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敵は身内にあり

 転移魔法というのは本当に一瞬である。目の前には木々に囲まれた真っ暗な闇がある。


「カノン!なんで?!」


 声の方を振り向くと、占い師、いや魔王メルが立っていた。その表情は驚きに満ちており、カノンの後ろを見てさらに深まる。


「お祖父様、なぜここに…?」


 レオと靄の男は悠然と構えている。カノンはなんとなく距離を取りたくてメルの隣に移動する。


「おい、エイク。孫娘が待ってるんじゃなかったのか?驚いてるぞ?」


「あぁ、まだ会ってなかったからな。会うつもりだったのだから良いだろう。」


 そういう問題じゃねえよとレオはツッコミを入れているが、まあ良いかとカノンたちに顔を向ける。


「お祖父様、どういうことか説明していただきたいのですが。」


 メルの質問は氷の刃のように冷たく鋭い。


「見ての通りだ。祖父が孫娘に会いに来て何が悪い。」


 靄の男がメルに告げる。カノンは何事かわからずメルに助けを求めるように視線を送る。


「あの男は私のお祖父様で、エイク王というの。100年ほど前、エイク王はある事件のために封印された。本当は倒してしまいたかったけど、私の力ではどうにもならなくて…。」


 その続きをエイクは愉しむように見つめる。言葉を濁したメルも決意したかのように言葉を発する。


「5人の幹部たちと協力して封じ込めるのがやっとだったの。殺してはいないけど、ここにいるはずもないのよ。」


 それがどうして…とメルの目は警戒と敵意を込めてエイクとレオに向けられる。


「クックックッ。その答えはもう出てるではないか。ほれ。」


 エイクは悪意に満ちた笑いを浮かべ手の上にラビを浮かべる。


「ラビ!いつの間に!」


 カノンが手を伸ばそうとするがメルに制止される。


「このラビエルは私の時よりも研究が進んでいるようだが、もともとこやつの研究を始めたのは儂だぞ?」


 ハッとしたようにメルは呟く。


精神生物(サイコロイド)…!」


「サイコ…?なにそれ?」


 カノンに促され、メルはゆっくりと慎重に話し出す。


「サイコロイドは精神だけの生物、または意思のある魔力だけの存在のことなの。元々は寿命とは肉体の寿命であって、精神は死なないのではないか。肉体から離れて生きることができれば、永遠を生きることが出来るのではないかという仮説から始まった研究なのよ。

 それを始めたのが初代国王であり、私のお祖父様であるエイク王。ラビエルはその時に生み出された魔法生物になるの。」


 まぁ、失敗もつきものだから、ラビエルは三代目なんだけどねとメルは笑う。

 その説明をエイクは見下した笑みで拍手を送る。


「しかし、お祖父様。研究での一番の問題点。サイコロイドは身体を持たないため、形を維持するために莫大なエネルギーを必要とすること。

 ほとんどの場合、エネルギーが足りず形を維持できず霧散してしまいます。また、形が作れても、サイコロイド自身ではエネルギーが供給出来ないため、数秒でエネルギー不足に陥ることが明らかになっています。

 そのため、結局ラビエルのように器が必要になると結論に至ったはずなのですが…。」


 メルは一度言葉を切りエイクをしっかり見つめる。顔立ち、髪色、服装、体格…。問題なく形になっているが、若干、背後の景色が透けており、実体ではないことを窺わせる。まるで、煙が形を作っているかのようだ。


「お祖父様はどのような原理でその形を維持しているのでしょうか。」


 お前は良い研究者になれるぞとエイクは感心して話し始める。


「幻夢鉱石は聞いたことあるか?この石は近くにあるエネルギーを吸い取り、蓄える性質がある。また、ある一定範囲内において、小さなものが蓄えたエネルギーが大きい方へ移動するという不思議な性質を持っている。最近では意思疎通や意識干渉も可能であることがわかったな。それを人工的に作り出す技術を開発したのだよ。」


 ここまで言えばわかるだろう。エイクの言葉を聞いて、カノンはゆっくりメルに呟く。


「そう言えば、スージーさんが言ってた。持ち主の精神エネルギーを吸い取るアクセサリーが増えてるって。もしかして…。」


 メルから膨大な魔力が放出される。


「無関係な一般民から魔力を吸い上げているというのですか?」


「そうだと言ったらどうする?」


闇黒球(ダーク・グロブ)


 メルの手から黒く大きな魔力の球が生まれる。徐々に魔力を込め、大きく大きく育っていく。魔力の球が生み出す力なのか、辺りに強い風が巻き起こり、カノンは一歩後ろに押し戻される。


「メル!そんな大きくしたら危ないよ!」


 カノンの叫びも虚しく、完成した球体はレオとエイクに向かって動き出す。


「行け。」


 メルの静かな号令で球は弾かれたように飛び出した。


「輝きの息吹(シャイン・ブレス)!」


 どこからか放たれた眩い光が魔力の球にぶつかる。そして、恐ろしい風圧がメルとカノンに襲いかかる。


「さすが、エイクの孫娘だな。すごいもんだ。」


「ふん。儂ならもっと上をいけるがな。」


 辺りにあった木々は三列目までなぎ倒されている。手を前にかざしたレオと、変わらずゆらゆらと浮かぶエイクは平然とそこに立っている。先ほどの光はレオが放ったようだ。膝をついたカノンとメルは即座に立ち上がり戦闘態勢を整える。


「さっきのが防がれちゃうなんて…。メル、大丈夫?」


「えぇ、大丈夫。だけど、今の衝撃波は一体何?」


「それはな、相殺エネルギーだよ。」


 当然のようにレオは言い放つ。


「特に、光の力と闇の力はお互いが弱点であり、得意の相手になる。だから、ぶつけ合った時にはお互いの力がかき消されることを相殺といい、その時に生まれるエネルギーが相殺エネルギーという。」


 エイクがさらに続ける。


「異界の扉を開くために必要なエネルギーとして相殺エネルギーを用いようと考えておる。今のような魔法ではまだまだ足りないがな。」


「異界の扉?エネルギーを用いる?なんの話?」


 突飛な話に着いていけないメルにカノンは簡単に説明する。


「お父さん?…レオは異世界に行きたいんだって。そのための扉を開くためには大きなエネルギーが必要って言ってた。」


「えっ!お父さん?!」


 次々と出てくる初耳情報のため、カノンは一時メルと情報共有を行う。


「………。なるほどね、状況はわかったわ。もっとも、やることは変わらないけどね。」


 カノンも剣を握り直し立ち上がる。


「うん、目の前の2人を倒して、止めること、だね。」


「だけど、今の話だとあの2人が私たちに接触してきた目的が分からないわ。」


 あぁ、忘れてたなとレオとエイクは顔を見合わせる。


「俺は呪いのせいで光魔法の威力が制限されちまうんだ。呪いは闇の力だからなぁ。だから、呪いをカノンに移し、力を最大限に発揮できるようにするのが目的。」


「儂は魔力で体を維持してるため、簡単な魔法なら使えるが、異界の扉開くほどの力を使えば今度こそ霧散してしまう。封印された肉体を取り戻すために会いにきたのだ。」


 まぁ、それを聞いてもやることは変わらないとカノンとメルは攻撃の時を見定める。

 しかし、力の差は歴然だった。勝負はあっけなく終幕する。


「…っ!これは…?」


 カノンもメルも膝をつき立ち上がることが出来ない。


「重力魔法だよ。本来なら這いつくばると思ったのだが、膝立ちで堪えるとはさすがだな。」


 褒められたところで2人とも動くこともままならない。2人の周囲が少しづつへこんで行くのが横目で見える。

 そこへゆっくりレオが近づいてきた。


「娘に手荒なことはしたくないと言ったんだがなぁ。時間がないんだ許してくれよ。」


 重力魔法に必死で耐えるカノンの手にレオの手が伸ばされる。

 メルが何か言ってるようだが、カノンの耳に届かない。

 レオの手から逃げ出したいが、動くことも出来ない。

 レオの手がカノンの手に触れ、蛇のようにうごめく黒い力がレオの腕に現れる。

 ゆっくり、ゆっくりカノンの方へ向かってきた。


「イヤーッ!」


 カノンの悲鳴と同時に白い光がレオを弾き飛ばす。

 何が起きたかわからないというようにレオはカオをあげた。


「聖母の祈りだな。」


 エイクの言葉にレオは納得して立ち上がる。


「そっか、まだ消えてなかったのか。」


「あぁ、そのようだな。弱々しいから長く持たないとは思うが…。」


 どうする?と問いかけるエイク。レオはバク転で起き上がるとカノンに背を向け歩き出す。


「聖母の祈りがあるんじゃ呪いは移せない。エイクもそろそろ魔力切れになるだろうし、帰ろうか。」


 まるで夕方になったから帰ろうと言う子どものようにエイクとレオは立ち去って行く。

 その姿をカノンもメルも黙って見送るしかなかった。

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