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第6話 都を求めて西へ行く


 里のエルフ達に別れを告げて、俺達は西へと向かう。

 何でもそっちからやってきた生き残りの人間が、エルフの保護を打診してきたそうだ。

 里のエルフ達はそれを断ったけど、俺とエールズ王女にとっては無視できない話だ。


 仇討ちも大切だけど、今いる生き残りを守るのも俺達の仕事だ。

 いや、本来は後者をメインにしなきゃいけないね。

 その為にも、迫り来る脅威を退けて“聖域”を作らなきゃいけない。


「西の都か。生き残りの人達に会えるといいね」

「ええ」


 エールズ王女は、里で貰ってきたトマトと干し肉を頬張る。

 他にも色々と貰ったけど、食べ物はこれくらいしか無い。

 水洗いしただけの相変わらずワイルドすぎるメニューだけど、飢え死によりはマシだ。

 でも、早くまともなご飯を手に入れないとだね。


「俺の身体にキッチンがあればいいんだけど……こう、食材を適当に配置するだけで、自動でご飯が作れちゃうような」

「わあ! いいですね! 日曜日にはグリルチキン!」

「オーブン、かまども完備だといいね」

「そうですね! 毎日あたたかいパンとスープが出て、食後のデザートも日替わりで出てきて、食器も全部洗ってくれて……」


 エールズが言いかけて、黙り込んでしまう。

 俺は咄嗟に「どうしたの?」って問い掛けようとした。

 でも、それはやめておいた。


「……っく……ひっ……」


 膝を抱え込んで啜り泣くエールズに、話し掛ける気にはなれなかった。

 彼女はきっと、かつての故郷での生活を思い出したに違いない。

 俺が恋人だったなら、しっかり抱きしめて、頭を撫でてやれただろう。

 でも、残念だけど、俺は戦う事でしか誰かを救えない。

 せめて、コックピットの中に頭を撫でる装置があれば良かったのに。


 ……やめよう。

 エールズが悲しんでいるのに、俺はなんて馬鹿な妄想をしているんだ。


「エールズ」

「はい……」

「取り戻そう。過去は取り戻せなくても、未来なら。

 その為に、俺は呼ばれたんだ」


 エールズが固まった。

 それから、泣き顔をもっとくしゃくしゃにした。


「あー、ごめん。俺ごときが、出過ぎた事を言っちゃ――痛ッ」


 コックピットから響く衝撃は、外側よりもずっと痛かった。

 この細い腕から、そんな力があるなんて。


「“ごとき”は禁止です」

「えっと、あの……ごめん」

「……ありがとうございます」


 エールズは両目を拭う。

 少し、元気になってくれたみたいだ。


 ――でも、しんみりしている暇は無かった。


 遙か遠くのほうで、火の塊が飛び交っているのが見えたからだ。

 花火なんていう、気の抜けたものじゃない。

 あれは、戦争……?


「行こう!」

「はい!」




 人間の兵士と、聖鉄達が、魔物の群れと戦っていた。

 生体反応を、範囲を絞ってスキャンする。

 結果――西の都側の兵士は6000人。

 聖鉄も生き物に含まれるらしく、30機。


 対するネクロゴス側は……。


 魔物10,000匹。

 レヴノイド150機。


 乱戦なんて言い方は、生温い。

 絶望と混沌そのものだった。


「ネクロゴスめ! ぐあああっ!」

「兵長殿! くそ、我々で持ち堪えるぞ!」

「増援はまだなのか!」

「いや、駄目だ! 北の砦も陥落した!」


 そこかしこから、悲鳴が聞こえる。

 俺は思わず、足がすくんでしまった。

 今までは、こんなに沢山の敵を相手にした事なんて無かった。

 桁が違い過ぎる。

 俺一人で何とかなる範疇なのか?


 俺はコックピットの中にいる、エールズを見る。

 ……エールズも、震えている。

 でもこれは、ただの恐怖じゃない。

 きっと、故郷を襲われた記憶がフラッシュバックしているんだ。


 やっぱり俺が、この悪夢を止めなきゃ。


「うお、おおおお!」


 ビームの出力を最大まで上げる。

 空を飛んでいるのはみんなレヴノイドだから、そっちは誤射を気にしなくていい。

 いつだって戦いというのは、高所を陣取った側が有利だ。

 なら、そのアドバンテージを完全に潰してやればいい。


 レヴノイドの機数が一気に50まで減っていく。


 次は魔物だ。

 俺は、戦場へと走る。

 味方ごと踏み潰してはいけないから、比較的空いている所を。

 隙を見計らって、誰とも戦っていない魔物をビームで狙撃。

 ジュッと音を立てて、魔物が次々と焼けていく。


 大砲を担いでいるレヴノイドは、バルムンクで両断していく。

 都の聖鉄と取っ組み合いになっているレヴノイドは、一機ずつロケットパンチで援護。

 各個撃破していった。


 途中で火の玉を何発か貰ったり、近接型のレヴノイドに殴られたりもした。

 だから俺はそのたびに、反撃した。

 一撃で、奴らは爆発していった。


 それを繰り返して、レヴノイドは11機まで減った。


「増援か! 助かった!」


 傷だらけの聖鉄兵が、俺に手を振る。

 その聖鉄兵は、装甲のあちこちが歪んでいた。

 それだけ激しい戦いだという事だ。

 俺も外から見たらこんな状態なのかな。


 ふと思い立った俺は、アーティファクト一覧からテンタクル・ツール・デバイスを選択。

 目の前の聖鉄兵を治療できるか、試してみた。



 その聖鉄兵の話によると、板金を修繕するならマナ・パテを塗るといいみたいだ。

 生兵法としか言いようのない治療でも、さっきよりはマシな見た目になった。


「すまないな、治療までしてもらって」

「処置に間違いは無かったかな?」

「だいぶ楽になったよ。もう一暴れしてくる!」

「わかった。俺は、北側の砦を助けに行く!」

「誰だか知らんが、頼りにしてるぜ!」


 無骨な見た目の割に、フランクな聖鉄だった。

 戦友、か……。


「陥落しているらしいから、急がないとね」

「……何もできませんが、せめて祈らせて下さい!」

「祈ってくれるだけで、百人力だよ」


 俺は北の砦へと走る。




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