国家錬金術士
「待たせてすまんかったな。元気になったか?」
ジャンが手を振り戻ってきた。仕事はほとんど終わり、残りはカノンたちが預かった"赤い玉のかけら"を届けるだけらしい。
「パルルの先輩だよな?どこに住んでいるんだ?」
早速ジャンに付いて歩き、一行は赤い玉のかけらを届けに向かった。
「変わった人でな、ちょっと離れたところに住んでんのや。」
賑やかなメインストリートから離れ、静かな路地を進んでいく。
「錬術会の…何してる人なんですか?パルルさんと同じ錬金術士ですよね?」
「そうや。錬術会の天才錬金術士なんや。何してるかってのは俺にもわからんけど、暮らしに役立つ道具とかを作ってるんやと思うで。」
などと話しながら町が見下ろせるような高いところに建っている一軒家にたどり着いた。
「着いたで。これを押して……」
ジャンは門の所に付いている黒いボタンを押すと建物からピンポーンと音がした。
「何ですか?それ?」
見たこともない何かを見てリンゴは興味津々に聞く。しかし、ジャンにもよくわからないようだ。
「これか?中の人と会話できるらしいんけど、居らへんのかな?」
するとボタンの辺りからガサゴソ音が聞こえ人の声が出てきた。
「はーい!どちらさまですか?開いてるので入ってきてくださ〜い。」
その声が聞こえた後はボタンから物音は聞こえなくなった。
「えっ!?なに?魔法?」
「ほな、入るで〜。」
こんな魔法見たことないと驚くカノンたちの背中を押し、ジャンは中に入っていく。
「いらっしゃ〜い。えーっと、どちらさま?」
白衣を着たショートヘアの女性が出迎える。
「相変わらずやな〜。魔導バイク大事に使ってるで。」
「あ!ジャンか!バイクは元気?」
「そっちかよ!」
グリコはつい突っ込んでしまった。錬金術士というのはみんなそうなのだろうか。
「あれ〜?後ろの子たちは〜?まさか…攫ってきたの!?」
「誰が攫うか!届け物や。モナクスドムスのGメン達からキュリーに。ここにサイン頼むな。」
ジャンはそう言いながら一枚の証紙を白衣の女性に渡した。
「てか、俺らが届け物だったのか!」
てっきり、赤い玉のかけらの方だと思ってたカノンたち。
「当たり前や。タダでより高いものはないんや。運搬物が物であろうと人であろうとこれが商売やからな。金はデコポン持ちやから気にせんでいいで。」
ジャンの最後の言葉にそれならいっかとリンゴとグリコは安堵の表情になった。心なしか白衣の女性も安心した表情になったのを見たのはカノンだけだろうか。
「パルル達からなのね。あの子達元気?」
などと白衣の女性は証紙にサインをしながらジャンと世間話をする。世間話が終わるとジャンはまたなと言って帰っていった。
「えっ、帰んの!?ちょっと…俺らは!?」
グリコの必死の突っ込みは夕陽に吸い込まれ答えは返ってこなかった。
ついでにジャンへの暴言の数々も吸い込まれていったが、ジャンには届いたのだろうか。
ひとまず、目的は果たさなければならないので、玄関に戻り、リンゴが白衣の女性に話しかけた。
「あの、えっーと、リンゴです。よろしくお願いします。」
「あっ、キュリーです。よろしくお願いします。」
リンゴがぺこりとお辞儀すると、キュリーと名乗る白衣の女性はその場に正座し深く礼をした。
「お見合いかよ!…グリコです。パルル達から届け物頼まれて来ました。ん?カノンは?」
気がつくとリンゴとグリコの間にいたはずのカノンの姿がない。ゆっくりと後ろを振り返ると、扉から半分顔を見せて様子を伺うカノンがいた。
「………。えーっと、あちらに隠れているのがカノンです。」
リンゴが呆れながら紹介すると、苦笑いしながら居間へ案内してくれた。カノンのことは当然グリコが無理やり連れてきた。
「それで、パルル達からの預かりものなのですが…」
カノンが持っていた赤い玉のかけらをキュリーに渡し、リンゴが説明をする。話し終えたところで、キュリーが口を開いた。
「ん…オッケー!これは引き受けるとして、依頼料どうしようか?」
「えっ、金取るの?」
「ジャンも言ってたでしょ〜。タダにしちゃうと後々めんどいのよ。」
財布の中身と預けてるお金を思い出しながら、カノンはいくらになるのか聞いてみると、
「うーん、パルル達の知り合いだからおまけして金3枚ってところかな?」
『金3枚!?!?』
3人の声が裏返り、重なった。3人の手持ちや貯金合わせても金1枚に届くかどうか。カノン達に出せるはずはなかった。
「あれー?出せない?」
さっきと変わらないキュリーの笑顔が今は悪魔の微笑みにしか見えない3人である。
「出せない…です。そんな大金持ってないし、デコポン達にお願いするのも申し訳ないし…。依頼をこなせば稼げるかな…?でも、金3枚だから…銀1枚クエストを300回。□×☆#○△…」
カノン一行の会計係リンゴが頭を抱えて悩みだすと、キュリーは笑い出してごめんねと言った。
「ごめんね〜。いつも依頼を受けるときにお金は受け取ってないの。国からお金は自由に使っていいって言われてるからお金に困ってないし。
この依頼受ける代わりに、こちらからも依頼していいかな?」
なんだか少しばかり羨ましい言葉が聞こえたが、お金を出さなくていい事は3人とも理解した。
「もちろんです!なんでもやります!」
グリコとリンゴは勢いよく手を挙げ、カノンもそれに続くように頑張りますと言った。
それから20分後。
「なぁ、リンゴ。ずっと疑問だった答えが見えた気がするよ。」
疲れ切って仰向けに寝るグリコはすぐ近くで同じように倒れているリンゴに声をかけた。
「んー、疑問って?」
グリコの顔を見ることなく質問を返すリンゴの後ろでは、カノンがキュリーの実験に付き合わされていた。
「ひとつ目は特になんの説明もなくあのかけらを持たされ、パルルの先輩に届けてくれって言われたこと。名前も知らず、顔もわからないのに俺らに持たせるっておかしくね?」
あー、確かにね〜とリンゴは相槌を打つ。カノンの実験も終わったと見せかけて次の実験が始まったので、もう少し時間がありそうだ。
「パルルとか特に。顔わかるんだから自分で届けに行けばいいじゃないか。それに、ジャンを呼ぶなら届け物は俺らじゃなくてかけらの方だろ、普通。」
んー、そうだよね〜とリンゴは力なく言う。ほとんど話していないが、相槌を打つ気力さえもなくなってきているようだ。
「それにジャンだ。あいつ、俺らを残して先に帰っただろ。初めて来た土地に置き去りにするとかありえないだろ。いくらジャンでも。」
右も左もわからない土地に置き去りは確かに困るが、最後の言葉はひどいとリンゴは思う。言葉にならなかったのはそれだけ疲れてたからだ。
「そして、この状況だ!その答えは…。」
「あー、グリコくん。元気になったんだね!これ試して欲しいんだけど…。」
「えっ、いや、ちょっと俺…。」
必死に言い訳しようと頑張ったグリコだが、問答無用でキュリーに連れて行かれてしまった。逆に解放されたカノンがリンゴの近くに座り込む。
「この実験のことがわかってたからデコポン達は私たちに任せたの…?」
カノンのその言葉はグリコが言えなかった答えを言い当てていた。
デコポン「カノンちゃん達に言わなくて本当に良かったの?」
パルル「大丈夫だよ。キュリー先輩優しいし。」
コマチ「優しいっていうなら名前くらい教えても良かったんじゃないか?」
パルル「キュリー先輩の名前知ってたら怯えちゃうかなって(ニコッ)」
ノコノコ「キュリーさんもパルルちゃんも錬金術士って賢いよね〜。」
ミルク「ノコノコ、それは賢いんじゃなくてあくどいって言うんじゃない?」
カイト「あいつら、元気だといいな。」
Gクラス一同合掌。