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不穏な足音

「カノン、戻って来なかったな〜。」


「お腹空かせてなければいいけどね〜。」


 台詞の割に全く心配していないグリコとリンゴが朝食をとっていた。「これ美味しい」とか「カノンいないならもらっていいかな」とか…。


「いや、もうちょっと心配してやれよ。」


 呆れ顔でカイトがつぶやく。

 カノンがいないとわかった後、グリコたちが目を覚ました客室に戻ってくるのではないかと部屋で待っていたのだが、夕食の時間になってもカノンは現れなかった。迷子になっている可能性を考えてカイトがデコポンと協力し、修道士たちにカノン捜索を指示してくれたのであるが…


「いくら広いって言ったって、みんなで探したんだろ?なんで見つからないんだ?」


 カイトは不思議そうに言う。建物の外に出たことも考慮に入れて探したのだが、正面玄関には受付嬢たちがいるし、裏口はキッチンと中庭にしかない。キッチンには必ず人がいるし、中庭から敷地外に出るには建物を飛び越えるほどジャンプするか空を飛ぶしか方法がない。

 人目を盗んで出られないってほどではないので、一応外も探そうとしたのだが、この周辺の魔物は数が少ないが手強いため、外出が認められる修道士は少ない。

 司教、司祭クラスになれば出られるらしいが、冒険者1人を探すために外に出るリスクは冒せないと断られてしまった。よく考えればそんな危険な場所にカノンが出て無事なはずがなく、外には出ていないだろうということになったのだが。


「本当に事務って頑固だよな〜。」


 外出許可をだしてくれなかったのも事務である。カノン捜索のため、まずは事務に協力を仰いだのだが、たった1人の迷子のために人手は割けないとか依頼料を出せとか、そもそも冒険者なら自力で帰ってくるだろうとか…。事務側の言い分はもっともなのだが、あまりの言いようにグリコとカイトが腹を立て事務には頼まないということになった。

 修道士たちで捜索していたのはこのためである。

 しかし、カノン探しにここまで真剣なのはカイトくらいなのではないだろうか。


「なんだか、カノンのためにここまでしてもらってすみません…。」


「本当、ただの迷子だと思うんだけどな。」


 出された食事はほぼ食べ終えていた。リンゴもグリコの言うようにただの迷子だと思っているのだが、これだけ探しても見つからないことに少し不安を覚えていた。それでも、そのうち見つかるだろうと考えてしまうのは平和な村での生活が長かったからだろう。


「カイト、ここにいたのか。また朝礼さぼったな。」


 怒っているというより、呆れた様子でデコポンがやってきた。朝食前に朝礼があるらしく、カイトがさぼるのも初めてではないようだ。

 カイトは歯切れの悪い感じで誤魔化そうとしているようだが、次は講義があるようで、デコポンに行くよと言われてしまった。


「いや、カノンを探さなきゃならないし…。」


 よほど講義を受けたくないのか、カノンを理由に抵抗を示そうとする。カノンのことで何か思い出したのか、デコポンはグリコたちに向き直った。


「昨日、大司教様から聞いたことなのですが、上層部に不穏な動きを見せる者がいるようです。関係ないと思うのですが、一応気を付けてください。」


 初めから友達のように接してきたカイトに対して、デコポンはあくまで客として扱ってくれる。敬語は使わなくていいと言ったのだが、相変わらずだ。1日2日で変わるものではないとわかっているのだが…。


「デコポン、敬語は使わなくていいよ。迷惑かけているのこっちだから、敬語使われると敬語で話さなきゃならないし。俺、敬語苦手だから…。」


 デコポンからしたら全く関係のない理論である。しかし、グリコの顔をよく見ると、目が少し赤く、寝不足なのが見て取れた。


「グリコ、昨日遅くまでぶつぶつ言ってたのはデコポンに敬語を使わせないため…?」


 リンゴも半信半疑で口にするが、図星のようだ。ここにカノンやチャコがいたら一晩考えてそれしか思い浮かばなかったのと言われそうである。

 一晩の努力 ―どうせならカノンのことで悩むべきなのだろうが― を無駄にしては申し訳ないと思ったのか、努力すると言ってくれた。

 話がひと段落したところでカイトが口を開く。


「不穏な動きのある上層部というと、あのバカ息子一派か?」


 カイトも少し真剣な顔をして聞く。しかし、グリコたちには何のことかわからない。それを察して、デコポンが説明してくれた。


「大司教様はまだまだご健在だが、大司教様の息子の司教様を大司教にしようとしている一派がいるんだ。今までも大司教様の命が狙われたことが何度もある。ただ、今は時間がないからまたあとで。」


 そう話を切り上げてデコポンはカイトの背中を押す。カイトを講義に連れて行く目的は忘れていなかったようだ。


「いや、そんな危ない状況なら俺は残ったほうが…。」


 そんなに講義が嫌なのかと思うくらいの必死さだ。いったいこの修道院の講義の何が嫌なのか興味がわくほどである。

 そんなカイトの姿がどこかの誰かと被り、リンゴとグリコは顔を見合わせて笑ってしまった。

 カイトが助けを求めるように見てくるので2人は返事をする。


「カイト、講義は受けた方がいいと思うよ。」


「そうそう、カノンのことは俺たちで探すから。」


 がっくりと肩を落とすカイトにデコポンがトドメを刺す。


「出席しないと単位取り消されるぞ。」


 デコポンの一撃はなかなかダメージがあったようだ。反論することもできず、出口に向かっていく。安心したデコポンもまたあとでと言葉を残して部屋から出て行った。

 残されたリンゴとグリコは顔を見合わせて少し笑う。そして、食事を軽く片付けて、未だ姿を見せない仲間を探すために2人も席を離れた。



 しかし、結局、その日の夜になってもカノンは見つからなかった。胸騒ぎを覚える中、リンゴとグリコはモナクスドムスでの2日目の夜を迎えたのだった。

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