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頼まれごと

とりあえず投稿しました。

 老人の去った後にぽつんと残された進悟朗は、老人が立ち去る時に言った言葉によって胸の中に大きなもやがかかったような何とも言い難い気分になった。真相を知っている自分に対して、何もするなと言っているようなものだ。だが、自分を心配しているようにも思える。怒りと罪悪感とが混ざり合い逃げ場もなく中に溜まっていくのがとても気持ち悪く感じた。

 

 そんななかあることを疑問に思った。

 

 先に紹介するが進悟朗には妹と弟がいて、妹は(りん)()、弟は蒼汰(そうた)と言う。


 老人はこの二人にも同じ嘘を言ったのだろう。当然、父は病を患っておらず健康であったが、それが無理をして振る舞っていただけとも考えれなくはない。

 ふと進悟朗は、過去に二人が庭で力尽きた小鳥に嘆いているのを見て、二人が人一倍心優しい心の持ち主だと思ったことを思い出す。


 ただの小鳥で嘆き悲しむのだ、唐突に肉親が死んだのであれば、悲しみのあまり何かをしでかすかわからない。その証拠に母が凛華を生んで死んだときには、自分も泣き悲しんだりしたもののそこまで長くはなかった。

 赤ん坊だった凛華はともかくとして、蒼汰は赤ん坊に戻ったかのように泣き、暴れまわった。その時ばかりは周りは手を焼き、治まるのにかなりの時間が必要だった。


 居ても立っても居られず、まずはここから近い方の蒼汰の部屋へと向かった。

 廊下を走ってあと少しで部屋に着きそうになり、襖の閉まっている部屋を過ぎようとしたとき。


 「(じん)や、何を急いでいる?」


 後ろから襖が開く音と声がし、進悟朗は後ろを振り向く。そこには背筋が真っ直ぐに伸びたの白髪の老婆が静かな目で進悟朗を見ていた。


 その老婆は姿勢や雰囲気、しわ一本からも年相応の気品や威厳といったものが感じられる。その反面、塩をふりかけられた青菜のようにどこか力がなく、実際の年以上に老けて見える。


 進悟朗はまさかここで老婆と会うとは思わなかったのか、脚と思考が止まったが、一瞬で我に返り、自分を落ち着かせるため間を置き答えた。


「いえ、事が事だけに蒼汰と凛華の様子が気になり、いてもたってもおれず二人の許へと」

「そうかい、それなら凛華に何か食うように言っといておくれ。あの子、いくら言っても何も食べたくないって言うから、お手上げだよ」


 そう言い終えた後にため息を深くつく、何度も何度も説得をしたのだろう。


 凛華は普段、祖母と一緒にいる時間が長くそれだけ信頼関係もこの家族の中ではいちばん深く、その祖母がこの様子ならば恐らく自分が言ったところでどうこうなるとは進悟朗は思えなかった。


 それと同時に、自分の悪い予感が当たってしまったことに罪悪感を感じた。


「はい、言うだけ言ってみます。それと、蒼汰の方は?」

「蒼汰はいつもと同じ調子だったよ。それじゃ、凛華はまかせたよ」


 老婆はそれだけを言い、その顔は先程までの硬い表情に比べ少しだけ柔らかくなり、出てきた部屋へと引き返していった。


自分のペースで好き勝手やる予定です。

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