鎧と格闘家のセットアップ
仲間集めその1
しばらく冗長な話が続くかもしれません
──…………ん!
波の音がする。
静かな空気の中ただそれだけが聞こえる。
──…ほ……ん!
最早見る夢はおぼろ気になり。
心地よいのか苦しいのかもわからない。
──…ほ…さん!
大切なのかそうではないのか。
何も分からない。
もう、思い出せない。
「どほおさん!」
「んおっ!?」
夢見る弩砲騎士の兜のスリットに光が灯る。
意識が覚醒した証拠だ。
周りを見て弩砲騎士は状況を確認する。
ここはアキバの大神殿。
自分達〈冒険者〉の復活地点だ。
「やっと目が覚めたんですかどほおさんっ!」
「ん、ああ……ん?誰だ?」
「……ふぇ……や、やだなぁ、リラですよどほおさん!まだ寝ぼけてるんですかっ?」
「あ、ああ、リラさんか。そうだよな。寝惚けてたみたいだ」
「ふふん、ダメですよ。ほら目が覚める様な可愛いボクが目の前にいるじゃないですかっ!」
「コーヒーとかあるかな?」
「ぎゃ、ぎゃぼ……」
彼女の名は『リリ=ラライ=ライラック』。
リラと呼ばれている。
ピンクや薄い赤色を基調とした可愛らしい服に身を包んだ〈ハーフアルヴ〉の小柄な少女だ。
彼女も〈ドリホリ〉であり、本来高ヘイトに偏る中で、徹底的な低ヘイトを目指した〈妖術師〉である。
単にヘイトを上げるのが怖いだけらしいが。
ちなみに本人は〈薔薇園の姫君〉を名乗るがサブ職は〈農家〉である。
察してあげて欲しい。
「他の奴らは……」
「どほおさんが最後よ」
部屋の奥からリエナが姿を現す。
「派手に負けたのね。鎧がボロボロじゃない」
「まぁな。最後はこれでもかとフルボッコにされた」
弩砲騎士の鎧は所々歪んでおり、場所に寄っては完全に破損してる部分もあった。
弩砲騎士は体のアチコチを動かし、まだ鎧が稼働するか調べる ─鎧が重すぎて鎧側からの補助が無いと満足に動けない─ と起き上がった。
「二人はどうした?」
「バルタも小夜もさっさと出ていっちゃったわ。今頃は修行でもしてるんじゃないかしら?」
「修行……らしいと言えばらしい、か。ところで、なんでリラさんがここにいるんだ?」
「ボクにかかれば全てはまるっとお見通しなんです!」
「神殿の前をウロウロしてたから呼んだだけよ」
「リ、リエナさんっ!ダメですよ、しー!しー!」
「いつ死に戻ってくるか心配で仕方なかったみたいね。愛されてるじゃない?」
「ほう……そうなのか?」
「そ、そうですよ!可愛いボクが心配してるんですから、感謝すべきですっ!」
「はいはい、ありがとよ」
「あはは……それじゃ、私も行くわ」
「何をしに行くんだ?」
「レベル上げ」
「お前らしいな」
「……どほおさん、あんたこれ以上持たないんだから無理しちゃダメよ」
そう言ってリエナは大神殿から出ていく。
全員の復活を確認するのが目的だったのだろう。
意外と義理堅い娘である。
「?……何のことでしょうね?」
「さぁな……俺も会いたい奴がいるが、先に鎧の故障を直さなきゃならないな」
「よ、鎧って故障するものなんですか……ところでどこに?」
「〈変人窟〉さ」
そう言ってリラを連れた弩砲騎士が訪れたのはアキバの生産系ギルド街、最奥の巨大廃ビル。
不便なこの場所に居を構える生産系ギルドは、いずれも拘りを持った変わり者ばかり。
故に〈変人窟〉と、そう呼ばれている。
「よう。誰かいるか?」
その中の一室、『夢見る弩砲騎士専用ラボ兼ハンガー』と書かれた場所を訪ねる。
一緒に来たリラは弩砲騎士の肩によじ登り、物珍しそうに辺りを見回していた。
「お?弩砲騎士の旦那じゃ…………ぎ」
「ぎ?」
ぎぃいいやぁああああ!!
その中で作業着を来ていた男が一人。
弩砲騎士の姿を見るなり悲鳴をあげた。
ビックリしたリラが落ちた。
「ちょ、ちょお!?ボロボロじゃ無いッスか!オイラ達の汗と涙と夢の結晶が!!ボロボロじゃ無いッスか!!ねぇ!?どゆこと!?」
「いや、すまん。ちょっとレイドボスと遭遇してな。さすがに無理だった」
「逃げろよ!そこは逃げろよ!死んでも鎧守れや!!」
「い、いや無茶苦茶だろう………リラさん、外で待ってると良い」
「そ、そうですね。可愛いボクがいたら作業に集中できないですから、外で待ってますね!」
そそくさとリラがラボの外に出ていく。
弩砲騎士の周りには続々と人が集まっており、弩砲騎士を奥に連れていくとぎゃりぎゃりと言う凄まじい音と白熱した議論が展開するのが聞こえた。
彼らこそが弩砲騎士の鎧をデザインし製作した張本人達であり、自らを『整備員』と誇りを持って名乗る者達である。
所属は〈海洋機構〉、〈ロデリック商会〉、〈変人窟〉の中小ギルドとバラバラだが、ひとつの目的とロマンに向かって結託した腕の良い生産系プレイヤー達だ。
『こうなったらそのドラゴンに負けない装甲を』
『レイドボスが相手なんやろが。せやったら機動力重視の…』
『味方もいるんだろ?装甲の厚さは求めるべきだ』
『いっそドラゴンにしちゃう?』
『『それだ!』』
だが、変人である。
ラボの外まで出てくる聞こえてくる整備員達の会話を聞いてリラはそう確信した。
しばらくすると、音 ─音は音でも騒音─ が聞こえなくなりシーンと静まり返る。
そっとリラがラボを覗いてみると
「ん?待たせたな、リラさん」
「ひゃいっ!?あ、どほおさん……」
そこにはボロボロだった鎧を修理 ─パワーアップもしてるらしいがリラには分からない─ した弩砲騎士がいた。
腕を回したり歩いてみたり鎧の調子を確認していた弩砲騎士はしばらくすると頷き整備員に礼を述べる。
「バッチリだ。さすがだな」
「当たり前ッスよ!駆動率は3割上昇!鎧も新素材で補強して防御力アップ!ついでにさまようよろい属性も追加したッス」
「待て。最後のはいらんだろ」
「あと、換装用装備も修理完了したんで収納しておいたッスよ」
「本当か。それは助かる」
「これからが真の弩砲騎士ッスよ!次は負けちゃダメッスよ!」
「ああ。ありがとうよ」
整備員に修理代らしき金 ─リラには払えない額─ を渡した弩砲騎士は、リラと共に〈変人窟〉を後にした。
弩砲騎士によじよじと登りその肩にベストポジションを見つけて座ったリラは、気になっていたことを口にする。
「そう言えば会いたい人がいるって言ってましたけど、ボクより会いたい人なんているんですか?」
「ああ……リラさんも知ってる奴だぞ」
「え?誰なんですか、どの人なんですかっ!」
「落ち着け。落ちるぞ……お、いたいた。お~い!」
二人の行く先に居たのは胴着と神主の装束をあわせた様な服を着た〈狐尾族〉の少年が一人。
「よお、会いたかったぜ」
「うん……ひ、久しぶりだね……どほおさん……」
性別の分かりづらい中性的な顔をはにかませて、少年は応えた。
少年の名は『篠』。
『しの』では無く『ささ』である。
弓を扱う〈神祇官〉であり、見た目と裏腹に、いや見た目通りと言うべきか、独特で緻密な戦闘を得意とする。
その独特の戦い方は
「ちょっと力を貸して欲しいんだ」
「ぼ、僕で……よければ……」
「お前なら問題ないさ」
──“ドリホリ最強”と呼ばれた程である。
*****
バルタザールは周囲の開けた場所に一人来ていた。
そこで自身のサブ職である〈格闘士〉のモーションを一つずつ確認していく。
流れる様に、力強く、それでいて無駄な力は一切無く。
「ハァッ!……ふぅ」
しかしこれでは何も変わらないこともバルタザールには分かっていた。
設定されたモーションは結局のところ一対一用のモーションだ。
補正によって身体は良く動くが、PTを全滅させたあの大群には勝てない。
「ふふふ………ふははは………はーはっはっは!見つけたぞ!我がライバル、バルタザールよ!!」
「え?」
そんなバルタザールの元に謎の高笑いが届けられる。
高笑いの主は空中に飛び上がり三回転半捻りという無駄なスキルを披露するとバルタザールの前に華麗に着地した。
彼の名は『laugher』。
謎の近接魔法の流派、マジカル☆マーシャルアーツの同門であり、バルタザールのライバルを標榜する〈格闘士〉の〈召喚術師〉である。
勿論〈ドリホリ〉。
愛称は『ラフ』で、美女と間違われる女顔と華奢な体型が悩みだ。
外観再決定ポーションを飲もう。
「こんなところで一人ほそぼそと修行とは寂しいやつめ!ふふ、だが安心するがいい。私が来たからにはそんな寂しい思いはさせないぞ!さぁ、私が相手になってやろう!」
「本当ですか?お願いします」
「え、あ、良いの?な、中々素直では無いか!では行くぞ、我がライバルよっ!」
次の瞬間、ラフは地に伏していた。
「く、くそぅ……やるな、それでこそ我がライバルよ……!」
「ラフさん……出来れば、本気でかかってきていただけませんか」
「さ、さっきも充分本気だったぞ!そりゃあ、バルタザールに比べれば私は遥かに弱いかもしれないけれども……ぐすっ」
「い、いやそう言うことでは無くて……〈召喚術師〉としてマジカル☆マーシャルアーツを極めた貴方の、本気を見せて欲しいんです」
「……本気で言っているのか?バルタザールよ」
「勿論です」
「……良いだろう。我がライバルが更なる強さを求めるならば、このlaugher!応えぬ訳にはいかぬ!いでよ、ウンディーネ!セイレーン!」
ラフの声と共に展開した魔法陣から出現したのは従者モンスターである、ウンディーネとセイレーン。
彼女達を召喚した瞬間、ラフとバルタザールの空気が変わった。
「本気も本気、超本気だ。行くぞバルタザール」
「こちらも行きますよ、ラフさん」
最初に仕掛けたのはラフ。
バルタザールの懐に飛び込み、渾身のアッパーをくり出す。
それを見たバルタザールはバックステップでアッパーを避けた。
しかし、背後に回り込んでいたウンディーネが冷気の魔法を纏った強烈な蹴撃をバルタザールに叩き込む。
かろうじて反応し受け流すが、そこで動きの止まったバルタザールは、突風を纏ったセイレーンの一撃で吹き飛ばされた。
飛ばされた先に構えていたラフが〈クローズバースト〉で圧縮した魔法をバルタザールへ突き込む。
バルタザールも〈クローズバースト〉を発動、ラフの突きへぶつける様に空中で拳を握った。
単純なぶつかり合いなら〈妖術師〉であるバルタザールの方が強い。
「甘いぞバルタザール。……クリューラット!」
「なっ……抵抗された!?」
「私の勝ちだ!」
〈召喚術師〉のスキルである〈方術召喚:クリューラット〉。
幸運を授けるというこの従者は、術者に有利な効果をランダムで発動してくれる。
だが“大災害”後のこの世界では、その効果すらある程度コントロールすることも不可能ではない。
クリューラットの幸運の輝きで魔法に抵抗したラフの突きが、バルタザールに直撃した。
「どうした!その程度かバルタザールよ!」
幾多の従者との高度な連携格闘魔術。
それが〈召喚術師〉としてマジカル☆マーシャルアーツを極めたラフの本気。
単純な一対一の戦闘と思っていたら決して勝つことは出来ない。
「……まだです!」
ラフの一撃で倒れていたバルタザールは起き上がると、地面を踏みつけ〈デスクラウド〉を放つ。
魔力の霧が辺りへと広がりラフ達のHPを徐々に削っていく。
〈デスクラウド〉の踏みつけをラフへと駆け出す1歩へとしたバルタザールは、そのままラフへと真っ直ぐ走り出す。
「この全方向からの連携攻撃に対応できれば……」
魔法により自らの知覚範囲を広げる〈マスアナライズ〉を起動。
自分の魔力を拡げる〈デスクラウド〉と併用し、背後から迫るウンディーネ、挟み撃ちを狙うセイレーンの攻撃を紙一重で躱す。
「あの大群を抜けて、〈闇夜を染める炎精竜〉に一撃を届かせる鍵となるはずだ……!!」
従者の攻撃を抜けたバルタザールはラフの目の前へとおどりだす。
分が悪いはずだが、正面のラフは迎え撃つ体勢を取っていた。
「来い、我がライバル!霊波連撃!」
「それでこそです!雷華閃!」
同門である彼らの実力はほぼ互角と言っていい。
磨きあった技と技、必殺の魔法のぶつかり合い。
二人の格闘家による凄まじく熱い特訓が始まった。
ハーフレイドはいないときっと勝てないから、フルPTどころじゃなくなりそうな予感
▼新キャラ
リリ=ラライ=ライラック
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篠
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laugher
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この話にはドリホリしか出てきません←