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出来損ないのサイキッカー  作者: 白星マサキ
第三章 ―Counter-attack―
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Counter-attack②

 朝の時間は慌しく、HRが始まる前に「またあとでね!」と言い残し、レオは教室へ帰って行った。どうやら同じ二年生らしいという事くらいしか涼馬にはわからなかった。

 そして昼休みになると、購買で買ったであろうパンを小さな身体で山盛りに抱えて涼馬のもとに現れた。

「おーい、涼馬くーん」

 教室の入り口から呼びかけられて、悠司と共に購買に向かおうとしていた涼馬は立ち止まった。確かに朝からレオは「またあとで」とは言っていたのだが、てっきり時間の取れる放課後にでも来るものだと思っていた。昼休みに来るとしても、昼食前に来るとは予想していなかった。

「え、どうしたんだそのパンの数……」

「今日のお昼ご飯!もしかして、弁当派だった?」

「いや、購買行こうとしてたところだけど……もしかして俺の分も?」

「うん!この前のお礼だよ」

 見ただけでもふわふわなのが分かるような栗色の巻毛の下で、レオの目はにっこりと細められる。

「いやそれにしても多いだろ……二人でも食いきれないって……」

「え、本当!? 涼馬くんたくさん食べるかなと思ったんだけど……じゃあお友達にもおすそ分け!」

「え、俺? 貰っていいの?」

 急に話を振られた悠司は嬉しそうに言う。

「どうぞ! 食べきれなくてもダメになっちゃうしね!」

「やーりぃ、今日の昼食代浮いたぜ! おーそれに焼きそばパンにコロッケパン、分かってるじゃんか!」

「だってこれを嫌いな男子はいないでしょ?」

「だよなー! お前とはいい友達になれそうだ!」

 悠司は遠慮なしにひょいひょいとパンをいくつか受け取る。そんな能天気な悠司を涼馬は呆れた様子で見ていた。

「にしてもレオ、まだ昼休み始まったばっかりじゃないか。それにこんな人気パンばっかり、普通は買えないだろ」

「えへへ、実はさっきの授業の最後、トイレに行くふりしてこっそり抜け出しちゃった」

 レオは悪戯っぽく笑う。

「ほぅ、お前可愛い顔して意外とやるじゃんか」

「へへん、普段の行いが良いとたまにこういう事も出来るんだよ」

「なるほど、そうか盲点だった! 俺には到底できねぇ!」

 悠司は頭を抱える。確かに悠司が昼休み前の授業の最後にトイレに行くと言っても誰も許可はしないだろう。

「それはそうと、ちょっと込み入った話があるんだ。お前は琴葉たちと飯食っておいてくれ」

「ん、何だ込み入った話って?」

「まぁ大したことじゃねぇよ。ちょっと個人的なことでな」

 そう言うと、涼馬はレオの背中を押しながら教室を出た。レオは「おっとっと」と言いながら涼馬に押されて教室を後にする。


 二人は中庭の花壇に腰かけてパンをかじっていた。レオは時折紙パックのいちごオレをちゅーちゅーとストローで飲んでいる。普通高校二年生にもなっていちごオレはちょっと選びにくいものだと思うが、両手で紙パックを大事そうに抱えるレオにはこれ以上ないほどに似合っていて、涼馬は少しほほえましい思いがした。

「それで、レオはあの日どうしてあんなところにいたんだ?」

「あぁ、うんそれはねっ……ケホッケホッ」

 慌てて説明しようとしたレオはパンをのどに詰まらせて咳き込む。

「ああほら、そんなに慌てなくて良いから」

 涼馬は慌てて背中をさすりながら、なんだか手のかかる弟が出来たような気持になった。

 少しして、レオはようやく落ち着いた様子でしゃべり始める。

「あはは、また助けられちゃった。どうしてあんな時間に学校にいたかだよね?」

「ああ。お前も寮に入ってるんだろ?うちは全寮制だしな。俺が言うのも何だが、あの時間は外出禁止だろ?」

 それに、あの日レオは制服姿だったことも気にかかる。もしかして、一度も寮に戻っていなかったのだろうか。

「うん、実は僕、文芸部に入ってるんだけど……」

 文芸部?話の先が見えず、涼馬は戸惑いながら続きを待つ。

「実はあの日の放課後部室で本を読んでたら、ついつい居眠りしちゃって……起きたら外が真っ暗だったんだ」

 レオは「あはは」と少し恥ずかしそうに笑う。

「えっ、あんな時間までずっと寝てたのか?あの時間もうすっかり夜中だったぞ?」

「うん、あの日は徹夜明けでヘロヘロだったから。それにね、部室にはすっごいふわふわのソファーが置いてあるんだけど、あれって最高なんだよ! ほんとに気持ち良くって!」

 涼馬は呆れた。夜中まで学校で居眠りしてしまった奴なんて聞いたこともなかった。

「でもね! ほんとはもうあきらめてそのまま学校に泊まろうと思ったんだ。真夜中の学校って怖くて出ていきたくなかったし……」

「いやいや、ちゃんと帰れよ」

 涼馬は思わずツッコミを入れる。レオの発想はどれも少しズレていた。

「それでそのままもう一眠りしちゃおうと思ったんだけど」レオは涼馬のツッコミをスルーして続けた「どうしても我慢できなくてトイレだけ行こうと思ったんだ」

 涼馬はツッコむ気力もなくしながらレオの話を聞いた。

「廊下を歩いてたら曲がり角の先から話し声が聞こえたんだ。一人はあの日追いかけてきてた人で、もう一人男の人がいたんだけど、そっちはどんな人だかわからないんだけど……。僕、最初は幽霊かと思ってそのまま隠れて動けなくなってたんだけど、二人の話の内容聞いてたら、何か幽霊じゃないみたいで、悪い人たちだって分かって、捕まったらまずいから逃げなきゃって。そしたら見つかっちゃって、追いかけられることになっちゃったんだ」

 レオは一息に話した。涼馬には、その会話の内容と言うのが気になった。

「二人が悪い人だっていうのは、どういうこと?」

「うん、それが、断片的にしか聞こえなかったんだけど……」

 少しためらいがちにレオは話を続ける。

「高く売れるって。エリート超能力者だらけで貴重だからって言うんだ」

 売れる。その言葉に涼馬は背筋がゾッとした。

「場所が情報管理室の前だったし、もしかしたら個人情報のことかもしれないんだけど、そうじゃなければ――」

「人身売買」

 言葉をかぶせるように涼馬は言った。もしそれが本当だとすると、涼馬やその周囲の友人たち、そして美羽も標的にされていることになる。

 涼馬は自分が予想以上に危険な事件に足を踏み入れてしまったことを確信した。この前感じた「死」の恐怖を思い出す。それだけの悪事を働こうという相手だ、本当に殺されてもおかしくはない……

「でも、どうしてそいつらはぐずぐずしてるんだ? あの晩からもう何日も経ってるけど、誰かが失踪したとかは聞かないし……」

「多分まだ準備が整ってないからじゃないかな……この街は基本的に敷島グループの影響力の中にあるし、中から手引きして誘拐なんてしようと思ったら、多分相当の準備が必要だし……だからこそ、今のうちに何とかして阻止しないと大変なことになる……」

 レオは深刻そうに言う。手元で飲み終わったいちごオレのパックがくしゃりと潰れた。

「それに、多分僕たちはもうマークされてるんだと思う。最近不審なこととかなかった?」

 そう言われて涼馬は、昨日の詩音の件を思い出す。もしかしたら本当に、あのまま襲撃されていたのかもしれない。

「やっぱりあるんだ……」

 涼馬の顔を見て、レオは察したように言う。

「レオ、早くこのことを告発して――」

「それがダメなんだ」

「どうして!?」

「二人いたって言ったでしょ?そのもう一人の男の人は大人だったんだ。多分学園の教師か、職員か……噴水広場の一件を握りつぶしたのも多分そいつだよ! 下手に告発しようとしてそいつに揉み消されたりしたら、こっちからのこのこと捕まりに行くようなものでしょ?」

「確かに……」

 噴水広場の一件のことを考えても、学園側のどこに敵が潜んでいるのかはわからなかった。それがわからない限りは、涼馬たちの迂闊な行動は即、命取りになる可能性がある。

「だからね、僕はまずその二人の正体を突き止めて、それから信頼できる人に助けを……」

「ちょっと待て、敵はその二人だけだとは限らないんじゃないか?もしかしたらもっと共犯が沢山いて……」

「え、いやううん。あのね、会話の中で、今はまだ二人でやるしかないって言ってたから……」

「なるほど、そう言う事ならその二人さえ分かればこっちからも動けるってことだな」

 涼馬は口元に手を当てながら、しばし考え込む。少し状況を整理したかった。自分の軽はずみな行動でこんな危険な状況に足を踏み入れてしまったことへの後悔はあったが、その反面、美羽のすぐ近くに危険な人物が潜んでいるのだという事に気付けたことは怪我の功名かもしれない。

 いずれにせよ、詩音に追われている時点で涼馬自身はもうこの状況から逃げられない。正体を知られた以上は、詩音も見逃そうとは思わないだろう。今はむしろ、レオよりも涼馬の方が相手から強くマークされている可能性が高い。

「どう、涼馬くん、協力してくれる?」

「……わかった。協力するよ」

「ありがとう!心強いよ!」

 涼馬は迷ったが、結局レオの勢いに押し切られてしまった。確かに危険は大きいだろう。できれば自分なんかではなく、しかるべき大人に任せるべきことかもしれない。しかし少なくとも今、学園内の手引き者が誰かを突き止めるまでは、レオと協力して何とか乗り切ることが最善の様に感じた。

 それに加えて、涼馬の中には美羽を守らなければならないという義務感があった。あるいは、それは敷島学園に来てから、そして最近は特に強く感じていた「自分では美羽を守れない」と言う無力感の反動だったかもしれない。

 自分にも出来る、いや自分にしか出来ないことがある……そういう気持ちが涼馬を突き動かしていた。

「そうと決まればどうやって奴らの正体を突き止めるかなんだけど、僕が考えたのは――」

「いや、一人はもう正体が分かってる」

 レオの言葉を遮って、涼馬は言う。レオは驚いたように「えっ?」と声を漏らして涼馬の顔を見上げた。

「生徒の方は、桐谷詩音。彼女を尾行しよう」

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