初めての戦闘 運命の占い
少し長くなってしまいました…。
初の戦闘シーン。 臨場感出すのってなかなか難しいですね(~_~;)
占い師メルの出立パーティーは村の多くの人が集まり、お祭りのような賑やかさだった。日が暮れて、みんなとても楽しみ、メルとの別れを惜しみながらお開きとなった。
「あまりメルと話せなかった。」
帰り道、いつもとは違って右サイドに髪をまとめ、赤いリボンで結っていたカノンはすこし拗ねながらリンゴとグリコに愚痴っていた。
パーティーにはメルに占ってもらったという人が多く、たくさんの大人たちに囲まれていたため、カノン達はメルに近づくことさえできなかった。
「まぁ、村に来た久しぶりのお客さんだったから仕方ないよ。」
リンゴが慰める。リンゴとグリコの家は広場近くにあったのだが、カノンの家は村の中心から少し離れており、夜は暗く危ないからとグリコとリンゴが付いてきたのだ。
「朝早く教会に行けばきっと会えるよ。」
メルは教会に泊まり、朝早く立つと言っていた。人伝ではあるが、わざわざ伝えてくれるくらい心の距離は縮まったのではないかと思っている。
そんな感じで一同は話しながら歩いていた。
ザッ、ザッ、ザッ…
「前方から何か近づいてくる。」
そういって、グリコは背負っていた木刀を手に2人の前に出た。
リンゴが手にしていた松明をそっとあげて前方を照らすと、
「あれは…リングベアだ!」
リングベア
山や森に生息する熊の仲間。二足で立つことのできる数少ない獣の種類である。リングベアの肉は硬めでクセがある味だが、はちみつ漬けにして煮込むことで柔らかく、美味しくなるため、高値で取引される。
4本足で歩いてきたリンクベアは3人を認識し、立ち上がり攻撃態勢に入った。
「なんでこんなところに!!」
グリコは1.5倍ほど大きいリングベアが振り下ろす鉤爪をかわしながら叫ぶ。この辺りは平野が多く、リングベアは生息していない。エサを求めて来たにしてはあまりにも遠出である。
「とにかく、倒さなきゃ…。」
カノンも勇気を出し、震えながらも護身用の短剣を構える。3人のうち誰一人実戦経験はない。これが初の戦闘である。
まず、グリコとカノンがそれぞれ木刀と短剣で攻撃する。しかし、厚い毛皮を纏う腕で大きく弾かれる。2人ともなんとか跳ね返された力を受け流し、態勢を整えた。
「"アグニ ショット"」
詠唱を終えたリンゴの火の玉がリングベアの胸部に命中する。リンクベアは少し驚いた顔をしたが、少し煙が上がっただけであまり効果はないようだ。
攻撃用の武器を装備していない3人にとって、リングベアはとても強敵だった。
カノンめがけてリングベアの鉤爪が振り下ろされる。カノンはかわしたが、先ほどカノンがいた場所には大きな穴が開いていた。
「あんなの当たったら死んじゃう。」
すでにカノンは涙目でへたり込んでしまった。そんなカノンにリングベアが腕を振り上げる。
「カノン、諦めちゃだめ!」
パッと周りが明るくなる。急な光に眩んでリングベアの動きが止まった。
「カノン、大丈夫⁉︎落ち着いて。みんなで力を合わせれば倒せるよ。」
先ほどの光は発光弾の光なのだろう。カノンは腕を引かれ、リングベアとの距離を置いた。
「メル⁉︎なんでこんなところに?」
カノンの腕を引いたメルは質問に答えず、リングベアを真っ直ぐ見据える。
「リンゴ、リングベアを包めるほどの大きな火を用意して。松明の炎に風魔法を加えれば出来るはず!
グリコ、カノン、前からの攻撃と後ろからの攻撃に分かれて!まずはリングベアの動きを止めるよ。」
その他いくつかのメルの指示をきき、それぞれ動き出す。雰囲気の変化を感じたのかリングベアの動きも慎重になった。しかし、すぐに目の前で木刀を構えるグリコにターゲットを定めて4本足で突進してきた。
「リンゴの詠唱が終わるまで時間を稼いで!」
サッ
メルの言葉を聞きながらグリコは冷静に左へかわす。そのまま、リングベアの背中に木刀叩きつけた。
ガフー
リングベアは唸り声をあげながら、グリコと対峙する。しかし、ダメージは与えられていないようだ。グリコはそのままじりじりと後ろに下がる。つられるようにリングベアもゆっくり距離を詰めていく。
「準備よし!いつでもいいよ!」
リンゴの言葉を合図にしたようにグリコが前に飛び出す。リングベアは迎え撃つように立ち上がり、鉤爪を振り下ろした。それをかわし、グリコはリングベアの後ろ足に木刀で居合いの一撃を繰り出す。リングベアはバランスが乱れ、前のめりに態勢を崩した。
「"イグニート スコール"」
リンゴがリングベアの一瞬の隙を見計らって松明の炎を魔法の風に乗せた炎の陣風をリングベアにぶつける。リングベアは毛皮を焦がすかのような大きな炎に唸り声をあげ、数歩下がる。
「カノン、行けー!!」
リングベアの背後の木の上からカノンが降ってくる。カノンの持つ短剣が真っ直ぐリングベアの首の後ろに突き刺さった。
グワァー
最後の唸り声をあげて、リングベアは動かなくなった。
「倒した…の?」
カノンは恐る恐る短剣を引き抜き、ゆっくりリングベアから降りる。リングベアはだらっとして、全く動く様子はない。3人はしばらくリングベアを凝視し、やっと安堵の表情で笑いあった。
「メル、来てくれてありがとう。どうしてここに?」
カノンは戦闘中は聞けなかった答えを改めて聞いた。
メルはリングベアの瞼を閉じさせ、静かに黙祷してから答えた。
「……カノンたちに伝えたいことがあったから。みんな無事でよかった。」
リングベアを道の上に放置していくわけに行かないので、足の速いグリコが村の大人を呼びに行き、広場まで運んでもらった。
リングベアが現れたことやそれを14〜16歳の子供たちが倒したことに集まった人たちは驚き、不安、感嘆など様々な反応を見せていた。
夜も遅いので、リングベアに大人の見張りがつき、リングベアの解体は明日行われることになった。リングベアを倒した子供たちは一度教会に待機し、大人たちが家まで送ってくれることになった。
「メル、伝えたいことって?」
協会で大人たちを待っているとき、メルは慎重に言葉を選びながらカノンの質問に答え始めた。
最近、他の町村でも今まで見たことのない魔物たちが現れていること、魔物たちの動きが活発になっていること。世界に変化が起き始めていることなど。
「そんな中で一人旅は危ないんじゃない?」
リンゴが尋ねる。メルには護衛などは付いていない。メルは魔物と言わず、盗賊が現れたとしても簡単にやられてしまうのではないかと思う雰囲気がある。
その質問に対してメルは、
「まぁ、私は一人でも大丈夫だから一人旅してるんだよ。」
と笑いながら言った。はぐらかされたようにしか感じないが、特に根拠も言ってないのになぜか大丈夫だと思ってしまった。
「ねぇ、カノン。カノンが最初に占いをした時、もう少しで大きな転機が訪れるって言ったよね。カノンを待つ運命は私が思っていたよりもずっと大きいのかもしれない。」
そういいながらメルはカードを取り出した。これはタロットという占い用のカードだと説明しながらカノンの前で裏のまま扇状に広げた。引き寄せられるようにカノンは一枚のカードを手に取ってみた。
旅人のように木の枝に小さな袋をつけただけの荷物を持ち、身軽な格好で唄いながら歩いてるような男の絵が描かれたカードだった。
「"The Fool"。愚者のカードだね。このカードがカノンを表すカードだよ。」
よく見ればこの絵の男は崖のギリギリのところを歩いているようだ。しかも目を閉じており、踏み外せば真っ逆さまに落ちてしまうだろうと思うのに、鼻歌を表すような音符がその危機感を持っていないことを示しているようだ。
「カノンは愚者なのか。へぇ〜、そ〜なんだ〜。先が思いやられるなぁ。」
とグリコは軽口を叩く。むーっと頬を膨らましながらもカノンは否定できないようだ。
「愚者のカードはそんなに悪い意味じゃないよ。」
そんな様子にクスクス笑い、メルはカードの解説をする。
「このカードは確かに目を瞑って崖の上を歩くような愚か者だけど、それができるほど器の大きい人でもある。
このカードが表す意味は挑戦、無謀、先の見えない未来。
この先何が起きるかわからないけど、たくさんのことに挑戦していかなきゃならない。でも、知らないままでは本当に無謀な挑戦になってしまう。だから、もっと広い世界を見て学んでみたらいいと思う。」
メルの説明にリンゴは
「つまり、カノンは無限の可能性を秘めている。だからたくさん挑戦しなさいってこと?」
そんな感じとメルは笑う。リンゴやグリコも占って欲しいと言ったが、リングベアの処置や道の応急処理を終わらせた大人たちが子どもたちを送りに戻ってきた。
帰り際、メルは3人に言った。
「私はこの後、王都に向かおうと思っているの。きっと、また会える。待ってるよ。」
次の日、カノンたちは朝早く教会に行ったのだが、すでにメルは旅立った後だった。
お昼も過ぎた頃、いつものところでカノン、グリコ、リンゴ、チャコはお茶しながら昨日のリングベアとのバトルのことを話していた。
「追い払うだけじゃなく、倒しちゃうなんてすごいね!」
もう何度目になるかわからない説明を聞き、改めてチャコは感心して言った。
この日、3人は朝からリングベアの解体に立合い、村の人たちに何度もリングベアとのバトルについて話し、やっと解放され、チャコからお疲れ様とお茶をいただいているところだった。
リングベアの毛皮と肉は村の女衆が朝早くから加工し、男衆が今、商人の集まる街に売りに行っている。早い時間から出かけて行ったが、量も多く、高値での取引になるので、戻ってくるのは明日だろうと言っていた。
「でも、メルがいなかったら倒せなかったよ。」
実はメルの作戦で勝てたことはメルに口止めされていたので、村のみんなには話していない。しかし、カノンはチャコにだけは本当のことを話していた。バトルのことも占いのことも。
「そういえば、明日はカノンの誕生日だね!なにか欲しいものある?」
暗くなりそうになった雰囲気を一変しようと、リンゴは誕生日の話を持ち出した。
いつも誕生日はポプラと過ごしたいからと、このメンバーでお祝いするのはカノンの家にプレゼントを持って遊びに行くのが毎年の約束であった。
なんでもいいよーとカノンは照れ笑いする。しかし、同時に大きな不安も抱えていた。
大きな転機が待ち構えている予感。
カノンは真っ青に広がる爽やかな空を見上げながらお茶を飲み干した。