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第8話 安息は常に束の間である


 ゲルドーザーを倒した俺達は、西の都に歓迎された。

 都を守った英雄として、色々な贈り物を貰った。

 しかも、都の中心にある大きな格納庫まで与えられた。


 こんな好待遇なんて初めてだったから、俺は戸惑った。

 でも、エールズの


「勇者様が倒した敵の数をよく考えてみて下さい」


 という言葉で俺は納得し、ありがたく頂戴するのだった。



 ちなみに、新しく入手したアーティファクトも確認した。


【ホバリング】

 タイプ:アクティブ

 魔力を消費して50cmほど浮遊し、地面を滑るように移動する。


 あのゲルドーザーの特性を考えたら、もうちょっと別なのが出てくれてもと思うんだけど。

 ちょっと嬉しいけどね。



 それと俺は、この西の都で少し一休みする事にした。

 エールズに、どうしてもやって欲しい事があるからだ。


「宿屋に行ってみようよ」

「嫌です」


 即答。

 拒否された。


「いや、だってずっと俺のコックピットに入りっぱなしも何だかアレじゃない?

 たまにはゆっくりしていかなきゃ、疲れちゃうよ。

 折角、都で一息付けるんだし、タダで使わせてくれるって言ってたよ」

「外に出ても、いい事なんてありませんよ……」


 膝を抱えて、ぽつりと呟く。

 うーん、気持ちはわからないでもないけど。

 なんて話をしていると、コックピットハッチがコンコンと叩かれる。


「ヘーイ! そういう事ならウチに任せてよぅ!」


 外の視界を意識する。

 セミロングのピンク色の髪を三つ編みにした女の子が、俺の胸をノックしていた。

 歳はエールズより下だと思う。十二歳くらいかな?


 作業着を着ているって事は、整備士なのかな。

 やっぱり聖鉄もメンテナンスとかやるのだろうか。


「聞こえてるぅ? この天才聖鉄鍛冶レキリア様が、君達の悩みをカカカ~ンっとやっつけてやろうって言ってるんだよ!」


 聞こえてます。

 けど、ちょっと相談させて下さい。


「どうする? エールズ」

「一応、話だけでも聞いてみます?」

「そうだね。自称天才って、あんまり信用できないけど」

「あの……」


 エールズが、指差したまま固まってる。

 俺はそっちに視線を移す。


「ごめーん! 開けちゃった☆」


 !?


「開けちゃったって何!?」

「だからウチは天才なんだってば。コックピットのロックを解除するくらい、お茶の子さいさいだよ」


 それってセキュリティに重大な欠陥があるって事だよね?

 もしも敵が同じ手を使ってきたらどうしよう。


「一応訊くけど、誰でも出来る芸当じゃないよね?」

「班長もビックリするくらいの離れ業だよ!」


 と言って、レキリアは両手でピースをしてにっこり笑う。

 レキリア……恐ろしい子……!


「自称じゃなくて自他共に認める天才だぞ! さあ、観念して弄られるが良いわ~ムホホホヒョヒョヒョ!」

「お、女の子がそんな笑い方をしちゃ駄目です! それ完全に危ないおじさんの笑い方ですっ!」

「ん~? 何か言ったかな~?」


 レキリアは指をワキワキさせはじめた。

 うわらばっ! 君はどこの偽神拳使いだ!


「勇者様、この人、変なんですっ!」


 知ってるよ。


「……まあ、それは兎も角。付人でしょ、君」


 レキリアが、急に素に戻る。

 何というか掴み所の無い子だと思う。


「付人は聖鉄に魔力を供給するから、あまり長時間は乗っちゃいけないんだぞ」

「そ、そうなのですか?」

「何も知らないんだ!? なんで勇者君、だっけ。君も言ってあげなかったんだ」

「だって、俺も知らなかったんだよ」


 その辺の説明も無しで、完全に丸投げだったからね。

 溜め息をつくレキリア。頭を抱えて、完全に呆れ顔だ。


「というかその様子だと、ずっと乗り続けてたみたいだけど、どれくらい乗ってた?」


 俺もエールズと一緒に、記憶を辿る。

 最初にエールズと出会ったのが、確か……。


「二週間くらいですかね」

「干からびるよ!?」

「え!? で、でも魔力の消費はありませんでしたよ?」

「おかしいなあ……やっぱり、勇者君が規格外なのか。あの大群を倒したくらいだし」

「そうなの?」


 あんまり実感が沸かない。

 確かに数は多かったけど、王都を襲ったレヴノイドの数に比べれば、きっと大した事は無いと思う。


「言っとくけど、滅茶苦茶だからね? 普通の聖鉄はアーティファクトを一度に幾つも持てないんだから」

「そうなの!?」

「そうだよ。一つしか持てなくて、他は置いていくしかないの」


 知らなかった。

 でもそれって、俺を呼び寄せたあの声の人のお陰なんじゃ。


「ま、だからこそ弄り甲斐があるってもんでしょ! うひょひょひょひょ!」

「勇者様のあんな所やそんな所を覗き見するつもりですね!?

 やらせませんよ! 勇者様の初めてはわたしのものですっ!」


 ……エールズはもはや、恐怖のあまり変な事を口走っている。

 どうやってロボの初めてを奪うつもりなのかな。


 結局、俺はレキリアに新機能を追加してもらう事にした。

 取得済のアーティファクトは、カスタマイズができるらしいのだ。


 普通の聖鉄鍛冶は、威力を上げたり射程を伸ばしたりとかが精々らしい。

 けどレキリアはアーティファクトの元々の特性をそのままに、新しい使い方ができるようにするとか。


 ついでに俺は、人間サイズのボディも注文してみた。

 こっちは時間が結構かかるらしい。

 もちろん、サイズだけで外見までは無理だというのも、承知の上だ。

 それは難しいよね。


 改造中は意識を休眠状態にできるという事も、レキリアは教えてくれた。

 あくまで痛みを消す為の処置であって、状態異常に近いらしい。

 結局、俺は本当の意味では眠れないようだ。


 まあいいけどね。

 睡眠が必要だと、寝ている間にエールズが襲われるといけないし。

 ハッチをこじあける敵が出てきたら、それこそまずい事になる。




 翌朝、俺の意識は元に戻された。

 俺は違和感に気付く。

 ステータス表示画面を呼び出してみると、アーティファクト使用中となっていた。


【インスタント・リビングルーム】

 タイプ:パッシブ

 インモラル・トーチャーをカスタマイズしたもの。

 コックピットの座席と亜空間を直結させ、任意で行き来できる。

 また魔方陣を利用して亜空間に家具を置くことも可能。

 この亜空間は消滅しない。


 これがレキリアの言っていたアーティファクトか。

 確かに本質は近いけど、殆ど別物だ。

 そして視界が新しく追加されていた。


 ワンルームの個室みたいな部屋が見えた。

 そこのベッドにエールズが、何故かネグリジェ姿でくつろいでいる。

 で、レキリアが色々と部屋を物色しているけど、これは動作チェックかな?


「おはよう」


 亜空間にも俺の声は届くみたいだ。


「あ、おはようございます! 無事に完成しましたよ!」

「勇者君も、お疲れ様ー! あちこち弄くり回したから、後で確認してね!」

「……わかった。ありがとう」


 なんでダブルベッドなんだろう。

 とにかく、こうして俺に新機能が追加されたのだった。




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