。

 怪物の関係した犯人が怪物や原因が怪物とされる事件。

 その中に俺はひときわ、何度も読み込まれたと思われるファイルを手に取るとおもむろにページを開く。すると、見覚えのある記事が現れた。

 それは、まだ怪物が現れたばかりの頃だ。わざわざ、インターネットで調べてプリントアウトしたらしい。新聞から切り抜いたと言うよりも、プリントした用紙を切り抜いたという事は、一目でわかる。とにかく、その記事には吸血鬼に対する恐怖による流血の部屋。「……その記事……」

 興味を持ったらしい彩花が俺の手からそのファイルを取る。

「あ、彩花!」

「大丈夫よ。黒羽のやつ、活字ばかりに興味が無いからってあっちの方にいるわ」

 俺の言葉に彩花はそう言って目線で指す。その方向を見ると、部屋の隅の日当たりの悪い場所でぼんやりと座って居る。おれはほっとため息をつくと、

「………。これ、何度も見ている形跡があるわね」

「あ? そうなのか?」

 彩花の言葉に俺はそう聞き返した。


「そうよ。海津さん。一つ、聞くけれど、適当に開いたんでしょ」

「ああ」

「つまり、これはおそらく勝手に開くほど癖がついている。つまり、このページを何度も見ていると言う事よ。

 ……けれど、おそらくこれを見ているのは父親じゃなくて母親の方ね」

 そう言って、彩花は静かに見据えて言う。

「なんで、そんな事までわかるんだよ」

「……微弱だけれど、女性向けのハンドクリームがついているわ。まあ、最近では男でも女性向けのハンドクリームを使う事もあるけれど……。あの五十嵐がそう言うタイプの人間と考えるよりも、この家の女性が開いたと考えるべき。

 ……で、このファイルは海津さんの目線ですぐに取れる場所。つまり、成人している人間が立った状態で取る場所にあるのよ。雫には手が届かない。

 だから、最も読んでいる可能性が高いのは……宇美となるわね。このハンドクリームがしっかりとしみになっている。これも何度も読んでいる証拠だしね」

 そう言うと、ファイルを返してきたので俺はしまう。そこに、

「お二人とも、なにか見つかりました?」

 と、橘がやってくる。

「ああ。いや……隠れている可能性は無さそうだ」

 と、俺はごまかす。……まあ、この本棚で隠れるような怪物となれば小人や妖精と言った連中で、あの手の連中は無邪気なものなのだ。……無邪気だからと言って事件を起こさないというわけではないのだが……。

「まあ、何も無い空間に予告状を出すなんて……怪物に決まっていますよね」

 と、橘が言う。そこに、

「そうに決まっているじゃ無いの」

 と、彩花が言う。

「不条理に不可思議、怪物が居るからこそ起きているのよ」

 その言葉に俺は眉をひそめる。

 彩花の口癖と言うかモットーとは真逆だ。

「とは言え、そろそろ帰るわ。

 明日は学校があるのよ」

 学校。その言葉に俺は肩をすくめる。……そう言う事か……。

「それじゃ、俺が送っていくよ」

「そう。ありがとう。それじゃ、黒羽。行くわよ」

「おー」

 俺の言葉に彩花は黒羽を読んで、そして郷田警部に簡単な挨拶をして家を出る。郷田警部や五十嵐さんにはなにも言われなかったのは、やはり邪魔者と思われているらしい。

 俺たちは車を乗って、適当な地点まで走らせて、

「それで、何を考えて居るんだ?」

 そう言って俺は外を見る。すでに夕方で空は茜色に染まり初めて居る。

「……おそらく、今夜に事件は動くわ。

 この二重奏の事件はさっさと終わらせてご馳走でも食べましょう。

 とにかく、しばらく走って適当なファミレスで夕食にしましょう」

「ファミレスかー。……ニンニク抜きを注文で着るかな?」

 彩花の言葉に黒羽がそう言う。

「了解」

 俺はそう言いながら車に止める。そもそも、この二人は学校に通っていない。明日は学校にあると言うのは、罠を作るから一時的に撤退すると言う意味なのだ。

 その後、俺たちはファミレスに入る。……一見すると、俺はどう見られるのだろうか?

 そう思いながら、俺は店員に案内された席に座ったのだった。


 彩花は山菜ピラフと季節の温野菜のサラダと野菜シチュー、更にリンゴアイス。黒羽は麻婆豆腐にワンタンスープにかに玉ライス(ちなみに、ニンニク抜き)と杏仁豆腐。俺は、適当に焼き魚セットを注文する。

「それで、なにが解ったんだ?」

 と、俺は注文を終えて、店員が居なくなったのを確認して尋ねる。

「まず、五十嵐家の家族構成について調べたわ。まあ、会社の社長である五十嵐和史に有名人であるその娘の雫はともかく、奥さんの方を調べるのは大変だったわ」

 そう言って、ノートパソコンを立ち上げる。……ちなみに、このノートパソコンを運んだのは俺だ。小型化、軽量化が主流である昨今では珍しく持ち運びできないわけではないが、わりと重めのノートパソコン。まあ、彩花が要求するスペックのノートパソコンはかなり多種多様な機能が搭載されるのだから、しょうがないだろう。

「元々は、海辺の近くに住んでいる古い家の出身ね。名門とか名家とかじゃないけれどね。そこで、若い頃の五十嵐和史と出会って恋愛結婚。

 あの家では解らなかったけれど、子供の頃から海の家で働いたりと活発な性格みたいね。泳ぎはかなり得意。子供の頃に海で救助活動をして表彰されたこともあるわ。

 結婚前は水難救助隊で働いていた事もあるそうよ」

「意外だな」

 わりと大人しめな印象だった気がするのだが……。

「……ま、その宇美さんが住んでいた地域について調べたら……。

 面白い伝承があったわね」

 面白い。彩花が面白いと言う事は、大抵は何かしらの謎があると言う事だ。そして、それをこの状況で言うと言うことは何か、今回の事件に関与している可能性があるらしい。

 だが、彩花はそれ以上は語ろうとしない。……まあ、そう言うのは今に始まった事ではないのだが……。

 そう思っている中で、注文していた料理が並ぶ。

 彩花はピラフを口にしながらさらにパソコンを操作する。

「それと、これは雫の学校に転校してきた生徒。

 怪物なのは事実ね。前にもこの近所に住んでいたけれど、引っ越したみたいね。その後、またもここに引っ越して来た。種族は……人狼族」

 その言葉に俺は目を細める。

「人狼族って……、雫が事故にあった時にかかわった怪物だろ」

 だとしたら、娘を転校させようとする五十嵐さんの考えも無理は無いかも知れない。

「そう言う事よ。それで調べて見たら……これまた、面白い事が解ったわ」

 にっと笑みを浮かべる彩花。

「おそらく、事件は今夜に動くわ」

 楽しそうに笑う彩花。

「それで俺の活躍はあるのか?」

「そうね。……ほとんど無いわね」

 黒羽の質問に彩花はきっぱりと答える。

「なんだ。つまらん」

「あのな。仕事は、つまらない。とか楽しいとかの問題じゃないんだ。特に俺たちみたいな仕事はな! 結局の所、どんなに大変でもその仕事を受け入れなくちゃいけないんだ。

 それに……お前にとってつまらなくても、お前が活躍しない仕事の方が良いんだよ」

 と、黒羽に俺は説教をする。

 一応、うちの課は役割が決まっている。頭脳労働は彩花。そして、俺は交渉ごとが担当だ。そして、黒羽は……実戦担当だ。

 もちろん、俺も彩花や黒羽のフォローをするのだが……。

 黒羽と戦った場合、条件次第では善戦出来るだろうが……。

 全力を出しても俺は黒羽に負けると断言できるほどの実力差があるのだ。


 その後、車の色を変える。彩花が注文した車は専用の薬品で、黒だけではなく、白、赤、青、緑と言う合計、五色の色に変える事が出来るのだ。これも特許を取られており、定期的に景色を替えるものに利用されている。ただし、車には一般的には使用されていない。

 答えは簡単で、悪用されると質が悪いからだ。逃亡車の特徴を憶えるとしたら、一番最初に確認して欲しいのは車のナンバーだ。だが、一瞬で逃げ出されてしまったり、対策として隠されていたりして、必ず憶えていられている保証は無い。

 だから、よく憶えられるのでは車の種類と色だ。だから、簡単に色が変えられる車なんて言うのは、一般に出回れば悪用される。

 つまり、彩花の車はようするに特例と言う事だ。もちろん、この車にも弱点があって水で濡れるとすぐにその薬品が溶けて元の黒色に戻ってしまう。

 まあ、張り込みなどでも便利なので利用している。そう思いながら、俺はコーヒーを口にする。すでに後ろの座席では彩花と黒羽が座席をベッド状態にして寝ている。

 若い男女が並んで寝ていると言うのは、どうかと思うが……。本当に熟睡をしている。お互いを異性として意識している様子すらない。

 しかし、中ではなく外で見張ると言うのは……。

 俺はそう思いながら、外から家の様子を見る。

 今のところ、怪しい様子は無い。そう思っていた時だった。屋根伝いに走る人影を見る。

「黒羽! 彩花! 起きろ」

 俺がそう起きれば、朝は弱いが夜ならすぐに目を覚ますと言う体質の黒羽が目を覚ます。

「誰だ?」

「容疑者だ。とりあえず、人間の可能性だけは無さそうだ」

 俺はそう言って相手を見据える。星明かりもほとんどなく電灯は足下を照らしており、屋根の上の人影ははっきりと見えない。

 黒羽は懐に手をいれる。

 とは言え、まだ怪しいだけだ。怪人の中には急いでいると人の家の屋根の上を飛び回って移動するやつもいるのだ。……呆れた話だが、あえて言えば人の家の裏庭を移動するようなものなのだ。誉められた事ではないが、近道の感覚に近いのかもしれない。

 その程度の事で一々、目くじらを立てるのも大人げない。

 そう思いながら、俺は影を見る。……とは言え、夜目は俺よりも黒羽の方が利くのだが、それでも俺も確認した方がよい。

 背丈はよく解らないが、大人とは言えない。まだ成長途中の印象だ。姿形は人間に限りなく近い。少なくとも四足歩行や足が二本以上あると言う訳では無い。体格も限りなく人間に近い人間型の怪物だ。ただし、動物の耳と尻尾がある。その姿を見て、人狼族だと俺は思う。……もちろん他にも似たような特徴を持った怪物はいる。だが、前持った情報から考えるに人狼族だと俺は思うのだ。この程度の推測ぐらいは彩花じゃなくても出来る。

 その人狼は近くの家の屋根の上で立ち止まる。……怪しいと思っている中だった。

 ガッシャーン! 派手な音と共に五十嵐さんの家で窓ガラスが割れた音がする。それと、同時に家に明かりが騒ぎ、中に居る警官たちが騒ぎ始める声が聞こえる。

 それを見た瞬間に、逃げるように立ち去る屋根の上に居る容疑者。

「なんだ?」

「落ちついて!」

 彩花は言う。

「そろそろ、動くわ。黒羽は、逃げた方を追いかけてちょうだい。一応、無関係でもないから」

「了解」

 黒羽はそう言うと懐にしまっていた錠剤を口に含むと、外へと飛び出る。

 それと同時に、俺は五十嵐さんの家へと向かおうとするが、

「それはいらないわ。しばらく様子を見ていて」

 と、彩花に言われたのだった。


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