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迫りくる危険

 カノンは右も左も帰り道もわからない廊下をとぼとぼ歩いていた。

 長い廊下の所々に置いてある壺や絵画に魅入っていたらグリコたちの姿が消えていたのだ。


「みんなどこ行っちゃったんだろ?」


 グリコたちを探して歩きまわっていたが、驚くことに未だ誰とも会えていない。通行人とかいれば先ほどの部屋まで案内してもらおうと考えていたのだが。

 はぁ〜とため息をついてカノンは壁に寄りかかった。すると、壁の向こうから低い声が聞こえてきた。


「……の準備の方は進んでいるのか?……そうか……あぁ、わかった。」


 誰かと会話しているのだろうか。しかし、相手の声が聞こえないことを考えると何か通信魔法を使って話しているようだ。話しているのは誰だろう。


「こっちの準備は大丈夫だ。修道士の何人かにアレは持たせたし……えっ、あぁ、大丈夫だ。気付かれていない。」


 アレってなんだろう。気付かれてないって…?何かサプライズでも考えているのだろうか。


「それじゃ2日後の朝礼の時に。

 …………よし、これで大司教は終わりだな。」


 通信は終えたようだ。2日後の朝礼?ん?大司教さまが終わりって…

 そんなことを考えていると靴音が近づいてくる。


「ヤバイ!隠れなきゃ!」


 カノンは慌てて隠れるそうな壺の陰を見つけ扉から背を向ける。


 ガチャ


 扉から黒を基調とした神官服を身に纏った小太りの男が出てきた。カノンは壺まで辿り着けていなかった。

 小太りの神官とカノンの目が合う。


「お前…何者だ?ここで何をしている。」


 中から聞こえてきた低い声がさらにドスを効かせて響く。カノンは涙目になりそうになりながら答える。


「何もしてないです。何も聞いてないです。」


「本当だな。何も聞いてないな?」


 カノンは本当に涙目になり今度は首を縦に振る。

 そうかと神官は背を向けたが、ふと考え込み振り返った。


「何も聞いてないですよ…。」


 カノンの言葉をよく吟味した神官はこう答えた。


「何をしていたと聞いて何も聞いてないと答えた。つまり、それは…」


 カノンはゴクリと唾を飲む。


「私が人に聞かれたくない話をしていたと知っているということだ!」


 カノンは危機を感じて神官に背を向けて走り出した。神官は右手を胸の前に立てて詠唱をする。


「"ウィーティス"」


 神官が魔法を唱えるとカノンの足元から蔓が伸びてきた。


「なに、この魔法!きゃっ!」


 カノンは軽く跳んでかわそうとしたが、蔓は簡単にカノンの足を捉える。そのままカノンは倒れてしまった。


「計画を聞かれてしまったなら仕方ない。運がなかったな。」


 カノンは蔓を切ろうと所持していた剣に手を伸ばそうとするが、それよりも速く手足の自由を奪われてしまった。

 カノンはキッと小太りの神官を睨みつけ、尋ねる。


「2日後、何が起きるの?」


 小太りの神官はフンと鼻を鳴らすように話し出した。


「世代交代だよ。年老いた大司教を引きずり下ろして、この私が大司教になるのだ。しかし何度、引退を勧告しても全く動かない。毒殺も試みたが、しぶとくてなかなか死なん。

 だから、外に頼むことにしたんだよ。戦が起きればどさくさに紛れてあいつを殺せるかもしれないと言われてな。

 おっと、喋りすぎたようだな。」


 カノンを縛り上げる蔓がきつく締まる。神官はカノンを引きづり、部屋に入った。

 誰かと交信していたのだからこの神官の書斎なのかと思っていたが、縦に広く幅の狭い部屋だった。三方向が全て本棚になっており、小さな書庫のようだ。


「殺しはしない。2日後まで大人しくしていてもらおう。」


 そう言って神官はカノンを残し部屋を出ていく。


「ちょっと!待って!」


 その言葉を聞いてか、神官は足を止め振り返った。もしかして、解放してもらえるのだろうか…。

 などと考えていたらカノンの頭に手を当て、何かを唱えていた。聞いたことのない言葉で聞き取れなかったが。

 そして、そのまま部屋から出て、今度こそ扉を閉められてしまった。しかも、扉の外から詠唱が聞こえてきた。


「君の声が届くことはないと思うが、剣も持っているようだから万が一を考えて結界も張らせてもらった。

 くれぐれも邪魔はしてくれるなよ。」


「こら、デブ!ここから、出せーー!」


 カノンは縛られた体勢のまま扉に両足で蹴りを当てる。しかし、扉に当たる前に弾かれてしまった。これが結界のようだ。足音が遠ざかる。


「待てー!ここから出しなさーい!」


 出せる限りの大声で叫んだが戻ってくる気配はない。本当にカノンの声は外に聞こえてないようだ。結界を壊せないかと何度か蹴りを繰り出すが、扉まで足は届かず、結界はビクともしなかった。

 悔しいがこのままでは何もできない。カノンは少し落ち着くことにした。

 まずはこの蔓だ。体の自由さえ戻ってくれば、剣を使って結界を壊せるかもしれない。


「"アグニ"」


 カノンは手に集中し、小さな火の玉を作り出す。


「熱っ!」


 火の玉は予想通り蔓を焼き、カノンは解放された。左腕が少し火傷したようだが、大したことはないようだ。


「よかった。服まで燃えてない。」


 ポプラが用意してくれた服は火に強いようで、燃え移ることはなかった。

 さて、体に自由が戻ったので、カノンは持っていた剣を抜き構える。


「やぁ!!」


 キィーン


 とても強度のある結界なのだろう。いや、そもそも魔法の結界というのは生半可な物理力では壊せないものなのだが、そんなことカノンは知らない。


「はぁ、…やっぱり……壊れないか。」


 すでに50回くらい全力で斬りつけ、息の上がった状態でカノンはつぶやく。

 ひとまず剣をしまい、扉を睨みつけるようにあぐらをかく。

 あの神官が言ってたことから推測すると、2日後何者かによってこの町が襲われることになる。あの男がどのような地位にいて、大司教とはどのようなものなのかわからないが、このままでは確実に人の命が奪われてしまう。

 しかもあの男1人による計画ではないようだ。他にも協力者がいるなら誰にでもこのことを話していいわけではない。今のカノンに信用できる人としたら……


「どうにかして伝えなくちゃ。」


 カノンは狭い部屋の中でゆっくり立ち上がった。

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