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謎の本

第五話です。

 進悟朗は、凛華の涙が引いたのを確認し、部屋を出た。それから二、三歩歩いたところで、水面から顔を出すように息を吐き出し、額を手で拭う。


 あの時の思いが再燃し、『化け物を捜しだし、殺す』ために旅に出ることを、よりにもよって凛華に口走ったからだ。もちろん、自分が未熟だと自覚もしているし、跡を継がなければならないことだって分かっている。だが、化け物に対する『殺意と怨嗟』が自分の中で優先されていることが進悟朗には後ろめたかったのである。


 少し項垂れながらも、いつもと変わらない調子の蒼汰の部屋に入る。


 進悟朗が蒼汰を見ようとしたときにある物が目に入る。それは十冊ほど積まれた子冊子の一番下にあった。

 異様に分厚く、一見して何かの動物の革で包まれているようにも見える。これが本当に本なのか進悟朗は判断に困った。


「何か用ですか兄上?」


 『革でできている何か』に気を取られていたため、不意に声を掛けられてハッとし、蒼汰の方を見る。

 蒼汰はその隣で寝そべって子冊子を開いている。その様子には何ら変わったところはなく、なるほどたしかにお婆の言ったとおりいつもと変わらない様子だと確信した。


 本来この数冊の子冊子は、父剣嗣のところにある物であり、進悟朗も今まで何度か持ち出して読んだこともある。剣嗣もそのことに対しては特に口を出さなかった。なので進悟朗はどんな物があるのかは大体把握していたはずだが、こんなものがあったなんてことは知らず、進悟朗は『革でできている何か』に好奇の眼差しを送る。


「兄上!」


 いくら待っても返事が返ってこない悟った蒼汰は、大きな声で呼んだ。


「あぁ、悪い。それに気を取られてた」


 そう言った進悟朗の目線の先を蒼汰はゆくっりを辿り、納得した。


「あぁ、これですか。父上の部屋の押し入れで埃をかぶっていたんですよ」

「本なのか? それは」

「はい、そうですよ。で、兄上何の用です?」


 蒼汰は寝そべった体を起こし、胡坐を組みながら言う。


「ちょっとお前たちの様子が気になってな。その様子なら大丈夫だな」

「ところでさっき聞こえたのですが、本当に旅に出るつもりですか、兄上」


 自分が言おうとしたことを言われ、『書物』のことは完全に頭から離れる。

 確かに感情的になり声が(だい)になった場面もあった。

 もしや他の二人や奉公人たちにも聞こえたのではと、進悟朗は危惧した。


「兄上、父上は本当は何で死んだんですか?」


 思考を巡らせる進悟朗に、蒼汰は容赦なく疑問を投げかける。

 

 ――何で死んだか、死んだ原因、そんなこと知らないわけがない。化け物に斬り殺されたんだ――そう言おうとしたが踏みとどまる。

 

 このまま言ってしまったのならば確実に(りん)()に聞こえてしまうせっかく(なだ)めたというのに無駄になってしまうではないかと自分を落ち着かせる。


 とりあえずのところ、蒼汰は本当の死因は分かっていないというだけでも進悟朗にとってはありがたかった。と同時に厄介でもあった。


 知らないから知ろうとする今のこの行為がだ。真実を言ったらどうなるかが予想がつかないだけに言いたくない。


 それに、最悪付いて行くとなってしまうと凛華を支える人間が減ってしまうかもしれないからだ。

 だが、その反面言ってみる価値はあった。進悟朗は、蒼汰が自分よりも物わかりが良いと知っていたからである。

 証拠に剣の腕は日が経つにつれて頭角を現し、当の昔に進悟朗を追い越しているのだ。

 つまり、それだけ賢いだろうし呑み込みが早い筈、ならば自分の意を解してくれるだろうと、進悟朗は賭けではあるが言うことを決心する。


「…………落ち着いけ聞け。父上は、得体のしれない化け物によって殺された。病死なんて全くのでたらめだ」

「冗談……ではないですね。旅に出る理由がわかりましたよ兄上…………」


 凛華の部屋に聞こえない程度まで声を小さくし、真実を言う。蒼汰は嘘かと疑うもすぐに否定し兄のやろうとしていることを理解する。


「止めようとはしないんだな、お前のことだからやると思っていたんだがな」

「止めるわけがないじゃないですか。それとも、止めて欲しいのですか?」

「それは勘弁してくれ。……今夜発つつもりだ」

「ならばこれを、たぶん役に立つはずです」


 そう言って蒼汰は『革でできた書物』を進悟朗に手渡す。


 手に渡されたそれを進悟朗はまじまじと見る。

 手に取って最初に思ったこと、それは、長い時間放置されているにもかかわらず古さを感じないことだ。

 なめし革は琥珀のような光沢を放ち、紙は積まれている子冊子よりも新しく見えた。表紙を見ると見たこともないような文字が書かれていて、文字以外にも植物の芽をしっぱを咥えた蛇が囲っている絵があり、その意味深長な絵がより一層普通の書物とは違う、侵しがたくまた嫌な雰囲気を漂わせていた。


ナンナンダーコノホンハー

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