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Monster・child 餃子定食、ニンニク抜き  作者: 茶山 紅
捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで
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捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで(2)

 捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで(2)


「専門家と言っておきながら、実際はまだ子供じゃないか。

 しかも適当に見てまわって、やっている事と言ったらここで食事をする。

 警察はふざけているのか?」

 そう言って立ち上がる五十嵐が、立ち上がる。

 そして、ヒステリックに手にして居たコップをたたき落とす。

「あなた、落ち着いてください」

 そう言って宇美さんが五十嵐さんを落ち着かせる。

「ただ、食事をしているだけじゃないですか?」

「喧しい。専門家と言うならば、とっとと娘を狙っている怪物を退治しろ」

「落ち着いてください。まず、本当に犯人が怪物だと言う証拠はありません。

 たしかに、屋根の上に乗っていたのは怪物の可能性がありますが……。

 そう単純な事件と言う可能性はありません」

 と、冷静に言う彩花。

「とにかく、部屋に怪物が侵入した形跡については調べさせてもらいました」

「…………」

 彩花の言葉に俺は考える。やっていたことは部屋を見据えて、そして天上を見ていただけのような気がするのだが……。だが、そう言われれば五十嵐は黙る。

 そんな中で、宇美さんがガラスコップを片付けていると、

「痛い」

 と、指に血が流れる。

「大丈夫ですか?」

 と、黒羽がそう言うとすっと手を取ると血をハンカチでぬぐう。

「俺が片付けますよ」

 そう言ってガラスを集める黒羽。

「ふん。子供に一体、なにが出来ると言うのだ?」

 と、不愉快そうに言う五十嵐さん。

「まあ、落ち着いて下さい。子供にしか出来ない事もありますよ。

 ……たとえば、雫さんと二人っきりで話させてください」

「娘とお前と話させるだと? それでなんになる?」

 彩花の言葉に五十嵐が苛立ったように言えば、

「まずは、精神的なストレスの緩和です。

 雫さんもこの状況ではお好きな歌も泳ぎもするわけにはいかないでしょう。

 おそらく、外に出ることはもちろん、庭にも出てないんではないんですか?

 それでは、さすがにストレスが溜まっている可能性は高いです。

 しかも、周囲にいるのは同年代の子供ではなく年の離れた年輩の男性。

 もちろん、ご両親がいるのですから安心しているでしょう。

 ですが、中学生となれば多感な時期です。親ではなくて同じ子供ではないと、話せない悩みがあると思います。理想を言えば、中学生の女子が良いんでしょうけれど……。この状況ではそれを頼むわけにはいかないでしょう。

 なら、私が話をする事でストレスが無くなる可能性があります。それによって、大人には話せない雑談からなんらかの手がかりが見つかる可能性もあります」

「……お前、自分が子供らしい子供だと思っているのか?」

 彩花の説明に俺は思わず呟く。少なくとも子供はこんな感じで話をしないと思う。

「外見だけは子供と言われると思うわ」

 俺の言葉に気にした様子もなく彩花は淡々と言う。

「とにかく、雫さんと話させてください」

 そう言って彩花は静かに笑みを浮かべたのだった。


 彩花は雫と二人っきりで部屋で会話をしている。もちろん、なにをしているのかを確認される監視カメラがあるのだが……。なんでも音声までは聞こえないものらしい。

「しかし、随分と仰々しい警備ですね。

 今回の予告誘拐事件が起きる前からですか?」

 と、俺はしみじみと言う。まあ、これだけの金持ちの家なのだ。

 防犯がきっちりとされているのはわかる。外の玄関と一階窓は全て撮影域の威圧感重視の固定カメラ。不振な動きがあれば通知メールが届く。もちろん、カメラの向きを変える、レンズを覆うと言う異常も全てセンサーが感知して通知する。

 しかも、それだけではなく見えない監視カメラも複数、用意されている。しかも、三つの警備会社と契約をしており、警備システムの仕方を尋ねるのも不可能。

 さらに庭には警察犬と同じ訓練をされているシェパードが二頭。窓は強化ガラスで衝撃を加えるとセンサーが反応。玄関の鍵は対ピッキング性能の高い鍵と電子カードキーと暗証番号が必要。しかも電子カードキーと鍵は登録カードが無ければ、合い鍵は作成不可能。

 これだけでも十二分と言えるのに、さらに内部にも監視カメラが調度品の邪魔にならないようにあるというのだ。

「怪物がこの世に実在したと証明されたのだ。これだけの警備でもまだ足りん」

 と、忌々しげに言う橘さん。

「怪物になんか怨みでもあるのか?」

 と、今まで黙って紅茶を飲んでいた黒羽が尋ねる。

「怨み? 怨みだと!? 貴様等は恐怖しないのか!? 人の血肉をむさぼり、現代科学でも説明がつかない異常な力を使う者達を! 奴らと共存なんぞ不可能だ。

 あれならば、ジャングルに住むライオンの方がまだ理知的で紳士的だ」

「…………随分と言うんだな」

 顔をしかめて言う黒羽。……まあ、こいつにしても思う所があるのだろう。

 しかし随分と過激と言うか偏見が強い。あからさまな発言に警察にも呆れたりしているし、奥さんも困ったような……どこか辛そうな顔をしている。

「黒羽。……あの」

「とりあえず、一つだけ言っておくぞ」

 俺が黒羽に話しかけようとするがそれより早く、黒羽は五十嵐さんに向かって言う。

「おい。黒羽!」

「ジャングルにライオンは住んでねえよ」

『『『…………』』』

 あ、そこか……。と、俺は思う中で何とも言えない沈黙が周囲を支配する。確かにライオンの主な生息地はサバンナでありジャングルではない。そう思っている中で、黒羽はふらりと立ち上がる。

「おい。黒羽。どこに……」

「食後の運動をかねて外を見てくる。ちゃんと仕事をしないとな」

 と、言うと黒羽は外へと向かう。慌てて追いかけようとすると、橘が話しかけてきた。

「大変ですね。海津巡査部長」

「まあな」

「しかし、まあ。子供の遊びですよ。きっと」

「子供の遊び?」

 橘の言葉に俺は思わず聞き返す。

「ええ。どうせ、良いところの嬢ちゃんとか坊ちゃんでしょ。あの車もすっげー金持ちだし、どうせ名声ほしさとか退屈しのぎ。苦労知らずなんでしょうね」

「……そうでもないぞ」

 橘の言葉に俺はそう言うと、黒羽の後を追いかける。少なくとも、彩花が金持ちなのも真実だし、退屈しのぎなのは真実だ。だが、苦労を知らない訳じゃ無い。むしろ、苦労に関しては……人の数倍はしているのだ。あいつらは……。


「ごめんなさい。我が儘を言って」

 そう言って笑みを浮かべれば、車いすに座ったままの雫は、

「い。いえ……気にしないでください」

 と、言う。だが、まだ緊張している様子だ。脈拍もやや早いし筋肉もこわばっているし顔色も悪い。……こういうのはやっぱり苦手だ。と、私……彩花は思う。

 幼い頃から自分は異常者だった。

 同い年の子供がパソコンと言う言葉を覚えた頃。私は、すでにそのパソコンの操作方法を憶えていた。脳が異常に発達をしているのか……それとも、何らかの別の要因があるのか解らない。だが、私は俗に言う天才と呼ばれる人間だった。

 自分で言うと自慢と言われるだろうが、事実としてそう呼ばれているのだ。

 幼稚園のお勉強でみんなが絵本を読んでいる中、職員室にあった大人向けの本を読んで居た。小学校に上がった頃には教科書の内容は全て理解しており、職員室にある先生の本を読みあさっていた。出てくる問題はあまりにも簡単すぎて授業はつまらないと感じていた。大人は途惑っていたが、同い年の子供たちはすでに私が異端だと気づいて居た。

 周囲の子供は私を拒絶し始めた。無論、私自身にも問題はあった。頭が良いと言う次元の問題ではなく、私は知らない事を知る事。解らない事が解るようになる事。謎が謎じゃなくなること。出来ないと言われて居たことが出来るする事が面白かった。

 だが、それは同年代の子供から見たら異常な行動だった。いや、大人から見ても異常だっただろう。職員室に忍び込み大人向けの書物を読みあさる。パソコンを打ち込み小学生が作るものではないプログラムの作成。みんながやっているゲームをやると言うよりも、それ以上に複雑なプログラムで作られたゲームを作りたいと思う子供だ。

 一緒に遊んでも楽しい相手ではなかった。そして、大人……教師としてはやりにくい相手だった。みんなと同じ授業は退屈そうで、一人だけ難易度の高い事を勝手にしているのだ。夏休みに入る前だった。私はある特別なテストを受けた。

 その時、初めて学校の先生が用意したテストが面白いと思ったものだ。しかも、制限時間まで好きなだけ問題を解いて良いと言われたのだ。

 そのテストを解きまくって……当時の私では解らない問題もあって目を輝かせた。こう言うテストばかりなら良いのにと本気で思って口にしたものだ。先生は困惑したようなだが、予想通りだったと言う表情を浮かべていた。

 ……それが知能指数を計るテストであった事を知るのは夏休みが始まる前日だった。私の知能指数が異常に高いと言う結果が出たのだ。普通の小学校でみんなと一緒に学校で学ぶのは向いていない。大人が出した結論はまあ、反論する余地のないものだった。

 今の日本では向いていない。その結論から、私は単身、外国に留学をする事になった。

 通常ならば、両親のどちらかが来るべきだっただろう。まだ小学生の幼い子供が外国に行くのだ。向かう先が先進国と言っても安全安心が保証されているわけではない。たとえ、安心安全が保証されていてもまだまだ可愛い盛りの娘だ。一緒に居たいと思うのが普通の親子関係だ。……ただし、私は普通の子供ではなかった。……当時、生まれた弟と幼稚園だった妹は私と違って異常者ではなかった。

 人間は異常者と言うのを異端と見なして除外する。両親は私を異常者として家族と言う仲間から追い払ったのだ。念のために言うなら、私は両親を怨んでいない。両親としては、あの子の両親、あの子の家族。と、人間関係を円滑に出来ない私の迷惑を被っていたのだ。これ以上、面倒は見れない。と、言うのが両親の本音だった。

 ……体よく言えば、私は両親から捨てられたのだ。国からの援助金を使って私の生活費に充てたのだから、両親はお金を失う代わりに私という異分子を追い払ったのだ。

 そして、私はものすごく前例のないスピードで小学校、中学校、高校と卒業。大学へもあっという間に進んでいた。その頃には、私が開発した発明品や数式、新技術は人類の文化を跳ね上げていた。それと同時に、私はその開発したものを特許を申請していた。そして、大学入学をする頃にはすでに特許を申請したお金だけで遊んで暮らせる大金があった。

 だが、いつまでたっても私は異分子で異端者だった。


「ご友人と遊びたいとか思わないんですか?」

「あ、えっと……その……父はあたしに過保護なんです」

 私の質問に雫さんは困ったように言う。

「……まあ、足が不自由ですからね。

 ご両親が心配するのも無理が無いと思います」

「……五年前までは普通に歩けていたんですけれどね。……まあ、あまり走ったりするのは得意ではありませんでしたが……」

 五年前から急に足が不自由。

 その言葉に、私は考える。

 ……それは、私が前もって考えて居た可能性と一致する。とは言え、それは誘拐事件と関係はあまり無い可能性もあるが……。そう思いながら、私は静かに話を聞く。

「まあ、そのせいで友達もあまりいないんです。

 何かあれば、父が飛び込んで来て……」

 モンスターペアレントと言う奴だろう。

 私を異分子、異端者として追い払った両親とはある意味では真逆だ。

「でも、心配してくれていて良いんじゃないんですか?

 私は両親に心配されたことが無いのでよく解りませんが……」

 まあ、心配されてはいたかもしれないが……。普通の子供じゃない。どうしてそうなったんだと言う自分たちの教育に関する謎による心配だ。

 私個人はすくすくと問題無く育っていた。

「信頼されているんですね」

「いえ。留学という名目で家族から追い出されただけです。

 もう十年も連絡を取っていないので家族と名乗る必要性も感じませんね」

「あ、その……すみません」

 私が事実を言えば、なぜか謝罪する雫。

 どうやら、私はまたもなにか失敗したらしい。

 まったく、人付き合いと言うのは難しい。人付き合いが可能となっているのは、黒羽と海津さんぐらいだ。その意味では、あの二人も充分に異分子で異端者だろう。……黒羽が異端者なのは当人も自覚している事実だ。

 だが、海津さんに言えば間違いなく怒るだろう。

 あの人は異分子で異端者だが、普通の人間だから……。

「いえ。気にしないでください。まあ、そのために愛情と言うのがよくわからないんです。ですが、それが愛情から来るんだと思います」

「……ありがとうございます」

 私の言葉に雫さんはそう言って苦笑を浮かべる。

「……五年前に怪物が確認されて日がたってない夜でした。

 そして、あれは怪物の一体、人狼と言う種族の男の子でした。年は、あたしと同い年ぐらいだったと思います。後で聞いた所、満月を見て初めて変身したために興奮していたんです。声楽スクールから帰って居たあたしに襲い掛かって来たんです。

 すぐに、その子が車にはね飛ばされたんですけれどね。

 それから、あたしは足が不自由になってしまったんです。」

「なるほど、それから五十嵐さんが過剰に怪物嫌いになったというわけですね」

「満月による興奮と初めての変身だったための事も手伝って、罪には問われなかったんです。けれど、その結果も父は納得しなくって……。それから、怪物なら妖精とか小人とか……人魚でも危険視するんです。学校でも怪物が入学してきたと言う事で、学校に文句を言って……その生徒を追い出させようとしたんです。……あたしが転校する事で落ち着きましたけれど……。そう言う人だから……きっと……」

「?」

 言いよどんだ言葉に私はある可能性に思い至っていた。


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