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友だち

 今日の占い業務を終え、メルは大きな月の見える丘で一息ついていた。ほとんど旅人も来ないこの村には宿屋などはなく、教会に寝泊まりさせてもらっているのだが、落ち着いて考え事がしたくてここまで来てみたのだ。


「平和なところだなぁ。」


 そんなにたくさんの町村を見たわけではないが、ここは特に平穏な村だった。住民の占い内容も畑の収穫具合や機織物の売れ行き、今年の運勢や恋占いなどたわいないことばかりだった。

 きっと王都に近づけば近づくほど権力争いや泥沼関係の占いが増えてくるのだろう。


「ここはそんな黒い渦に巻き込まれてほしくないなぁ。」


 そういえば、初日に同じ年頃くらいの子たちが占いに来てくれた。ちょっと気になる子もいたし、明日、会えるだろうか。あまり、同い年の子と話したことがないメルは彼らと話がしてみたいと思いながらも、今日1日はそのきっかけをつかめずにいた。


「明日、探してみようかな…。」


 そもそも、出立は今日の夕方か明日の朝の予定だったのだが、長老さんがお礼にパーティーを開きたいとのことで明日の夕方までいることになった。きっと明日はその準備で占いに来る人もいないだろう。

 メルがこの村に訪れた理由は占いのためや路銀稼ぎのためだけでない。しかし、もう一つの理由を考えるためにこの村は平和すぎた。


「この村がいつまでも平和でありますように…。」


 明日の出立パーティーのために少し早めに寝なければ。村をひと回りしたら、眠りに就こうと考え、メルは闇の中へ歩いていった。



 チャコはパーティーの準備があるからと今日の稽古はカノン、グリコ、リンゴの3人だった。いつものように午前中はグリコによる剣術修行、午後はリンゴによる魔法の稽古だった。

 今日の剣術は防御の訓練である。


「行くよー!」


 そう言ってリンゴは魔道書を手に魔法の詠唱を始める。そのリンゴの左右には少し太めの木の枝がたくさん積み上げられていた。

 少し離れたところで木の棒を構えるカノンとグリコは息を飲む。


「"突風(ラファーガ ゲイル)"」


 突風がリンゴの髪を巻き上げる。左右にあった木の枝が風に乗りカノンとグリコに向かって飛んでいった。


 カッ、コン、トン、ガッ…


 時折カノンの額に枝が当たりながらも2人は向かってくる木の枝を捌いていく。


「これでラストだ!」


 最後のひとつを叩き落とし、グリコはガッツポーズをした。


  バシン


 もうひとつ飛んできた枝が顔に当たり、カッコつかなかったが。


「カノン、あまりぶつからなかったじゃん!やったね!」


 2人のもとに近づいてきたリンゴが言う。3つくらいぶつかっただけで、ほとんど怪我もなかった。


「うん、最初の頃はこの一回で切り傷や打撲でいっぱいになってたもんね。」


 上達が目に見えて嬉しいのか、カノンは上機嫌である。


「でも、パーティーがある今日になんで、一番怪我しやすいこの修行なの?」


 もっともなことをリンゴがグリコに言う。


「あっ、忘れてた。」


 もっと早く確認してほしかったとカノンは思う。まぁ、カノンもこの修行が怪我しやすいことを忘れていたのだが…。



 午後の魔法の稽古は火の玉を出して薪に火をつけるというものだった。安全のために薪を持つのはグリコ、すぐ近くにバケツも用意してあった。


「いや、どこが安全のためなの!?カノン、俺に当てるなよ。」


 そんなグリコの抗議虚しく、カノンの火の玉の用意ができた。


「魔法で作った火だけど、自分で触れたら火傷するからね。ゆっくりでいいから薪の先端に火の玉が来るように動かしてみて。」


 俺に当てたら俺が火傷するとグリコは主張するが、動くなとリンゴに言われてしまう。カノンは言われた通りに火の玉が動くように想像する。すると、カタツムリのようなスピードで火の玉が動き出した。


「薪に火がついたら、火の玉を消してみて。」


 ついに薪の先端に辿り着き、火が灯った。そして…


「えっ、あれ?どうやって消すの?」


 火の玉は前進を続けたままカノンは小パニックに陥っていた。


「と、とりあえず、グリコは薪の火を水で消して!あのね、カノン、魔力の注入をやめればいいんだよ!もしくはどんどん火を小さくして、消えるようにするとか!」


 リンゴは慌てながら説明をする。しかし、カノンは焦ってしまったのかなかなか火が消えない。


「いっそ、俺が水をかけてやる!」


 とグリコはバケツを持ち上げるが、先ほど入れた火のついた薪のせいでバケツに穴が開いたらしい…。

 バカグリコーとリンゴとカノンが声を合わせるが、火はおさまらない。その時、


「"消滅バニッシュ"」


 突然聞こえてきた声とともに火が消えた。声の方を向くと、そこには占い師メルが立っていた。


「あの…、大丈夫?」


 突然の出来事に3人は動きが止まってしまっていたようだ。そして、最初にとった行動は…


「おい、カノンなんで俺の後ろに隠れてんだ!!」


 カノンは目にも止まらぬ速さでグリコの後ろに隠れた。カノンは何か言い訳しているようだが、声が小さすぎて聞こえない。


「助けてくれてありがとうございます。あの、すごく人見知りで…。本当にすみません。 って言ってます。」


「自分で言えよ!リンゴも自分の言葉で礼を言え! あっ、俺からもありがとうございます。」


 カノンの代弁したリンゴとリンゴに突っ込みを入れるグリコ。2人のコントにメルはつい吹き出してしまった。


「驚かせてしまってすみません。よかったら、お名前など聞いてもいいでしょうか?」


 クスクスと笑いながら、メルは言う。和やかな雰囲気になって少し落ち着いたのか、カノンも少し顔を出した。


「カノンです。もう少しで15歳になります。あの、昨日は占ってくれてありがとうございました。今日も助けてくれてありがとうございました。」


 最後の方は小さすぎて聞こえにくかったが、なんとか自己紹介できた。


「カノン、よく自己紹介できたね〜。よしよし。 私はリンゴです。15歳です。先ほどはありがとうございました。よろしくお願いします。」


 当たり障りないことしか言ってないが、リンゴも自己紹介をした。緊張のせいかずっと頭を下げたままだったが…。


「さっきはありがとうございました!俺はグリコです。よろしく!

 占いだけでなく、魔法も使えるってすごいですね。」


 さすが、この中では年長者というだけあって、一応まともに挨拶していた。右手を挙げて直立不動、テンション高めという不自然な状態だったが…。

 ここはほとんど新参者も来ず、村全員が身内のようなものなので、普段明るく社交的に見えても実は人見知りだったりするのだ。この3人みたいに…。


「あの…すみません。そんなに緊張しないでください。ただ、同じくらいの歳の人たちと仲良くできたらなぁと思って来ただけなんです。」


 何がツボだったのかわからないが、ずっとクスクスと笑いながらメルは言う。メルが3人に普段この村はどのように過ごしているのかを質問したり、反対にメルの旅での生活や今までまわった町村の話をしているうちにいつの間にかみんな自然に話せるように打ち解けていた。


「カノンさんたちも夕方のパーティー出られるんですか?」


 そろそろ陽も傾いてきた頃、メルは聞いた。


「メル、歳も同じくらいだし、敬語使わなくていいよ!パーティーには参加するよ。」


 最初あんなに人見知り発揮していたカノンが明るく答える。カノンの目当てはパーティーに出てくるデザートなのだろうとリンゴとグリコは気づいているが、ここは空気を読んで何も言わなかった。

 メルはそろそろ長老の家に行かなければならないらしく、カノンやリンゴも一度家に戻って準備するからと解散することにした。

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