第拾壱話 Written by 琥珀
さぁて、掛け軸か。
「どうすんの、リュウ」
「いや、見るっきゃないんじゃねーの?掛け軸」
「白銀、お前が先導してくれないか?俺達じゃあ、あの気配は感じられない」
「おっけー!くれぐれも無茶はしない。リュウ達がいなくなったら、元も子もないからね」
白銀は、本当に心配してるのかどうかは別として、そう言った。
そして俺を見て、銀子を見て、前を向いた。
「行くよ」
俺達は一歩踏み出した。
蟲が居ると聞いたからか、否かは分からないが、空気が重たく感じた。
普通だと思っていたこの部屋が、どんよりと薄暗く感じた。
これは、普通の一般人だって感じることだろう。
そう、例え俺達でなくとも。
澱んだ空気は生温い感触を全身に伝わせる。
冷や汗のようなものが頬を伝って滴っていく。
不気味――。それがこの事件の率直な感じだ。
この建物自体の不自然さといい、風呂場で襲ってきた例の妖といい、この部屋から感じる空気といい、何から何まで何かがおかしい。
今までの仕事でも何度だって妖と渡り合ってきたし、修羅場もくぐってきた。
だけどそれとは何かが違う。何かがおかしい。
それを口で説明しろといわれてもうまく説明などできない。こういうのは直感的、感覚的な物で具体的に洗わせるような代物ではないからだ。
それでも後戻りする事は出来ない。進むしかない。
この仕事、この世界に踏み込んだからにはそれは許されないこと。戻ろうとしたり、逃げようとすればそこにつけこまれ魂を侵される。それがこの“仕事”だから。
だから俺は進む。
たとえその先に闇が、地獄が待っていたとしても、生きるために俺は進む。
進むしかない――。