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Monster・child 餃子定食、ニンニク抜き  作者: 茶山 紅
捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで
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捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで(3)


 捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで(3)


 黒羽を探して俺は五十嵐家の屋根の上に来ていた。

「おい。黒羽。……大丈夫なのか? 今は昼間だぞ」

「ちゃんとハシゴを使って上ったから、大丈夫だ」

 俺の質問に黒羽はそう言うが、ぐったりとしている印象だ。……黒羽はいろいろと苦手なものが多い。泳げないカナヅチ、銀細工も触れれば肌が赤く腫れ上がる。ちなみに、塩素だけでは駄目なのでプールも論外だ。後、ニンニクも苦手なのだが、その癖中華料理が好きなので、大抵は注文でニンニク抜きの料理を注文している。

 人付き合いがヘタな彩花と黒羽だが、それにはちゃんと理由がある。二人とも、親に捨てられたようなものなのだ。

 彩花はその天才過ぎる頭脳が周囲との亀裂を産んだ。……まあ、当人の性格にも問題が(過分に)あったが、その彩花の面倒を両親は六歳で放棄したのだ。早熟だった彩花は、あっさりと両親に捨てられた事を受け入れた。そして、それからいろんな人間と出会って来たが、彼女は自分が異端者、異分子と思っている。

 数式や問題と言ったのに相手をしていて、人付き合いを憶えなかった。……同年代の友達も出来ずに彼女を子供として見てやる大人も居なかった結果だと俺は思う。

 初めて彩花と出会ったときなんぞ、大人のような目をしていたが迷子の子供のように見えた。つまり、すでに死んだような目をしていたのだ。

 そして、彩花と出会った時が黒羽との出会いだった。

 五年前に起きた、ある猟奇的な自殺事件だった。

 母親が発狂したのだ。父親を殺し、黒羽の妹と兄までも手にかけて最後には自らを殺したと言う猟奇的な自殺だった。その事件を捜査に参加していた俺は、今でも現場と黒羽の事を憶えている。けして狭いとは言えない家の一室が真っ赤な血であたりが染まっていた。

 内側から鍵をかけられたその部屋をこじ開けたら、ドアから血が流れてきたほどだ。気の弱い新人がそれを見て、一人が気絶してもう一人が嘔吐して、もう一人は漏らしたほどだ。生存者である黒羽が居なければ、俺も顔を背けていただろう。

 だが、そんな中で真っ赤な血を頭から被っている黒羽。それを話しかけて、大丈夫か? と、声をかけた。その時に俺をみた黒羽の真紅に染まった目は今でも忘れられない。大丈夫か? なんて、尋ねられるわけがない。そう思っていたのにと目が語っていた。

 その事件の容疑者が黒羽であり、その事件の真相を暴いたのが彩花だった。

 その後、黒羽は親戚の家に預けられるはずだったが……。いろいろと問題が起きた中で、彩花がなぜか自分の所で暮らせば良いと言ったのだ。……二人とも、初対面ながらに心配だったので、時たまに面倒をみてやっていたのだが……。

 気が付いたら、二人が上司になっていたとはどう言うことだろうか?

 俺はしみじみと現状を思いながら、もって来ておいた日傘を黒羽に差してやる。

「せめて、日傘ぐらい差しておけ」

「ありがとう。海津さん」

「それで、なんか解ったのか」

「まあね」

 俺の質問に四つん這いで調べて居た黒羽はぺろりと屋根の瓦をなめて頷いたのだった。

 端から見ると不気味だが、これが黒羽の捜査方法だ。

 そんな中で、彩花が雫と話を終えたと言う連絡が入る。

 俺たちは正直にハシゴから下りる。

「とにかく、一人で勝手にふらふらするな。お前らはまだ子供なんだから」

「俺たちを普通の子供のように心配する人なんて海津さんぐらいだよ」

 俺の言葉に黒羽はそう言う。

「そう言う事を言うな。探せばもっといるさ」

 俺はそう言って黒羽の頭をフード越しに撫でたのだった。


「つまり、あの五十嵐さんの怪物嫌いは娘を襲われたと言う事からか?」

「襲われたと言うのは、間違いだと思うけれどね。

 そもそも人狼族って六歳ぐらいから感情の高ぶりで唐突に変身する事があるのよ。特に満月を見ると衝動が強くってね。初めての変身の場合は、興奮が酷い事もあるそうよ。

 人間で言うと反抗期のようなものね」

 彩花は静かにそう説明した。

 たしかに大人になる家に反抗期と言うのが生まれる。

 そう言うものだと言われれば素直に信じるしかない。

「狼の様な気質があると言うイメージから凶暴凶悪な印象が強いけれど、実際の所は人狼は誇り高いしそもそも群れで生活する修正から意外と、ルールは守るわ。ついでに恋愛に関しても一途で生涯にわたって伴侶と決めた相手と添い遂げて、どちらかが死んでも生姜に渡って操を立てるそうよ」

「そりゃ、たいしたものだ」

 狼男と言うイメージとは意外とかけ離れた話だ。

「けれど、この家の屋根の上で目撃されたのは間違いなく人狼だぞ」

 そう言ったのは黒羽だ。

「間違いないの?」

「ああ。雨風に流されていたが、わずかに血が残っていた」

 ぺろりと唇を舐めて黒羽は言う。

「それ、郷田警部に伝えたの?」

「一応、伝えたよ。俺が」

 彩花の質問に俺はあの時の事を思い出して胃を抑えながら言う。

 黒羽が見つけた血の跡について話したのだが、郷田警部に怒鳴られた。雨風で汚れている屋根の上に血痕があるわけないだろう。第一、あの屋根の上はこちらも手かがりがないのかどうかきちんと調べた。と、怒鳴り散らされた。

「その様子だと、黒羽の分析結果までは言えなかったみたいね」

「ああ。これ以上、余計な報告はするな! と、怒鳴れたよ」

 まあ。郷田警部の気持ちもわかるのだ。とは言え、黒羽の能力を説明できれば話は別なのだが、あの五十嵐さんがそばに居る状態では難しい。

 あの人が余計に怒るのは火を見るより明らかだ。

「それで、黒羽の分析結果は?」

「種族は人狼。性別は男。血液型はO型。年齢は十三歳で雫と同い年だ。

 持っていた感情は謝罪と恋慕と悲しみ。さすがに古い上に血が微量過ぎてこれ以上は解らない」

「了解」

 黒羽の言葉に静かに言う。

「それで、容疑者の正体はわかるのか?」

「無茶を言わないでよ。十三歳の人狼なんていくらでもいるし、血液型だって珍しい血液型じゃない。ついでに、人狼族って言うのは女性が極端に少なくて男性が極端に多いのよ」

 俺の質問に彩花はそう言いながらパソコンにものすごい勢いで情報を打ち込んでいく。職場でふにゃりとしていた陸に上がったクラゲ状態とは違う。生き生きとしているその姿は間違いなく美少女と呼ぶに相応しい。

 ……常時、この状態だったらよいのだろう。

 だが、あいにくと興味ある事、困難にぶつからない限りこうならない。

「そもそも怪物の中には性別が固定されていたりする、性別の割合が極端に偏っている種族が多いからね。人魚は女性が多いし、人狼は男性が多い。ラミア族や雪女族なんかは女性しか生まれないしね。だから、そう言った種族は多種族との交配で子孫を残すのよ」

「……交配って……」

 もう少し恥ずかしがって歯に衣を着せて言えないのか? と、俺はため息をついた。


「だから、人狼族の男なんて言う理由じゃ探すのは難しいわね。女なら別かも知れないけれどね。それにしても……」

 そう言って、彩花は笑みを浮かべる。

「中々に面白そうじゃないの。それなりに、好奇心が刺激されてきたわ」

「言っておくが、それは不謹慎だからな。

 少なくとも娘が誘拐されそうになって居て、あの五十嵐さんはイライラしている。それに、奥さんだってすごく心配している。雫も憔悴している様子だぞ」

「はたして、誘拐を怯えてかしらね」

 俺の言葉にくすりと彩花が笑う。

「そもそも、みんな見当違いの疑問を抱いているのよ」

「見当違い?」

 彩花の言葉に俺は怪訝な顔をする。

「誘拐をする上で理想的な状況は、三つ。

 一つは、誘拐する対象が一人で居る事。

 二つ目は、連れ去る事が困難じゃない状況。

 三つ目は、相手が警戒していない事よ」

「そりゃ、そうだろうよ」

 護衛がついている状態だと誘拐なんて難しい。また、対象が誘拐されるかも知れないと注意していれば、嘘をついて騙す事も難しい。

「どんな犯罪であろうと、予告する事にメリットはほとんど無いわ。特に誘拐となればね。そうなると、考えられる可能性は少ないわ。

 一つ目は、これから誘拐すると知らしめたい。けれど、それなら警察だけではなくマスコミにも連絡をする方が利点が高い。

 二つ目は、誘拐犯が警察の中に紛れ込んでいる」

「……お前、警官を疑っているのか?」

「あくまでも可能性よ。けれど、あらゆる可能性を考えて不可能を除外する。今のところ、その可能性は除外する要素はないわ。否定したいと言う欲求があるだけよ」

「だとして、この沢山の警備の中でどうやって彩花を連れ去るんだよ?」

「さあね。とにかく、調査は進めるわよ」

 そう言うと彩花はまたもパソコンを打ち込んで調べ始める。

 なにやら、記号の羅列ばかりだ。どちらかと言えば外で捜査する方が得意の俺には意味不明の内容が広がっている。

「それじゃ、俺たちも調査をしてみるよ」

 黒羽はそう言うと外へと出るので、俺は黒羽に着いていく。

 今の彩花には俺の助太刀はいらないだろう。とは言え、

「手伝いはいらないんだよな」

「必要になれば呼ぶわよ。海津さん」

 と、俺の確認にそう言って彩花はパソコンから顔を上げずに言う。

 その言葉に甘えて、俺はその黒羽の跡を続く。

「お前、今は昼間だが大丈夫なのか?」

「まあ、今の状態ならせいぜい日射病になったり立ちくらみを起こしたりするだけだ。

 少なくとも死んだりはしねえよ」

 俺の質問に黒羽はそう言いながら庭を見る。手入れされた芝生に同じく手入れが生き度と居て居る植木。花壇にはいろんな花が咲き誇っていて、大きな池まである。

「池まであるのかよ」

 俺はそう言って池を覗き込む。池の水はドロが混じり合っていて、奥底は見えない。だが、鯉や水鳥の他にもいろんな生き物が居る。

「かなり深いみたいだな」

 はたして、これの維持費はいくらかかるのだろうと俺はぼんやりと思いながら言った。


「この、中に潜んでいるとかは無いだろうな。俺、泳げないんだぞ」

 と、黒羽が言う。

「潜って隠れるか……」

 なるほど、たしかにあり得るかもしれない。

 犯人が怪物ならば、長期間の水中で息をひそめているのも可能だ。たとえば、水棲の怪物……半魚人や河童と言った連中ならば陸上でも活動が可能だ。

 そう思っていると、

「何をしているんですか?」

 と、宇美さんが現れる。

「あ、いえ。犯人が万が一、半魚人などだったらこの池の中に隠れている可能性があるな。と、思って調べて居たんです。なにしろ、この水は濁っていますからね」

「すみません。濁っていて……」

 俺の言葉に宇美さんがそう言って謝罪する。

「あ、いえ。その……文句ではありませんよ。むしろ、すごいですね。

 これだけの庭にこの池。水道代だけでも馬鹿に……あ、いや」

「根っからの庶民だよな。海津さんは」

 俺の言葉にやれやれと言う風に言う黒羽さん。

「つーか、こういうときに気の利いたことを言って女を口説けないのかよ? そんなんだから未だに彼女が居ないんだ」

「人妻を口説いてどうする!」

 黒羽の言葉に俺が怒鳴ればクスクスと笑う宇美さん。

「仲が良いんですね。本当に上司と部下と言う関係なんですか? 実は親戚とか? ご家族とかではないんですか?」

「あー。いや……家族ではないんですが……。上司と部下になる前から、たびたびに面倒を見に行っていましたね」

 諸事情で一人暮らし……と、言うか二人暮らしをしている二人。その二人が心配で時たまに様子を見ていた。そうでもしなければ、この二人は他者とかかわる事を止めていたかもしれないと今でも本気で思っている。

「つか、俺たちみたいな子供がいたら海津さんは子持ちやもめで一生独身だよ」

「余計なお世話だ。つーか、百歩譲ってお前らが家族だとしたら、弟や妹だ。

 俺はお前らみたいなデカい子供がいるような年齢じゃない!」

 逆算したら、俺が十一歳の時の子供になるではないか!?

「そんな事はどうでも良いだろ。それでこの池の中をどうやって調べるんだよ?」

 俺としてはどうでも良くないのだが、たしかに調べる方法だ。

「彩花がもって来ている水中カメラだって、さすがに無茶だぜ」

 たしかに、車のトランクの中には彩花が開発したいろんな発明品がある。その中には、無駄に高性能で売れば数百万の値がつく高性能な水中カメラもある。

 だが、これだけ濁っていればいくら高額でも見える景色は大差がないだろう。

「大丈夫だと思いますよ。この池には和史さんが特注した水棲の怪物が嫌う音を出す装置があるんです。長期間、聞き続けていると血を吐くことすらあるそうです」

「徹底しているな」

 呆れたように言う黒羽。

「ひょっとして、他にもいろんな仕掛けが?」

「いえ。さすがに外などでは、近くを通る怪物にも迷惑がかかると言われているので……。けれど、あの人は本当に怪物を嫌っている……。万が一……」

「万が一?」

 宇美さんの言葉に黒羽が聞き返すと、

「あ、いえ。なんでもないんです」

 と、宇美さんはそう言ったのだった。


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