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本当の旅立ち

白い光が消え、目の前に広がったのは広い草原だった。後ろから風が吹き上げ、開放的に心を浮き立たせる。


「カノン。」


呼ばれて振り返ると、メルの背後に大きな樹がそびえ立っていた。


「あれ?他のみんなは?」


「ここにはカノンだけだよ。リンゴたちは付いて来ちゃったけど、用はないから別のところに飛ばして来ちゃった。」


どういうことかわからないが、声の感じからしていたずらの類だろうとカノンは笑ってメルの顔に目を向ける。


「メル?どうしたの?」


なんとなく違和感を感じて、声をかけるが、メルの表情がとても冷たい。心なしか距離もわざとあけられているようだ。

そして、カノンの言葉にメルは顔を伏せた。


「カノン、レオとエイクに関してどう思う。」


「どうって…、怖いけど、今はまだ勝てないけど、倒さなきゃならない相手だと思うよ。」


「それは、なんで?」


「えっ…。レオとエイクオンが異界の扉を開けようとしていて、それを開けようとするとたくさんの人が犠牲になるから…。」


「うん、そうだね。そのためにはレオはカノンに呪いを移さなきゃならない。」


「うん、そうだね。」


「カノンに呪いを移さなければ力をふるえない。」


「・・・・・・。」


「カノンに移す以外に呪いの解決法は見当たらない。」


「メル、何が言いたいの?」


メルは顔を上げ、手を前に構える。


「2人のうち片方が全力を出せない状態であれば異界の扉を開くことは不可能だ。ならば、カノンがいなくなればレオが力をふるう方法はなくなる。そうすれば、結界も国の人も守れるってこと。」


カノンはとっさに右へ転がり戦闘態勢に入る。元いた場所を見ると地面がえぐれ、後方では黒い球体が霧散して消えていくのを感じた。


「…メル?」


メルは次の攻撃を準備しながらカノンを見つめている。その瞳からは感情も意図も読み取れなかった。


「もし…。もし、カノンが1人でもレオ殿に負けない強さがあるなら私のことも撃退できるでしょう?だけど、あなたは弱い。」


メルが少しずつ近づいてくるが、カノンは動けなかった。


「弱さで自分の身を滅ぼすくらいならまだいい。だけど、あなたに世界の人々の命がかかってる。あなたを殺すことで世界を救えるならば私は汚れ役くらい買って出てもいい。」


言われてみればその通りだ。レオは自分の血縁にしか呪いを移せない。しかし、呪いのせいで子どもは作れず、唯一呪いをはねのけて出来た子どもがカノンである。カノンさえいなくなれば世界が守れる可能性は充分にある。


「だ…だったら、エイクオンの方無効化したらいいじゃん!身体に戻らないと力を出せないんでしょ?身体に戻れなくしちゃえばいいじゃん!」


「それも正論の一つだね。だけど、闇魔法の使い手は彼だけじゃない。」


メルの表情は変わらず冷たい。カノンは一歩後ずさる。


「私も魔力の質だけで言ったらそこそこ高い方だ。相殺エネルギーが利用されてしまうことを考えると、今以上の力をつけたレオ殿に勝つことは難しい。力のぶつけ合いしてしまったら向こうの思う壺だからね。」


ならばレオをどうにかしなきゃならないというのはわかるが…。


「だからって!私が死ななきゃならないの!?他に方法はないの!?」


「あるの?」


カノンもわかっていた。メルのいう方法が最良の選択で、他に方法なんて思いつかないのだから。


「やっと、諦めたみたいね。私も覚悟を決めるわ。」


「……。世界のこと守ってね。」


「えぇ。」


メルの右手の魔力が徐々に強く、しかし凝縮され小さくなる。


「大丈夫。痛くはないわ。一瞬で終わるから。」


カノンは顔を上げることなく、その場にとどまる。逃げるつもりは全くなかった。


「さよなら。」


メルの手から魔力が解き放たれる。


「………。」


「バカヤロウ!カノン!何考えてんだ!」


「そうだよ!諦めてどうすんのさ!」


カノンはまだ生きていた。

グリコに抱えられ、リンゴがメルとの間に入り警戒態勢をとっている。


「グリコ、リンゴ。余計なことしないでもらえる?これが一番の最良策なのよ?」


「うん、話は聞こえていたからわかってるよ。」


「あぁ、カノンがいなければ異界の扉を開く方法がなくなるってことだろ?」


「それがわかってるなら、なぜ邪魔するの?」


メルが冷たく言い放つが、リンゴもグリコも冷静に構えをとる。


「カノンは大切な友達だ。守るのは当然だろ。」


「そうそう。見ず知らずの世界の人より、友達を守る。当たり前でしょう。」


「グリコ…。リンゴ…。」


自分がいなくなれば世界の脅威は無くなるのに…。そんな自分のために立ち上がってくれる友達がいる。


ゆっくりとカノンが立ち上がり、剣を手にした。


「カノン、なんのつもり?」


「メル。リンゴとグリコが私のために来てくれた。私がいなくなれば世界が救われるのはわかってる。でも、私、まだ…死にたくない!」


グリコとリンゴは笑顔でメルの方へ構えを取る。


「理解できないわ。カノンにレオの呪いを移されてしまえば、世界中の多くの人が死んでしまうかもしれないのよ。」


それは…とカノンの剣に迷いが生じる。しかし、


「その、レオってのを倒せばいいんだろ?」


「もしくはレオ様に負けないくらいカノンが強くなるとかね。出来ないことないよ。ね、カノン。」


できるかな…と弱気になるカノンの背中をグリコが力いっぱい叩く。リンゴも顔は笑ってるが目が笑ってない。


「カノンが死ぬことで世界が救われる?何言ってるの。闇の力の使い手がエイクオン様だけじゃないように、光の力の使い手はレオ様だけじゃないかもしれないでしょ。」


「つまりだ!えーっと、なんだっけ…。あっ、《カノンが死んでも問題の先送りにしかならない》だった。…だよな?」


リンゴとグリコの力説を聞いてもメルの目に表情は現れない。しかし、集まりかけていた魔力は消えたようだ。


「猶予は5年よ。5年経って成長が見られなかった時はその命奪わせていただくわ。」


「メル…!」


「だけど、カノン。あなたが生きることを諦めるようなことがあれば5年なんて待たないよ。常に監視をつけて奴らに利用されないか見張らせてもらうからね。」


それぞれ戦闘態勢を解除し、お互い手の届く位置まで集まる。


「俺はシエロに付いて行って強くなってくる!剣で誰にも負けないくらいに!」


剣をかかげ、グリコが宣言する。


「はぁ、不本意だけど、私も強くならなきゃね。みんなの力なくても世界守れるくらい頑張るわ。王様だもん。」


腕組みながら少し笑みを浮かべてメルが言う。


「オルビスに会って力貸してもらえないか聞いてくるよ。そして、魔導師としてカノンやグリコ助けられるようになりたいな。」


懐から黒い羽を取り出しリンゴが言う。

3人の視線がカノンに集まる。強くなれるかわからないし、怖いことも沢山ある。それでも3人に背中を押されるようにカノンも高らかに宣言する。


「お父さんだか何なんだか知らないけど、レオなんか知らない!負けないくらい、いやコテンパンにできるくらい強くなる!」


4人はそれぞれの道を歩いて行く。これはまだ序章でしかない。

メル「それにしても、よくあんな反論思いついたね。」

グリコ「あぁ、それはポプラさんが…。」

リンゴ「グリコ!それは黙っててって言われてたでしょ!」

グリコ「あっ、やべ…。」

カノン「えっ、ポプラがどうしたの?」

メル「ここまで言われて気づかないのね、カノンは。」

リンゴ「まぁ、カノンだからね。」

カノン「えっ?えっ?!」


しばらくカノンは3人に撫でられ続けたらしい。

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