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第17話 卑小なる飛翔体! ヒワイバーン!


「たのもう!」


 ゴンゴンゴン!

 地下へのゲートを叩……かずに、拍手で音を出す。

 だってあきらかにゲートの表面はサビだらけで、直接叩いたら変形して出入りできなくなりそうだったし!


「たーのもーう!」


 ダメかー……。

 仕方がないから、こういう時はプロフェッショナルの人に仕事してもらおう。


「レキリア。できる?」

「ばっちこい。お安い御用だよ」


 うんうん、頼もしいぞ。

 コックピットハッチを開いて、レキリアを手に乗せて降ろす。

 俺の手のひらからヒョイッと降りたレキリアは、ゲートの操作パネルを分解して、配線をイジイジした。

 バチンッと音がしたかと思えば、ゲートがゆっくり開いた。


「旧式のしょっぱい配線だから、ちょろかったよ」

「お見事」

「ヘーイ! もっと褒めてもいいんだぜ~!」

「……」

「おい~、そこツッコミ入れろよ~!」


 あ、エールズが笑いをこらえてる。

 エールズの笑いのツボも、ちょろいみたいだ。



「ここは……」


 広々とした、ゆるい勾配のスロープが奥まで続いているみたいだ。

 真っ直ぐ進んでいく。

 もちろん、足元に人がいないかどうかは確認する。


「かなり奥まであるみたいだね」

「はい。一体、どこに続いているのでしょうか?」


 途中でスロープがカーブしている。

 そして二つ目のゲートに到着した。


「レキリア。ここも頼めるかな?」

「あいよ!」


 バチンッと音を立てて回線がショートする。

 それにしても、手慣れているなぁ……。


「――!」

「レキリア、どうしたの?」

「ウチを乗せて、ゲートぶち破って」

「敵だね?」

「ああ」


 だったら、戦おう。

 レキリアの言った通りにして、俺はゲートを壊して進んだ。

 かなり大きな、すり鉢状に掘り広げられた広場へと出た。

 天井はない。

 空から雪が降っていて、木造小屋に積もっていた。


「こ、この! 化け物共め! 俺達の村から出て行け!」


 村人の叫び声で、俺は我に返った。




 ……これは!

 なんか巨大な球体達が触手を伸ばしながら、あちこちで転がりまわっている!?

 便乗して、ゴブリンっぽいのと、ガントゥレントの亜種(白樺みたいなの)もいる。


「ロケットパンチ!」


 ベシャッ。

 球体は簡単に潰れた。

 けれど、これ一つだけじゃない。

 他にも沢山……。


「きゃああ!?」

「リサ! ちくしょう、離せ!」


 ビームだと小回りが利かない。

 ……だったら!


「エールズ! テンタクル・ツール・デバイスを使おう!」

「はいっ!」

「もうすっかり阿吽の呼吸だねぇ……」

「レキリアは茶化さない」

「あいよ」


 触手ボールを次々と解体していく。

 そしてそれを、ポータブルバキュームで吸い込み、処分していく。

 ガントゥレントも、真ん中辺りでポキンッとへし折れば動かなくなる。

 ゴブリンはそもそも、掴んでポータブルバキュームで吸い込めばすぐだ。

 数分で、敵を殲滅した。


「皆さん、もう大丈夫です!」


 スピーカーで呼びかける。


「次は素直に聞いてくれるといいよね、勇者君」

「そうだね……」


 ここまでで、この村の人達からは疎まれてばかりだったからね。


「怪我はありませんか?」

「……」


 あ。

 村長のお爺さんも出てきた。

 最初に会った時と同じく、護衛もいる。


「勇者様。わたしを外に」

「えっ」

「何かあったら、ロケットパンチで掴んで下さい」

「……わかった」


 ハッチを開けて、エールズを外に出す。

 大丈夫かな……緊張する。

 石を投げられでもしたら、俺は自分を抑えられないかもしれない。


「直接、こうして同じ目線でお話をするのは初めてでしたね」

「ああ。お前さんは、コックピットの中におったからのう」


 村長さんは、皮肉げな態度を崩そうとしない。


「あのクソジジイやっぱりボコ――」

「――どうどう、どーうどうどうどう……」


 危ない危ない。

 レキリアが人間ロケットになるところだった……。


「わたし達は此処を去りますけれど、最後にこうして会いたかった」

「余計なお世話と言ったのを、聞いておらなんだか」

「もう、惨めな思いをするのは御免です……わたしは火種で、勇者様は薪……あなた方は、その炎の温もりに手を翳してもいいし、背を向けて立ち去ってもいい。

 ただ、わたしは、見てほしかったのです。村にいるのは、村長様だけではないのですから」


 エールズ……。


「小娘が……!」


 危ない!

 ……と思ったら、村人が止めた。


「離せ! 何をする!?」

「村長、そこまでにしましょう! 姫は、悪くないじゃないですか……」

「わしらの苦悩も、この寒さも知らず、のうのうと生きてきた奴が! 毎日、失うばかりだったわしらとは何もかも違う、こいつが……!」


 村長は思いのほか強く、護衛の人達が突き飛ばされていた。

 激昂すると、人は並外れた力を出したりする。


「殴ればよろしいでしょう! いかにも、勝手に首を突っ込んだのは、このわたしなのですから!」

「うおおおおお!!」


 駄目だ!

 そんなの、駄目だ!!


「駄目だァーッ!!!!! アッ!」


 つゅるんっ。


「ふぁぁぉぅッ!?」


 ドシィイイイイイン!!!!!


 や、ヤバい、派手に転んだ……みんな大丈夫か!?

 辺りを見回す。

 良かった……無事だ。


「おぇぇぇぇぇぇ……」


 コックピットの中で嘔吐しているレキリアを除いては。


「ごめんよ、本当にごめんよ……」

「い、いいって事よ……」


 あ。

 咄嗟につっかえ棒にしようとしたのかな、バルムンクが刺さってるや。


「よ、い、しょっと……」


 バルムンクを引き抜いて立ち上がった瞬間――、


 プシュウウウウウウウ!


 地面から勢い良く噴水が飛び出た。

(今回、擬音語多いな俺……語彙力の深刻な低下が懸念されるぞ……)


 サーマルセンサーで見ると、水じゃない……これ、お湯だ!

 転んだ衝撃で、地面に割れ目を作って、そこから源泉が吹き出たんだ!


 とりあえず、こうしよう。


「みんな聞いて。今から俺が、ここにお風呂場を組み立てるから。みんな、この温泉で温まって貰うから。それで、落ち着いて。オーケー?」


 有無を言わせないぞ。

 もし拒否したら摘んで洗って温めてやる!


「「「「……はい」」」」


 よし、快諾してもらえたぞ。




「……ふう」


 できた。

 村のはずれに資材置き場があって助かった。

 あとはテンタクル・ツール・デバイスでちょちょいっと、それこそプラモデルでも作るような感覚で建物を組み立てて完成だ。


 源泉をポンプで汲み取って、男湯と女湯に分ける。

 もちろん敷居が付いているし、てっぺんに返しがあるから覗き見もできないようになっている安心設計。


「「「ふぅ……」」」


 俺は背を向けているから、これは背後から聞こえる声。

 覗き見はしない主義だから。


 それにしても、うん。

 薪で湯を温めるよりは、こうした方がずっと楽だ。

 毒性がないのはスキャナーで確認済みだし、今後はこれを使って村が温泉街として発展を遂げてくれるといいなあ。



「――ヒワッヒー!」


 え?


「ああ! わたし達の下着が!」

「温泉と言えば覗き見、下着泥棒、ボディタッチだッヒー! 三番目は惜しくも頓挫したから引き換えだッヒー! 女の子の下着は、このヒワイバーンが頂いていくッヒー!」


 上か!

 あれは、なんかメカメカしいけれど飛竜の姿をしている……。

 お腹の“H”マークが意味深だ。


 それにしても、またもやレヴノイドか!

 せっかくの温泉タイムを、よくも!


「覚悟しろ、ヒワイバーン!」



 イメージとしては、話の最後にタイトルが表示されるやつです。

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