魔法とは…
翌日、昨日やらなかったため、今日は朝からリンゴによる魔法の講義が行われていた。
「魔法の二大属性について覚えてる?」
昔は誰でも魔法が使えたらしいが、今では一部の人しか扱うことができない。リンゴによると同じだけ勉強しても知識量に差が出てくるように、魔法も個人差があるんだと言っていた。簡単な魔法なら努力次第で誰でも使えるのだと。
「えーっと、昼の魔法が炎とか風とかを操ることができて、夜の魔法が眠らせたり、幻を見せたりするんだよね?」
リンゴの質問にカノンが答える。今日、チャコは昼ご飯を持ってくる担当でまだ来てないし、グリコは魔法が使えないからと講義始まって5分くらいで寝始めたので、カノンしか答える人がいなかったのだが…。
「まぁまぁ正解かな。」
リンゴは苦笑気味に魔法について話してくれた。
この世界はカノン達が生きている人間の世界と魔法の結界により隔てられた魔族たちが生きる世界がある。もともとはひとつの世界でお互いに共存していたらしいが昼夜魔法大戦を機に住まう世界を分けたらしい。人間たちが主に使う魔法を昼属性の魔法、魔族たちが主に使う魔法を夜属性の魔法と呼んでいる。
「昼属性の魔法は活動の魔法とも呼ばれ、炎、風、水、大地を基礎としてあらゆるものを動かすことができる。より便利に生きやすくするために使われているよ。戦いや喧嘩に使われることもあるけどね。
夜属性の魔法は静止の魔法と呼ばれ、眠らせたり、落下を止めたりと動くものを止めたり、動きを穏やかにさせることができる。幻を見せることなどもできるから危ないことに使われることもあるけれど、人を落ち着かせ幸せに導くためのものだったらしいよ。」
魔法は努力次第で誰にでも使えるが、所属していない属性の魔法を使うには必要以上に集中力を使い、扱いが難しいらしい。リンゴもたまに眠れない人のために睡眠効果の魔法をかけた飲み物を渡しているが、気休め程度にしかならないと言っていた。
また、ほとんど使える人がいない魔法なので、夜の魔法は文献に少し残る程度で研究もほとんどされていない。
この話をカノンにするのはもう3度目になる。村が王都から遠いため、リンゴ自身もあまり知識がないことも理由のひとつだが、基礎を理解しなければ魔法の発動は難しい。
「昼属性はさっきも言った炎、風、水、大地の4つに分けられる。基本的には難易度は同じとされているけど、性格や環境の違いで人それぞれ得意不得意があることが知られているよ。」
リンゴの得意魔法は炎と風である。特に風魔法は村の風車を動かすのを手伝ったり、時折起こる山火事が村に飛び火しないようにしたりするために使うことが多いので、上達したようだ。カノンは今の所、炎魔法しか使ったことがない。理由は寒い時に暖をとりたいからと炎魔法から覚えることにしたからだ。
「もしかしたらカノンは大地の魔法の方が得意かもしれないんだな。」
いつの間に起きていたのか、グリコが言った。
「ただ、それぞれの魔法に特性があるからそれもよく考えて使わなきゃならないけどね〜。」
全然わかんねーと言ってグリコはまた寝始める。話を聞かないからじゃんと愚痴をこぼしながらもリンゴの講義は続く。
この後の内容は実際に魔法を使ってみることだった。魔法の使い方には2種類ある。ひとつはすでにあるものの力を大きくすること。一方は何もないところから力を生み出すこと。後者の方が大変なのだが、カノンの使う炎魔法は炎を作り出すことから始まる。しかし、炎魔法の良いところは火さえ作ることができれば、その後のコントロールが簡単なことである。
「大事なことはイメージすることだよ。どうやって火が生み出されるのか想像すること。」
カノンは集中力を高め、手のひらに火の玉をイメージする。
「"火の玉"」
火の玉を意味するこの言葉で火の玉ができる……はずだった。
「そんなこともあるさ。 そうだなぁ、火の玉そのものをイメージするより、どうやって火が生み出されるのかを考えるんだよ。」
「そっか、そうだった。」
もう一度、カノンは手のひらに集中する。
「……火ってどうやって生み出されるの?」
この日、リンゴの懸命な化学反応の講釈によって、カノンが火の玉を作れるようになってなんとか終了した。
お昼ご飯も済み、午前中の魔法の復習をしている時、思い出したようにチャコが口を開いた。
「占い師さん、明後日出立するらしいの。それで、明日占い師さんのパーティー開こうってお兄ちゃんと話してたんだけど、みんな来る?」
なにか不思議な感じがした占い師さん。カノンはもう一度彼女に会いたいと思っていた。
「行く!行きたい!」
グリコとリンゴも特に断る理由もないからと参加すると言った。
「じゃあ、明日は夕方、陽が沈む前に広場に来てね。」
「それでね、火の玉は出せるようになったんだよ!次からは出した火を大きくしたり小さくしたりする練習するんだって!」
稽古が終わり、家に帰るとカノンは夕飯を食べながら今日の出来事を語っていた。
「それなら今年の冬は寒い思いしなくて済みそうだね。」
カノンの向かいで優しく微笑みながら、知的な面立ちの女性は言葉を返す。彼女はポプラ。年齢は不詳。
ポプラは女手ひとつでカノンを育ててくれた女性だ。普段は村の子供たちに読み書きを教え、空いている時間は村の女たちと機織をして生計を立てていた。カノンはポプラが母親ではないことを知っていたが、それでも母としてポプラを慕っていた。
「カノンは努力家だからね。魔法もすぐに上手になるよ。」
いつも優しく支えてくれるポプラは質素な服に身を包んでいるが、この村の人たちとは違う雰囲気があることをカノンは気づいていた。ポプラの知識や身のこなしは村娘ではなく、もう少し裕福な家庭、もしくはもっと高貴な身分だったのではないかと思わせるのだ。しかし、それを聞いてしまえば、この生活が終わってしまう気がして、気になってはいるがいつも聞けずにいた。
「お母さん、明日ね、占い師さんの出立パーティー開くんだって。行ってきていい?」
もちろんとポプラは言って、それならと席を立っていった。戻ってきたポプラの手には両端に花の刺繍が入った赤いリボンがあった。
「おしゃれな服は用意してあげられないけど、少しだけおしゃれできるように。本当は誕生日プレゼントにって思ってたけど明日のために渡しておくね。」
カノンの誕生日はあと4日後である。早めのプレゼントをもらえて背景に花が咲くのではと思うほど喜んだ。
明日はパーティーのために朝から稽古だからと、早めの就寝となった。