第9話 強敵! 魔導転生ガシャドゥーク!
平穏は、長くは続かなかった。
一体のレヴノイドが聖域に穴を開けて、この西の都にやってきたのだ。
「ヴァルハリオン。貴公と手合わせしたい」
レヴノイドは一直線に俺達の格納庫へと向かって来て、そう宣言した。
「嫌だと言ったら、都を滅茶苦茶にするつもりだろう」
「然様。察しが良くて助かるな」
「……」
外見は俺によく似ている。
けど、全体的に色が暗くて、飾り付けも悪魔みたいな形をしている。
顔はガイコツっぽいし。
持っている武器は禍々しい大剣だ。
“魔導転生ガシャドゥーク”
それが、このレヴノイドの名前だった。
間違いなく、今までとはひと味違う相手だ。
だって……だって会話できるんだよ!?
今までみたいに欲望をうわごとみたいに呟く奴らとは、絶対比べ物にならない!
しかも俺のコピーみたいな形をしてるし!
敵の組織が送り込んできた、主役そっくりのライバルロボって事?
――今はそんな分析してる場合じゃなかった!
「ねえ、勇者君。ポーズは取らないの?」
ちゃっかりエールズの隣に座ってるレキリアが、そう言う。
こんな時に、何の話をしているんだろう?
緊急事態なのに。
「意味がわからないよ」
「早くして!」
「こ、こうかな?」
このタイミングで言ってくる
仕方が無いから、俺は肩幅くらいに足を開き、両手でピースしてみた。
すると……。
ティキキィーン!!
という音と共に、身体が軽くなる。
そして“ポーズが認証されました”というメッセージ。
「何? 何これ!?」
「すごい……エネルギーゲインが今までの倍です!」
「君達、今まで使ってなかったの!? コンセントレーションを発動させて、強くする秘術だよ!?」
「ありがとう、今度から使う!」
ガシャドゥークはその間、ずっと動かずに俺達を見ていた。
やがて、禍々しい大剣を背中から抜く。
「準備は済ませたな。いざ尋常に、仕合え!」
戦いの火ぶたは切って落とされた。
遠くに見える緑色の煙を見るに、住民達の避難は完了したみたいだし、遠慮無くやらせて貰う!
手始めに、目からビーム!
けれど、ガシャドゥークも同じく目からビームで防いできた。
「クカカ。貴公と吾輩はコインの裏と表よ。馬鹿正直な戦いが通用すると思うたか!」
「いや思わないけどさ」
隙を見て俺は鉄球を召喚、ガシャドゥークのスネに強打させる。
そのまま足の小指に相当する部位に鉄球を落とした。
ガシャドゥークが俺の単純なコピーだとしたら、通用するとは思えないけどね。
でも俺がレッドハッターにやられた鉄球はあくまで「あんまり痛くない」だから、痛みが皆無って事じゃない。
そして何より、今の俺はコンセント何とか……の力でエネルギーゲインが倍になったんだ!
よくわからないけど、強くなったと思いたい。
「む、うっ! むほっ……ふおおお……!」
良かった。
ガイコツの妖怪「がしゃどくろ」みたいな名前だけど、ちゃんと痛覚はあるみたいだ。
ガシャドゥークは痛みを堪えて、両足をぷるぷるさせている。
大剣まで取り落としてる程には、しっかり効いたようだ。
「う、おのれ、面妖な!」
あれ。
何かこのレヴノイド……拍子抜けだ。
ロボなのに、目元に涙を浮かべているし。
聖域に穴を開けるだけの力がある筈なのに。
「だがそれも終わりよ! これでも喰らえ!」
ガシャドゥークのロケットパンチ……それが、幾つも分裂して見える。
百烈パンチが、俺にぶつかってくる。
「く、うわあ!」
「きゃああ!?」
「やばいシートベルト締め忘れ――へぐぅ!」
盛大に転倒したレキリアが、鼻を押さえる。
どうやら鼻血を出したらしく、涙目で鼻をつまみながら天井を仰いだ。
くそ、油断大敵だ!
「だ、大丈夫ですか?」
「へーきへーき、ちょっとだっこしてくれない?」
「こ、こうですか?」
「あ~……エールズさんのふともも柔らかいわ~……」
この緊急事態に!
君は!!
何をやっているのかな!!!
「そっちがその気なら……!」
「ほう? 吾輩の無限飛翔拳に対抗する術があるとでも?」
ガシャドゥークは腕を戻しながら、俺を嘲笑う。
あんな技、使った事が無い。
いや! よく考えろ、俺。
相手がコピーだとするなら、俺にも出来るって事だ。
「はあああぁぁぁ……!」
気合いを入れる。
心の中で、ロケットパンチが瞬時に前後するイメージを作る。
――よし、いける!
「マシンガン・ロケットパンチ!」
「甘いわぁ!」
ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツゴツンッ!!
「うおぉおおおお!!」
「フハハハハハハ!!」
火花が飛び散る程に、激しい攻防が続く。
衝撃波で、辺りの建物の屋根が吹き飛んだ。
ごめんね、住民の皆さん……。
賠償金とか正直どうすればいいかわからないけど、どこかで稼いで返すからちょっと待っててね……。
「愉快、実に愉快よ! やはり貴公を求めて旅に出て、正解であったわ!」
「ちっとも楽しくない! 建物壊れたし、休暇は今日で最後のつもりだったのに邪魔されたし!」
まだまだ拳と拳のぶつかり合いは続く。
さすがに指が痛くなってきた。
早い内に決めないと。
工具類は効果が薄いだろうから、接近戦で決めよう。
俺はホバリングを発動させ、一気に距離を詰めた。
そして。
「何、角を使うだとぉ!?」
俺は頭の角で、頭突きした。
ガシャドゥークがきりもみ回転をして、運河に頭から突っ込む。
見たか! これがハリケーンミ○サーだ!
「戦いは、頭を使うものだ! 能力に溺れたのが、君の敗因だ!」
腕を戻し、バルムンクを構える。
これで後は、突き刺すだけだ!
けれど、ガシャドゥークの両手がバルムンクを白刃取りで止める。
「頭を使うだと? 頭“かっこ物理かっことじ”の間違いであろう! 本当に頭を使うというのは――」
俺の足に、ガシャドゥークのビームが直撃する!
あ、熱い! 痛い!
「こういう事よ!」
「ぐあああああ!」
「今まで道化を演じたのは、貴公を油断させる為! 貴公の攻撃は全て見切ったぞ!」
ビームは途切れたけど、両足が痛くて動けない。
まずい、まずい!
「さあ、余興は終わりである! 貴公の矜持、吾輩が両断してくれよう!」