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突破口

お久しぶりです。

 弩砲騎士の言葉に、最も早く反応したのはやはり


「──千針剄(フラッシュニードル)


 昔も今も変わらず弩砲騎士と並ぶ、バルタザール。


「シッ……!」


 軽く握った右拳には、〈ロバストバッテリー〉と〈エンハンスコード〉により威力を強化された〈フラッシュニードル〉の魔力が集う。

 一息に突き出された拳を詠唱の代わりに、千本もの魔力の針が一斉に、部屋の奥に鎮座するレトロフューチャーな端末へと向かっていき

 即座に反応した〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉が盾となり、〈妖術師(ソーサラー)〉のバカげた瞬間火力を全てその身で喰らい尽くした。


「天晴れ……と、あの騎士には言うべきですかね」

「良く言うわ」


 右拳を振り抜いた形のバルタザールの背後から、リエナの小柄な身体が飛び出した。

 バルタザールの肩を踏み台に軽やかに飛び上がると、自身よりも巨大な大剣である〈魔素喰らい(マナイーター)〉を思いきり振りかぶる。

 そして


「死ね」


 それをマザーコンピューターへ向けて投げ付けた。

 スキルも載せていない大雑把な投擲攻撃だが、〈魔素喰らい(マナイーター)〉の攻撃力とリエナのSTR(筋力)から算出される基本ダメージは、戦闘用に作られてはいないだろうマザーコンピューターの端末にとって致命的だ。

 故に、〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉の内の一体がこれを防ぎに身を滑り込ませる。

 メキメキとした音をたてて、〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉の身体に〈魔素喰らい(マナイーター)〉が突き刺さった。

 しかし、〈魔素喰らい(マナイーター)〉の勢いは止まらず〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉の身体を浮き上がらせ進んでいく。


「これで2体!あとどれくらいよ!」

「いっぱい!」

「あはっ、最高じゃないの!!」


 吹き飛ばされた〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉を止めようと、別の〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉が割り込んだ。

 2体がかりではさすがに、〈魔素喰らい(マナイーター)〉もその勢いを減じて止まる。

 その光景を見ながら、小夜(さよ)の構えた薙刀の峰にリエナが爪先を落としていた。


「全部殺るわ」

「でしょう、ねっ!」


 小夜が薙刀を振るい、リエナの身体を投擲した〈魔素喰らい(マナイーター)〉と、それが突き刺さった〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉の団子へと投げ付ける。

 それを攻撃と勘違いしたのか、あるいはリエナ自身を危険と判断したのか。

 〈時計仕掛け(クロックワーク)告死天使グリムエンジェル〉が天井近くの宙からリエナの目の前へと降り立った。


 だが、〈時計仕掛け(クロックワーク)告死天使グリムエンジェル〉はすぐにリエナから視線をそらすこととなる。


「……ぼ、僕が相手になる……」


 はにかんだ様な、困った様な表情を浮かべて。

 〈時計仕掛け(クロックワーク)告死天使グリムエンジェル〉の死角から(ささ)が弓を放つ。

 〈時計仕掛け(クロックワーク)告死天使グリムエンジェル〉が振り向けば既にそこに姿は無く、さらに別の死角へと転移している。

 篠の口元ははにかむがその目は笑わず、冷静に無敵の機械天使を翻弄していた。


「……邪魔させたくないから、邪魔するね……」


 背後に目でも付いてるのか、〈時計仕掛け(クロックワーク)告死天使グリムエンジェル〉は篠の矢を両剣で防ぎ続ける。

 防御を抜いてもダメージが無いのに、必ず防御行動を行う〈時計仕掛け(クロックワーク)告死天使グリムエンジェル〉。

 そのギミックを解き明かしたいのは山々だが、今の篠の役目は違う。

 地面に足を付ける前に〈方違え〉で、〈飛梅の術〉で、〈雲雀の凶祓い〉で……瞬間転移を行う特技を使い続けながら、不可思議な思考ロジックを逆手に他のメンバーから注意をそらし続ける。


「良い感じよ、篠」


 そのまま〈時計仕掛け(クロックワーク)告死天使グリムエンジェル〉の脇を抜け、〈魔素喰らい(マナイーター)〉の突き刺さった〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉2体が重なる屍の上にリエナが降り立った。

 ギチギチと金属の詰まった場所を刀身が擦る音を響かせながら、〈魔素喰らい(マナイーター)〉を力尽くで抜き去る。

 リエナの目の前にはマザーコンピューター。

 そして、そのリエナの周りには新たに壁から出現した〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉がリエナを取り囲んでいた。


「こいつら無限POPなの?」

「リエナさん、今行く!」

「なら、運びましょう」

「は?」


 そう言うとバルタザールは小夜の胸ぐらを担ぎ上げ


「ちょっと待っ……」


 彼女の肉体を投げ飛ばした。

 ゲーム時代は単なるロール系サブ職だったバルタザールの〈格闘士〉。

 それに設定されたモーションのひとつである、“他人を遠くに投げる”というアクションがある。

 例え〈エルフ〉で〈妖術師(ソーサラー)〉というバルタザールのSTR(筋力)が足りなかろうと、このアクションがあれば味方を相応の勢いで投げつけることも出来る。


凍嵐フリージングライナー!」


 バルタザールはさらに反動を活かして、投げた小夜にぶつける様に〈フリージングライナー〉を発動させ、川のごとく流れる氷を放つ。

 攻撃魔法なため、小夜に展開された障壁がゴリゴリと削れていくが小夜自身のHPは減っていない。

 あっという間に小夜はリエナと〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉の包囲へと辿り着いた。


「あとで覚えとけよ……」

「楽しそうね、小夜」

「うるさいな!」


 マザーコンピューターへはなにもさせまいとリエナに一斉に襲いかかる〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉と、そして後から包囲に喰らいつく様に小夜が交戦を開始する。

 機械的に統率された攻撃がリエナにダメージを与えれば、ステータスに物を言わせて振り回した〈魔素喰らい(マナイーター)〉がマザーコンピューターを狙い、それを庇って〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉が粉砕される。

 〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉が攻撃後の硬直を狙ってリエナを狙えば、背後から迅雷のごとき一撃で小夜が〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉の首を狩り、他の〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉が小夜の身体に剣を突き刺す。

 まさに地獄のような乱戦が、マザーコンピューターを目と鼻の先とした場所で行われていたのである。


「手数が足りませんね……まだですか、どほおさん」

「そう言うならお前も手伝え、バルさん」

「ホントですよ!可愛い……むー!……こんな可愛いボクに……んー!……力仕事を……駄目です上がらないですよぅ!」

「ちっ……」

「その舌打ちはボクに向けてですか!?」


 弩砲騎士は扉に押し潰されながら刻一刻と減り続ける鎧の耐久力と自らのHPを確認すると背後で作業を続ける〈大地人〉に向けて話しかけた。


「すまん、少し良いか」

「なんだい〈冒険者〉さん」

「俺の言う通り、弩砲を扉の下をくぐして設置して欲しい」

「そりゃ、構わないけど……さっき注意をひくのは止められて無かったかい?」

「大丈夫だ。頼む」


 〈大地人〉の男は頷くと、数人がかりで弩砲騎士の弩砲(バリスタ)を持ち上げで移動させる。

 扉の下、弩砲騎士の真横を潜った弩砲(バリスタ)の向きをマザーコンピューターへと向けさせると、背後の〈大地人〉達に矢弾を供給させた。


「ところでどほおさん。両手が塞がってるのにどうやって撃つんですか?」

「塞がってない奴がいるだろう」


 リラが首を傾げると、おもむろに首をリラへと向けた弩砲騎士が余裕綽々と ─正直この状況が辛くてそんな余裕は無いのでリラの妄想である─ 声をかけた。


「リラさんが撃て」

「だと思ってました!絶対に嫌です!だってそんなことしたらどう考えてもヘイトがこっちに向くじゃないですか!嫌ですからね!」

「ええい、駄々をこねるな!レベルが足りなくて〈大地人〉じゃ撃てないんだよ!ほら、撃て!」

「い、嫌ですっ!」

「リラさんが可愛い過ぎて、どうせ遅かれ早かれ狙われるんだから、それなら先手を打ったほうが良いだろうが」

「ぐっ、それを言われると辛いですね……」

「……本当にそう思ってるのかお前」

「……ですよね」

「ほら、はやく撃て」


 リラが落ち込みながら、とぼとぼと弩砲(バリスタ)のトリガーに手をかける。

 無気力に引き金をひかれた弩砲(バリスタ)からは、全くもって無気力ではなく、それどころか殺る気に満ち溢れる黒鉄の矢弾が発射された。

 その鉄の塊は意思なく一直線に飛び続け、マザーコンピューターを破壊せんと空気を突き抜ける。

 飛び出した幾体の〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉が矢に貫かれ崩れ落ちる。

 同時に、戦闘範囲外にいた弩砲騎士とリラも脅威と判断した〈時計仕掛け(クロックワーク)〉達の視線が、この大部屋の扉へと向いた。

 ヘイトが二人へと向いたのだ。

 リエナ達と交戦していない〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉が弩砲騎士とリラに向かって疾駆する。


「あーやっぱりこっち向きましたよ!どうするんですか!?可愛いだけじゃ出来ないこともあるんですよ!?」

「いや、問題はない」

「大アリです!ボクのこと守ってくれるんですよね?守ってくれるんですよね!?」

「………」

「どほおさーん!?」


 返事の無い弩砲騎士に抗議のパンチ ─ノーダメージ─ をポカポカと繰り出していたリラはふと、扉の向こうにいる〈大地人〉が騒がしいことに気付いた。

 何かと思って自分の低い背丈をさらに屈めて、弩砲騎士の支える扉の下から向こうを覗くと


「ざんてつけ~~ん」


 キラリと刀筋が煌めいた。


「へ……?」


 リラがポケッと気の抜けた声を漏らした瞬間、弩砲騎士を押し潰そうとしていた扉がバラバラと大きな岩塊へと変わる。

 扉の重石がとれた弩砲騎士がリラを抱きスライディングの要領で転がると、その上を上半身はサラシのみ下半身も和風なパレオスカートで素足を晒した黒髪の美女が弾丸の如く飛翔していく。


「ちぇ~すとぉ~!」


 寸前でリラを狙っていた〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉に美女……まけないもんの刀が突き刺さった。


「ま、まけないもんさんっ!?」

「遅いぞ!!」

「ごめんね~?外の敵を片付けるのに手間取っちゃって」


 まけないもんの言葉にバルタザールは驚いた顔をして


「全部片付けたんですか?」

「そだよ。だからねぇ」


 斬り裂かれた扉の向こうからゾロゾロと人影が姿を現した。


「皆いるよ」


 ルーンナイトのアキヒコ、シスターもどきのシアリー、格闘サモナーのlaugher(ラファー)、最速の男リーンフォース・ザ・プリミティブ


 そして


「ああ、見たことありますわ。〈時計仕掛け(クロックワーク)告死天使グリムエンジェル〉」


 〈ドリホリ〉の参謀、カンパルネーラ。


「パーティチャットで状況は聞こえてたな?」

「勿論です、弩砲」

「では任せる」

「よろしい。篠、それの相手を代わりましょう。再詠唱(リキャスト)と回復に専念なさい。私とまけないもん、あとは弩砲でやりますわ」

「あ、幹部でやるの?」

「他のメンバーには〈時計仕掛け(クロックワーク)人形騎士ドールナイト〉の相手を任せたいと思いますの。ですから私に従ってくださいましね、まけないもん」

「お、いいよ~。どうするのかな」

「そうですね、まず……」


 スタスタと歩き、〈時計仕掛け(クロックワーク)告死天使グリムエンジェル〉にカンパルネーラが近付く。

 少し息切れをしている篠の肩を叩くと、〈時計仕掛け(クロックワーク)告死天使グリムエンジェル〉に対して不意打ち気味に〈オリオンディレイブロウ〉を繰り出した。


「乱数や属性によらない直接ダメージを与える攻撃を行いましょう」


 少しのあと起動した〈オリオンディレイブロウ〉によって、〈時計仕掛け(クロックワーク)告死天使グリムエンジェル〉のHPが減っていた(、、、、、)


「ダメージが入った!」

「何をしたんだ?」

「〈時計仕掛け(クロックワーク)告死天使グリムエンジェル〉は、その両手に持つ両剣で直前に防御した攻撃と同じ種類の攻撃に対して無敵になりますわ。物理攻撃を防御すれば物理攻撃に、魔法攻撃を防御すれば魔法攻撃に対して無敵になるのです」

「へぇ~」

「つまり……戦士職である俺達三幹部は、物理攻撃しか持ってないのでダメージを与えられない、と」

「だめじゃん!」

「ええ、ですから」


 マザーコンピューターへ向かおうとする〈時計仕掛け(クロックワーク)告死天使グリムエンジェル〉にまけないもんが〈飯綱斬り〉で牽制する。


「防御の関係ない攻撃をすれば良いのです。戦士職である私達なら持ってるでしょう?」

「ああ、そういうことか」


 カンパルネーラの拳が輝き、まけないもんの二刀が輝き、弩砲騎士の弩砲が輝く。


「〈オーラセイバー〉」

「〈オーラセイバー〉~!」

「……〈オーラセイバー〉!」


 戦士職の共通攻撃特技〈オーラセイバー〉。

 自らの身体の一部や武器に光のオーラを纏わせ、敵の防御能力を無視して貫通ダメージを与える特殊な攻撃技。

 ダメージ自体は抑え気味だが、物理や魔法に属さないその攻撃は霊体系や防御の高い敵、さらに言えば目の前の様な特殊な防御能力を持った相手に対して有効な対抗手段となる。


「ダメージはどうする?」

「全力で構いませんわ。〈タイガー・スタンス(アサルト・スタンス)〉」

「よーし、ぶん殴ってやろ。〈朱雀の構え(アサルト・スタンス)〉!」

「了解。〈アサルト・スタンス〉起動」


 〈武闘家(モンク)〉、〈武士(サムライ)〉、〈守護戦士(ガーディアン)〉。

 メイン職の全く違う3人が、全く同じ特技を発動していく。

 見据えるのは、人の背丈の倍はある〈時計仕掛け(クロックワーク)告死天使グリムエンジェル〉。

 通常の人ならば恐怖もしよう。

 しかし3人は躊躇も無く機械仕掛けの天使へと躍りかかった。



 ここで遂に、夢追い共は攻勢へと移ったのである。

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