大司教護衛組
カイトとカノンは大司教室の前にいた。
「カノン、何があっても驚くなよ。」
扉を開ける前にカイトはそう言った。しかし、カノンが理由を尋ねる前にカイトは扉を叩き、開けてしまった。
ヒュン
カノンとカイトの足下の床にに銀の斧が刺さっている。扉を開けると同時に上から落ちてきたのだ。
「えっ、えええー!」
「カノン、伏せて!」
驚く暇もなく、次は前方から水魔法が!
「カノン、こっち!」
カイトに腕を引かれ扉から離れると、先ほどまでいた場所に落とし穴ができていた。
「ほう、かわしたか。成長したのう。」
ため息をつき、カイトは立ち上がる。
落とし穴はゆっくりと元の床に戻り、2人はもう一度開かれた扉の前に出る。
「大司教様、おはようございます。今日もお元気そうでなにより。」
「カイト、棒読み…。」
カノンも苦笑いしながら、大司教と呼ばれた人を見る。
身長ほどの杖を持ち、白い髪と白い髭をまっすぐ下ろした老人である。面白がるような目をしてこちらを見ていた。
「不思議な守護を持つ子だのう。名はなんと言う?」
「えっ、あっ、あの!カノンって言います。」
不意を突かれ、少し慌ててしまった。しかし、大司教はそうかそうかと笑う。
「この教会に入会しないかい?今ならお菓子もつけておくよ。」
「えっ、お菓子…!」
「じじい、何悪徳商売みたいな勧誘してるんだよ。カノンも釣られるな。」
カイトに諫められ、大司教はため息をつきながらカイトに向き直った。
「やれやれ、信徒が増えるチャンスじゃのに…。ほれ、カイト、さっさと用件を言わぬか。」
カノンとの態度の差がひどい…。
「では、早速。大司教様、命が狙われています。今日の朝礼の時に教会ごと狙われている可能性が高いです。」
「そうか。では、朝食にしようかの。」
大司教が手を打ち鳴らすと朝食を持ったシスターが部屋にやってきて、瞬く間に準備をし、部屋を退出していった。
「えっ、いや、それだけ?」
驚くカノンの肩に手を置き、カイトはこういう人なんだと伝える。笑っている大司教様を見ると確信犯であることは明らかだ。
「まぁまぁ、Gクラスの者たちが動いているのだろう。心配いらぬわい。2人も食べなさい。」
食事を始めた大司教の前には2人分の食事席が残っていた。まだ、朝食をとっていないカノンたちはありがたくいただくことにした。
食べながら今回のことを掻い摘んで話していく。大司教様は聞いているのか聞いていないのか、適当に相槌をうっているように聞こえる。
「なるほどなるほど。この教会内に裏切り者がおると。そりゃ、大変じゃのう。」
まるで他人事のようである。
「ほう、カノンちゃんが犯人の顔を見ていると。それは心強いのう。」
楽しんでいるだけだろう。朝礼の時間までもうほとんど時間がない。
「大司教様、朝礼のお時間です。」
もう、時間になった。大司教とカイトは立ち上がり、扉から出て行く。カノンも慌てて2人を追った。
「大司教様、そちらのお二人は?」
朝礼を知らせにきたシスターが尋ねる。誰なのかというわけではなく、どうして付いてくるのかという質問だろう。
「おぉ、皆に伝えたいことがあってな。一緒に壇上に上がってもらおうと思うのじゃ。」
「そういうことなので、お気になさらず。」
慣れた感じてカイトも挨拶している。そんなこといつ示し合わせたのか。
「カイト、私はどうしたらいい?」
カノンはカイトの袖を引き、小声で話す。
「俺について来てくれればいいよ。」
そうこうしている間に朝礼の会場に着いた。ざわざわした雰囲気が伝わってくる。
「皆の者、おはよう。」
大司教が壇上に上がり、一言そう言うと、水を打ったように静かになった。
しかし、大司教の近くにいるカイトとカノンの存在に気づいたものが少しざわめき出すが、朝礼の言葉が始まるとまた静かになった。一部を除いて。
「なぜ、あの娘が奴といるんだ…。まさか、計画が…。」
そんな小さなつぶやきに周囲の人は気づいていない。しかし、壇上から見下ろすカイトは敏感にその者を察知した。
「やっぱり、アルノルド司祭か。」
カノンが不思議そうに見上げてくるが、大丈夫と笑いかける。再びアルノルド司祭に目を戻し、カイトは思った。
(妙な動きを見せたら切りに行ってやる。さっさとここを片付けて外で暴れるんだ。)
そんな様子をみぬいているのか大司教は楽しそうに口角を上げていた。