幕開け
武道大会予選ルール
〜3時間以内にケットシーの分身シーキッズが持つコインをゲットし、バッジを完成させるべし〜
※シーキッズからでなくとも他参加者からいただくことも可
「よーし!早速、シーキッズ探しにしゅっぱーつ!」
「カノン、元気だね〜。」
スキップしながら前を行くカノンにリンゴはのほほんと声をかける。
「だって、戦わなくていいんだよ!うちらでも予選突破できる見込みあるじゃん!」
「戦いに自信ないなら、武道大会とか申し込むなよ!」
と、突っ込むグリコも軽いフットワークでリンゴの前を行く。
「まぁ、ネコを捕まえるくらいなら村でもよくやってたからね〜。…って、置いてかないでよー!」
さて、この予選。そんなに簡単にクリアできるのだろうか?
「あっ!いた!」
早速、カノンがおしゃれなお店の軒下で丸くなり眠るシーキッズを発見した。声に反応してか、金色の瞳がカノンたち3人をとらえる。
「捕まえられそう?」
声のトーンを落とし、リンゴはそっと問いかける。
グリコとカノンが静かに頷き、音もなく一歩踏み出したその時だった!
シーキッズがこっちを見た。
シーキッズが近づいてきた。
シーキッズが飛んだ。
「えっ?…痛っ!」
シーキッズは軽やかに3人の頭を踏みつけ、華麗に着地する。それから、ゆっくり伸びをし、カノンたちに背を向け歩き出した。逃げたというより、その場を移動し始めたというように。
「何あれ!って、ちょっと待てー!」
「カノン落ち着いて…。」
「とにかく追うぞ。」
3人は駆け足でシーキッズへ近づいていく。しかし、目の前のシーキッズは相変わらずゆっくり歩いているように見えるのに、差は全く縮まらない。
「よし、"樹人の手"」
走りながら詠唱した魔法をシーキッズに放つ。木のツタが幾重にも重なりできた大きな手がシーキッズに迫る。
しかし、シーキッズにまで届かない。
その様子を見ながらカノンはふとつぶやく。
「ねぇ、さっきからずっとまっすぐ進んでるよね?あの建物さっきも見たような…。」
その言葉にグリコとリンゴも慌てて立ち止まり周りを見渡す。前方の右側に見覚えのあるおしゃれなお店が目につく。
「おい、あの店…。あのネコを見つけたとこじゃねぇか?」
「どういうこと…?」
異変に気付き、戸惑う3人は前を行くシーキッズに目を向ける。そこには明らかになめきった態度で顔を洗うネコの姿があった。
「なんだか、すごくムカつくんだけど。あのネコ。」
「でも、何かの罠にはまっているんだったら… このまま追いかけるんじゃどうにもできないよ…」
目の前の獲物に翻弄され、なすすべもなく立ち止まるカノンたちを放映局のカメラコウモリ、アイバットが見つめていた。
アイバット
目玉のようなカメラにコウモリの翼が生えた不思議な生き物。放映局と錬術会が共同で開発した。もともとは錬術会が盗撮用にと開発してた物だが、まぁいろいろあって、放映局が特許を取り、メインキャラクターにしてしまったとか…
「あの子達は何をしているんだ…」
アイバットが見た映像は魔晶玉のスクリーンに映し出される。当然、レッドホース家のウィローもその映像をメイド長、執事そして母と共に視聴していた。
「寝ているようにしか見えませんが?」
「これ、メイド長!ポプラさまの娘御に失礼なことを言うでない!きっとこれは何かの作戦じゃ!」
ウィローとウィローの母の後ろに控える2人は声をひそめることもなく発言する。スクリーンに映っているのは道端で気持ちよく眠るカノンたち3人の姿。その3人に寄り添うように白い猫が昼寝をしている。
10秒ほど映したらアイバットは別の場所へ移動したらしく、カノンたちの姿は見えなくなった。
「やれやれ…。お母さまはどうご覧になりますか?」
ウィローは隣に座る母に意見を求める。
「あれはシーキッズの夢の檻ですわね。術者が術を解くか、夢の中の術者を倒さないと解けない幻術魔法ですのよ。」
ウィローの母、セリカは魔導学校で教鞭をとっていたこともある魔術師である。特に精神魔法や幻術魔法のスペシャリストであった。
「なるほど。ソムニウムを破ることがこの予選の試練なんですね。」
ウィローが感心したように言うと、後ろから声が聞こえてきた。
「他の参加者は眠らされる前に捕まえたり、他の術をかけられたりしていますからね。今大会は精霊の特徴を知らないと厳しいのでは?」
「そんなことはないぞ!ほれ、また予選突破者が出たようじゃ。」
スクリーンにはシーキッズからコインを受け取りガッツポーズする戦士の姿が映る。戦士職は魔術戦に弱いと言われるものだが、見事クリアしたようだ。戦士はバッジを完成させると光に包まれ、どこかにワープしていった。
「これで27人目ですな。まだ残り1時間ありますが、有力候補と名が挙げられる者は全て突破いたしましたな。」
「えぇ、だからこそこの予選は観ていてもつまらない者が多いのでは?」
相変わらずメイド長は毒舌だなぁと思いながらウィローはスクリーンに視線を戻す。
前回の大会で上位5位に入ったメンバーは開始10分足らずでクリアしていった。その他にも武術や魔法で噂を聞く者たちもこの2時間でクリアしている。残っているのは確かに実力の少ない挑戦者たちになるだろう。
「ウィロー。突破した者はどこへ行っているのです?」
予選突破した者の様子などは一切スクリーンに映らなかった。だからこそ、セリカからの質問なのだろう。
「はい。聞いた話によりますと、本戦を執り行う会場になります、王宮上空のクリスタルコロシアムへ転移させられるようです。」
「今までとは違う方式なのですね。それにしても、あの娘は何をしているのか…。それでもあの男の娘ですか!」
多少セリカのキャラが変わりかけたその時、突然スクリーンの映像が乱れ始めた。
「何事でしょうか?」
至って冷静にメイド長は尋ねる。すると、スクリーンに黒ずくめの何者かがアップで映し出された。
「……ザッ……ザーッ…。……てるかな、諸君。…我々……は…魔王軍……。王…は占拠……た。」
途切れ途切れだが、スクリーンに映った者は国民に話しかけているようだ。ウィローたちにも張り詰めた空気が流れる。
「……は皆殺し…だ。………たくば……勇…を……。もう、めんどくさいからこの茶番はいいよ。普通に喋ろ。我々は大魔王エイクオン様の先鋭部隊だ。王宮は占拠した。王族を殺されたくなければ、勇者を差し出せ。以上だ。」
「茶番ですとーー!」
「ツッコミ所はそこではありません執事殿。」
メイド長と執事の掛け合いは置いといて、非常事態のようである。ウィローはすぐさま立ち上がり、セリカの前に膝をつく。
「母上、真偽のほどはわかりませんが、王宮へ行って参ります。」
「えぇ、頼みましたよ。昼の国の光と希望の導きがありますように。」
いつの間にか出発の準備を整えたメイド長がウィローに上着と剣を差し出す。
「実力者が集められているならば、彼らに協力を頼めるのでは?」
メイド長は今大会の出場者たちのことを言っているのだろう。しかし、
「クリスタルコロシアムに入った者は王宮の制御室で王家の血筋の者が許可を出さなければ出ることができない仕組みになっているんだ。つまり…」
王宮が占拠され、王族が捕らえられているため、予選を突破している者たちはクリスタルコロシアムから出ることができない。
それも計画のうちであるならば、この事件は一筋縄で解決されないだろう。
そんなことがウィローの頭をよぎるが、まずは王宮へと執事が用意した馬車で考えていた。
執事「王宮の一大事ですと!この大会はどうなるんじゃ!賞品は……?」
メイド長「今の心配ごとはそれですか。それよりも大事なことがあるでしょう?」
執事「ふむ、まぁこの国はどうなってしまうのだろう。救いの手は現れるのだろうか…。」
メイド長「違います!」
執事&ウィロー「えっ?」
メイド長「この事件、カノン様の出番です!なのに私ときたらカノン様の衣装を何も用意してない…」
執事&ウィロー「そんなこと誰も心配してねぇーよ!」