リンゴの行路
王様との謁見を終えた3人と1匹はテントの外で待っていたウィローと合流し、帰路についた。当然行き先はウィローの家、レッドホース家だ。
馬車の中では誰も口を開かなかった。
屋敷についてからも夕食を軽く済ませたら早々に退出してカノンたちは部屋に集まった。
「んで、今後のことなんだが、どうする?」
3人と1匹になった途端、グリコが切り出す。突然に力不足だと言われても何をしていいかなんて分かりもしない。
しかし、そんな時にリンゴが恐る恐る言い出した。
「実はね…2人に話しとかなきゃならないことがあるんだ。」
何?とカノンもグリコも息を飲む。
「あのね…、私王宮の中でね…。」
眩しい光に包まれ、ゆっくりと光が消えるとリンゴの周りには人が居なくなっていた。
「えっ、どういうこと?」
目の前を見ると、驚いている表情のメル、その横で警戒心を露わにするジャスミン、リンゴを敵と見なし武器を構える兵士たち。
身の危険を感じ、一歩引くと、
「捕らえなさい!」
ジャスミンの号令で兵士たちがリンゴに襲いかかる。リンゴがとっさに身を縮めた時、
「お止めなさい!」
兵士たちはピタッと静止する。
「彼女は私の賓客です。手荒な真似は許しません。」
兵士たちは申し訳ありませんでしたと武器をしまう。しかし、リンゴへの警戒心はおさまらない。それはメルも同じなようだった。
「だけど、なぜリンゴが残ったかわからない。ジャスミン、お願いできる?」
「少々お時間ください。」
ジャスミンはリンゴに近づき、手を伸ばす。
「"ノーティース《情報化》"」
ジャスミンが呪文を唱えるとリンゴの周りにいくつもの光の窓が現れる。1つ1つによくわからない文字で情報がびっしり書かれているようだ。
リンゴは幾度か逃げ出すように体を動かそうとしたが、魔法の効果なのか、別の力なのか体を動かすことができずにただその光景を見ているしかなかった。
「終わりました。」
ジャスミンが魔法を解除した頃には兵士たちは部屋に残っていなかった。
ジャスミンが報告をメルに伝える。
「この者、どうやら夜の国の魔族と契約しているようです。その魔族の魔力がメル様の転移魔法を妨害したと思われます。」
なるほどね〜とメルは納得したような顔をする。
「契約相手は?」
メルの質問にジャスミンは少し渋い顔をする。
「どうやらオルビス・ウェルティクス。風の悪魔のようです。」
出てきた名前にメルまで渋い顔になる。そして、リンゴもハッと顔を上げる。
「オルビス?オルビスを知ってるの?」
「知ってるも何も…。」
困り顔で言葉を詰まらせるメルの後をジャスミンがいきりたって続ける。
「ウェルティクス一族は古くから我が王家と対立している悪魔の一族です。風魔法を自在に操り、また風のように現れ風のように去っていくことから風の悪魔と呼ばれています。特に現在頭領のオルビス・ウェルティクスになってから鎮圧しきれない反乱が増えています。」
「関係のないリンゴに話すことでもないんだけどね。昼の国のしかも平和な村で育ったリンゴがなぜ契約をしているの?」
なぜかはわからない。しかし、その頃の出来事を覚えている限りメルたちに話をした。
メルは少し悩んだ顔をした後、リンゴにこう言った。
「私たちと敵対する彼らと契約している以上、リンゴは私たちの敵になる可能性があると判断します。だから、このまま解放するわけには行かないの。
ただ、オルビス・ウェルティクスは話のわかる人物だと聞いている。私もオルビスとは話をしてみたい。リンゴ、私と一緒にウェルティクスの頭領に会いに行かない?」
メルの質問には答えが1つしか用意されていなかった。NOと答えればその瞬間にメルの魔力がリンゴに向けて発射されていただろう。だからリンゴはこのように答えるしかなかった。
「わかった。だけど、カノンたちには話しないと。」
その答えを聞いたメルは笑って魔力の塊を霧散させた。
「そうだね。だけど、夜の国にはリンゴ1人で来るのよ。必要以上に昼の人間を夜の国に呼びたくないの。監視付けとくから、カノンたちのところに行っておいで。3日後には迎えを送るから。」
その後メルは兵士を1人呼び、リンゴを結界の外まで送らせたという。その後はグリコと合流してカノンが目覚めるのを待っていたというわけだ。
「そっか、それで目が覚めた時リンゴは近くにいなかったんだな。」
うん、ごめんねとリンゴは謝る。別に謝ることじゃないよとカノンたちは言うが、リンゴの顔は晴れないままだ。
「大丈夫だよ!リンゴが戻ってくるまでうちら待ってるから!」
カノンが励ますが、さらに暗い顔になる。2人がどうしたの?と尋ねると、
「だって…。2人に任せるとすぐにお金なくなっちゃうし。私が戻ってきたときに一文無しになってる可能性を考えると…。」
「そんな心配してたんかい!」
グリコの突っ込み。しかし、リンゴにスルーされる。カノンも気にせず、ふと思い付いた疑問を口にする。
「うーん、それってどれくらい時間かかるんだろう…?」
「わかんないけど、すぐには戻れないと思う。結界の出入りも本来は厳しいらしくて、1〜2年かかるかもっていってたかな。」
そっか〜とカノンはしょんぼりするが、また会えるからとすぐに笑顔になる。カノンとグリコはリンゴと再会の約束をしっかりと交わした。
リンゴ「まぁ、オルビスとの約束は覚えてるんだけど、正直顔とか全然覚えてないんだよね〜。」
グリコ「まぁ、5歳くらいの頃の話なんだろ?むしろよく覚えていたな。」
リンゴ「あぁ、それはね、小さい頃から日記書いてたから。」
カノン「リンゴ、日記書いてたの?見たい!」
リンゴ「ん?いいよ〜。(ガサゴソ)これが小さい頃のやつ。」
カノン&グリコ「・・・・・・。」
リンゴ「どうしたの?」
カノン「羽の生えた人と小さな子どもが描かれてる…。」
グリコ「文字はひとつも見当たらないんだけど…。」
リンゴ「うん、だってそれ、絵日記だもん。」
絵日記なのに、相手の顔を覚えてなくて、約束の内容だけ覚えてるなんて、やっぱりリンゴは不思議ちゃんだと思ったカノンとグリコだった。