ギルド連合
リンゴたちの説教も終わり、今回の事件は悪質なアクセサリーのせいということで、無事釈放された。署長さんとスージーが知り合いだったことも早く出ることができた要因のひとつだろう。カノンたちは2度も救ってくれた恩人に感謝の言葉を伝えた。
「本当にありがとうございました!」
もう何度目かわからないお礼をカノンは深く頭を下げて言う。
「あはは。もういいよ。これからは気をつけるんだよ。世の中には悪い人いっぱいいるんだから。」
はーいとカノンは返事する。署長さんもそんなに悪い人ではなく、盗まれたお金を取り返しに行くと言ったら条件付きで場所を教えてくれた。
「まぁ、まずはギルド連合に登録に行こうか。」
署長さんが出した条件はギルド連合に加入し、警察署からの依頼として正式に受けてから行くことだった。警察署としてもこの盗賊には手を焼いていたらしい。どうせ取り返しに行くなら、ついでに潰してきてくれとのことだ。
スージーの案内で一行はギルド連合に向かう。着いたところは昨日夕飯を食べた酒場だった。
「いらっしゃい。あら、スージーとおチビちゃんたち、意外な組み合わせね。」
サンチュが笑顔で迎え入れてくれる。酒場の営業は夕方からなので人はほとんどいなかった。
「ギルド連合に行くんじゃないのか?」
不思議そうにグリコが聞く。それにはスージーではなくサンチュが答えた。
「ギルド連合に用事?ようこそ、ノーステラギルド連合支部へ。」
普通大きな町にはギルド連合の建物があるらしいのだが、冒険者の多くないこの町は昼間時間のある酒場がギルド連合の支部を担っている。
「サンチュ、警察署長がこの子たちに依頼したいんだって。それで、まずは連合に加入させようと思って。」
納得したように頷いてサンチュはカノンたちに向き直る。
「そっか!じゃあ、説明するから座って。」
よろしくお願いしますと言ってそれぞれ椅子に座った。サンチュの席はここというように笑顔で自分の膝を示し腕を広げて待つスージーを書類で叩き、サンチュも空いている椅子に座った。
「まずはギルド連合の説明からするよ。
ギルド連合は全ての冒険者に平等にサポートする機関なの。初心者冒険者にはオススメの装備や訓練場、安心して買い物できる店などを紹介しているよ。」
「始めからここでオススメの店聞いておけばよかった…。」
サンチュの説明を聞いてリンゴはつぶやいた。後悔先立たずとはまさにこのこと。
「この連合の主な役割は依頼の仲介。ペットの捜索から魔物退治、アイテム調達など、さまざまな依頼を冒険者に通し報酬の中継ぎをしているの。」
「報酬もらえるの!!あのアクセサリーも買えるかなぁ。」
カノンが目を輝かせる。両脇から"学習しろ"とデコピンされた。
「ただし、誰にでも依頼を渡してるわけじゃないの。冒険者としてギルド連合に加入して、証を持っていなければならないの。これには2つ理由があります。
ひとつは情報の悪用を防ぐため。中には王宮の極秘事項に触れるような依頼もあるの。そういったものを犯罪者の手に渡さないように冒険者を管理してるの。
もうひとつはマナーの悪い冒険者の取り締まり。依頼の受領と達成の有無はギルド連合の情報に残されるようになってるの。依頼を受けたのに達成せずに放棄することを繰り返すと依頼を受けることができなくなるから気をつけてね。
ここまで理解できたらギルド連合への加入をよろしくお願いします。」
要はルールを守って正しく利用しましょうということだ。3人は頷き、登録用紙に必要事項を記入していった。
氏名
年齢
性別
職業
→得意武器
所在地
「職業?所在地?」
書いていて疑問に思ったことを聞く。サンチュが優しく教えてくれた。
「職業は君たちの肩書きになるものだよ。特に資格とかあるものではないから自由に記載する人が多いけどね。剣士だったり、魔法使いだったり。商人とか鍛冶屋もあったかな?書きにくかったら得意武器だけでいいよ。」
「決まったら追加で書き込むこともできるし、後で変更することも可能だから気にしなくていいよ~。」
スージーも口を挟む。スージーの職業を聞いてみるとクールなイケメン剣士だと胸張って言うので参考にしないことにした。
サンチュの説明が続く。
「所在地は定住してギルド連合の依頼を取りに来る人もいるの。君たちの場合は放浪中って書いてもらえるかな?
依頼者の中にはご指名で依頼する人や冒険者に手紙を出す人もいるから各冒険者の所在地を確認してるのよ。」
言われた通り記入も終わり、ギルド連合会員証が発行された。黒い背景に太陽の紋章が描かれたカードで裏には氏名などそれぞれの情報が記載されていた。
「太陽の紋章がこのギルド連合の紋章なのよ。それを見せればギルド連合会員の証明になるわ。」
ギルド連合と提携している宿屋や道具屋で割引などもあるらしい。盗まれるなよとスージーは茶化すが、2度も盗られているため返す言葉もない。
「これで、ユースティティア盗賊団のところに行けるんだね。」
気を取り直したようにカノンが言う。
「あー、ごめんね。加入は終わったけど、依頼の受理はこれからだよ。」
申し訳なさそうに苦笑いしながらサンチュは言った。その時、突然、カウンターの方から鈴の音が聞こえた。
その音に驚きもせず、サンチュはカウンターの引き出しを開け、一枚の紙を取り出す。
「さすが署長さんね。仕事が早い。依頼書が届いたよ。」
この依頼書に依頼を受けることを書き込み、契約することで受理されるようだ。サンチュが確認のために依頼内容を読み上げる。
「依頼主はノーステラ警察署長さん。内容はユースティティア盗賊団の壊滅または活動停止。報酬は…。えっ、君たち何やらかしたの?」
サンチュは笑いながら依頼書を3人の前に出す。驚きに顔を見合わせながらカノンたちは依頼書を覗き込んだ。報酬部分をリンゴが読み上げる。
「依頼達成報酬。警察署修繕費全額免除。※不達成時は1年以上の禁固刑を求刑する。だから達成するまで帰ってくるなよ、悪ガキども(笑)」
「なんだよ、この"悪ガキども(笑)"って!警察署壊したのカノンだけだから。てか"(笑)"ってなんだよ!お茶目だな、おい!」
グリコの突っ込みが入る。スージーもサンチュも腹を抱えて涙を溜めながら笑っていた。
「とにかく、これで出発だね。はい、これあげる。」
笑いの余韻を残しながらスージーはカノンに手渡した。渡されたものは赤い宝玉が装飾されている金色の指輪だった。
「それは破魔の指輪だね。危険な魔法のかかったものが近くにあると光って教えてくれる魔具だよ。」
サンチュが説明してくれる。ゆっくり横を見ると先ほど以上に笑いをこらえているスージーがいた。不思議そうに首を傾けるサンチュにスージーが耳打ちするとサンチュまでもが笑い出す。
もうめんどくさいので2人を放っておきカノンたちは出発することにした。
「いってきます!」