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水路の罠

 はぁはぁはぁ

 みんなは無事だろうか…

 てか、ここどこだろう…


(はぁ…)


 階段の裏に息をひそめながら、カノンはため息をついた。

 ウィローの案内で扉を開けると、剣を構えた敵兵たちの熱烈なお出迎えが待っていた。


(今思い出してもため息が出る…。)


 とても勝ち目のある状況ではなく、カノンはグリコとリンゴに目配せで逃げることを伝えた…つもりだった。

 どう伝わったのか、2人は力強く頷くとそれぞれの武器を構え、


「行くぞー!グリコスラーッシュ!」


「炎を乗せて、風よ斬り裂け"イグニート スコール"」


 グリコの必殺技は別にいいとして、リンゴの渾身の魔法は瞬く間に王宮の天井まで届く大きさとなった。炎の竜巻は敵兵たちを巻き上げるだけでなく、天井をも削り壊していく。


「あっ、やっちゃった…。」


 などとリンゴが呟いた時には後の祭りである。

 カノンたちめがけて天井の瓦礫が落ちてくる。


「!!!リンゴのバカーーー!」


 なんとか避けたは良いが、カノンの足元が崩れ、瓦礫ごとカノンも落下する。


「カノン!」


 必死に伸ばされたウィローの手は届かない。続々と落ちてくる瓦礫で上の様子もわからず、カノンは孤独とともに命の危険を感じながら落下していった。




 結果として、死にはしなかった。というか、かすり傷ひとつ負わなかった。

 落ちた先が水路になっていたため、怪我することなく助かったのだ。流れる水の中で瓦礫をかわしながら安全なところに行くのも一苦労だったが、今五体満足で生きているのだから感謝すべきだろう。

 水から上がったカノンはまず炎魔法で服を乾かし、周囲の状況を確認した。


「無くなったものはなし、道は水路に沿って前と後ろか…。どっちに行けばいいのかな…。」


 うーんと頭を悩ませていると、背後からガサガサと音がした。振り返ってみると…


「あ、あれは…。モンスタージェル!」


 モンスタージェル

 スライム状の謎生物。ありとあらゆるところに生息しており、最も一般的で最も弱いモンスターであるが、出生・生態・性別全てにおいて謎に包まれている生物である。また、生息地によって性質が変わるという研究者の探究心を掻き立てる存在でもある。


「子どもでも倒せる雑魚モンスターだけど…」


 1…10…50…100…


「なんで、こんな数え切れないくらいいるのー!?」


 逃げるかどうか悩むカノンの背後からもガサッと音がする。


「っ!囲まれた?!」

「こんな時は逃げるが勝ちなのさ!」


 背後を振り返るカノンと物陰から飛び出した白い毛玉がぶつかり合う。


「いったーい。」

「イタタタなのさ。」


 カノンが顔を上げると、長い垂れ耳の白くて丸い動物が耳と思われる部位でぶつかったと思われる部位を押さえながらフルフルと震えていた。


「あっ!優勝商品!」


「ニャニャ!クッキーの!」


 お互い何かに気づいたようにハッとしたが、今は悠長に考えている暇がない。


「とにかくここから逃げよう!」


 カノンの言葉に白い動物は飛び跳ねる。


「賛成なのさ!話はそれからなのさ!」


 器用にカノンの肩に乗ると、長い耳でカノンを叩き出発を促した。


「ここのジェルは研究部による開発モンスタート達なのさ。そこらの雑魚モンスターより厄介だからさっさと逃げるのさ。」


 しかし、前も後ろも数え切れない程のモンスタージェルで埋まっている。


「クッキーの娘!前方にお前の短い足でも30歩程の行った所に横路があるのさ!そこまで斬り伏せて進むのさ!」


「うわー、水に投げてしまいたい…」


「い、言いすぎたのさ!とにかく早くしないと…」


 白い動物が言い終わらないうちに、モンスタージェルは跳躍し始めた。


「えっ、なにこれ???」


「研究部開発の捕食粘液なのさ!少しでもかかると身動き取れなくなるのさ!」


 なるほど、モンスタージェル達は空中に飛んだ後、弾けるように粘液へと変わっていった。落下地点で運悪くそこにいたネズミが粘液の中でひっくり返り浮いている。


「えっ、やだ、なにこれー!!」


「跳躍する前なら捕食粘液は使えないのさ!い・そ・ぐ・のさ〜!」


 カノンは謎の白い動物を肩に乗せ、飛び跳ねるジェル達を払いのけながら走り出した。



 どうやらこの横路にモンスタージェル達は入れないらしい。なんとか一息ついたカノンはやっと謎の白い動物に向かい合った。

 真っ白な体毛、長い垂れ耳、真っ赤な瞳…

 間違いなく、武道大会の優勝商品クニクルスであった。

 クニクルスは長い耳を手のように使い体に付いた煤を払い落としている。


「礼を言うのさ、小娘。助かったのさ。まぁ、汚れたのは仕方ないとして…」


「動物が喋ってる…!」


「いまさら!!」


 長い耳でペシペシ叩きながら睨んでくるが、愛らしい見た目のため威圧感はない。


「全く。気づいてると思うが、我は大会予選でお前たちに会ったシーキッズなのさ。本当はシーキッズとはちがうのだが、ケットシーに借りがあって、仕方なく手伝ってたのさ。わかったのさ?」


「えっ、あの時のシーキッズなの!?」


「全然気づいてなかったのさ!」


 カノンの反応にクニクルスは長い耳を落として驚愕と落胆を示す。

 兎にも角にも、進む道はひとつしかない。水路側はモンスタージェルの群れ、前方にはシンプルな石造りの階段。

 カノンは落胆してションボリしているクニクルスを頭に乗せ、階段を昇っていった。

カノン「そういえば、名前聞いてなかったね」

クニクルス「よくぞ、聞いてくれたのさ!我の名は…」

カノン「うーん、何がいいかな?クーちゃんとか?」

クニクルス「勝手に決めるななのさー!ちゃんと、ラビエル・セブンス・ロードという名前があるのさー!」

カノン「うっ、ながっ…。じゃあ、ラビでいいね!」

クニクルス(以後ラビ)「略すななのさー!」

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