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プロローグ

初投稿です。右も左もわからない素人ですがよろしくお願いいたします。

 鮮血によって染められた月に照らされ、その夜は気が狂いそうなほど不気味だった。

 少年は自分がどこに向かっているのかも分からず必死に走っていた。肌にまとわりつく汗と空気が、益々自分を狂わせ、どんどん息が荒くなり、のどが渇き貼り付いてまっすぐの廊下を走っているはずなのに、出口のない迷路をさまよっているように思った。


 背は低くも高くもなく、髪は短い黒で、普段なら穏やかであろう目つきは鋭い。


 そこはいつも刀を振るっている道場だったが、不気味な雰囲気のせいか襖の先には地獄が繋がっているように思えた。

 少年は無意識のうちに襖を開ける。そこには地獄があった。鉄のにおいと、禍々しい空気が漂い、床の中心は紅い水が広がり、中心にはボロに包まれたナニカと大きい影があった。

 頭の中は完全に混乱していた。

 アノ紅イモノハ何ダ……アノ真ン中ニアルノハ何ダ……

 働かない頭を必死に使ったが何も分かりそうにない。


「ほう、眠らないものが()ったとはな。貴様はコレの息子か?」


 少年は耳を疑う。何を言ったんだ、コレ、一体ドレのことだ、ここには誰もいない筈だとその声を否定する。


「こ、ここには俺しかいない……筈だ」


 息は乱れ、心臓は早鐘を打っていたが、かろうじて声を出した。少年の発した声に反応したのか影が小刻みに震えていた。

 まるで少年を嘲笑っているかのように思えた。また声が響いてきた。今度は馬鹿にしたの様な口調だった。


「フハハハハハハハハハハどうやら何も分かっていないようだな。良かろう、見えるようにしてやろう」


 そう言い終わると同時に、紅い光が地獄の全てを照らし、紅い水はさらに濃く、禍々しさと狂気とが混ざり合った中心には、糸の切れた人形のように倒れている父と化物がいた。


 重厚な鎧は返り血で紅く汚れ、多くの小さい傷がある。鎧の間から覗く肌は青く、獅子のような鬣、鮮血の滴る剣、歪んだ笑みを浮かべ少年を見ていた。

 全てを見てやっと理解した。

 

 最初の言葉の意味を、そして、憎悪の炎が沸々と湧き上がり、心と体を赤と黒に塗り潰され激情に駆られる。化け物を殺す事で頭の中は支配され、今にも襲いかからんとする勢いだった。その様子を見ている化物は、それを見抜き、無謀さに呆れた表情をした後せせら笑った。


「ここまで手こずったのは予想外だったな。とはいえ、直接手を下すまでもなかったな。そうは思わんか?」


 見え透いた挑発だが、もはや獣と同然の少年の理性の鎖を断ち切るには十分すぎるものだった。少年は、空気が震えるほどの叫び声をあげ化物に迫る、固めた拳は化物の顔面を狙っていた。しかし、左手で弾かれ、体勢は崩れてガラ空きの脇腹にひざ蹴りを喰らう。

 身体は少し宙に浮き、肺の空気を無理矢理押し出され、声にならない声を出し、血にまみれた床で苦しみ悶えていた。

 化物はそんなことも気にせず、少年の首を掴み言った。


「相手の力量も計れずに、しかも無策で来るとはな。これとは大違いだ」

「……放…………せ……」


 息も絶え絶えながら、腕も掴み抵抗していた。だが、腕は装甲に包まれており無駄な足掻きでしかなく、化物は路肩の石を見るような冷たい目で言った。


「本来ならば、彼奴(きゃつ)を始末するだけでよかったのだが…仕方あるまい、親子共々死ね。」


 手の力が強まる、少年はこのままだと自分も死ぬということに強い憤りを覚えた。


(このまま虫けら同然の様に死ぬのか、この怒りをこいつにぶつけることもできずに死ぬのか、ふざけるな…腕の一本でも持っていかねえと気が済まねえ……)


 深い水底に沈んでいくようにどんどん黒くなっていく世界、遠のいていく意識、命の灯が消えようとしたとき、化物の声とは違う声が直接頭に響いた。


「お前は力を持っている……最悪の結末を覆す力を……」

(覆す?この状況を?この俺が?)


 少年はその声の言ったことを信じれなかった。そんな力なんて持っていない、しかし、持っているのなら、藁にも縋る思いで答えた。


「寄越せ! 今すぐに! 死にたくないんだよ!」


「お前はもう持っている……解き放て……力を……!」


 声は響き、黒の世界に純白の羽が雪のように舞い降り徐々に世界を白に染め直していく。それと同じように薄れいく意識ははっきりと、体の感覚を取り戻しつつあるとき、先程よりも小さい声が聞こえた。


「この力は、お前のかが……だ……忘……るな……みも……めば、……も……む」


 最後まで聞こえず、危機を脱するのを優先していた少年は気にもとめなかった。


 視界がどんどん鮮明になっていく。目の前には嘲笑う化物の顔が、自分を殺そうとしている。父をこいつが殺した思うだけで怒りが抑えられなかった。と同時に、化物を掴んでいる手に違和感を覚えた。これが自分の力とかいうものなのか? 少年はそう思い、自信を持った。これでどうにかできる。声を出すほどの余裕がなかった筈だが自然と言葉がでた。


「この腕、もらうぞ……!」


 瞬間、化物の腕は紅蓮に包まれ、爆音が鳴り響く。化物は少年を投げ飛ばし、腕の装甲を外した。装甲は外された後も燃え続け、遂には跡かたもなく消滅した。

 その様子を見た化物は、苦虫を噛み潰したような顔をし、少年を睨む、少年は睨み返しながら言う。


「次は大人しく焼かれろ……化け物」

「フッ、貴様にかまっている暇などない。悪いが退散させてもらおう」


 化物が歪んだ笑みを浮かべる、突然、青い馬が屋根を突き破り現れた。少年は逃がしてたまるものかと、十を優に超える火を馬と化物に向けて放つ、火は、まるで迫ってくる壁のようになり化物等を焼き尽くす勢いだった。

 しかし、馬の目が妖しく光ったかと思うと、火の壁はどんどん小さくなり、遂には消え去ってしまった。なぜ消えたのか分からず呆然としている少年を傍目に、化物は馬に乗って深紅の空に駆け出し、溶けていった。


「待って! このヤロウッ!」


 見えなくなった後、少年は虚空に手を伸ばす、遠くのものを掴むように。しかし、すぐに下ろし父を見る。もしかしたらまだ息だあるかもしれない、そんな有り得もしない希望を持ち、駆け寄る。

 父は俯けに倒れ、右手には持ち主の血でぬれた刀が握られていた。瞳は虚空を見つめ、肌は血の気が無いせいかやけに青白く見え体には斜めに切られた傷痕が深々と刻まれ、誰が見ても生きているとは到底思えないものだった。


 首筋に指を当てたが血の流れを感じ取ることができなかった。ゆっくり指を離し愕然とする。なぜ強い父が、あんな化け物の手によって物言わぬ骸になったのかを、理解できなかった。

 少年は震えた手で父を抱き上げ、父の顔を見つめる。どういうわけか、水滴が父の顔に落ちてきた。一滴また一滴と落ち、目の前が歪んできたのだ。

 溢れ出る涙は止まらず、嗚咽の声が漏れ、胸をえぐられたかのようにさえ思った。


 なぜかは分からない。しかし、父は死んだ。単純で残酷な事実だけが少年に重くのしかかる。普通の人ならば押しつぶられてしまうだろう、しかし、もう普通ではない。自分には力がある。大きな力が…


「逃がさねえ……殺してやる……」


 呪詛にも似た声で呟いた。

 例え火の中、水の中、世界の果てだろうと地獄の底だろうと、どんな手を使っても、幾星霜経とうが絶対に殺してやる。これは仇討ちだ、邪魔をする奴は化物と同じだ殺してる。

 そう決意した姿は、地獄に住まう魔人の様に見える。少年は虚ろな目で突き破られた穴から、化物が飛び去っていった北の方を見る。そして、風に靡く青柳の様に体を揺らしながら一歩、また一歩と襖に向かう。


 今からでも遅くはない、早く屋敷から出て北の山に向かおう。追いつくことができれば直ぐにでもさっきの炎を一発でも喰らわせ始末できる。あの馬の目の光が厄介だが奴らの不意を突けば勝機はあるだろう。

 少年は化物を殺すために思考を働かせ襖をあける。そして、そのとき少年は初めて空が紅くなっていることに気づく。


 その姿が、血まみれの父を思わせ歯を噛みしめる。怒りがさらに燃え上がり、即刻化物を追いかけねばと体に力を入れ踏み込もうとした。しかし、足が鉛のように重くうまく前には進めない。だからと言って歩みを止める気などなく、ただ化物が行った北へ向かう。しかし、体は意思に反して重く、鈍く、脇腹を中心に体が悲鳴を上げる。


 死の危機に瀕し、いきなり超常の力に目覚め、あまつさえその力を多用したのだ。むしろ、いままで立っていたこと自体が不思議なくらいなのだ。

 体は少年を行かせまいとさらに、視界までも奪う。視界は歪み、霞む。こうなってしまえば、誰でも歩くことなどままならないであろう。案の定少年は、躓き前に倒れ動きが止まってしまった。だが精神がいや、『化物を殺す』という執念が肉体を超えたのか指先が少し動き、這いずって唯一の出入り口である門に向かう。その行動に、体は最後の手段を講じる。


 まるで、見えざる何かがこれ以上の無理をさせないようにしているかのようにも思える。少年の意識はどんどんと薄れ、瞼が重くなっていく。そう、最後の手段は眠らせることだったのだ。少年が深い眠りの世界に引きずり込まれていく中、笑みを浮かべる化物と倒れている父を思い浮かべてた。そして、望まぬ安息に引きずり込まれていく。

 月と空は紅いままであった。



誤字脱字、おかしな表現等がありましたら教えて下さい。

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