Counter-attack①
結局、涼馬の疑問に答えが出ることはなかった。
美羽が心配だったので、一本電話を入れて「絶対に一人にならないように。桐谷詩音と二人にもならないように」と言っておいた。美羽は不満そうだったが理由を話すわけにも行かず、とにかくお願いだと言って電話を切ってしまった。
涼馬は相変わらず不安だったが、男の自分では女子寮に入れず、学年も違う涼馬にはこれ以上出来ることはなかった。無理に敷島学園までついてきたものの、結局自分の力で妹を守れないという事実に、涼馬は無力感と歯がゆさを感じる。
「おーい酷いじゃねぇか涼馬、置いていくなんてさ~いつもんとこでかなり待っちゃったよ」
「あーわりぃわりぃ。やたら早く目が覚めたから先に行っちまった」
朝から置いてけぼりを食らった悠司が、教室に入るなり涼馬に恨み言を言う。朝早く目が覚めてしまったというのは本当だった。気がかりなことが多すぎて、ここ数日はよく眠れないのだ。
「そういや、昨日も結局戻ってこなかったな。忘れ物はあったのか?」
「ああ、店になくて最終的に教室で見つかったよ。ごめんごめん」
涼馬は適当に誤魔化す。
「にしてもお前が忘れ物なんて珍しいなぁ。いつもちゃっかりしっかりって感じなのに」
「そんなことねぇだろ。俺結構抜けてるぞ」
「そんなことあると思うけどなぁ。それで、何忘れたんだ?そんなに必死で取りに返るもの。財布やケータイは持ってたし……一体……」
腕組みに難しい顔をして、悠司は「うむむ……」と唸っていた。
「大したもんじゃないよ。ちょっと気になっただけ」
やたらと追求しようとする悠司に、涼馬は多少困り気味だった。なので、そのとき琴葉が「涼馬ー、なんかあんたにお客さん」と言って呼びに来てくれたのには少し助けられた思いだった。
まとわりつこうとする悠司を保護者の琴葉に押しつけ、涼馬は教室の入り口に向かう。入り口の様子を目を細めて伺いながら、涼馬の中には不安の方が多かった。何せここに来て日が浅い涼馬には知り合いも少ない。美羽ならば琴葉も面識があるから美羽が来たと言われるはずだし、とにかく来訪者は琴葉の知らない人物だと言う事だ。
一瞬、詩音の顔が頭をかすめる。しかし朝のこんな時間に教室にまできてどうするというのだろうか。もし危害を加えるようなら、ご丁寧に呼び出したりせずに不意打ちを狙うだろうし……
警戒しながら涼馬が入り口まで行くと、そこに立っていたのは意外な人物だった。
「あ、やっぱり! やっと見つけた!」
そう言って相手は涼馬の両手をぎゅっと握り、無理やりブンブンと握手をする。その勢いと敵意のない様子に、警戒していた涼馬は一瞬気が抜けてされるがままになった。
「あ、えっと、君は……」
「僕は御門レオ!この前のお礼がしたくって!」
そう言って笑う少年は、確かにあの晩涼馬の助けた少年に違いなかった。