国家機密《トップシークレット》
ハットリはまず手のひらサイズの水晶玉を取り出した。それに向かって何やら話をしているようだ。
「"アンプリフィ"」
ハットリが呪文を唱えると水晶玉の光が大きくなり、スクリーンのような画面が現れた。
「ごきげんよう、ハットリ王。カノンたちも大丈夫だった?」
「この度は迷惑かけてすみません、メル殿。」
メルはいつもと変わらない落ち着きで挨拶をし、ハットリも当たり前のように返事を返した。
「…………。」
カノンたちは目の前の光景にまだ思考が追いついていなかった。それに気づいたようにジッピーが説明をする。
「この世界が昼と夜に分けられた時から密かに両家の王はこうして交流を続けておりました。通信手段として魔晶石が発明されたのは最近ですが、ハットリ様たちも例外なく交流をしていたのです。」
「てことは、やっぱりメルは夜の国の王、魔王なのか?」
はいと一言答え、ジッピーは話を進める。
「最近この国は魔王軍と名乗る一団から脅迫状を受け取っていました。メル殿に相談したところ、そのような一団は夜の国に存在しないとのこと。実態もわからないため、メル殿に来てもらうことになったのです。」
「えっ!!そんなこと聞いてませんよ!メル様!」
声がしたのはスクリーンの中のようだ。見ると黒髪のツインテールの少女がメルに詰め寄っている。
「あ〜、えーっと、ハットリ王との交信についてはメープルしか知らなくて…。ちょうどその話が出た時はメープルいなかったから…。ちょうどいいかな〜って。」
「だからって黙って出ていくことないじゃないですか!」
画面の奥でメルはジャスミンに怒られているようだが、どことなくメルの表情は楽しそうである。時折笑い声も聞こえてくる。メルが魔王城でやってきたことを知っている人なら確信犯だと呆れているだろう。
「カーノーン!カノンなのさ〜!」
よくわからないが、画面の上部に白いものが現れては消え、現れては消えを繰り返している。
「ラビエル、こっちおいで。そこじゃ映んないよ?」
その白いものはメルに呼ばれ、渋々メルの膝の上に収まった。
「あっ!ラビ!」
「まったく、ジャスミン以外は部屋に呼ばなかったはずなんだけど、いつの間に入り込んだのか…。」
「小動物はまったく気にしてませんでしたからね…。」
メルとジャスミンは呆れながらラビエルを見る。
「なんで、ラビはそっちにいるの?」
カノンの質問にメルは額にしわを寄せる。
「そもそも、なんでカノンがラビエルを知ってるのかがわからないんだけど…。まぁ、説明すると長いんだよね〜。ひとまず、この子、カノンのところに行きたがってるんだ。そっちに送ってもいい?」
カノンの返答も聞かずにメルは指をパチンと鳴らした。
「カノーン!会いたかったのさー!」
そして次の瞬間。ラビがカノンの目の前に飛びついてきた。
「相変わらず、高度魔術をさらりと使うんですね。」
「しかも、これ、わが国で開発した今回の優勝商品じゃないですか!メル殿、それはどうゆう…。」
「あはは。これに関しては私は悪くないんだけど。ラビをそっちで働かせるからそれで許して(笑)。」
まぁいいでしょうとジッピーは画面から目をそらし、カノンたちに向きを変える。
「さて、あなたたちはこの国の封印についてはご存知ですか?」
カノンたちはジッピーの質問に答えるため無理やり現実に戻ってくる。
「あのヘルバさんにあったのも封印のひとつだったよね?全部で5ヶ所あるって聞いてますけど。」
リンゴの答えに満足そうに頷き、ジッピーは衝撃の事実を口にする。
「はい。封印はこの昼の国に3つ、夜の国に2つあるのですが、現在無事が確認されているのが2つ。残りの3つは破壊されてしまいました。」
「えっ…?封印が壊されるとどうなるんだっけ…?」
恐る恐るカノンは口にする。
「封印が全部壊されると、昼と夜を隔てている結界が壊れるよ。結界がなくなることで何が起こるのかははっきりしないんだけど、書物によれば、
昼と夜の力交わりし時、災悪の魔女復活する。暗黒時代復活させんがため、我が力子孫に受け継がん。
そんなわけだから、残り2つは死守したいんだよね〜。」
メルはジャスミンから目を背け、さらっと説明する。世間話のように話すから全然重要度が伝わらないが…。
「そういうわけで、封印を守るためにメル殿にも協力をいただいたのです。不測の事態が起きたために状況が変わってしまいましたが。」
その頃にはカノンたちは魂が抜けたように目が点になっていた。平和な田舎で過ごしてきたカノンたちにとって、封印だの結界だの絵本の物語でしか知らなかった世界が現実として突きつけられている。仕方ないことだと思ったのか、ハットリは簡単に説明してくれた。
「まぁね、簡単にいうと〜
封印が壊されると災悪の魔女ってのが復活するらしくて、復活させないために結界を作った勇者たちは子孫に力を受け継いだ。
俺らはこの国の王宮とメル殿の城にある封印を守りたくて、封印を壊そうとしてる奴らを探したい。
まぁ、こんなとこかな!」
ハットリの説明が終わりカノンたちが質問する。
「災悪の魔女って?」
「知らん。」
「ジッピーさんが言っていた不測の事態って?」
「いや〜、まさか大会中に王宮が占拠されるなんて思わなかったね〜。」
「封印を壊そうとしてる奴らって誰かわかってんの?」
「それがさっぱり。」
「ハットリさま、国王の威厳を損なう発言をするなら黙ってなさい。」
言葉で黙らせたジッピーはカノンたちに改めて説明する。
「災悪の魔女については確かにわかっていません。これは両国の歴史研究部門が各々に研究中です。
不測の事態とは王宮を占拠されたのもそうなのですが、こうも簡単に城内に入られてしまったことです。今大会の詳細を知る何者かが敵を手引きしたものと考えています。
今回の騒動、封印を破壊する目的ではないかと…。つまり、封印を破壊しようとしている存在は今回の一団と繋がりがあるものと見て捜査中です。
みなさまにはこの一団を捕らえるべく、協力してほしいと考えています。」
どことなく目をそらすメルとハットリの様子が気にかかるが、カノンたちは顔を見合わせて両国の王に向き直った。
「私たちにできることがあるなら、なんでも協力をします。」
「正直、何が何だかわからないけど、悪い人たちは放っとけない。」
「王様からの頼まれごとなら断るわけにいかないもんな。」
表情柔らかく、メルたちは安堵の表情を見せる。そして、
「ただ、敵側もすぐには動かないと思う。それに、今のカノンたちじゃ力不足だ。それまでの間、どうするのか考えて報告してほしい。」
その他いくつかのことを話しした上で、ハットリ王たちとの会見は終わった。カノンたちが出て行った後、ジッピーは2人の王に話しかける。
「勇者の子孫については話さなくて良かったのですか?」
「まぁ、まだ知る時じゃないからね〜。」
事情の知らないジャスミンだけはよくわからないと首をかしげる。
「勇者って昼の国初代国王ダン・ディレオ様のことですか?その子孫ならハットリ様ではないのですか?」
ジッピーは困ったように答える。
「初代国王は生涯子をなさなかったと言われています。2代目からはダン・ディレオ様の弟君の家系になるんです。」
「それじゃあ、昼の国には勇者の子孫はいない…?」
ため息をつきながらメルは答える。
「まぁ、事情はわからないけど、昼の国初代国王ダン・ディレオも夜の国の初代国王エイクオンもまだ生きているのよ。」
ラビ「カ〜ノ〜ン〜!会えて良かったのさ〜!」
カノン「ラビ、泣きすぎだよ。そんなに長く離れてないじゃん。」
ラビ「違うなのさ…。あそこの人たち怖いなのさ。」
カノン「何があったの?」
ラビ「会う人会う人、うさぎって美味しいのかなとか毛皮いくらで売れるかなとか…。」
カノン「そんなことが…。怖かったね…。」
メル「ラビエル。嘘言って夜の国を貶めるのはやめなさい。本当に丸焼きにして食べるよ。」
ラビ「……ごめんなさい…なのさ。」
カノン「えっ!?嘘だったの!?」