カノンの…?
カノンはレッドホース家のメイドに連れられて歩いていた。カノンに来客なのだという。リンゴとグリコもついて来ようとしてくれたが、カノン1人でと来客からの希望だそうだ。
「カノンなんかに何の用なのさね〜。」
肩に乗ったラビが小さな声で呟く。ラビはペットということで同行を許してもらえた。
「こちらになります。」
メイドは応接間の前でカノンに入るように促す。カノンは重々しい扉を開け、中に入った。
まず目に飛び込んでくるのはキラキラと光を放つシャンデリア。シャンデリアのオレンジの光を受けて輝く豪華な壁紙。赤いソファーの前にはカノンの客と思わしき人物が立っていた。
「へぇ〜、君がカノンか。確かにアリアにそっくりだ。」
ボロボロの旅装束に身を包んだカノンより2つ3つ年上の少年だった。癖のある金髪には銀色のシンプルなヘアピンがクロスで留めてあるのが特徴の少年だが、カノンの知り合いにこんな人はいない。
「なんで私のこと知ってるんですか?あなたは何者ですか?」
カノンは恐る恐る質問する。知らない人でさらに母アリアのことも知っている。そして、ついさっきまで忘れていたが、カノンはよくわからない相手から命を狙われているのだ。何故、警戒心もなく1人で来たのだろうとカノンは今更ながら後悔した。
「俺はダンディ・レオだ。そんな怪しいもんじゃない。レオと呼んでくれ。」
ポーズを決め自己紹介する姿にカノンは少し肩の力を抜くが
「俺はお前の父親なんだ。」
この言葉にカノンは剣を抜いた。
「いやいやいやいや、ちょっと待て!警戒されるのはわかるが攻撃はよろしくない!」
レオと名乗る少年は慌てて両手を挙げ、降参の意を示す。
「どっからどう見ても歳変わらないじゃん!あんたが父親な訳ないし!」
「そりゃそーだ。まぁ、落ち着け。説明するから。話し合おう。」
それもそうかとカノンは剣を構えたままでレオに話を促す。念のため、ラビには肩から降りてもらい臨戦態勢を整える。
「うーん、ここまで警戒されるとはな…。まぁ、仕方ないか。」
「いいから早く話しなさい。」
「そんなところまでアリアに似てるとは、感激だなぁ。」
話は長くなるけど…と前置きをしてレオは話し出した。
「俺は元々は冒険家の中でもハンターと呼ばれる部類にいたんだ。」
「ハンター?」
ハンター
宝やレア素材を収集する冒険家。冒険家自身が使う場合もあるが、売買されることも多い。上位クラスになると、コレクションのため家に飾っておくと言う人もいるんだとか…
「俺は宝探しが好きなだけで、宝には全然興味なかったんだがな。」
レオのようなハンターは珍しくなかったらしい。命を賭したスリルを喜びとする冒険家はいつの時代も存在する。
「そんな冒険の中には呪いを受ける場合もある。」
「呪い?」
呪い・呪術
魔力により、相手に負の性質を与えるもの。魔術とは違うのは一度かけると、半永続的に効果が持続する。解呪の法を使うか、術者本人に解いてもらうしかない。術者が死んでも続くと言う厄介な技だ。
「そう、俺の場合は不死の呪いを受けた。まぁ、不老不死を求めた代償って奴だ。」
不死の呪いというならみんな喜んで受けるのではないか…。
「俺の不死は死に至ることで時間が戻ってしまうんだよ。」
「えっ?」
「寿命や事故、怪我、病気…とりあえず普通人が死ぬだろうことが起きると生まれたばかりの赤ん坊に戻ってしまうんだ。」
何度も人生をやり直せるならいいことなのではないだろうか…。
「安全な場所で死なないと、戦闘力のない赤ん坊に戻って何度も殺され続けるんだぞ。いいことなんかあるか…。」
「不死というのも大変なんですね…。」
「とにかく、この呪いから逃れる方法は今の所二種類だ。1つは術者をとっちめて、解いてもらう方法。しかし、これは相手が悪魔だったために、俺が倒しちまったんだよな。」
レオは頭を掻きながら照れ笑いする。笑ってる場合か!
「もう1つは血縁者に呪いを移すことだ。他にもあるかもしれないが今の所わかってるのはこの方法だけなんだよ。」
呪いを移すとかできるんだ〜とカノンは感心する。
「何度も人生やり直せるなら、子供もたくさん作れるんじゃないの?」
カノンの質問にレオは盛大に肩を落とす。
「はぁ、カノン。俺の呪いがこれだけだと思うか。」
はぁ?
カノンは訝しげにレオを見つめる。
「俺は他にも愛した人を殺してしまう呪いや愛して居ないのに恋人になると死んでしまう呪いを受けている。」
もう面倒いなぁとカノンは思ったが、そこで気づいた。
「それならなんで、私があんたの娘なの?」
「アリアは特別なんだよ、カノン。聖女って知ってるか?」
カノンは知らないと首を振る。
「聖女は神に愛された聖なる存在。邪な術や呪いを無効化することができる。それ故に、アリアは俺の呪いの効果を受けることなく、愛を育むことができたんだ。」
だが、ここからが本題なんだ。とレオは語り出す。
「アリアはどういうわけか俺の野望を知ってしまった。それで、俺の前から姿を消してしまったんだ。その後、予言の話を聞いたよ。アリアは妊娠してたんだってこと自体その時知ったんだけどな。」
「野望って?」
レオはまたも頭を掻きながら照れ笑いする。
「俺はな、この世界の外にあると言う、別世界を見に行きたいんだ。」
突拍子も無い言葉。素敵な夢じゃないかとカノンは思う。
「だが、問題があって、別世界へ行くためには次元の扉を作らなきゃならないんだが、これがすごく力のいることなんだ。それこそ、昼の国と夜の国の人々の命を献上してやっとできるくらいに。」
ケンジョウ?
「しかし、俺も鬼じゃない。たくさんの命を奪ってまで行こうとは思ってない。そこでだ。効率よくかつ、大きな力を生み出すにはどうしたらいいと思う?」
カノンはわからず、首をひねる。
「1番簡単なのは大きな力同士をぶつけ合って戦うことだ。」
………。嫌な予感がする。
「戦争を起こして軍隊同士の力をぶつけるまたは軍隊に匹敵する力の持ち主2人を戦わせて大きな力を得ようと思うんだよ。」
カノンから迷いは消えた。こいつが生きていては平和が崩される。カノンの直感がそう囁く。現に今、戦争を起こすとか言っていたのだ。
カノンは剣を構え戦闘モードに入ろうとした時、レオの横に突然靄が現れた。その靄は少しずつ縦に伸びていき、人の形を形成する。
「レオ、まだか?……なんだ、やっぱり面倒なことになってるではないか。さっさと攫ってくれば良いものを。」
白髪の長い髪をゆらゆらさせ、シンプルだが、高貴そうな紫のローブを身に纏った男だ。
「いや、そんな訳にいかないって。一応、身内だし、強引に連れ出したら余計に警戒されるだろうし。」
「しかし、今結局警戒されてるのだろう?お主はいつも円満にとか言いながら思慮が足りないのだ。どうせ、お主のことだ。その見た目でいきなり自分は父親だとか戦争を起こすとか言い出したのだろう。警戒されて当たり前だ。」
いや、だけど…とレオは抗議するが、靄の男は聞く耳持たず、小言を続ける。突然のことに硬直していたカノンも少し緊張が解けてきた。警戒しつつ、剣を握り直すと、
「こんなところで油売ってても仕方あるまい。私の孫娘が待ってるのだ。さっさと行くぞ。」
「へっ?」
男の言葉に続いて魔力の光がカノンを包む。
行くって、どこへ!?
そんな抗議を口に出す間も無く、カノンはレオと靄の男とともに転移魔法に包まれた。
レオ「もっとかっこいい登場の仕方したかったなぁ。」
エイク「贅沢を言うな。儂なんて靄の男だぞ。靄の男!」
レオ「はぁ、せっかくの親子の対面なんだから、もっと感動的に行きたかったなぁ。」
エイク「身から出た錆だ。口聞いてもらえただけありがたく思え。」
レオ「そういや、どうしてあそこのメイドさん通してくれたんだ?俺みたいな怪しいやつ。」
エイク「自分で言ってちゃ世話ないな。儂の催眠魔法に決まってるだろ。」
レオ「あぁ、なるほど。」