秘められた力?
カノンたちは目の前にある不自然すぎるが、当たり前のようにそこにあるドアを見つめていた。
土色の壁に濃い朱色のドアがあり、少しくすんだ金属質のドアノブが付いていた。ドアの右上にはベルが付いており、そこから下がる紐を引けば呼び鈴として機能することがわかる。
「てか、なにこれ?洞窟の中にドア?グリコ、呼び鈴鳴らしてみてよ。」
怪しげなドアに警戒心を示しながらリンゴはカノンとともにドアから5歩ほど離れたところから言った。
「なんで俺なんだよ。先頭歩いてたカノンが行けばいいじゃん。」
グリコもこの怪しいドアが何かの罠なのではと思い、カノンにふる。
すると、カノンがてててと呼び鈴に近づき、紐を引く。
リリリン
「えっ、本当に引いちゃったよ…。」
グリコが呆れながら言う。特になんの仕掛けもなく普通に呼び鈴だったようだ。
「はーい、どちらさまですかー?」
中から女の子の声が聞こえる。
「えーと、カノンと言います。セブンとペンペンを追いかけてきたんですが、いませんかー?」
カノンが答える。
「いやいや、正直に言いすぎでしょ。」
「えっ?なんで?」
グリコの突っ込みにカノンは首を傾げるが、もう遅い。
「…………。ただいま留守にしております。ピーッと鳴ったらメッセージをどうぞ。」
中の女の子がピーッと言う。
「どんな誤魔化し方だよ!中から声が聞こえる時点で留守なわけねぇだろ!」
そんなグリコの突っ込みに中からはチッと舌打ちが聞こえた。
「バカのくせにどうやってここまで来たんだ…。アニキー、どうしよー?」
仕方ない開けてやれと少し低い声が聞こえる。りょーかーいと元気な声とともにドアが開いた。
「やれやれ、我が輩を追いかけてくるとはなんとも命知らずな。インフェルノ皇国をも滅ぼす我が力は未だコントロールがきかないというのに。」
カノンたちの前でそう話すのは黒いレザーコートに身を包み、左腕の手首から肘まで包帯を巻き、銀色の鎖が三重巻きになっているような腕輪を着けた少年だった。
「我が輩の名はクッパ。命が惜しければ今すぐ立ち去るがいい。歯向かうと言うならば、この左腕の封印を解き、暗黒の力で消炭にしてやろう。」
クッパと名乗る少年はカノンと同い年か少し年下くらいだろう。見下すような物言いが背伸びした子どものようであった。
「誰が立ち去るか!俺の金を返せ!」
武器を構え、グリコが言い返す。"守銭奴"とか"グリコだけじゃなくて、みんなの金だから"と味方に叩かれる。
「だけど、どんな力を持っているのかわからない。インフェルノ皇国とかしらないけど、相当強い力を持っているのかも…。」
リンゴが魔導書を開き、盗賊団を睨みつけながら言った。
「とにかく!泥棒はいけないことだよ。盗んだ物を返しなさい!」
と、カノンが一歩前に出てユースティティア盗賊団を指差す。その時、指輪が赤く光りだした。
「何…!?その光は…イノセントフレアか!?まさか、お前たちはインフェルノ皇国の刺客だったのか。この子たちは渡さないぞ!」
クッパは驚きを隠せないと言った表情でセブン、ペンペンを後ろに庇った。
「いや、これは危険な魔法を認知する指輪だから。インフェルノ皇国とか知らないから。てか何、イノセントフレアって。」
クッパの様子を見て、グリコは呆れながら力なく突っ込む。
「えっ、まさか、この子たち…。」
リンゴは何かに気づいたようで驚き、呆れ、信じられないと言う顔をする。
ただ、カノンだけ、
「えっ、これインフェルノ皇国の物なの?!スージーさんってそんなにすごい人なの??」
そんなカノンの様子を見て、グリコとリンゴは同時にカノンの後頭部を軽く平手打ちする。
「それはあいつらの妄想だから!インフェルノ皇国とかイノセントフレアとか存在しないから!」
グリコの突っ込みにカノンは理解できてないようなので、リンゴが補足する。
「カノン、あの子たちは最近増えている"厨二族"だと思うよ。自分は他の人と違う存在なのだとすごい力を秘めているんだと勝手に空想している人たちのこと。彼らにとっては嘘じゃないのかもしれないけど、現実には存在しないから信じなくていいよ。」
カノンはやっと理解したようだ。納得した顔になり、驚いた顔になり、忙しく表情が変わっている。
「ふっ、アニキの言葉を嘘と言うとは…。これだから下等生物は…。」
セブンがカノンたちの様子を鼻で笑うように言った。
「よせよ、セブン。我らのことをわかってもらおうなどとは初めから考えておらぬ。たとえ、インフェルノ皇国とは繋がりがなくとも、ここで死んでもらうしかないのだから。」
相変わらずの口調でクッパも話す。こいつらが厨二族であるとわかってから聞くとなんとも痛々しい。
「もういいよ、うるせーよ!カノンの指輪が反応してるってことはあいつらの誰かが危険なアクセサリーを装備しているってことだよな?」
グリコがリンゴとカノンに確認をとる。
「うん。後ろの2人は外であった時反応なかったから、持っているのはクッパって子だと思う。」
リンゴが答える。カノンも指輪を見ながら、考えを伝える。
「あの腕輪が怪しいよ。それに、自分の妄想を信じきっているなら、もうほとんど精神エネルギー取られているのかも。急がなきゃ。」
さすがは経験者。そんな笑いを取っている場合ではないので、3人は改めて武器を構える。
「セブン、ペンペン、危ないから下がっていなさい。」
クッパの後ろにいた2人は元気よく返事をして部屋の下がれるところまで下がった。もっともそんなに広い部屋ではないので、離れたのは1メートルくらいであるが。クッパは包帯を巻き、腕輪をつけている左腕を天に向け、詠唱を始めた。
「我が左腕に封じられし古代の魔人よ。今こそ真の力を発揮し、世界を闇に…グワッ!」
クッパがかっこよく詠唱しているところにグリコの剣が鞘に入ったままクッパのみぞおちに入る。クッパは苦しそうに床に倒れた。
「安心しろ。峰打だ。」
と、かっこよく言っているが、誰も聞いてない。
「やー。」
いつの間に近くに来たのか、力の抜けた笑顔と声でカノンの剣がクッパの左腕についている腕輪だけを突き刺す。パリンッと音がして腕輪は綺麗に砕け散った。
「あっ、指輪が光らなくなった。」
特に何もせず見ていたリンゴが言う。カノンの指輪からは赤い光が消え、もとの指輪に戻っていた。
「ア、アニキー!」
少し離れていたセブンとペンペンがクッパのもとに駆けつける。クッパは気を失っているようだ。
「俺の峰打がそんなに上手に入っていたとは…。初めてにしては上出来だな。」
得意げにグリコが言う。しかし、カノンの発言によりグリコの自賛は崩される。
「私もねブレスレットが外れた時、気を失ったらしいの。危険な魔法に精神エネルギーが吸い取られて空っぽになりかけていたところに、自然のエネルギーが一気に入り込んでくるからって言ってたよ。」
へぇ~そうなんだ~とリンゴは笑いを堪えながら相槌をうつ。
それから10分くらいして、クッパは意識を取り戻した。