狼と戦闘狂のセットアップ
仲間集めその2
キャラが一気に増えそう。増えた。
アキバに程近い高レベルの戦闘ゾーン。
小夜はそこで次々と現れるモンスターを相手にただひたすら武器を振るっていた。
自身に障壁はつけず、口伝:〈単衣障鬼〉を発動させ敵を打ち倒す。
「くそっ、またダメか……!」
〈単衣障鬼〉は今、耐久設定値の半分程度のダメージしか出せていなかった。
数体のノーマルモンスターや一体しかいないパーティボス相手ならばそれでも良いかもしれない。
だが、あの大群に勝つにはそれでは足りないのだ。
「あれ?さよちゃん?さ~よちゃ~ん!」
苦悩する小夜にそんな能天気な声がかけられる。
声のした後ろを見る……いない。
右を見る……いない。
左を見る……いない。
「なら……上か!」
「にょわあっ!?」
判断と同時に自らの上方を薙刀で斬り払う。
声の主はその一撃をなんとか避けたが、小夜の目の前に顔面から落下した。
それは腰に2本の刀をさしてはいるが、胸にサラシを巻いただけ、下は和風のパレオの様な格好の、〈法儀族〉特有の紋様をさらけ出した非常に露出の多い姿をした美女だった。
「きゃん!……ひどいよ、さよちゃ~ん……」
しょぼ~ん、と音が付きそうなほどに美女は落ち込みメソメソと泣き崩れる。
小夜は美女の顔に見覚えがあった。
「……サブマス!?」
美女は〈ドリホリ〉の元サブギルドマスター、『まけないもん』であった。
メイン職は〈武士〉。
そのプレイスタイルは“鎧を全く着ない”というピーキーどころではない無茶苦茶なスタイルを貫くことから“裸武士”と呼ばれている。
戦績は最悪だが、そのプレイヤースキルは〈ドリホリ〉内でも別格であった。
ちなみに名前の発音は『ドラ○もん』と同じ抑揚で『まけないもん』。
「え~ん、さよちゃんがいぢめる~!さよちゃんはお姉ちゃんのこと嫌いなんだ~!」
「……はぁ。別に嫌いじゃないですよ。上から飛びかかってこなきゃ、何もしませんでした……」
「ほんとう?」
「本当です」
「……なら良かった!」
ぺかーとばかりの眩しい笑顔をまけないもんは浮かべた。
悪い人では無い。
悪い人では無いのだが……。
小夜はもう一度ため息をついた。
「……で、サブマスはなんでこんなとこに?」
「よくぞ聞いてくれました!さよちゃんが困ってる電波をびびび~っと受信したのだ!」
「何言ってんだアンタ……」
「それで?さよちゃんは何に困ってるのかな~?んん、皆まで言わずとも分かるぞよ!強くなりたいんだね?そうなんだね!?」
「………」
「あれ~?どこ行くのさよちゃん?さ~よちゃ~ん?」
呆れた小夜が移動を始めるとまけないもんも後ろをついてくる。
「待ってさよちゃん、待って~!」
「………」
「ねぇ、強くなりたいんだよね?お姉ちゃんが手伝ってあげても良いんだよ?」
「………サブマスが?」
「うん。お姉ちゃんが手伝ってあげる!」
サラシに包まれても分かる豊満な胸をどん!と拳で叩いた。
小夜は少し考え、結局諦めたのか、まけないもんに話をはじめた。
弩砲騎士達と行った冒険で何が起こったのか。
そして、口伝:〈単衣障鬼〉を完成させたいのだと言うことを。
「ふむふむ……つまり、さよちゃんは〈武士〉になりたいんだね」
「え?」
「だって~こう言うことでしょ?」
まけないもんが近くの草むらをつつくと、モンスターが出現する。
モンスターは問答無用でまけないもんに襲いかかった。
「敵の攻撃を防いで……」
モンスターの攻撃をまけないもんは〈受け流し〉を用いて防ぎ
「一撃で倒す!」
〈武士〉の高威力攻撃スキル〈一刀両断〉を発動させモンスターを一刀のもと両断する。
その光景は小夜の望む姿に、最も近かった。
「さよちゃんの本当のアカウントは〈武士〉だったもんね?」
「ええ、まぁ、はい」
「でもさよちゃんは〈神祇官〉。〈武士〉にはなれない」
「………」
「ねぇ、さよちゃんは〈武士〉になりたいの?〈神祇官〉になりたいの?どっちかな?」
「え、いや、私は……私、は……」
言われてからふと気付いたのだ。
まけないもんの言う通り小夜のメインアカウントは〈武士〉だった。
大規模戦闘を駆け回るレイダーとしてそれなりに名も売れていたし、誇りにも思っていた。
そのために〈武士〉という職には深い愛着もあるし、最も慣れ親しんだものでもある。
だから〈武士〉の様な戦い方を求めたのかもしれない。
だが小夜は〈神祇官〉であり、〈武士〉ではない。
〈神祇官〉は〈武士〉に似たことをできるかもしれないが、同じことは出来ない。
ならば〈神祇官〉としてただ〈祓の障壁〉をはりつづけていれば良いのだろうか?
いや、そんなつまらないことはしたくない。
「私は……〈神祇官〉だ。皆の災厄を払う役目がある。でも、〈武士〉の強さも欲しいんだ」
結局のところ答えは決まっている様なものだ。
傲慢だろう、強欲だろう。
だが、小夜が求める強さとはそこだ。
皆の災厄を払い、敵を一刀のもとに斬り捨てる。
ゲーム時代では出来なかったことも、今この世界ならば可能かもしれない。
小夜はどちらの強さも望むのだ。
そこに迷う余地など存在しない。
「ふふ~ん、いいよいいよ男の子だね~!身体は女の子なのにね、こちょこちょ~」
「……〈祓の障壁〉」
「いやん、いけずぅ~!」
「サブマス」
「こほん。ならばよし。お姉ちゃんが手取り足取り教えてあげましょう。特訓してあげましょう!」
「出来るんですか?」
「勿論!お姉ちゃんは強いから。でもね、さよちゃんはもっと強くなれるかもしれないね」
小夜は頷き頭を下げた。
まけないもんはそんな小夜を優しい目で見つめると、特訓の開始を宣言する。
小夜が求める強さを手に入れるのもそう遠い話ではないだろう。
*****
カランカランと扉についたベルがなる。
アキバの一角にある小さな喫茶店にリエナは訪れていた。
「やぁ、こんにちはリエナさん」
「リーンだけ?」
「カンパルネーラがまだかな」
リエナは人を集めていた。
あのレイドボス〈闇夜を染める炎精竜〉を倒すためだ。
レイドランクなのだからパーティーでまともに戦えるはずがない。
リエナは自他共に認める戦闘狂だが、無謀なことを繰り返すほど愚かではなかった。
次こそは〈闇夜を染める炎精竜〉を地に引きずり下ろすと決めている。
「……他の二人は?姿が見えないんだけど?」
「アキヒコくんとシアリーちゃんは店の手伝いを始めちゃってね」
「あの二人らしいわね……」
「キミはホットミルクで良かったかな。砂糖たっぷりの」
「よく分かるわね。お願い」
「はい、どうぞ」
「はやっ!?」
「これでも“最速の男”を自負してるだけはあるんだよ……それにそろそろリエナさんが来る頃だろうと思っていてね」
喋る度にウィンクを決める彼の名は『リーンフォース・ザ・プリミティブ』。
詠唱速度やスキルの発動速度、動作スピードというとにかく早く動くことに特化して組まれた一風変わったビルドの〈森呪遣い〉である。
欠点として個々のスキルの効果がオーソドックスな構成のキャラより劣るものの、彼と戦闘することになった者達は皆、後から発動したリーンフォースに先に動かれるという謎の厨二力を味わう羽目になる。
ちなみに〈エルフ〉であり、翡翠色の瞳と細めの体型、そしてイケメンな顔を活かして良くナンパをする。
男も女も。
「あ、あれ……リエナさん!来てたんですか……わ、わっ!?」
「私のことは良いから集中しなさいアキヒコ……」
「ご、ごめんなさい!後でちゃんと挨拶しますから!」
両手に大量の膳を持って厨房から出てきたのは赤毛の少年『アキヒコ』。
片手盾に片手武器を用いるグラディエイタービルドの〈盗剣士〉をしている。
片手武器には、距離のある敵に対応するための『ブーメランセイバー』と近距離の敵に一撃を叩き込む『ロングセイバー』を状況に応じて使い分けている。
さらに装備に刻まれたルーンを起動させ様々な自己強化を行う〈ルーンナイト〉でもあり、武器攻撃職としては比類なき防御と火力を両立した。
なお彼は元々二刀流だったのだが、このビルドを薦めたのは弩砲騎士であり、このビルドでの立ち回りを教えたのは似たコンセプトのリエナである。
ひどい茨の道だったのだが、それでも彼は元気に生きています。
「あら?リエナさんいらっしゃったんですか?ちょっと待っていてくださいね。今厨房を綺麗にしちゃいますから」
「ああ、うん、待ってるわ」
「はい。ふんふふ~ん♪あら、こんなところにまで汚れが。これは何に使うのかしら?きゃあっ、虫が!〈ホーリーライト〉!」
厨房から凄まじい音を響かせるのはシスター姿をした女性『シアリー』。
とてもたおやかで優しい女性ではあるのだが、シスターとして邪な者を見逃すわけにはいかないとして回復だけでなく死霊系特攻魔法や武器攻撃スキルまで極めてしまった真ホワイトローブ(自称)ビルドの〈施療神官〉である。
ぶっちゃけ魔法剣士なのだが器用貧乏にはならず、魔法攻撃、武器攻撃、回復魔法、支援魔法を実用レベルで実用化してしまい最早手に終えない完成度を誇る。
ちなみに本人の方は手に終えないほどの天然である。マスターの顔が青いのは関係無い。
「相変わらずね、全く」
「〈ドリホリ〉だからね」
「それで納得できるのがおかしいのよ……!」
「いつものこと……おや、来たみたいだよ」
リエナが入り口に目を向けると軽快なテーマが聞こえてきた。
次の瞬間、バァン!と扉が開けられ貴族的な衣装に身を包む圧倒的オーラとプレッシャーを撒き散らす、銀髪の女性が現れた。
いつのまにか入口側に移動したリーンフォースのエスコートを受けながら女性はリエナの目の前まで移動し、リーンフォースの引いた椅子に高く足を組んで座った。
即座にリーンフォースによって女性のもとに紅茶が出される。
完璧な連携だった。
「感謝いたしますわ、リーンフォース」
「どういたしまして、ネラ」
「良いのよ。それで私に……いえ、私達に用とはなんですの、リエナさん」
話す度に押し潰すかの様なオーラを放つ彼女の名は『カンパルネーラ』。
〈ドリホリ〉の幹部だった女性であり、サブ職〈アイドル〉をすら利用してヘイトを稼ぐ凄腕の〈武闘家〉だった。
彼女は〈アイドル〉としても誇りを持っている様で、常にバックに何かのテーマを流し、天秤祭でも可愛らしい衣装を着てきゅぴぃーん☆とか言いながら本気で踊っていた。
普段のギャップにやられたのかファンが爆発的に増えたとか。
ちなみに女性と言ってはいるがその性別は不明だったりする。
〈冒険者〉にはよくある事だ。
「私達が大神殿で死に戻った話は?」
「聞きましたわ。随分な激戦だったらしいですわね」
「そ。実はレイドクラスの難易度らしくてね。力を貸してほしいのよ」
「酷い目にあったのにまた挑戦するのかい?」
「当たり前よ。勝つまでやるわ」
「リーンさん、聞くだけ無駄ですよ。相手が神様だってリエナさんは挑みますもん」
「神様なんてチェーンソーでバラバラになる程度のザコじゃない」
「まぁまぁ、ダメですよリエナさん。女の子がバラバラ~なんて怖い言葉を使っては」
「いや、アンタは神様に暴言吐かれたことを怒りなさいよ…」
いつの間にかアキヒコとシアリーも集まっていた。
本来ならもっと仲間を集めるべきなのだが、急な連絡のために他の〈ドリホリ〉メンバーには ─連絡がつかないメンバーもいたが─ 断られた。
それでも四人も集まってくれた。
リエナにとっては十分な成果だ。
「改めてお願いするわ。私達に力を貸して」
「構わないとも」
「まぁ、元々そのために来たわけですし」
「私の微力で良ければ」
「………」
カンパルネーラは扇子を閉じ、少し考えている様だった。
しばらくの後、扇子を再び開いたカンパルネーラは口を開いた。
ちなみにこの間、彼女から流れてくるテーマ曲は消えている。
「お受けいたしましょう。かつての同胞の願いを無下にはできませんわ」
「カンパルネーラ……」
「ネラで結構ですわ、リエナさん」
「……ありがとう、ネラ。助かるわ」
「良いのよ。それに……ふふ……」
──武者震いが止まらないの
カンパルネーラの言葉にリエナはニヤリとした笑いで応えた。
新キャラが五人もいる……
▼キャラクターシート
まけないもん
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リーンフォース・ザ・プリミティブ
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アキヒコ
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シアリー
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カンパルネーラ
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これでハーフレイド分揃った……よね?
次回はまたクエストに挑みます。多分。