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Monster・child 餃子定食、ニンニク抜き  作者: 茶山 紅
捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで
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捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで(1)

 捜査ファイル1 誘拐三重奏の初捜査 海鮮鍋を魚抜きで(1)


「それで、密室誘拐予告事件ってなんだよ?」

「誘拐を予告されたのよ」

 黒羽の言葉に彩花は淡々と言う。

「向かっている場所は五十嵐和史の自宅よ。五十嵐和史。貿易商で有名な会社である五十嵐カンパニーの社長。現在、妻である五十嵐宇美と娘の雫と三人暮らし。

 怪物嫌いで有名よ。怪物はやがて人間を襲うつもりだ。人間の敵だと主張しているわ」

「ま、頭の固い大人と言う事か……」

 彩花の言葉に眉をひそめて言う黒羽。……五年前に現れた怪物達を恐怖して拒絶している人間はたしかにまだいるのだ。また、凶悪事件の中には怪物が犯人の場合もあるのだから……困ったものだ。だが、人間だって充分に凶悪事件を起こしているのだが……。

「今朝の未明に娘の雫のベッドの上に一週間以内に貴女を連れて行きます。と、言う予告状が置いてあったそうよ」

「ただの悪戯じゃねえの? 自作自演とかさ」

 彩花の言葉に冷蔵庫にあったトマトジュースを飲む黒羽。

「父親の和史によると、娘はそんな事をするような娘じゃないそうよ。そして、その予告状が見つかる前から時たまに家の近くで不審者が目撃されていたのよ。さらに、予告状が置かれていた夜も屋根の上に怪しい人影が居たと言う目撃情報があった。

 ただし、それは人間とは思えないスピードで他の屋根の上へと移動していった」

「なるほどね。怪物を危険視している人間からみたら警戒するというわけか」

 彩花の言葉に俺はそう納得する。……前半だけならただの親ばかと思っていたが、後半からたしかに事件性が出て来た。

「そう言う事。ちなみに、マスコミにもかかわっているから、ヘタに対応を間違えれば警察が叩かれる。と、裏事情もあるんでしょうね」

「で、目的はやっぱり金か?」

 彩花の言葉に黒羽があくび混じりに尋ねれば、

「一概にそうとは言い切れないわ。

 と、言うか聞いた事が無いの? 五十嵐雫。正直な話、父親よりも有名よ」

 そう言うと、カーナビの地図の隣に映像が浮かぶ。

「なんで、カーナビが勝手に変わるんだよ」

「あたしの席からもコントロール出来るのよ」

 この金持ちが……。俺の質問に当たり前な顔をして言われて俺は腹が立つ。

「五十嵐雫。中学二年生にして声楽コンクールでは国際大会にまで参加できる美声の持ち主。プロの歌手すらも彼女の前では蟇蛙の鳴き声とすら言われて居るわ。

 更に、水泳の選手としても有名よ。中学生の全国大会で優勝しているし中学生の水泳の全国記録を全て一人で更新している。ちなみに、容姿端麗」

「スポーツ万能、家は裕福、声と顔が綺麗。恵まれているな」

 彩花の言葉に黒羽があきれたように言えば、

「そうでもないわよ。水泳は得意なんだけれど、足が不自由なのよね。普段は車いすで移動しているそうよ。だから、家も娘のためにバリアフリーにしているそうよ」

「水泳が得意なんじゃないのか?」

「足が麻痺をしている人間でも泳ぐ事が出来る事はあるのよ」

 俺の質問に彩花がそう答える。

「可能性としては金銭目的の他にも歌い手として人気だからね。ストーカーの可能性も高いわね。過去にも何度かストーカーの被害に遭っているらしいからね」

「なるほどな。しかし、血は流れない事件のようだ。つまらねえ」

「そう言う事は現場では口が裂けても言うなよ」

 彩花の説明に黒羽が本気で残念そうに言うので、俺は頭痛を憶えながら言ったのだった。


 近くの駐車場に車を止めて、向かった先はなるほど立派な家だった。屋敷と言うには小さいかも知れないが、それでも立派だ。一目で金持ちが住んでいるとわかるが、警備システムもきちんとされている。

 この家に誰にも気付かれずに屋根の上に上ったやつ。たしかに怪物がかかわっている可能性は高い。そう思いながら見張りをしている警察官に警察手帳を見せる。

 俺はともかく、彩花と黒羽の警察手帳を見て目を見開いた。

 ……なにしろ、警部補だ。警部補。驚くに決まっている。

 そう思いながら門が開くので俺は先に入れ、

「ほら、黒羽。どうぞ」

 と、黒羽を招く。

 そして、この事件を担当している警部の下へと向かう。

「こいつらが警部補? まったく上層部は何を考えて居るんだ?」

 と、彩花と黒羽を見て現場の責任者だと言う男性が顔をしかめて言った。年の頃は四十代前半だろう。鍛え上げられているが年のせいで微妙に贅肉がついている。髪の毛に白髪が交じっているのが一目でわかる。

「……まあ。良い。捜査の足を引っ張るなよ。

 俺は、郷田強志で警部だ。言っておくが、お前らより階級は上なんだからな」

 つまり、自分には命令するな。と、言っているのだろう。

 そう思っていると、

「警察は何を考えて居るんだ!?」

 と、言うヒステリックな男性の声が響いた。

「こ、これは五十嵐さん」

「怪物関係の専門家が来ると聞いて見て待ってみれば……子連れだと!? ふざけているのか!? お前は?」

 念のために言うならば、専門家は俺ではない。とは言え、それを言ったら火に油を注ぐ気がする。と、思っていたら、

「安心してください。私たちが専門家です。これは海津さんは雑用係です」

 誰が雑用係だ。と、言うのをすんでの理性で抑え込んだ。

 五十嵐さんは訝しげにこちらを見ていたが、事実なんだからしょうがない。

 そう思いながら俺は周囲を見渡す。警察官が郷田警部を除いて五名ほど居る。ドアの出入り口に一人。近くの窓のそばに二人。そして、一人の少女のそばに一人と言う感じだ。

 その少女が誘拐すると予告された雫なのだろう。

 色の白い肌に長く艶やかな黒髪ストレートが腰まで伸びている。水泳が得意と言うが、髪の毛が塩素でまったく痛んでいる様子はない。線の細い印象の美人だ。

 そのそばには雫の母親で五十嵐さんの奥さんだろう宇美さんがいる。娘によく似た……正確に言えば、娘が宇美さんに似ているのだろう。長く艶やかな黒髪は肩までだがよく似ている。そして、白い肌も綺麗でみずみずしい印象を与える。

「しかし、雫さんは学校は大丈夫ですか?」

 と、彩花が尋ねる。

「それは、お前らにも言えるだろう」

 と、呆れたように郷田警部が言えば、

「心配はいらないわよ。郷田警部。私はすでに大学の卒業資格まで持っているわ。黒羽は通信教育で勉強しているわ」

「学校には通ってないけれどな」

 と、彩花と黒羽が言う。

「それに私たちの個人情報は捜査に必要性が見当たらないわ。気に入らないのは解るけれど、嫌味を言っていないで捜査に集中するべきだと思うわ」

「す、すみません。なにしろ、子供なので」

 彩花の言葉に俺はそう言って郷田警部に謝罪した。


「娘は大事をとって学校を休ませている。とにかく、早く怪物を退治しろ!」

「郷田さん。怪物も今ではちゃんと人権を認められていてたとえ、犯罪者でも退治ではなく逮捕すると言います。あまりそのような発言をしていると差別として訴えられますよ」 彩花の質問に答える郷田の言葉に俺はそう言う。

 だが、郷田さんはそっぽを向く。有名な怪物に偏見を持つ人物なのだから聞き入れてくれなさそうだ。そう思いながら、俺はため息をつく。そこに、

「とりあえず、こちらで調べさせて貰いますね。

 まず、雫さんの部屋を調べさせてください」

「わかった。橘。お前が案内しろ!」

「解りました」

 郷田警部に言われてこの部屋に居た一番、年若い警察官が敬礼をして頷く。

「初めまして。橘と言います」

 挨拶する橘は、少しばかり途惑っている様子だ。制服も着慣れていない印象からおそらく、最近になって警察官になったばかりなのだろう。

 社会人になって大して間もなく不条理を実感している事であろう。

「雫ちゃんの部屋は二階にあります」

「二階? 車いすで移動していると言うのに?」

 橘の言葉に黒羽が驚いたように言う。

「大丈夫です。

 この家はバリアフリーですので、階段だけではなくエレベーターもあるんです」

 彩花の言葉に橘はそう言うと階段を案内する。階段へとたどり着いた時点で、

「エレベーターがあるなら、エレベーターが良いわ。三階も登り切れる体力は無いわ」

「………はあ」

 彩花の言葉に橘があきれたように言う。

「大丈夫だ。彩花。海津さんが背負ってくれるぞ」

「エレベーターで頼む」

 黒羽の言葉に俺は瞬時にそう言う。

 エレベーターは階段の近くにあった。車いすの娘が乗るように車いすでも推しやすい場所にボタンがあってかなり便利な感じだ。エレベーターを乗って三階にたどり着く。階段の真正面の日当たりの良い部屋が、雫の部屋だった。

「広いな」

 と、俺は言う。正直な話、俺が住んでいる安アパートとトイレと台所に風呂場に部屋が丸々入るぐらい広いんじゃないんだろうか?

 金はあるところにあるんだな。と、思いながら部屋に入る。

 足が不自由な娘のためなのだろう。一切の段差はなくバリアフリーの見本のようだ。西側にベッドがあり、東側には机。南側に大きなテラスがある。そして、北側のドアの横には大きな空っぽの水槽がある。

「この水槽は?」

「ああ。雫ちゃんは子供の頃から魚が好きらしく、沢山の熱帯魚を育てていたそうです。ですが、三日前に熱帯魚を知人に譲ったそうです。中学生になって忙しくなってきていたそうです」

「…………そう」

 橘の言葉にしばらく考え込むように彩花は頷く。

 そんな中で、ふらふらと黒羽は周囲を歩き回っている 

「黒羽。どう?」

「血の臭いはまったくしないぞ」

 彩花の質問に黒羽がそう答える。

「血の臭い?」

 黒羽の言葉に橘が怪訝な顔をした。


「俺は血に敏感なんだよ。血の臭いを感じる事なら、犬よりも卓越しているね。

 プールに一滴の血が入っているかどうかまで解るぞ」

「そりゃ、すごいですね」

 黒羽の言葉に橘はそう言う。だが、それは大げさに自分を誇張する子供に対する大人の対応だった。……ま、そう思うよな。

 だが、真実なのだ。そもそも、頭が買われたわけではない。黒羽はその肉体が買われて警部補になったのだ。

 そう思っていると、

「監視カメラがあるのね」

「あ、はい。怪物の目撃情報が入ってから監視カメラがあるんです。常に見ている場合じゃなく、さすがに年頃の娘さんと言う事もあって、六時間ごとにリセットされるようです。異常があれば、警報もなるシステムです。

 ですが、予告状は突如として上から落ちてきたそうです」

 彩花の言葉に慌てた様子で橘が言う。

「要するに、記録されている六時間の間に部屋に侵入者は居なかったと言う事ね」

「はい。それに、雫ちゃんのドアのそばにも監視カメラがあります。こちらは数日間の映像が記録されています。

 ですが、入ったのは雫ちゃんを除けば母親とお手伝いさんぐらいです」

「……海津さん。肩車して」

「なんで?」

 橘の言葉に彩花が唐突にそう言うので、俺は思わず聞き返す。

「天上が見て見たい」

「だからって……」

「良いから肩車。これも仕事でしょ」

 俺は中学生を肩車するために警察官になった覚えは無いのだが……。そう思いながら俺は肩車をする。そして、柔らかい色彩の白い壁紙が貼ってある天上をぺたぺたと触る彩花。

 そのまま、しばらくの間、右に進め。左に進め。後ろに戻れ。前へと行け。と、部屋中を歩かされた。

「よし、それじゃあ、次は……」

 歩き回されて彩花をようやっとおろせば、彩花は言う。

「お昼ご飯にしましょう。疲れたし……。

 あたし、野菜ラーメンの油と叉焼抜き」

「俺、餃子定食のニンニク抜きな」 

「疲れたって……お前は肩車されていただけだろうが!」

 彩花と黒羽の言葉に俺はツッコミを入れる。

「あたしの体力の無さは人類最弱のレベルよ」

「威張るな!」

 彩花の言葉に俺は再度、ツッコミを入れたのだった。

 結果としてたしかに昼飯時と言う事もあって、昼食を食べる事になった。

「まったく。送れてきたくせに、昼飯だけはきちんと食べる。随分と偉いんだな」

 と、郷田警部が言えば、

「健康や労働には規則正しい食事は大切ですよ。それに、これは経費で請求せずに実費で食べているんです」

 と、油と叉焼を抜いて野菜たっぷりにしてもらった野菜ラーメンを食べる彩花。黒羽は無言でニンニク抜きの餃子定食を食べている。俺は、普通のラーメンを食べている。ちなみに、こいつらと違って俺は何も抜いていない。

 そこに、

「いい加減にしろ! 貴様等は!」

 と、五十嵐さんがヒステリックな声を上げた。


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