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出来損ないのサイキッカー  作者: 白星マサキ
第六章 ―ダイヤモンドダスト―
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ダイヤモンドダスト①

 美羽が慌てた様子で現れた時、涼馬と悠司は男子寮のすぐ近くまで帰ってきていたところだった。くだらない話に夢中になっていた二人は、血相を変えて走ってくる美羽の姿に動揺を隠せなかった。

「一体どうしたんだよ、美羽」

 ただならぬ様子に嫌な予感がして、涼馬は慌てて訊ねた。

 美羽はしばらく呼吸が乱れてうまく言葉が発せないようであったが、少しして落ち着くと何とか言葉を絞り出した。

「はぁ、はぁ……由衣菜さんと……琴葉さんが……」

「な、琴葉がどうした?」

 彼女の名前を聞いて、悠司の表情が一気に険しくなる。

 美羽はしばらく上手く話すことが出来ないようであったが、少ししてようやく落ち着くと、涼馬達に今しがた起こった出来事を話した。


 話を聞いて、涼馬はそれがレオの仕業だと確信していた。彼があの夜思わせぶりに残した言葉、それはやはり由衣菜と、そして琴葉の事を指していたということだ……

 ひとしきり話し終わった美羽は、力が抜けたようにその場にへたり込もうとした。涼馬は慌ててそれを支える。

 涼馬の頭の中に「大切な人を危険に晒すことになる」と言う二階堂の言葉がこだまする。

 どうしてこう言うことになったのか、涼馬には分からなかった。本当に自分は存在するだけで、由衣菜や琴葉、そして美羽を危険に晒してしまったと言うのか……

 無力感と憤りが、涼馬の全身を支配する。頭の芯がカッと熱くなる。

「悠司……美羽を頼む」

「お、おい涼馬!」

 悠司の制止を振り切って、涼馬は学園の方に駆けだした。教官室に行けば、あの男に会えば、何か少しでも分かるかもしれない。そうでなくとも、他に行くべき場所はなかった。この件に関して、協力を仰げるような人間はあの男と詩音しかいない。

 悠司に押し付けられた美羽が「お兄ちゃん! 待って!」と慌てる声が聞こえたが、涼馬は振り返らなかった。いや、振り返ることが出来なかった。

 こんな無力で情けないままの自分では、妹に合わせる顔はなかった。


 涼馬がドアを跳ね開けるように教官室に入ると、二階堂だけではなく詩音もその場に揃っていた。二人の深刻そうな表情からも、おそらくレオが何らかの動きを見せたことは既に伝わっているものだろうと涼馬は悟った。

「何が起こってるんだ?」

「……」

 二人ともその問いにはしばらく答えず、少し悩むような素振りを見せた。しばしの後、二階堂がようやく口を開いた。

「相手が動き始めた」

「ちょっと、あなたまた――」

「彼ももう部外者ではない」

 強い調子で言われ、詩音はしぶしぶと言った様子で引き下がったが、相変わらず不満そうな様子であった。二階堂は続けて話し始める。

「御門レオが行動を起こしたらしい。現在外部からの協力者との合流、そして逃亡を図っているようだ」

「な、逃亡って!それじゃあ由衣菜や琴葉は……」

「おそらく、連れ去るつもりでしょうね」

「そんな……」

 涼馬は困惑する。

「彼の目的は、結局何なのですか?」

「分からない……」

「分からないって……」

「私たちも調査したのよ。バカみたいにあいつが好き勝手することを許していたわけではないわ。学園都市内に存在する彼の拠点も突き止めたし、連絡を取ってる外部協力者の存在も掴んだ。でも、肝心の目的は未だに分からないのよ」

「そんな……」

「だが少なくとも」二階堂が言う「我々の協力者からの情報では、現在別働隊がレオを回収するためにこの学園都市に向かっていることは分かってる。目的が何かは分からないものの、おそらく彼はそれを果たし、引き上げるところなのだと予想できる」

「それって……」

「このまま行かせれば、彼らの、保守派の計画が進むのをみすみす見逃すことになるということだ。我々はそれを、止めなければならない」

 そういう二階堂は非常に真剣な面持ちだった。

「そのために私たちは、二つに分かれて行動しようとしている。一方で御門レオを追いながら、もう一方で別働隊を叩く」

 二階堂はまず詩音を、その次に自分を指し示した。レオを追うのは詩音で、別働隊を叩くのが二階堂だという事だろう。

「じゃあ由衣菜と琴葉も――」

「それは保証できない」

「えっ」

 二階堂の言葉に、涼馬は戸惑う。レオを追い、捕らえようとする以上は人質を救出することは当然のことだと思っていたのだ。

「どうして」

「その余裕があるかどうか、分からないからよ」

 引き継ぐように、詩音が答える。

「余裕って……人の命がかかってるのに!」

「それはこっちも一緒よ。言ったでしょ、彼の目的には全超能力者の命がかかっているかもしれないって。たった二人のために、数え切れない人達を危険にさらすわけにはいかない……それにその中に、彼女たちも含まれる……」

「どっちにせよ、目的を阻止すれば彼女たちは救えないという事だ。そして、お前の妹もな……」

「そんな……」

 二階堂と詩音の表情には、もはや躊躇いは見て取れなかった。彼らは純粋に使命を果たすためにここに来た。そして、その使命のためならば他の犠牲はいとわないと、そういう風に考えているようだった。

「じゃあ、彼女たちを見殺しにしようって言うんですか?」

「そうは言っていない」

 二階堂は険しい表情で否定する。

「ただ、我々の目的の障害になるとき、もしくは天秤にかけるような状況になった時、我々は彼女たちを救うことを最優先とは考えない。そういうことだ」

 その言葉は、確かに正しいように聞こえた。論理的には恐らく、正しいのだろう。しかし、涼馬にはどうしてもその言葉を受け入れることは出来なかった。自分の大切な人達が無機質に、ただ「人数」として扱われることが、気持ち悪くて仕方なかった。

「俺も行く」

「……」

「由衣菜と琴葉は俺が助ける。レオの居場所を教えろ」

「あなたが行って何が出来るわけ?」

 詩音の声は冷たかった。その冷たさに、涼馬は一瞬言葉を失う。彼女の声には、深く沈みこむような重さがあった。経験に裏打ちされた、重さが……

 だがそれでも、涼馬には退くことは出来なかった。確かに自分は未熟かもしれない。魔術師としても未熟で、超能力者としては出来損ないだ……でも、それでも、「はいそうですか」と引き下がることなんて出来るはずがない。

「俺は……やれることなら何でもやる。それで少しでもあいつらが助かる確率が上がるんだったら……」

「足手まといだとは、考えないわけ?」

「それは……」

「詩音」

 見かねた様子で、二階堂が言う。

「連れて言ってやれ」

 涼馬は、予想外の言葉に驚いた様子で二階堂を見た。

「えっ、でも――」

「こいつは死に物狂いで訓練を積んできた。役には立たないまでも、そう足手まといにはならないだろう。それに……」

 二階堂は涼馬に向き直ると、今までにないほど真剣なまなざしで、涼馬の目を見据えて言った。

「お前も肌で知っておく必要があるだろう。魔術師の世界が、お前自身の本来の居場所が、一体どういうものなのか」

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