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謁見

「………カノン。カノン!」


 ざわざわとした喧騒の中、カノンはリンゴの声に揺り起こされた。最初に見たのは心配そうに覗き込むリンゴとグリコの姿。周りを見渡すと、見覚えのある広場にたくさんの人が忙しなく行き来しているのが見える。


「あれ…ここ…。どうなってるの?」


 グリコとリンゴは比較的早く目覚めていたらしい。わかる範囲のことを簡単に説明してくれた。


 あの時王宮内にいたほとんどの人が広場に転移されたらしいこと、結界によって王宮には入れないこと、ウィローが王様などに話をしてくれて王宮奪還&魔王討伐隊が結成されていること…


「カノンが目を覚まし次第、王様に謁見することになってるんだ。」


 とか…


「えっ?!」


「いや、だから、あの場にいた俺たちみんなで王様に会いに行くんだよ。」




 グリコ達に率いられて、カノンは人混みの中から脱出する。途中ウィローとも合流し、王様が待機しているというテントに向かった。先に目覚めていたというグリコが先ほどより詳しく状況を話してくれた。


 グリコが目覚めた時、目を覚ましている人はほとんどいなかったのだという。ウィローやカノンを含め、敵将デイルドなど近くにいたメンバーは近くで倒れていたらしい。国の兵士たちと協力して魔王軍(?)が目覚める前に拘束したようだ。彼らは今、国の兵士たちによって監視されているらしい。


「あいつら、確かに自分達が魔王軍だと言っているけど、メルたちの仲間ではないらしいんだ。」


 王宮を占拠している者たちの仲間ではないことは薄々想像していた。しかし、それでもこの国を侵略しようとした一味である事は確かなので、今後処罰を考えていくそうだ。

 結界の中に入ろうと何人かの兵士や戦士たちが挑戦したようだ。力自慢のシエロや高位魔導師のハオも力を尽くしたそうだが、突破口は開けなかったらしい。


「シエロ?ハオ?誰?」


「えっ?知らないのかよ。」


 カノンは初めて聞く名前に反応する。グリコとウィローが呆れた顔をしていたが、リンゴが後で「紹介してくれるって」とグリコに話の続きを促した。

 王宮奪還&魔王討伐隊についてはグリコたちも詳しくは聞いていないようだ。


「ロールマンさんって人が中心になって動いているんだって。俺たちにも入ってくれないかって言ってたけど…。」


 カノンもグリコもリンゴも討伐対象である魔王メルとは顔見知りなのだ。だからその時に返事はできなかったんだとグリコは言う。後でまたロールマンさんと言う人が説明に来るらしい。


「着いたよ。」


 大体の状況をカノンに話し終えたところで、ちょうど王様が待機しているというテントにたどり着いた。これから王様に会うと考えると心なしか緊張し始める。

 テントの入り口には兵士が2人、険しい顔で仁王立ちするように立っていた。


「王様への謁見だ。通してくれ。」


 すました顔でウィローが告げる。兵士たちは表情も変えずにスッと左右にずれて道を開けてくれた。

 警戒心むき出しの刺すような視線と冷たい緊張感に圧倒されながらカノンたちはテントの中に足を踏み入れていった。


 テントの中に入ると一番に目に止まるのは光り輝くシャンデリアだ。テントの壁は赤いビロードで覆われており、豪華さに拍車をかけている。

 そして、目の前に腰掛けているのが、大会の開会式でも挨拶していた現国王ハットリ様だ。赤いマントを身につけ、頭上には王冠が乗っている。


「よく来たな。この度はご苦労。帰っていいぞ。」


「…………。」


「それを言うためだけに呼び立てたんかい!」


 皆が押し黙る中、グリコの的確な突っ込みが入る。


「そんな訳ありません。ハットリ様仕事してください。」


 いつからそこにいたのだろう。長身の綺麗な女性が冷たく言い放つ。武器など持たずにいる所からして文官だろう。


「あー、わかってます、わかってます。ジッピー、大丈夫、大丈夫。」


 早く仕事しろと目で催促するジッピーの視線が痛いのか、ハットリは背筋を正してカノン達に向き直った。


「あー、えーっとなんだっけ?…あー!そうそう!メル殿の知り合いだって話!わかってます、わかってますよ!」


 ハットリ様の額に汗が浮いてるように見えるのは気のせいだろうか。誰から見ても焦っているように見え、ジッピーはため息をついた。


「はぁ、話進まないから黙っててください。さて、あなたたち。メル殿と懇意にしていたという情報は確かですか?」


 ハットリはジッピーに叱られ、しょげているようだ。その姿が捨てられた犬のようだが、それでもファンが減ることはないんだろうとカノン以外の者たちは思っていた。


「えっ?コンイ?コイン?」


「カノン、懇意だよ。親しくしてたとか仲がいいってこと。」


 あぁ、そういうことかとカノンは納得して、"はい、友達です"と答えようとした時、


「いえ、メルはうちらの村に立ち寄った占い師です。送迎会を開いた時に会話を交わした程度の仲です。」


 リンゴがカノンの口を押さえ、グリコが返答する。側からみるとなんとも怪しい3人だった。


「まぁ、そんなことはどちらでもいいのですが…。」


「どうでもよくないもん!」


 リンゴの手を振りほどいたカノンが叫ぶ。


「メルは友達だよ!魔王だかなんだか知らないけど、メルはメルだもん!」


「お、おい、カノン落ち着けって…。」


 カノンの勢いに周囲の人は目が点になる。それでもカノンは止まらない。


「メルは悪い人じゃないもん!いつだって私たちのこと助けてくれたし!王宮の中のことだって、絶対何か理由があるわだから!」


「助けてくれたって…大した回数じゃないし…。」


 リンゴも呆れながら訂正をするがカノンの耳には届いてないだろう。


「歓迎会の時だって全然話できなかったし!本当はもっともっと話ししたかったのに!」


 リンゴとグリコがわかった、わかったとカノンを宥め、ようやく落ち着いたようだ。


「話はわかりました。ウィロー殿、私たちは彼らに内密の話がありますので、外の見張りをお願いして良いでしょうか?」


 ジッピーからの言葉。それは依頼という名の命令。部外者に向けられる厄介払いに他ならなかった。

 その意図に気づいたウィローは心配そうにカノンたちに目をやる。しかし、そっと目をつむり、ハットリ国王に頭を下げ「仰せのままに」と一言残し、テントから退出した。


 なんとも言えない沈黙がこの空間を支配する。最初に口を開いたのはジッピーだった。


「では、改めまして。私はこの国の右大臣を務めております。ジッピーです。こちらは現国王ハットリ様になります。」


 挨拶に合わせ、ハットリが「ドーモ」と返事をする。カノンたちも自己紹介するべきかと背筋を正すが、口を開く暇なくジッピーの話は続く。


「今から話すことは国家機密以上のトップシークレットになります。ここで見聞きしたことは絶対に他言無用でお願いしますね。」


 そうしてジッピーとハットリの話は始まった。

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