捜査ファイル2 怪盗コルボーの予告状 日本料理を西洋仕立てで(8)
第二章、終幕です。
捜査ファイル2 怪盗コルボーの予告状 日本料理を西洋仕立てで(8)
あっという間に立ち去る西藤。
そこに、
「まったく。警察と言うのはやはり役に立たないな」
と、あざ笑うように言う怪盗コルボー。
俺……黒羽はようやっと混沌の中から抜け出る。霧にでもなって居れば、どうにかなって居ただろうがまだ怪我は治りきってなかったのだ。
なにしろ、血を口にしてからだいぶ、時間がたっている。
そのため、今の俺は限りなく人間に近い状態で治癒能力も人並みよりやや早いだけだ。 俺はもう一度、口に血を固めた薬品を飲み込み吸血鬼の力をもう一度、目覚めさせる。
「海津さん。そこの馬鹿二人を捕まえといてくれ。
俺は、あいつを捕まえる」
俺はそう言うと翼を広げてコルボーへと向かう。
「任せろ」
海津さんはそう言うと、蹴り飛ばされて転けていた厳三郎に手錠をかけていた。
あの二人は、傀儡の主……お飾りの上司だったのだろう。
だから、捕まえなければいけなかったのは西藤だが、それは無理だろう。
すでに西藤は逃げられている。おそらく、何かの手段を使ったのだろう。
彩花の通信によると、あれは天狗の術ではないらしい。天狗が天狗以外の力を使うというのは、考えられないが犯罪を行っているのだ。
あり得ない話ではないだろう。
『黒羽。とりあえず、あたしは西藤を捜すけれど、不可能に近い。
だから、あのコルボーを捕まえて。あいつは、何かを知って居るはずよ!』
と、彩花が言う。
そして、俺は翼をはためかせながらコルボーに向き合う。
「へえ。噂で聞いたけれど、本当に居たのね。吸血人間」
「誰の事だ? それは?」
コルボーの言葉に俺はそうツッコミを入れる。
「裏社会では噂になっているわよ。
警察に協力している吸血鬼の覚醒遺伝者の少年。
そして、謎を解き明かす天才少女、狂気の探偵。
そして、そのそばにいる警察官にするきっかけを作った召使いのような男。
生け贄の希望」
「誰が召使いだ!? 誰が?」
コルボーの言葉におそらく厳三郎の召使いたちだろう。反抗してくる相手を、柔道やら空手やらの徒手空拳で叩きのめしていく海津さん。
俺に比べるのはさすがに酷だが、海津さんもかなり強い。ちなみに、皮肉ばかりだった油木は逃げ惑っているだけなのを俺ははっきりと見えていた。暗闇に隠れているつもりだろうが、吸血鬼と言うのは夜目がきくのだ。そもそも、夜にしか活動できないんだから、当たり前だが……。そう思いながら、俺はコルボーを見据える。
「別にお前を悪と断言するつもりはねえよ。俺は、人を悪人と断言できるような人生を送っていないからな。だが、泥棒はどんな出来事があったとしても犯罪行為だ。
そして、俺は一応だが警察官なんだよ」
半分以上はなりゆきだったが、それでも俺は曲がりなりにも警察官なのだ。
だから、
「怪盗コルボー。お前を逮捕する」
「面白い。やってみなさい。吸血人間の坊や」
俺の言葉にコルボーはそう言って笑ったのだった。
俺は翼をはためかせて一気に、コルボーに近づきながら文字どおりの跳び蹴りをいれる。だが、その瞬間にぶわりと突風が下から起きて俺はバランスを崩す。慌てて、バランスを取り直せば、
「たしかに力は強い。けれど、ただそれだけね」
と、笑うように俺の後ろにコルボーがいた。
「なっ!」
驚く中でコルボーが無数にいた。
「木の葉分身」
「お前は、忍者か!?」
不敵に笑って言うコルボーに俺はツッコミを入れる。
そもそも、怪盗と名乗っていてコルボーと言う名前のくせにいろいろと和風なやつだ。いや、天狗なのだから和風なのが正しいのだろうが……。
そんな中でコルボーが生み出した剣を俺は瞬時に避けるが、早い。
一人一人が強い上に連携もよい。
「知って居る」
そう言ってコルボーの一人が、俺の耳元で言う。
「あの牛若丸に武術を教えたのは天狗と言われて居るのよ」
「怪物が居ない時代だっただろうが! 牛若丸がいた時代は!」
俺はそう突っ込みをいれながら一人の後ろに回って噛みつく。
だが、そいつはぶわりと枯れ葉に代わり口の中にはかさかさに乾いた葉っぱだけだ。
俺はペッと、口に入った葉っぱを吐き出す中で四人のコルボーに囲まれる。
「封印術。金縛り」
そう言われた瞬間だった。俺の体がびしりと固まる。
「たしかに、あなたは強力よ」
そう言って本物のコルボーが一人残り残りが葉っぱとなり落ちていく。そして、コルボーは俺の鼻先に近づき、
「けれど、あなたの力の使い方はただの単純な方法。
剣で叩いたり、盾で殴ったりしているようなもの。
力は荒削りで未熟だわ。弱い怪物ならともかく、あたしのような……修行をした本物の怪物には勝てない」
ぎりっと俺は歯ぎしりをするが、否定は出来ない。今まで、戦って来たのは未熟だったり弱かったりする相手か怪物の力を持っていた人間ばかりだった。
「基本的な能力が高くても、それを友好的に使う術を知らない。
玉磨かざれば光なしと言う言葉よ」
「なにが言いたいんだよ」
俺はそう思いながら言う。第一、俺はことわざや格言の類が苦手なのだ。それを内容にしたテストに関してははっきり言って壊滅的な点数しかとれない。
そう思いながら尋ねれば、コルボーはにっこりとこう言った。
「ねえ。あなた……あたしと一緒に来ない?」
『『『っ―――!?』』』
その言葉に俺だけではなく下にいる海津さん達までも驚いたのがわかった。
「俺は警察だろ?」
「自分の意志で入ったわけじゃないんでしょ」
俺の言葉にコルボーはまるで悪魔のような蠱惑的な口調で言う。
「自由にそして、自分が信じる正義を貫く。そんなダークヒーローのほうがあなたには向いているわよ。そもそもダークヒーローのイメージじゃない。吸血鬼って? あたしなら、あなたの力を十分に生かす方法を教えてあげるわ。
だから、一緒に行きましょう」
そう言ってコルボーは俺へと手を伸ばした。
俺は息をのんだ。
たしかに、黒羽は自分が望んで警察官になったわけではない。彩花への付き合いと、ただのなりゆきが大きい。
その言葉に黒羽はじっとコルボーを見ている。
そこにだった。
「させるか!」
パァァァン!
そう言って油木警部補が銃を黒羽に向けて撃った。
銃声が派手に響き渡る。
「な!」
今まで暗闇のあの乱戦の状態……桜ヶ丘家の使用人も全てグルだったらしく、襲ってきていた連中を叩きのめしていた乱戦状態なので気付くのに送れた。
そもそも、覚えていたい相手ではないので……。
銃弾……対怪物用の銀で出来た弾丸は黒羽に対して、有効な一撃だ。
「『黒羽!!』」
通信機ごしに響く彩花の悲鳴と俺の声が重なり夜の庭に響く。
銃弾は黒羽に命中すると思った。だが、黒羽の周囲に蝙蝠が集まり、黒羽を守るようになると同時にぶわりと黒羽がその銀の弾丸を爪で貫いた。
「なっ!」
誰かが驚く中で黒羽の姿が少しだけ変化している。
白銀色の髪の毛と蝙蝠の翼に真紅の瞳と言うのは変わらない。だが、髪の毛が長く伸びている。白銀色に輝く髪の毛は普段は男らしい短く切られた髪の毛だったはずなのに、今は腰までどころか足首まで長く伸びている。
そして爪。普段は人間と変わらない爪が今は赤黒いとしか表せない色となり鋭く伸びている。まるでナイフか錐のように鋭く伸びており、銀の弾丸をその爪で刺して止めている。
「……へえ。非常事態になればなるほど、吸血鬼としての力を発揮できるのね。
さすが古の血と呼ばれるだけはあるわね。
けれど、これで警察にいる理由もなくなったわね」
「勘違いしてんじゃねえよ」
コルボーの言葉に黒羽は赤く染まった瞳でコルボーを見ている。
「俺は最初っから、警察官全員を信用出来るなんて思ってねえよ!」
黒羽がそう言っている中で、俺も行動に移っていた。と、言うか黒羽の無事を確認した瞬間に、すでに足は動いていた。
「このバカ野郎!」
階級で上の部署は違うが上司である相手に対して、言う言葉ではないだろうが、それでも俺は思いっきり黒羽に向けて銃を撃った|バカ(油木)に対して殴り飛ばしていた。完全に不意打ちだったらしく盛大に吹っ飛ぶ油木。
「な、なにをする」
「そりゃ、こっちの台詞だ!」
馬鹿の言葉に俺はそう怒鳴る。
「てめえ、曲がりなりにも同じ警察官である相手に向けて銃を撃つとはどういうつもりだ? しかも、てめえが撃った銃弾は黒羽には致命傷なんだぞ! それに、たとえ無事だとしてもだ。あいつにだって痛覚があるんだぞ!? 解っているのか?」
「解っていないのはそちらだろう!」
俺の言葉に油木が叫ぶように言う。
「あんな化け物が敵に回れば脅威だ。こちらに牙を向く兵器なんぞ処分するだけだ」
「てめえ!」
油木の言葉に俺は思いっきりまたも殴り飛ばしていた。
「あいつは兵器でも化け物でもねえ。ちゃんと生きて居る黒井黒羽と言う子供だ!」
「辛い事や悲しいことがあったら、苦しんだり悲しんだりする。
嫌な事や苦しいことがあったら泣きたくなる。
楽しい事、嬉しいことがあったら喜んだり笑ったりする。
それは俺たちと同じだ。それは、人間だけじゃねえ!
怪物だって同じなんだ。
痛みだって感じるし、喜びや悲しみだって……感情だってあるんだ!
あいつの場合は、過去にあった出来事で感情が表に出なくなっているんだ。
それを兵器だ怪物だ驚異だなんて言っているんじゃねえ。
第一、警察に敵なんていねえだろうが!」
「な、なにを?」
「警察は犯罪者によって苦しんでいるやつを救い、犯罪者を更正させる。
犯罪者の敵でも無ければ、被害者の敵でも無い。
もちろん、人間の敵とか味方とかでもなければ、怪物の敵でも味方でもない。
もしも敵がいるとしたら……」
俺はそこまで言って油木警部補を睨む。
「お前みたいに、自分勝手な行動を許す心だよ」
そう宣言した瞬間だった。
「あははははっはははははは」
爆笑が空から響いた。
それは、黒羽の笑い声だった。
「まったく。海津さんはこれだから面白いんだよね。
これだから、俺もあいつもあんたを部下にするなら良いと受け入れたんだ。
と、いうわけだ。怪盗コルボー」
そこまでいって黒羽は爪にささった弾丸を放り捨てる。
「あいにくと、お前のそばに居るよりも彩花や海津さんと一緒に居るほうが楽しいんだ。
ま、ムカつく奴も居るが……そういうやつらをぎゃふんと合法的に泣かせるのも面白そうだしな」
にっと八重歯が目立つ口で笑みを浮かべれば、
「なるほどね。振られちゃったと言う所かしら?
しかも、男が理由で振られるなんてちょっと自身を失いそうね」
「素顔を見せない女を信用するくらいなら、男を信用するさ」
「あら、ミステリアスも女の魅力よ」
それだけ言うとぶわりとコルボーの周囲が輝く。
「楽しかったわ。それと、あの面白い人間の心意気に免じて、今回の盗みはあたしの失敗にしておくわ。けれど、また、遊びましょう。
そうね。こんどは純粋な勝負でもしましょうか?
その時は、是非とも狂気の探偵ともこの姿でお会いしたいわね」
そう言うと同時に木の葉が舞い散り、コルボーの姿は無くなったのだった。
かくして、初めて怪盗コルボーは盗みに失敗してその正体についてもいくつかが解った。怪盗コルボー、性別女性。種族、天狗の古の血。
そして、怪盗を捕まえるはずの事はかつて彩花が半分近く壊滅した組織が復興しようとしていたのを阻止すると言う大捕物となっていたのだった。
そして、余談だが……俺は一応とはいえ上官にあたる油木『元』警部補をなぐったと言う事で三ヶ月の減給。油木『元』警部補は勝手な銃の発射で左遷となった。あと、階級が下がって俺と同格になった。……俺の処分が軽いのは、銃を発射したのが油木が先であること、そして彩花と黒羽の撮っていた映像が決め手になっていたらしい。
「そりゃ、あれがマスコミに流れたらしゃれにならないでしょうしね」
「……なにをしたんだよ」
彩花の言葉に、俺は思わずそう尋ねたのだが答えは帰ってこなかったのだった。
登場人物を書いて、第三章に続きます。