夢追いは集う
ハロウィンですがハロウィンっぽい話では無い
アキバから大分離れた山の麓。
そこにある森の入り口を集合場所と定め、メンバーが集まっていた。
PTの司令塔にして弩砲を操る後衛型〈守護戦士〉、夢見る弩砲騎士。
殲滅火力にして超近接型〈妖術師〉、バルタザール・A。
メイン盾として最前衛を担う防御型〈暗殺者〉、リエナ。
PT内最大瞬間火力と第二前衛を担う戦士型〈神祇官〉、小夜。
未知の実力とドリホリ最強の異名を持つ遊撃型〈神祇官〉、篠。
そして見送りのリリ=ラライ=ライラック。
「リラさん見送りなのか?」
「勿論です!可愛いボクにかかれば当然そんなクエストなんてクリア出来ますけど、ボクには畑のお世話がありますから!」
「ああ、農k…」
「しー!しー!小夜さんしー!ボクは〈薔薇園の姫君〉ですよ!?」
「どほおさんが“しの”を誘ってたなんてね」
「うん……支援がんばる……あと……僕の名前……“ささ”……」
「これで揃ったのか?」
「待たせましたわね!」
突如熱いテーマが流れ始める。
何事かと目を向けると、突如地面から花火が吹き上がり、そこにいた人物達のシルエットを浮かび上がらせた。
「最速の男、リーンフォース・ザ・プリミティブ!」
「格闘召喚術師、laugher!」
「祝福の祈り手、シアリー!」
「ひ、光の剣士、アキヒコ!」
「電光石火の刀使い、まけないもん!」
「そして気高きアイドル、カンパルネーラ!ただいま参上いたしましたわ!」
パーン!と6人の背後で爆発のエフェクトがおこる。
嫌な沈黙が流れた。
「……」
「……何か感想は無くて?」
「……全員戦闘体勢。バカのせいで位置がバレた!祭りだと勘違いした奴らがくるぞ!」
次の瞬間、森の中から2体の〈大恐竜〉が出現する。
地響きと共に木々を薙ぎ倒し突進して来たのだ。
弩砲騎士の一喝が無ければマトモに奇襲を喰らっていたかもしれない。
「わざわざ敵を引き寄せやがって!」
「……全ては計算のうちですわ」
「ウソだ!それはウソだ!」
「ウソだなんて決めつけては良い男になれませんわよアキヒコ」
「分かりましたから構えてください!」
アキヒコの悲痛な叫びが木霊する。
さっきのには無理矢理付き合わされたのだろう。
不憫な少年であった。
「戦闘開始!〈大恐竜〉の後ろからゾロゾロ大群もくるはずだ!コイツらに時間をかけるなよ!」
「え?え?ボク見送りに来ただけ……」
「ふっ、では先手は貰いましょう……雷華閃!」
「私も続くぞバルタザール!霊波連撃!」
「ちょっと、ヘイトに気を付けなさいよ!〈アサシネイト〉!」
「皆元気だね~!〈一刀両断〉その首貰った!なんてね」
「トドメですわ!〈ワイバーンキック〉!」
「……出番無さそうなんだけども」
「ははは!過剰火力だねっ」
ヘイトを気にしない波状にして過剰な攻撃によってあっという間に〈大恐竜〉が一体沈んでいく。
だが生き残った〈大恐竜〉は怒りの咆哮をあげ、反撃を開始した。
巨躯に相応しい巨大な尻尾を振り回し前進していたメンバーを弾き飛ばす。
さらにその恐ろしいまでの健脚で飛び上がり、後衛である弩砲騎士達を押し潰す様に襲いかかった。
「脚部換装。全員散開!その後、攻撃だ!」
「えっと、あの、ボクは見送りなだけで……」
「行くぞリラさん」
弩砲騎士は脚部をホバー推進用の魔術刻印が刻まれた横幅のあるグリーヴに変更すると、ヒョイとリラを肩に担ぎ上げる。
そして地面を滑る様な高速移動で〈大恐竜〉の落下地点から離れていく。
リラの目には涙が溜まっていた。
「リラさん、撃て!」
「ぴ、ぴえぇ……なんでこんな……」
「流石の俺も後ろは攻撃できない。今はリラさんだけが頼りなんだ。頼む!」
「!……し、仕方ないですね!可愛いボクがどほおさんを助けてあげます!〈フラッシュニードル〉!」
頼られると断れないリラが特技を発動し、針の様な形をした魔法の光が次々と〈大恐竜〉へ突き刺さっていく。
〈大恐竜〉は全身を襲う痛みに悲鳴を上げると離れていくリラと弩砲騎士を睨み付けた。
〈大恐竜〉の口内に火が灯りはじめる。
ブレスの予備動作だ。
「こっち睨んでます!な、なんか炎が見えますよっ!?」
「ブレスか!」
「させない……!〈テイクオーバー〉!」
間に割り込んだアキヒコが盾をかかげブレス攻撃から弩砲騎士とリラを庇う。
アキヒコはこのメンバーの中で戦士職の弩砲騎士やカンパルネーラ ─まけないもんはそもそも最低の防御力なので割愛─ を抜いて最硬の防御能力を誇る。
〈盗剣士〉にして防御を極めた真なる意味でのガーディアン。
それこそがアキヒコの目指す理想だ。
「その程度なら……耐えられる!」
ブレスに耐えきったアキヒコを薄緑色の光と白色の輝きが包む。
リーンフォースの〈ハートビートヒーリング〉とシアリーの〈リアクティブヒール〉だ。
さらにブレス後の硬直で動きの止まった〈大恐竜〉に小夜と篠の矢が放たれる。
再び痛みに悲鳴をあげる〈大恐竜〉に篠が即座に追加の矢を放った。
「小夜さん、全員に障壁頼む。篠!手負いだやれるな!?」
「了解した!〈護法の障壁〉!」
「……う、うん……これくらい……できるよ……」
小夜が全員に障壁をはると同時に篠が〈飛び梅の術〉で〈大恐竜〉の斜め上の空中に転移する。
既に構えていた矢を放ち〈大恐竜〉の右目を潰すと再び転移。
〈大恐竜〉の片足へ矢をいくつか撃ちその体勢を崩させるとさらに転移する。
今度はその真下へ移動し、柔らかい腹の部分へ容赦のない全力の矢を撃ち放った。
完全に〈大恐竜〉が地面に倒れ下敷きになる直前に再度転移をして、弩砲騎士のもとへ篠が戻る。
どこから攻撃されているかもマトモに分からないまま、二体目の〈大恐竜〉は地に伏した。
弩砲騎士の弩砲に匹敵する威力の矢を使った高速転移による全方位攻撃……敵の攻撃は転移によって当たらず、次々と別の場所から高威力の矢を撃ち続ける。
〈狐尾族〉であるため小夜と違い紙防御ではあるが、当たらなければどうと言うことは無いとばかりに移動系スキルを充実させた結果、あらゆる戦闘をソロで無傷で勝ちぬいた。
正面から戦ってこのメンバーの中でまだ誰一人として一度も勝ったことは無い。
これがドリホリ最強と言われる由縁である。
「た、倒したんですか?やった!」
「いや、まだだ!全員森の中に突撃!〈闇夜を染める炎精竜〉共が来るぞ!森を盾にしろ!」
「逃げるだけじゃ無いわよね?」
「当たり前だ!〈闇夜を染める炎精竜〉もまとめて叩き落とす!」
「ボクも行くんですかっ!?」
「置いてかれた方が逆に危ないと思わないか?」
「ぜ、絶対に護ってくださいよ!絶対ですよ!」
「任せろ」
全員が森の中に飛び込んだ。
すぐに頭上に竜と精霊の群れが姿を現す。
森の中に逃げ込んだ弩砲騎士達には気付いている様だが、森の木々のせいで姿が上手く確認できない様だ。
「〈闇夜を染める炎精竜〉は!?」
「群れの最後尾に確認したよ~!でも、敵もいっぱいいるからここからじゃ攻撃が届かないかな?」
「なるほど。なら先制攻撃だ。小夜さん!」
「ああ、分かった!」
小夜が弓を引き絞ると、障壁が矢を包む様に展開し鋭く研がれていく。
研ぎ澄ました障壁を纏う矢は、何かギラギラとした牙を研ぐ獣の様に見えた。
「いっけぇ~さよちゃ~ん!」
「もっとだ……もっと!」
さらに小夜の周りに矢の形をした障壁がいくつも出現していく。
それらは小夜の動作に合わせて上空の大群に狙いをつけた。
「私の百の矢を喰らうがいい!〈単衣障鬼・百鬼の陣〉!!」
弓の弦から指を放すと、つがえていた矢と同時に百の障壁の矢が飛んでいく。
それらは容赦なくモンスターの大群に突き刺さりHPを削り取っていった。
その力に危機感を覚えたのか、それともこの攻撃が何かのトリガーに触れたのか、〈闇夜を染める炎精竜〉は森ごと焼き払うかの如く広範囲ブレスを吐き出す。
しかし、森の木々を蹴ってブレスに向かって身を投げ出した者達がいた。
「止めますよ、ラフさん」
「勿論だとも、バルタザールよ!」
ブレスが迫る中、二人は握った拳をそのブレスへと向けて突き出した。
「「真・無・相・殺・撃!!」」
虚無の魔力と極大の業火がぶつかり、喰らいあい、破裂する。
爆発にも似た魔力の奔流が森を覆い、辺りを爆煙が包み込んだ。
次の瞬間、煙の中から凄まじい速度で弩砲騎士が上空へ飛び出す。
弩砲騎士の周囲の空間が歪み ─メニューを操作して─ 武骨だった鎧が純白の鎧騎士へと換装 ─装備を変更した─ された。
背部に広がる様に装備された翼の様なブースターを噴かし、弩砲騎士は飛行形態へと姿を変える。
それはまさに白銀のドラゴンの如く。
弩砲騎士の体にしがみついたリラもまた空に飛び上がっていた。
「ふえぇ……なんでボクまで空飛んでるんですかあ!」
「口を閉じろ!舌噛むなよ!」
モンスターの群れの上空まで一気に飛び上がった弩砲騎士は背部の大型ブースターを排除する。
そして身体を垂直に戻すと外界を睥睨した。
「解析……敵エネミー残り62。手負いばかりだ。いけるな、リーンフォース」
「OKだとも。……〈コールストーム〉」
周囲に嵐が吹き荒れる。
〈森呪遣い〉の広範囲魔法、〈コールストーム〉だ。
空の気流は乱れ、翼を持つ竜種モンスター達が荒れる風で満足に飛べず、脆弱な精霊達はその身を暴風に引きちぎられる。
「自然の力を操る〈森呪遣い〉にとっては、森の中は無限の魔力を得たと一緒さ……こんな風にね、〈ネイチャーズラス〉!!」
ほぼ無詠唱と同等の時間で新たな魔法を重ね、嵐は大きく渦巻いていく。
それを確認した弩砲騎士はひとつ頷き、リラを空まで連れてきた目的を果たしにかかる。
「リラさん、〈ライトニングネビュラ〉だ。なるべく広範囲に頼む」
「ぴ、ぴえぇ……人使い荒いですよぉ……ら、〈ラティスシンタックス〉、〈ライトニングネビュラ〉!……あれ?」
「グッドだ」
リラの放った〈ライトニングネビュラ〉は〈コールストーム〉の生み出す嵐雲へ吸い込まれ、ドス黒い雷雲へとその姿を変化させた。
そして次の瞬間、雷鳴と共に周囲のモンスターへと雷が降り注いでいく。
「な、なんですか、これ!?いくら可愛いボクでもこんなに可愛くない〈ライトニングネビュラ〉使えませんよ!」
「〈コールストーム〉にはな、電撃魔法を増幅させる効果があるんだ……さぁ、ここからが本番だ」
「ちょ、ちょっと待ってくだ……わぷっ!?」
弩砲騎士は背部のブースターを噴かすと、降り注ぐ雷を掻い潜り〈闇夜を染める炎精竜〉へと向かう。
地上にいるメンバーも同様だ。
「よぉ、また会ったな、覚えてたか?」
弩砲を構えると間髪いれずに〈闇夜を染める炎精竜〉へと重量弾を連射する。
翼を穿たれた〈闇夜を染める炎精竜〉の高度が一気に下がっていく。
「……お前の天敵さ!」
〈闇夜を染める炎精竜〉が鳴いた。
特技のフレーバーとか効果見てると〈冒険者〉がどれだけチートか良く分かります。